平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




05/9/13(404号)
選挙結果の雑感

  • 改革派無党派層と保守系無党派層
    選挙結果はご存じの通り、自民党の大勝、民主党の大敗であった。また公明が若干議席を減らし、共産党と社民党、そして国民新党はかろうじて現状維持であったが、新党日本は惨敗であった。そして郵政法案反対派の無所属候補は総じて苦戦した。

    このような結果になった原因は、前回号05/8/29(第403号)「今回の総選挙を読む」で取上げた「無党派層票」が民主党から自民党に大きく移ったことにある。無党派層票は、これまでも新自由クラブ、日本新党・新党さきがけなどの新党ブームを起こしたり、消費税導入後の参議院選挙での社会党のマドンナ旋風を演出した。

    投票率は67.51%と小選挙区制導入後最高になった。東京や大阪という大都市では、軒並民主党の前職議員が落選した。しかし無党派層票は地方でも増えており、自民党の躍進を支えた。しかし地方の自民党の候補者の顔ぶれは、ほとんど前回と変わらない。中には前回落選した元議員もいた。つまり自民党なら誰でも良いという無党派層独特の投票行動によって、これらの議員は次々と当選した。


    地方とは縁のない候補、いわゆる落下傘候補の躍進も特筆される。静岡7区の片山さつき氏や福岡10区の西川京子氏が当選したのには驚いた。また福岡1区の落下傘候補の遠藤宣彦氏が公認後わずか2週間で、あはや小選挙区当選までに迫った(遠藤氏は比例復活当選)。筆者は、たまたま西川氏と遠藤氏に会って話をしたことがあり、落下傘候補に決まった時には少し驚いた。当初、西川氏は郵政民営化法案に反対であったが、本会議で賛成票を投じた。遠藤氏は過去2回東京で自由党と民主党から立候補したが、ともに落選している。特に面白いことに遠藤氏は郵政省の元官僚である。無党派層の盲目的な投票行動によっては、このような奇蹟が次々と起るのである。

    しかし無党派層も一様ではない。自民党の郵政法案反対派の政治家の当選を助けたのも無党派層である。今回の理不尽な反対派の追い出し劇に義憤を感じて、反対派議員を支えたこのような保守派の無党派層の働きも特筆される。ところで筆者は、今の自民党に不満を持つこのような保守層が確実に増えていると見ている。この傾向は地方だけではなく、大都市にも広がっている。しかし自民党の大勝の陰に隠れ、この新しい動きが目立たない。いつも話題になる革新や改革を求める無党派層とは全く別の無党派層が着実に増えていると見る。今後、この保守系無党派層の広がりに注目して行きたい。


    民主党の敗因は、自民党との違いを明確に打出すことができなかったことにある。元々民主党は、自民党政権に不満な無党派層の受け皿であった。しかしこの無党派層は決して民主党の固有の支持者ではないことが今回の選挙で証明された。もっともそれだからこそ文字通り無党派層なのであろう。民主党の固有の支持者は組合組織くらいなもので、こちらは年々力が衰えている。

    これまで民主党は「改革」を訴えることで、この無党派層を引き付けてきた。前回の選挙は、自由党が民主党に合流することによって、より多くの無党派層の支持を受けた。しかし無党派層にはこのような改革を指向する者とは別に、新たに保守系の無党派層が生まれている。この現象は、選挙制度が中選挙区制から小選挙区制になったことが影響している。ちなみに前回の衆議院選挙では、改革派無党派層に加え、自由党系の民主党候補者がこの保守系の無党派層の票を取込んだため、民主党は議席を伸ばした。しかし改革派の無党派層の方が保守系無党派層よりずっと大きい。この改革派無党派層の票が大きく小泉自民党に流れたため、今回のような選挙結果になったのである。


    これまでも自民党は、野党の政策を取込んで、野党の無力化に成功し、政権を長く維持してきた。野党の専売特許であった年金や医療制度などの福祉政策を自民党政権は取込んで実施し、野党の力を削いできた。今回は、民主党の持ちネタの「改革」を自民党が訴えることによって、民主党を無力化した。

    小泉自民党は、反対派を切捨てても改革に邁進するというイメージ作りに成功し、民主党に流れていた改革派無党派票を奪った。さらにこれまで選挙に行かなかったような潜在的な改革派無党派層までも掘り起こした。結局、民主党は自民党との改革合戦に破れた。むしろ自民党との対立軸を明確にした共産党、社民党、そして国民新党は善戦した。そして改革派色の強い新党日本は自民党と民主党の改革合戦の中に埋没してしまった。


  • デマの時代
    小泉自民党の主張のほとんどは明らかにデマである。郵政事業を民営化すれば、景気が良くなるだけでなく、外交もうまく行くと言っていた。武部幹事長は、なんと小子化やニートの問題も郵政民営化で解決ができると発言して失笑をかっていた。また小泉自民党関係者は緊縮財政、つまり「小さな政府」路線を走ってきたにもかかわらず景気回復を実現したと胸を張っていた。つまり小泉構造改革によって景気が良くなったと言いたいのである。しかし小泉政権の4年間で国の借金が170兆円も増えている。実際、2003年度の一般政府の経常収支は14兆7千億円の赤字である。輸出を除けば、政府部門の赤字、つまり中途半端に大きな政府と、異常な金融緩和によって日本の景気はなんとか支えられているのが実態である。このように小泉自民党の主張は嘘ばかりである。

    しかし自民党に党首会談を何回も持ち掛けたが断られ、民主党はこれを突き崩すことができなかった。そもそも改革によって、日本の経済が良くなるという話自体が幻想である。小泉自民党だけでなく、民主党の改革路線の主張も、似たりよったりである。さらに3年間で10兆円の政府支出を削減するとか、公共投資を半分にすると言った、デフレ経済の日本では考えられない政策が並んでいた。小泉自民党の改革路線も怪しいが、民主党が政権を取ればもっと景気が悪くなるからと、自民党に投票した無党派層も多くいたはずである。


    小泉自民党の主張は嘘を通り越して「デマ」である。しかし「デマ」が通用した大きな責任はマスコミにある。このような幼稚な「デマ」が、チェックされるどころかマスコミによって増幅され、あまり物事を深く考えない人々、つまり改革派無党派層を動かした。このような指摘を行うと自民党の幹部は「日本の国民をばかにしている話」と口では怒ってみせる。しかし内心は全く違うと想われる。むしろこのB層の人々をターゲットにした広告代理店的手法を駆使したのが今回の選挙戦であった。

    今回の選挙だけでなく、日本のマスコミは小泉政権発足前から小泉氏に肩入れしていた。マスコミは不思議なほど小泉政権の失政や失言を追求しない。以前のマスコミは反体制であった。しかし最近のマスコミは露骨に権力側に擦り寄っている。筆者の感想では、このような傾向が強まったのは、椿テレビ朝日常務事件以降である。特に大新聞とテレビが酷い。

    マスコミが小泉政権に異常なに肩入れをする理由は色々言われている。それについては憶測の範囲の話が多く、本誌では今のところ取上げない。しかし大手マスコミを通じ、広告代理店的手法で「デマ」がどんどん流されているのが現実である。テレビ番組では、野党の代表がそのような指摘を行うと、すぐに司会者が話を遮ったり話題を変えていた。本当に日本のマスコミは一体どうなったのかという状態である。


    先日西部邁氏の勉強会があった。西部さんも小泉首相のデマを取上げていた。「ポリュリズムにもとづく大衆政治にあっては「デマ」が罷り通る。デマを用いる民衆扇動家はマスメディアと結託する。」と指摘し、「文明がデマゴーグの手に落ちたら、その文明を救済することは困難である」とJ.オルテガの言葉を引用していた。J.オルテガはスペインの哲学者である。まさに今日の日本の状況にピッタリの言葉である。

    西部さんは「このようなデマが通用するなら、日本は行く所まで行かなければ回復困難」と非観的である。要するに国民がよほど痛い目に会わないと目が醒めないという意味であろう。実際、デフレ経済下においては、痛みは一部の者に集中する傾向が強い。痛みと関係のない人々の中は、むしろ今日のような状況を楽しんでいる者さえいる。社会の荒廃に目を瞑ればそうかもしれない。

    筆者は「デマ」そのものではなく、「デマ」が通用する日本の社会の病理的現象を問題と考える。経済のスランプが15年も続いて、人々の思考回路がおかしくなっているのであろう。小泉自民党に投票した人々は「改革」が行われたなら、劇的な変化が社会に生まれ、経済も良くなると言う幻想にしがみついている。


    筆者は、西部さんほど非観的ではないが、状況を変えることは非常に難しいと考えている。たしかにこれだけ大勝すれば、次は自民党が大敗するという意見がある。また今回の選挙結果は小選挙区制の特徴であり、次の選挙で民主党に風が吹けば逆転できると安易に考える人々が多い。しかし筆者はそんなに簡単な話とは考えない。何故ならマスコミと結びついた政治権力は、簡単にはひっくり返らないと思われるからである。

    もちろん筆者は、デマがはびこるようになってしまった日本の行末は、決して明るくはないと認識している。もう地道な方法しかないのではないかと考えている。頼るのは前段で取上げた国を憂う保守系無党派層の広がりということになろう。



来週は小泉自民党のデマの検証を行う予定である。

岡田民主党の戦術に問題があったという指摘があるが、どれだけうまくやっても大して議席は増えなかったと考える。財源の話を別にして、民主党の最低保障を含む年金案は妥当な政策と考える。しかしこれが厚生年金や共済年金の加入者に評判が悪い。「何故、国民年金保険料を払っていない者のために、消費税3%を我々も負担しなければならないのだ」という理由である。しかし厚生年金にしても共済年金にしても、自分達の掛け金の何倍もの年金給付がある。つまり国民年金だけでなく、厚生年金と共済年金も「ねずみ講」なのであり、今日の給付水準を維持するにはいずれ何らかの公的資金の投入は不可避である。さらに年金保険料は税務上所得額から控除されているし、企業負担分は税務上損金となっている。つまり厚生年金と共済年金は、既に実質的に国庫負担が発生しているのである。しかし自分だけは損はしたくはないという風潮が蔓延しているのか、このような人々は民主党ではなく自民党に投票している。自民党は厚生年金と共済年金の一元化とだけ言って、この問題を避けていた。つまり国民年金の話を避けることによって、一千万人単位の無年金者発生の問題を、選挙戦の戦術上誤魔化しているのである。

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05/8/29(第403号)「今回の総選挙を読む」
05/8/22(第402号)「今回の総選挙の沿革」
05/8/8(第401号)「中国経済の本当の脅威」
05/8/1(第400号)「中国の為替戦略」
05/7/25(第399号)「経済のグローバリズムの行末」
05/7/18(第398号)「経済のグローバリズムの本質」
05/7/11(第397号)「郵政法案と小泉政権の行方」
05/7/4(第396号)「経済のグローバリズムと競争の公正」
05/6/27(第395号)「日本語の研究」
05/6/20(第394号)「公的年金とセイニアーリッジ」
05/6/13(第393号)「日本国民全員がばん万歳の政策」
05/6/6(第392号)「公的年金とマクロ経済」
05/5/30(第391号)「マクロ経済政策で解決するもの」
05/5/23(第390号)「ヴァーチャルなもの(その2)」
05/5/16(第389号)「ヴァーチャルなもの(その1)」
05/5/9(第388号)「中国進出の主導者」
05/4/25(第387号)「鎖国主義への誘惑(その2)」
05/4/18(第386号)「鎖国主義への誘惑(その1)」
05/4/11(第385号)「ノストラダムスの大予言」
05/4/4(第384号)「法律と現実社会との間」
05/3/28(第383号)「株式に関する非常識」
05/3/21(第382号)「人とグローバリズム」
05/3/14(第381号)「資本とグローバリズム」
05/3/7(第380号)「貿易とグローバリズム」
05/2/28(第379号)「マスコミの暴走」
05/2/21(第378号)「マスコミが流す誤った概念」
05/2/14(第377号)「日本のマスコミの権力指向」
05/2/7(第376号)「日本のマスコミの体質」
05/1/31(第375号)「財政当局の変心」
05/1/24(第374号)「経済成長の条件(その2)」
05/1/17(第373号)「経済成長の条件(その1)」
05/1/10(第372号)「中国経済の実態」
04/12/13(第371号)「第一回財政研交流会」
04/12/6(第370号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その3」
04/11/29(第369号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その2」
04/11/22(第368号)「構造改革派の常套手段」
04/11/15(第367号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その1」
04/11/8(第366号)「第二次南北戦争」
04/11/1(第365号)「妄言・虚言の正体」
04/10/25(第364号)「クライン博士を招いてのシンポジウム」
04/10/18(第363号)「日本経済のデフレ体質の分析(その3)」
04/10/11(第362号)「日本経済のデフレ体質の分析(その2)」
04/10/4(第361号)「日本経済のデフレ体質の分析(その1)」
04/9/27(第360号)「豊かな社会ーー競争と共生」
04/9/20(第359号)「レーガンの規制緩和の実態」
04/9/13(第358号)「今こそ大胆な政策転換を」
04/9/6(第357号)「虚言・妄言が跋扈する世の中」」
04/8/30(第356号)「日本の「韓国化」」
04/8/2(第355号)「日本の分割統治」
04/7/26(第354号)「自民党大敗北の要因分析」
04/7/19(第353号)「参院選で見たもの」
04/7/12(第352号)「日本のエネルギー自立政策」
04/7/5(第351号)「危うい石油の確保」
04/6/28(第350号)「テロと中東石油」
04/6/21(第349号)「対談の論点(再)」
04/6/14(第348号)「対談の論点」
04/6/7(第347号)「富の分配と公正」
04/5/31(第346号)「小泉首相訪朝の成果」
04/5/24(第345号)「日本に必要な財政赤字政策」
04/5/17(第344号)「土地売買の盲点」
04/5/10(第343号)「日本経済の体質と財政政策」
04/4/26(第342号)「凍り付くマネーサプライ」
04/4/19(第341号)「デフレ体質の日本経済」
04/4/12(第340号)「火星の土地」
04/4/5(第339号)「円高は構造的」
04/3/29(第338号)「規制緩和に飛びつく人々」
04/3/22(第337号)「矛盾の出発点」
04/3/15(第336号)「日経の貧乏神」
04/3/8(第335号)「実感なき経済成長」
04/3/1(第334号)「為替介入ではなく財政支出を」
04/2/23(第333号)「為替介入への道」
04/2/16(第332号)「為替介入資金の働き(その2)」
04/2/9(第331号)「為替介入資金の働き(その1)」
04/2/2(第330号)「為替介入政策の限界」
04/1/26(第329号)「今日の政治課題」
04/1/19(第328号)「今年の政局の課題」
04/1/12(第327号)「今年の日本の景気」
03/12/15(第326号)「日本の公的年金」
03/12/8(第325号)「足利銀行の破綻処理」
03/12/1(第324号)「日本経済を支えているもの」
03/11/24(第323号)「総選挙結果から見えるもの」
03/11/17(第322号)「総選挙結果の分析」
03/11/10(第321号)「総選挙の結果他」
03/11/3(第320号)「総選挙の予測」
03/10/27(第319号)「動態的会計による企業価値算定」
03/10/20(第318号)「道路公団、財務諸表の怪」
03/10/13(第317号)「藤井総裁解任劇」
03/10/6(第316号)「総裁選と総選挙」
03/9/29(第315号)「総裁選の総括」
03/9/22(第314号)「ドキュメンタリー総裁選」
03/9/15(第313号)「レポート総裁選・・その2」
03/9/8(第312号)「レポート総裁選」
03/9/1(第311号)「混迷の終始符」
03/8/25(第310号)「急がば回れ・・再び」
03/8/18(第309号)「自民党の総裁選に向けて」
03/8/4(第308号)「日本の実稼働率」
03/7/28(第307号)「設備投資の実態」
03/7/21(第306号)「企業経営と創造的破壊」
03/7/14(第305号)「頭が破壊されている人々」
03/7/7(第304号)「頭が混乱している構造改革派」
03/6/30(第303号)「経済の循環(その2)」
03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」
03/6/16(第301号)「経済政策の混乱」
03/6/9(第300号)「りそな銀行の件」
03/6/2(第299号)「規制緩和と日本経済」
03/5/26(第298号)「経済学と経営学」
03/5/19(第297号)「政府紙幣発行の認知度」
03/5/12(第296号)「滝田洋一氏への反論」
03/5/5(第295号)「政府紙幣発行政策の誤解」
03/4/21(第294号)「逆噴射の財政政策」
03/4/14(第293号)「危機管理下の経済政策」
03/4/7(第292号)「国債の管理政策」
03/3/31(第291号)「経済再生政策提言フォーラム」
03/3/24(第290号)「日本の有名経済学者達」
03/3/17(第289号)「波乱の株式市場」
03/3/10(第288号)「政府貨幣の理解」
03/3/3(第287号)「軽視される高橋是清の偉業」
03/2/24(第286号)「日本の清貧の思想」
03/2/17(第285号)「日本のデフレの原点」
03/2/10(第284号)「小泉首相の「もっと重要なこと」」
03/2/3(第283号)「スローパニック経済」
03/1/27(第282号)「所得を生むマネーサプライ」
03/1/20(第281号)「マネーサプライ政策の限界」
03/1/13(第280号)「データに基づく経済論」
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