平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




04/11/8(366号)
第二次南北戦争

  • キリスト教、ハリケーン、亡命キューバ人
    米国大統領選挙の結果はブッシュ氏の辛勝であった。筆者が、米国の大統領選挙にこれほど関心を持ったのは初めてである。当初からブッシュ優位という報道があったが、結果は接戦であった。もし激戦州のフロリダとオハイオのうち、一つでもケリー氏が取れば、ケリー大統領が誕生していた。

    それにしても米国の大統領選挙は奇妙である。選挙を行なう前から、一部の激戦州を除き、共和党と民主党の色分けが完全についており、選挙結果もその通りになっている。日本でも地域毎の投票傾向はある程度固定している。しかし米国の場合はそれが極端である。同じ州の中でも、都市部は民主党、郡部は共和党とくっきり色分けされている。

    これなら米国全土で大統領選挙を展開する必要はなく、激戦州、中でもフロリダとオハイオだけで行なえば良い。結果は同じである。大統領選を前にメディアは両候補の米国全土の支持率を調査し、結果を公表していたが、これは意味がない。意味を持つのはフロリダとオハイオの支持率だけである。


    政治評論家は、選挙結果が出て、ケリー候補の政策の問題点を指摘していた。しかしケリー氏が政策として何を訴えていても結果は同じである。またこれまで3回の両候補のテレビ討論会の様子が選挙に影響すると言われてきた。しかしこれも昔の話と思われる。共和党支持者はブッシュに、民主党支持者はケリーに投票することを当初から決めているのである。

    どちらに投票するか迷っている浮動層は少数派である。さらに浮動票についても、意味を持つのはフロリダとオハイオだけである。これでは現役大統領は、政策が間違っても選挙に勝てる。ただしフロリダとオハイオに対してだけは個別の適切な政策が必要である。

    それにしても米国の大統領選は凄まじいというか、杜撰である。自分で選挙登録し投票を行なうことになっているが、複数の選挙区に登録してもチェックができるのであろうか。また仮投票の制度があり、これを開票する場合には、10日待たなければならない。投票に3時間も待たされるケースもある。投票を閉め切らないうちに開票が行なわれていた州もある。またオハイオ州のようにはっきり共和党寄りの人物が選挙管理の最高責任者になっている州がある。この州では投票場所の変更を認めなかった。これは住居を変える比率が高い民主党支持者にとって極めて不利な決定であった。さらにフロリダとオハイオでは、出口調査と異なる結果が出ており、開票作業の疑惑が噂されている。

    大体、選挙を火曜日に行なうという米国の慣習が異常である。これでは仕事を持つ者には投票をするなということになる(期日前投票はあるようだが)。したがってどうしても選挙は組織票に頼る形になる。また選挙方法自体が各州でバラバラである。とても30年以上も前に月に人を送った国のやることではない。


    今回の選挙で興味深かったのは、米国民が真っ二つに割れている様子である。東海岸、西海岸、北部が民主党支持であり、南部などその他の州が共和党支持である。

    日頃我々が見聞きし、関係の深い米国人は、ほとんどが民主党が地盤にしている地域の人々である。日本人が旅行したり、日本人の移民先は主にこれらの地域である。新聞、映画、テレビなどで、米国の情報を発信している人々が住んでいるのもこの地域である。また日本で荒稼ぎをしている金融関係者の出身地もこの地域だ。つまり日本人の知っている米国人のほとんどはこの地域の人々である。例外はユタ州出身のモルモン教のタレントぐらいだ。

    南部の人々について話は聞くが、我々日本人とはほとんど接触がない。南部の人々は、生真面目で信心深いが、一方で頑固で融通がきかないという印象である。最近注目されているのが、南部を中心にこれら共和党の支持基盤で広がっているキリスト教原理主義の動きである。聖書の記述は全て正しいという宗派である。ブッシュ氏も熱心な信者の一人である。

    この宗派の信者数は短期間に2,500万人まで増えている。信者のほとんどが白人で、排他的な面が強い宗派である。前回の大統領選では、そのうち1,500万人がブッシュ氏に投票している。選挙参謀・大統領最高顧問のカール・ローブ氏は、今回これを1,900万まで増やすことができると判断した(前回の選挙では、ブッシュ氏の過去の酔っぱらい運転が問題にされ票を取りこぼしていた)。ブッシュ大統領が時々あやつる宗教用語もこの宗派で使われているもので、この宗派の信者に向けてのメッセージでもある。

    浮動層に頼るより、このような宗教票を掘り起こす作戦が結果的に効を奏した。ブッシュ大統領の同性愛者の結婚反対発言や妊娠中絶の規制強化が、このようなキリスト教原理主義やカソリック教徒の保守派の支持を確実なものにした。投票率が高くなれば民主党有利という事前の予想を覆したのも、これらの宗教票である。もちろんフロリダとオハイオでもこの宗教票がブッシュ勝利の要因となった。


    今年フロリダには何個もハリケーンが上陸し、その度に被害が出た。その都度ブッシュ大統領はフロリダを訪れた。ブッシュ大統領は、弟の知事と一緒に災害の復興に努めた。かなりの金を使ったという話である。これは合法的な大統領選挙の事前運動になった。

    またフロリダには亡命キューバ人が住んでいる。米国全土から見れば、とるに足らない人数であるが、フロリダ州にとってはある程度の比重を占める。ブッシュ大統領は、対キューバ制裁の措置を少し厳しくすることによって、この亡命キューバ人の支持を固めた。このようにブッシュ大統領は、イラク問題、国際協調、所得の格差、失業問題などに関係なく、フロリダとオハイオを抑え再選を実現したのである。ちなみに同じく激戦区と見られていたペンシルバニアに対しては、地場産業である鉄鋼業のために共和党の方針に反してセーフガードを発動している。


  • 風とともに去りぬ
    米国民は真っ二つに割れていることについてさらに述べる。ブッシュ氏を支持した南部・中央部と、ケリー氏を推した諸州との対立が鮮明になっている。近年、両者の対立が米国で深刻になっているが、筆者はこの解決はちょっと困難と見ている。この対立の図式は1860年代の南北戦争の版図とちょうど重なる。南北戦争は日本では幕末の頃であり、ずいぶん昔の出来事である。南北戦争ではリンカーン大統領が率いる北軍が南軍を破っている。今回の大統領のブッシュの勝利は、言わば140年後の南軍のリベンジである。

    しかしリンカーン大統領は民主党ではなく共和党であり、いつのまにか米国では政党の支持層がそっくり逆転している。しかし二つの支持層同士は融和どころか、分裂状態がますますはっきりしてきた。そもそも南部の保守層の中には、ワシントンはおろかニューヨークやロサンゼルスに行ったことがない人が大勢いる。もちろん日本に対する知識はゼロに近く、日本がどこにあるか正確に言える人はほとんどいないであろう。もっとも日本のことを知っていても日常生活に何のたしにもならない。

    米国には全国紙というものがない。テレビには三大ネットワークというものがあるが、南部でこれらの番組がどれだけ見られているか疑問である。日本では絶大な力を持つマスコミであるが、米国の場合、南部では全国的なマスコミもほとんど無力である。

    今日でも9.11の同時テロの犯人がフセイン元大統領だと思っている者が国民の4割もいると、「華氏9.11」のマイケル・ムーア監督が言っている。このような思い込みをしているのは南部の保守層を中心にした人々である。民主党支持者の多い大都市で大人気だった映画「華氏9.11」であるが、南部ではほとんど客が入らず上映は早々と打切りになっている。とにかく南部の保守層の人々は、米国の全国メディアを頭から信じていない。


    東海岸やフロリダから始まった米国への植民は、西へ北へと広がった。人々が移動する間に、その土地に定着する者が出てきた。これが南部保守層のルーツである。一方、一獲千金の夢を持つ者や好奇心の大盛な者達は移動をさらに続ける。カルフォニアに金が産出したと聞くと、一儲けを考える者はさらに西のカルフォニアに移動する。一方、土地に定着する者は麦やとうもろこしを植え、牛を飼う堅実な生活を始める。

    しかし時代を経るにつれ、両者の間で対立が深刻になる。南北戦争は、奴隷解放が一つの理由になっている(もっとも奴隷解放といっても、北部の工業地帯では奴隷を工場で使いたかった)。しかし両者の気質の違いが対立の遠因になっていると考えられる。一方は他方を「頑迷なやつら」と考え、他方は「軽いやつら」と決めつける。気高く保守的な南軍と進取性に富む北軍という図式になる。南北戦争では、保守的な南軍が進取性の北軍に敗れている。

    「風とともに去りぬ」はそのような時代を背景にしている。ビビアン・リー扮する勝ちっ気なスカーレット・オハラは母なる大地である故郷「タラ」にたくましく生きることを決意する。一方、クラーク・ゲーブルのレット・バトラーはさらに旅に出る。大雑把に捉えるとスカーレットの子孫が南部保守層であり、レット・バトラーの子孫が民主党の支持層である。

    このように見てくると今回の米国の大統領選もなかなか面白い。この南軍の屈折した敗北感が今日まで連綿と続いるのではないかと思われる。もっとも南北戦争のことは、国家分裂の元になりかねないので米国民があまり触れたくない話であろう。


    政策に問題が多かったブッシュ陣営は、まともな手段では再選が難しかった。どうしても禁じ手に近い選挙戦術を使うはめになったと考えられる。これがさらに民主党支持者の反発を買うことになった。ブッシュ陣営の選挙戦術は、国を分裂を招くものであり、むしろ分裂や対立を誘うことによって再選を実現したと言える。さらに少なくともこれまでは政治が宗教に深入りすることも禁じ手と思われていたが、ブッシュはむしろ積極的に宗教を取込んで行った。保守票の掘り起こしと言うより、正確には宗教票の取込みである。

    このように見てくると、分裂や対立を誘う手法と言い、宗教票に依存する体質と言い、ブッシュ氏と小泉首相の政治手法には共通点がある。このようなブッシュ政権も、経済が2年前の最悪の状態が続いておれば再選は難しかったかもしれない。今日、雇用には問題があるが、需要創出政策によって米国経済は少し良くなっている。これも竹中大臣の師匠であるハバート経済諮問会議議長(現コロンビア大学教授)を政権から追出したお陰である。



来週は何事もなければ、一応リチャード・A・ベルナーを取上げる。

AP通信の米国大統領選の出口調査が面白い。人種や宗教などの項目毎に、ケリーとブッシュのどちらに投票したかを調査している。例えば白人はケリー41%、ブッシュ58%である。イラクに関心のある人はケリー73%、ブッシュ26%である。注目されるのが「重視する人柄」の項目で、信仰心ではケリー8%、ブッシュ91%、そして知性ではケリー91%、ブッシュ9%であった。そんな人物を米国民は大統領に選んだのである。ちなみにユダヤ教徒はケリー74%、ブッシュ25%の投票であった。イラク攻撃は、中東の国々の民主化を実現するための第一歩とブッシュは説明していた。中東諸国が民主化すれば、イスラエルとパレスチナの問題が解決すると主張していたのである。しかしユダヤ教徒はこの話を信じていないみたいである。

先月、保守系有線放送会社の社長にお会いした時、日本の親米保守派について面白い話をしておられた。この社長が最近若い人達と話をした時、ある女性が「我々は絶対というものを信用できない」と言っていたとのことである。彼女は「バブルの時には、この経済が永遠に続くものと思っていたのに、あっけなく崩壊した」さらに「神戸の震災とオウム事件」、「9.11の同時多発テロ」が起り、このように昨日まで「絶対」と思っていたいたものが次々とあっけなく崩壊した。したがって彼女達の世代は、米国の存在を絶対とし、米国にのめり込んでいる日本の親米保守派の考えが理解できないという話である。つまり米国と言っても絶対ではないと言いたいのである。しかし彼女達はけっして反米ではない。たしかに今回の大統領選の様子を見ていると、とても米国が絶対的なものとは思われない。

筆者も、決して反米ではなく、むしろ親米の方であろう。政策に関して、少なくとも東アジア政策についてはブッシュ政権の方が民主党より好ましいと考えている。経済政策についても、民主党の政策には一貫性がないと感じる。しかし今回の大統領選挙における、ブッシュ大統領のキリスト教原理主義に対する入れ込み方に無気味なものを感じる。今日、世界は原理主義者同士の争いになっている。原理主義者には妥協がない。日米同盟と言っても、どの程度まで米国に付いて行くのかが問題である。防衛も経済も米国に大きく依存する今日の日本の形はまずいと、今回の米国大統領選の様子を見て思われた。

日刊ゲンダイに我々の作成した失業率と参院選結果のデータが掲載されたことを前にお知らせしたが、これは亀井静香勝手連のホームページで公開されている。亀井静香勝手連のアドレスは(亀井静香勝手連のホームページhttp://www.nb-j.co.jp/katteren)である。



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