平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




05/6/6(392号)
公的年金とマクロ経済

  • 消費税のマクロ経済への影響
    財政再建(プライマリーバランス回復)のための具体的な案として、消費税の7%の増税が囁かれている。97年に消費税が3%から5%に2%増税され、この時には卸売り物価が0.6%、消費者物価が1.8%上昇している。このことから消費税が7%増税されたなら、おそらく物価は5%くらい上昇するものと推定される。つまり物価上昇の5%という国民負担によって、財政再建の実現をしようというものである。

    また公的年金の財源を捻出するとなると、さらに消費税の増税(一応これも7%の増税を想定)が必要となる。おそらく両者の合計である14%くらいの消費税の増税が必要となり、物価は10%くらい上昇することになる。つまり財政再建だけでなく、年金の財源の確保まで行うには、10%の物価上昇という国民負担が必要になる。


    しかし消費税が14%も増税となれば、ある程度のデフレ圧力が発生し、経済はマイナス成長となると考えるのが普通である。ところが財政再建原理主義者は全く逆の想定を行っている。財政再建(歳出削減と増税)の試算はいくつかの所から出ている。先週取上げた財政制度等審議会は、1%台半ばから3%の経済成長を想定している。また経済諮問会議の「21世紀ビジョン」の試算では3〜4%の経済成長を想定している。何と財政支出を削減したり増税を行った方が、経済は順調に成長するということになっているらしい。

    これらの試算の前提となったシミュレーションプログラムの中身は不明である。しかし歳出削減や増税を行った方が経済成長率が大きくなるなんて異常な話である。驚くことに「消費税を増税した方が、国民は安心をして消費を増やす」という想定もあると聞いたことがある。あほらしい話であるが、これについてはそのうち本誌でも取上げる。また消費税と経済成長の話は後ほど改めて行う。


    年金と消費税の話に移す。先週号で、年金支給の財源として年金積立金を担保にした国債を発行し、これを日銀が購入(引受)するアイディアを紹介した。これは通貨の増発を意味し、物価上昇の要因となる。ただし今日のように巨額のデフレギャップが存在する時には、仮に物価上昇があってもかなり緩慢なものに止まるものと考える。つまり5%の物価上昇となれば、相当の額の担保国債発行とその日銀引受が可能と考える。

    年金の財源が問題になっている。消費税の増税を財源にするという意見がかなり有力である。それに対して筆者は、消費税の増税で財源を捻出することに賛成ではあるが、消費税の増税の前に、年金積立金の取崩の先行を提案している(なおかつ積立金を取崩し方として、積立金を担保にした国債を発行し、これを日銀が購入することを考えている)。


    まず消費税を7%増税すると5%くらいの物価上昇という国民負担が生まれる。もう一つの方法として物価が5%上昇するまで、年金積立金を担保にした国債を日銀引受で発行することが考えられる。両者はともに5%の物価上昇という負担を国民に課すことになる。つまり物価に関しては、両者の国民負担は同じ程度になる。

    しかし消費税を増税すれば、ある程度のデフレ圧力が発生する(財政制度等審議会や経済諮問会議などの御用知識人は、逆に経済が成長すると言っているが)。筆者は、増減税が経済に与える影響はそれほど大きくはないが、減税はプラス、増税はマイナスと認識している。

    小渕首相時代のデフレ対策の際には、財政支出より減税の方が効果があるという論調が圧倒していた。筆者は、減税の経済効果は小さく、財政政策を中心にデフレ対策を行うべきと主張した。その後の経済の推移を見れば、やはり筆者の意見の方が正しかったのである。ところが今日、増税した方が経済がより成長するという人々が現れた。奇妙なことにこのような主張を行っている人々は、小渕政権当時、減税こそ大きな経済効果があると言っていた人々と重なる。要するにこの人々にとって増減税の経済効果はどうでも良く、「所得税と法人税を減税し、消費税を引上げる」ということが最終目的だったのである。


  • デフレ経済と年金
    財政再建や年金ための財源に充てるとして消費税を引上げると、政府部門の貯蓄が増える(あるいは赤字が小さくなる)。つまり消費税増税で資金が政府部門に吸上げられるが、この資金は国債の償還に使われたり、当面は年金の積立に使われることになり、経済に循環しないことになる。

    これに対して筆者のアイディアでは、年金積立金を担保にした国債の日銀引受による財源を、年金支給に使ったり、年金保険料の引下げに使う。年金支給を増やしたり、年金保険料の引下げに使えば、政府部門の貯蓄は減ることになる。これによって有効需要は増え、確実に経済は成長する。また経済が成長することによって物価は少し上昇する。

    つまり物価上昇という国民負担の発生については同じでも、マクロ経済に与える影響は正反対である。前者ではさらにデフレが一層激しくなり、失業が増える。筆者のアイディアなら、経済成長によって失業は減る。


    筆者は、日本経済のデフレ体質を分析した結果、原因は過剰貯蓄の存在と、その余剰な資金が経済の循環の中で滞留していることと指摘した。これについては本誌でも04/10/4(第361号)「日本経済のデフレ体質の分析(その1)」以降で詳しく述べた。筆者は、過剰貯蓄の大きな原因を、具体的に土地の売却代金と年金の積立金と指摘した。

    しかし土地の売却代金がいきなり消費に回るということは難しい。金利がほぼゼロでも、この資金が金融機関に眠り続けていることを見ればご理解できるであろう。一方、公的年金の積立金は、一応政府のコントロール下にあり、これを取崩すことは可能である。しかし年金積立金も色々の形で運用されているので、いきなり取崩すことは難しい。


    年金積立金を担保にした国債の発行し、これを日銀引受にすることは苦肉の策である。しかし年金の財源に将来行う消費税の増税を充てると法律に明記すれば、今日存在する197兆円の年金積立金は不要になる。筆者のアイディアでは、とりあえずこれが100兆円になるまで、年金積立金の取崩(国債発行と日銀引受)を先行させ、消費税の増税の実施はそれまで待つことにする。またこの結果が好ましく国民の理解が得られるなら、このラインを70兆円、50兆円と引下げることも考えられる。

    筆者のアイディアは、実質的に通貨の増発であり、今日のようなデフレ経済においては好ましい。しかし景気が良くなり過ぎ、もし日本経済がインフレ気味になったら(このような状況は近頃絶えてなかった)、年金積立金担保の国債の日銀の引受を減らし、市中にこの国債を売却すれば良い。また年金積立金で運用している国債や株式を直接売却する方法もある。


    今日、年金問題の論議は、個々の関係者の利害だけを考えて行われている。厚生労働省は、将来の年金が心配と保険料の引上げと年金支給額の削減・支給開始時期の延期にこだわる。財務省は、年金の財源にするのか、それとも財政収支の均衡が目的なのかはっきりしないのに、消費税の増税には一生懸命である。財界は、企業の保険料の負担を避けることしか頭になく、消費税の引上げにこだわる。

    いずれにしても自分達から半径1m以内でしか物事を考えていないのだ。彼等は国民経済や日本経済のデフレには全く関心がない。マクロ経済への影響を問われると、経済学者としてのプライドをなくした者達が、インチキなシミュレーションをでっち上げ、国民負担が増えても経済成長すると言ったデタラメな説明書を用意する。まさに日本は末期的である。



先週号と今週号で、年金問題の解決策をマクロ経済の観点から説明した。来週は筆者が考える年金制度の具体的な姿を示したい。

読者の方から政府貨幣発行政策(セーニアリッジ政策)に関するご質問があった。米国では通貨増発政策の研究が盛んであり、文献も多い。それに対して日本では、ほとんど専門の研究家がいないようであるが、どうしてかという問いがあった。たしかに日本で政府貨幣発行政策を研究している人は少ない。筆者は、大阪学院大学元教授の丹羽春喜氏を中心にした丹羽経済塾に参加していた。これは政府貨幣発行政策の勉強会であり、研究会である。丹羽経済塾は現在も毎月1回行われている。以前、都市銀行系のシンクタンクの研究員の方も参加されていが、日本でセーニアリッジ政策を本格的に研究しているのは、丹羽春喜教授(当時、今年3月に退官された)くらいではないかと話をしておられた。

またマクロ経済のコントロール方法についてもご質問があった。しかしこのように日本は、セーニアリッジ政策に関してマクロ経済のコントロール方法の研究以前の状態である。ただし丹羽春喜元教授には、デフレギャップを計測し、これに基づく独自のマクロ経済のコントロール方法を考えおられる。詳しくは著書の「日本経済繁栄の法則」や「日本経済再興の経済学」を読んで頂きたい。丹羽経済塾へのご連絡はhttp://homepage2.nifty.com/niwaharuki/を参照願いたい。さらに筆者が知っている限りで、政治家の通貨増発政策への関心や取組みの現状を翌々週あたりに取上げたい。


6月5日付日経新聞に、論説委員吉野源太郎吉野源太郎氏の奇妙な論説が掲載されている。JR西日本の脱線事故に関して、JR西日本と井手相談役の責任を一応問うている形になっている。しかし全体的には明らかに井手相談役とその経営手法を擁護する論説になっている。何と安全投資を妨げたものは、赤字線の存在と言う論調である。しかしJR西日本は民営化の際、不採算路線の大半は第三セクターに移管している。残っている赤字路線が決定的に経営の足を引張っているとはとても考えられない。実際、JR西日本は最高益を更新しているではないか。

井手相談役は当初矢面に立っていなかったが、ようやく最近になって、メディアのインタビューに応えているところがテレビでも放送されていた。事故の原因を問われた時、驚くことに井手氏は「原因は社員の精神的な緩み」と答えていた。不思議なことに構造改革派の人々には、意外と精神主義者が多い。井手氏を擁護している吉野源太郎氏も、同じく典型的な構造改革派である。そう言えば日経新聞には「構造改革で企業がシャンとなった」と言った精神主義的論説がよく掲載されている。

しかし今回のJR西日本の事故は、精神論で回避できるものではなかったはずだ。3年ほど前に新幹線の運転手が運転中20分間くらい眠っていたという事件があったが、事故は起らなかった。また新橋とお台場を繋ぐ「ゆりかごめ」には運転手はいない。このように安全運行に関する日本の技術はかなり進んでいる。つまり今日の最新技術を使った安全投資を行っておれば、今回のような事故は完全に防げたと考える。ここからはあくまでも筆者の憶測である。もしATCやATACSが設置されていたなら、むしろ運行スピードを上げられなくなって、事故当時のような過密ダイヤの実施に障害になったとも考えられるのだ。つまり新装置の設置の実施が遅れていたことになっているが、本当のところどうなのか真相は分らない。いずれ裁判ではっきりするであろう。

亀井静香勝手連の掲示板のアドレスが変更された。新しい掲示板には亀井静香勝手連のトップページから入ってもらいたい。亀井静香勝手連のアドレスは(亀井静香勝手連のホームページhttp://www.nb-j.co.jp/katteren)である。



05/5/30(第391号)「マクロ経済政策で解決するもの」
05/5/23(第390号)「ヴァーチャルなもの(その2)」
05/5/16(第389号)「ヴァーチャルなもの(その1)」
05/5/9(第388号)「中国進出の主導者」
05/4/25(第387号)「鎖国主義への誘惑(その2)」
05/4/18(第386号)「鎖国主義への誘惑(その1)」
05/4/11(第385号)「ノストラダムスの大予言」
05/4/4(第384号)「法律と現実社会との間」
05/3/28(第383号)「株式に関する非常識」
05/3/21(第382号)「人とグローバリズム」
05/3/14(第381号)「資本とグローバリズム」
05/3/7(第380号)「貿易とグローバリズム」
05/2/28(第379号)「マスコミの暴走」
05/2/21(第378号)「マスコミが流す誤った概念」
05/2/14(第377号)「日本のマスコミの権力指向」
05/2/7(第376号)「日本のマスコミの体質」
05/1/31(第375号)「財政当局の変心」
05/1/24(第374号)「経済成長の条件(その2)」
05/1/17(第373号)「経済成長の条件(その1)」
05/1/10(第372号)「中国経済の実態」
04/12/13(第371号)「第一回財政研交流会」
04/12/6(第370号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その3」
04/11/29(第369号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その2」
04/11/22(第368号)「構造改革派の常套手段」
04/11/15(第367号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その1」
04/11/8(第366号)「第二次南北戦争」
04/11/1(第365号)「妄言・虚言の正体」
04/10/25(第364号)「クライン博士を招いてのシンポジウム」
04/10/18(第363号)「日本経済のデフレ体質の分析(その3)」
04/10/11(第362号)「日本経済のデフレ体質の分析(その2)」
04/10/4(第361号)「日本経済のデフレ体質の分析(その1)」
04/9/27(第360号)「豊かな社会ーー競争と共生」
04/9/20(第359号)「レーガンの規制緩和の実態」
04/9/13(第358号)「今こそ大胆な政策転換を」
04/9/6(第357号)「虚言・妄言が跋扈する世の中」」
04/8/30(第356号)「日本の「韓国化」」
04/8/2(第355号)「日本の分割統治」
04/7/26(第354号)「自民党大敗北の要因分析」
04/7/19(第353号)「参院選で見たもの」
04/7/12(第352号)「日本のエネルギー自立政策」
04/7/5(第351号)「危うい石油の確保」
04/6/28(第350号)「テロと中東石油」
04/6/21(第349号)「対談の論点(再)」
04/6/14(第348号)「対談の論点」
04/6/7(第347号)「富の分配と公正」
04/5/31(第346号)「小泉首相訪朝の成果」
04/5/24(第345号)「日本に必要な財政赤字政策」
04/5/17(第344号)「土地売買の盲点」
04/5/10(第343号)「日本経済の体質と財政政策」
04/4/26(第342号)「凍り付くマネーサプライ」
04/4/19(第341号)「デフレ体質の日本経済」
04/4/12(第340号)「火星の土地」
04/4/5(第339号)「円高は構造的」
04/3/29(第338号)「規制緩和に飛びつく人々」
04/3/22(第337号)「矛盾の出発点」
04/3/15(第336号)「日経の貧乏神」
04/3/8(第335号)「実感なき経済成長」
04/3/1(第334号)「為替介入ではなく財政支出を」
04/2/23(第333号)「為替介入への道」
04/2/16(第332号)「為替介入資金の働き(その2)」
04/2/9(第331号)「為替介入資金の働き(その1)」
04/2/2(第330号)「為替介入政策の限界」
04/1/26(第329号)「今日の政治課題」
04/1/19(第328号)「今年の政局の課題」
04/1/12(第327号)「今年の日本の景気」
03/12/15(第326号)「日本の公的年金」
03/12/8(第325号)「足利銀行の破綻処理」
03/12/1(第324号)「日本経済を支えているもの」
03/11/24(第323号)「総選挙結果から見えるもの」
03/11/17(第322号)「総選挙結果の分析」
03/11/10(第321号)「総選挙の結果他」
03/11/3(第320号)「総選挙の予測」
03/10/27(第319号)「動態的会計による企業価値算定」
03/10/20(第318号)「道路公団、財務諸表の怪」
03/10/13(第317号)「藤井総裁解任劇」
03/10/6(第316号)「総裁選と総選挙」
03/9/29(第315号)「総裁選の総括」
03/9/22(第314号)「ドキュメンタリー総裁選」
03/9/15(第313号)「レポート総裁選・・その2」
03/9/8(第312号)「レポート総裁選」
03/9/1(第311号)「混迷の終始符」
03/8/25(第310号)「急がば回れ・・再び」
03/8/18(第309号)「自民党の総裁選に向けて」
03/8/4(第308号)「日本の実稼働率」
03/7/28(第307号)「設備投資の実態」
03/7/21(第306号)「企業経営と創造的破壊」
03/7/14(第305号)「頭が破壊されている人々」
03/7/7(第304号)「頭が混乱している構造改革派」
03/6/30(第303号)「経済の循環(その2)」
03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」
03/6/16(第301号)「経済政策の混乱」
03/6/9(第300号)「りそな銀行の件」
03/6/2(第299号)「規制緩和と日本経済」
03/5/26(第298号)「経済学と経営学」
03/5/19(第297号)「政府紙幣発行の認知度」
03/5/12(第296号)「滝田洋一氏への反論」
03/5/5(第295号)「政府紙幣発行政策の誤解」
03/4/21(第294号)「逆噴射の財政政策」
03/4/14(第293号)「危機管理下の経済政策」
03/4/7(第292号)「国債の管理政策」
03/3/31(第291号)「経済再生政策提言フォーラム」
03/3/24(第290号)「日本の有名経済学者達」
03/3/17(第289号)「波乱の株式市場」
03/3/10(第288号)「政府貨幣の理解」
03/3/3(第287号)「軽視される高橋是清の偉業」
03/2/24(第286号)「日本の清貧の思想」
03/2/17(第285号)「日本のデフレの原点」
03/2/10(第284号)「小泉首相の「もっと重要なこと」」
03/2/3(第283号)「スローパニック経済」
03/1/27(第282号)「所得を生むマネーサプライ」
03/1/20(第281号)「マネーサプライ政策の限界」
03/1/13(第280号)「データに基づく経済論」
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