平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




05/3/28(383号)
株式に関する非常識

  • 増配による株価上昇の怪
    今週は予定を急遽変更して、日本の株式市場を取上げる。それはマスコミの報道が片寄っており、要人と言われている人々の発言があまりにも酷いからである。これによって世論も間違った方向に誘導される可能性がる。

    まずフジテレビがニッポン放送の新株予約権を実行すれば、既存株主の権利が希釈されという意見が強い。これについては本誌05/2/28(第379号)「マスコミの暴走」で反論した。ここで「株式には議決権と、配当を受取るなどの経済権がある。理論上は、フジテレビが妥当な株価で新株予約権の実行を行えば、株主の経済権が侵されることはない。問題は議決権である。しかし少数株主にとって議決権はほとんど関心がないと思われる。議決権についてはライブドアと村上ファンドのみに関係してくる。」と説明した。

    これについてもっと詳しく説明する。議決権については、フジテレビが新株予約権の実行すれば、既存株主の権利が希釈されることは本当である。むしろフジ側は、まさにそれを狙った作戦に出ようとしたのである。これに対して、ライブドア側が地裁に差し止めの仮処分の申し立てしたのも当然の行動である。しかし両陣営以外の一般株主にとって、議決権の希釈という話は全くと言って良いほど関係がない。一般株主にとって関係するのは、経済権の方である。

    そこで問題になることは、フジ側が増資を引受ける際のニッポン放送の株価である。目論見書では一株当り5,950円という値段である。この価格はニッポン放送株へのTOB価格と同じである。この5,950円が適正かどうかが問題であった。かりに5,950円が適正としたなら、議決権の話を別にすれば、既存株主にとって、利益も損害もない。しかしニッポン放送の株価が7,000円とか8,000円が適正とすれば、フジテレビが5,950円で取得したなら、既存株主にとって損害が生じる。

    しかし地裁は、ニッポン放送株の第三者割当増資に関して、一株当たり5,950円の引受株価についてだけは適正という判断を行っている。実際、フジテレビが新株予約権の実行をするとしたなら、新たに3,000億円弱の資金をニッポン放送に注ぎ込むことになる。ところがマスコミはこの事実についてほとんど触れていない。どうもマスコミ関係者は、勉強不足で、このような関係について理解がないみたいである。もっとも高裁への抗告の棄却によって、このフジ側の増資戦略は頓挫した。またニッポン放送の一般株主にとってもっと重要なことは、株式集中による上場廃止の方である。


    ライブドア側のLBOが現実のものとなり、フジ側は増配を発表して防衛に出ている。年間の一株当りの配当を1,200円から5,000円に増配するという話である。増配を発表してから、フジテレビの株価は急騰した。しかし配当を増やすから、株価が上昇するという現象は理論的に間違っている。ところが日本の市場では、理論的には間違っていることがしばしば起る。

    理論上の適正な株価は、株式を発行している会社の自己資本、つまりいわゆる株主の持ち分を発行株式数で割り返した数字である。現実の株価はこれを反映して動くはずである。ただし会社に、貸借対照表上に表れない土地や株式の含み損益がある場合は、それを自己資本に加味することになる。株式の配当は、この株主の持ち分を使って株主に配分する行為である。もし株価がこのような会社の価値を正しく反映されているなら、配当され資金が社外流出すれば、株価はその分下落するはずだ。

    期末近くになると権利落ち日がある。その前日までに買われ配当を受ける権利がある株式が、権利落ち日にはその分安くなる。配当を受けたい者は前日までに購入し、配当を受けない者は権利落ち日以降に購入する。理論的に株価が動くとしたなら、権利落ち日の前に買っても、後に買っても一株の価値は同じはずである。理屈の上では、一株当たり3円の配当がある場合には、権利落ち日に株価は3円下落する。もし3円も下落せず、あるいは権利落ち日に逆に上昇するようなら株価はその日に上昇したことになる。

    権利落ちには配当だけでなく、無償増資などの権利落ちもある。日経平均やダウ平均というものは、このような色々な権利落ちを長年調整してきた結果の数値である。50円の株価の株式が、今日では日経平均である1万1,800円になったと理解すればよい。


    このように株主にとって、一株の価値(持ち分)は配当があってもなくてもなくても同じである。配当があれば、配当金が手に入るがその分株価は下落する。反対に配当がなく、社内留保する場合は、配当金が受取れないが、株価は維持される。配当の増配も理論的には同じである。増配は株主への配当金が増えるが、自己資本が社外流出した分だけ株価は下落することになる。

    ところが日本株式市場では、増配が株高の要因になっている。しかしこの場合には、通常、増配がその会社の業績が良いことを伝えているからとも考えられる。つまり人々が増配によって、その会社の業績が良いことを確認し、株価が上昇したと解釈する他はない。しかしフジテレビの増配は、業績に関係なく、本来株価上昇に繋がらないはずである。むしろ今回の上昇は、ライブドアによる買収が現実のものとなったことと、これに対してフジテレビが今後対抗措置を取るのではという思惑によるものと解釈すべきである。実際、その後フジ側はフジテレビの株式の買増しを50社の有力企業に要請している。


  • 日本は不良外資の天国
    米国には、マイクロソフトのように長年配当しなくても、高株価を維持してきた優良会社がある。そして米国の株式投資家は、より成熟していると思われる。配当増を単純には喜ばない。投資家は、配当金と受取る方が良いか、それとも社内留保によって、株価が上昇した方が良いかを天秤にかける。つまりインカムゲインの方が良いか、それともキャピタルゲインの方が良いかを考える。

    米国の場合、決手は税制である。どうも現行の税制では、配当で受取るより、高株価によるキヤピタルゲインの方が有利と考えられてる。したがって米国では、社内留保からさらに一歩踏み込んで、自社株買いによる高株価政策が一番喜ばれている。

    ところでマイクロソフトは、最近、初めて配当を行うようになった。これはマイクロソフトも成長が鈍くなり、社内留保を厚くしても、それによって会社の成長が見込めなくなったからと考えられる。このように日本でなされている「増配が株主にとっていつも良いことだ」という解説は極めて幼稚である。しかし情けないことにたしかに増配が発表されると、日本の株式市場では株価が上昇するのも事実である。


    ところがこの幼稚な考えが日本では政治家までにも蔓延している。先週の時事放談に塩川前財務大臣と渡部恒三前衆議院副議長が出演していた。二人とも増配したことによってフジテレビの株価が上昇したと解説していた。筆者は、前述の通り買収合戦が起るとの予想によって上昇したと考える。だいたい一株当り3,800円しか配当が増えないのに、一時的ではあるが10万円近く株価が上昇するなんて不合理である。むしろライブドアによるLBOが噂されたことが大きいと考える。

    この番組でもう一つ驚いたことは塩川・渡部の両氏が、ライブドア堀江氏の行為を持上げていたことである。フジテレビに問題があるとしても、ライブドアの堀江社長を英雄扱いするとは何事であろうか。だいたい塩川・渡部の両氏が、ライブドアの実情やこれまでの経営についてどれだけ知っているのか疑問である。また今回のニッポン放送の買収劇での村上ファンドの役目や、ライブドアが資金調達に使ったMSCBの問題点をどう考えているか問いたい。

    特にフジ側がTOBを掛けた後に時間外で大量に取引されたことは大問題である。次ぎは産経新聞の解説である。産経新聞はフジ・サンケイグループの一員であるが、今回の時間外取引の問題点をコンパクトにまとめている。

    「ライブドアが八日に行ったニッポン放送株の大量買い付けは、投資家の利便性を図るために設けられた東証の時間外取引システム「ToSTNeT−1」(トストネット・ワン)の趣旨を無視し、システムの盲点を突いたものとの見方が強まっている。トストネット・ワンは、運用株式のバランス調整などのため、機関投資家同士がまとまった取引をしやすくするため設けられた。売買価格は直近の終値の上下7%以内などと決まっており、取引時間内に行うことによる株価変動の影響を避けることができる。取引は通常、一つの証券会社が同一銘柄の売りと買いを同時に出して売買を成立させる「クロス取引」などが主で、一般投資家には必ずしも開かれた市場とはいえない面もある。だが、「市場を混乱させず、投資家の利便性を確保できる」(市場関係者)ための“善意”のシステムとして認知されている。今回のような大量取得に利用されることは趣旨から外れ、想定外なのだ。今回、問題視されているのは、通常なら強制的にTOBをかけなければならない、保有比率が合計で三分の一を超える株式を、事実上相対で取引できるトストネット・ワンで買い付けたことだ。」

    さらにライブドアについては、今週はあまり詳しくは述べないが、いかがわしい株式分割をくり返してきた会社である。客観的に見れば、ライブドアこそ一般株主を踏み台にしてきた会社である(もっとも株主はそのことを半分覚悟しているようだが)。ところがマスコミは、不思議なことにフジテレビやニッポン放送のことしか取上げない。これでは日本国民がライブドアについて誤解するのも無理はない。

    しかし塩川・渡部の両氏は、少なくとも政治家としてある程度の情報や知識を持っていて当然のはずである。特に塩川氏は前の財務大臣である。本当の事を知っているなら、とても堀江社長を英雄扱いなどできるはずがない。今回の買収劇では数々の脱法行為があるが、脱法行為は違法ではないからと見過ごされているだけである。もっともこれらの脱法行為が、違法ではないという結論になるかどうかさえも不明の段階である。しかし日本の政治家がこの体たらくだから、不良外資が喜んで日本に集まってくるとも言える。不良外資にとって日本は天国である。



今回のフジ・サンケイグループとライブドアの騒動で、「会社は誰のもの」という話が改めて話題になっている。そこで本誌でも、来週号でこのテーマを取上げることにする。

フジ・サンケイグループとライブドアの攻防はめまぐるしかった。まず23日、ニッポン放送のフジテレビへの第三者割当増資の仮差し止め請求に関する高裁の最終決定が出た。予想通り、フジ側の敗北であった。ところが24日、ニッポン放送の持っているフジテレビ株を議決権付きでソフトバンクインベストメントに貸出すというのである。売却は問題になるが、貸出すのは問題はないという法律の解釈である。また売却の場合には、売却益に税金がかかるが、貸出す場合はコストがかからない。

筆者は先週号で「ニッポン放送の買収劇で、フジ側の行動で腑に落ちない点があるが、これについて今のところ触れないことにする。」と述べた。これはフジテレビよるニッポン放送のTOB後、市場でニッポン放送株の買入れを行っている形跡がなかったことである。フジ側は、買増しがTOBに応じてくれた株主の信義に反すると、市場でのニッポン放送株の追加取得断念を宣言している。その後、一人ライブドアが市場でニッポン放送株を買い進めた。

いくら「信義に反する」と言っても、ライブドアの買増しを指をくわえて眺めていたのである。もう一つ別の理由として村上ファンドの持ち株比率が不明だったことが上げられる。村上ファンドの持ち株比率が大きければ、フジ側が買増ししても過半数を取れないことになり、無駄になる。しかしフジ側が買増しに動かなかった理由は、今回のような逆転劇を当初から検討していたからと考える。おそらく今回の対抗策以外にも、いくつかの案が用意されていたと考えるのが自然である。フジ側の首脳は、このようなことが外部にモレないように急に発言が慎重になった。さすが日頃からコンテンツを作成している人々で、芝居がうまい。

しかし何故よりによってソフトバンク・グループなのかという意見が強い。たしかにソフトバンクはテレビ朝日の買収を試みたところである。今のところ「毒をもって毒を制す」と解釈する他はない。

亀井静香勝手連の掲示板のアドレスが変更された。新しい掲示板には亀井静香勝手連のトップページから入ってもらいたい。亀井静香勝手連のアドレスは(亀井静香勝手連のホームページhttp://www.nb-j.co.jp/katteren)である。



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