平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




04/9/13(358号)
今こそ大胆な政策転換を

  • 構造改革ごっこ
    虚言・妄言が跋扈したお陰で、日本では国民の間に無力感が漂っている。たしかに3年前「構造改革なくして経済成長なし」という小泉首相のキャッチフレーズが輝かしかった。人々は構造改革が何を意味するのか理解しないまま、構造改革とやらに漠然とした期待を賭けた。経済同友会の会員などは99.6%が小泉改革に賛成していた。新聞を開けば毎日、経済学者やエコノミストが構造改革を訴えていた。

    今年7月の参院選までは、小泉政権の周辺の人々は構造改革によって景気が回復したと強弁していた。しかし小泉政権も3年が経過し、人々は「構造改革なくして経済成長なし」も虚言・妄言の類ということが薄々判ってきた。現実の経済は成長しないばかりか、財政赤字も増える一方である。

    参院選が終わるととたんに公表される経済数字が悪くなった。4〜6月の経済成長率は、年率1.7%(改定値は1.3%に下方修正)に急減速した。改定値で設備投資が少し増額されているが、注目されるのは名目経済成長率がマイナス(年率でマイナス2.1%)になったことである。輸出増やデジタル家電の売上増や、関連の設備投資があったのにかかわらず、日本の経済は縮小しているのである。また7月の完全失業率も4.9%と前月に比べ、0.3%悪化した。


    今回の景気回復の特徴は、地域によって格差が大きいことである。調子が良いのは都市の再開発で民間投資が続く東京、輸出増加と中部国際空港、国際博関連の公共投資がある中部圏、デジタル家電メーカの生産拠点がある地域、そして中国特需に沸く重厚長大の集積地である。一方、公共事業の減少、海外への工場移転で、ほとんどの地方は景気回復どころではない。むしろ補助金や地方交付金のカットで、今後地方経済はもっと悪くなることが分っている。また同じ東京でも良いのは東側の半分だけである。

    もう一つの今回の景気回復の特徴は、企業の利益は増えているが、人件費が上昇しないことである。むしろ労働分配率がかなり下がっている(5年間で5ポイント)。これは企業のリストラが依然として続いていることを示している。さらに勤労所得が増えないにも拘らず、消費がわずかながら増えているとしたなら、これは過去の貯蓄が取崩されていると考える他はない。どうも日本全体の経済が一向に拡大せず、単に家計から企業へ富が移っているだけのようである。

    デジタル家電メーカや重厚長大産業は利益を出している。利益の一部は設備投資に回っている。しかし設備投資の水準は低く、利益の残りは借入金の返済に回っている。貯蓄の取崩しによる消費や輸出がそのうち頭打ちになることははっきりしている。また設備投資が増えれば、生産能力が増える。つまり消費や輸出といった需要が停滞すれば、次ぎには生産能力の増強の動きも弱まり、設備投資は頭打ちになる。日本経済の回復は今日踊り場にある。長期金利が低下しているが、これは金融市場が先行してこの動きを織込んでいるからと見ている。


    構造改革派のエコノミストは、「非効率的な部分が排除されれば、革新的な企業が登場し投資も増える。投資が増えれば、新しい雇用機会も増える。」と主張していた。さらに彼等は「この一連の改革を進めるためには、まず社会な非効率的な部分が排除される必要がある。財政支出による需要創出は、このような改革(革新的な企業の登場)の邪魔になる。」と主張して、財政の出動を強く牽制していた。まさにシュムペータの「創造的破壊」そのものである。

    しかし現実の景気回復は、革新的な企業の登場によってではなく、重厚長大産業の輸出増と老人のデジタル家電の購入増と、これらに関連していくばくかの設備投資がなされたことによる。今年、総務省で企業の開業率・廃業率の調査が行なわれおり、そろそろ結果が出る頃である。しかしとても革新的な企業が続々登場したという形になっているとは思われない。証券会社の営業努力のIPOによって、怪しいベンチャー企業が少し世の中に登場した程度である。

    日本の経済は落ちるところまで落ち、焼け野原になったのである。そこに「ペンペン草」が少し生えてきたことを、構造改革派は「改革の成果」と言っているのに過ぎない。しかもよく見れば、35兆円もの巨額の為替介入という財政支出を行なって、この「構造改革ごっこ」を支えているのである。技術進歩により、デフレータがマイナスになり、実質経済成長率はプラスになっているが、名目経済成長率はほとんどゼロかマイナスである。「近鉄」の身売り話が出ても、誰一人有力会社は手を挙げない。そこまで日本経済は疲弊している。


  • 神経の逆なで
    企業は合理化に努力しており、経済の生産性は常に向上している。したがって経済が成長し雇用が改善するためには、生産性の向上以上に経済が拡大(成長)する必要がある。構造改革派は「日本の実質経済成長率は世界の先進国の中でも遜色がない」と言っている。しかし同じ実質成長率3%でも、物価の上昇している各国と依然として物価の下落が続く日本とでは全く意味が違う。今日の生産性の向上を前提にすれば、雇用の改善には最低でも6%以上の日本経済の成長が必要と考える。

    経済が回復していると言われているのに労働分配率が低下している。これは総務省が発表している以上に雇用環境が悪いことを示している。むしろ雇用を犠牲に企業収益が改善していると理解する他はない。実際、雇用の形態が、正社員から契約社員、派遣社員、パート・アルバイトに転換している。


    最近では市役所の窓口まで派遣社員に置き換わっている。つまり市民の苦情の矢面に立っているのが派遣社員なのである。市は経費節減のため派遣社員を活用しているという話である。しかしよく考えてみると、経費のかかる市の職員の給与水準を守るため、派遣社員を活用しているのである。市の職員を募集すれば多くの人が応募するのだから、市の職員の給与水準をずっと下げるべきである。市の職員の給与水準を下げて、市の職員の採用を増やすべきである。

    市に派遣されている者が社会保険を申込んだら、市への派遣を止めさせられたという話が日経新聞に掲載されていた。派遣会社として、社会保険の会社負担が問題になったのである。このような話で溢れているのが今日の日本の雇用環境である。この経済状態で「構造改革は進んでいる」と満足している構造改革派の人々の頭はおかしい。


    今日のような景気の回復の仕方では、景気回復はほとんどの地方へ波及しない。ところで理由なく公共事業は悪く言われているが、むしろ公共投資の方が効果はうまく波及する。たしかに公共投資の経済効果は、公共事業が行なわれる地域に第一義的に生まれる。しかし公共事業の場合には、他の地域にも波及する。

    長野県で公共事業が行なわれても、セメントは埼玉県で、鋼材は神奈川県で生産されているケースが考えられる。また公共事業に関係している企業の本社が東京にあれば公共事業の恩恵は東京に及ぶ。国土交通省は公共事業の波及効果という数値を算出している。全国の平均値は1.8から1.9である。ところが例えば長野県の公共事業の波及効果は1.1と極めて小さい。つまり0.7から0.8の波及効果は他の都道府県に漏洩しているのである。

    このように公共事業は地方のためといわれているが、実際のところ最終的に恩恵は東京に必ず向かう。また地方出身の子弟が東京の大学に通えば、公共事業で生まれた所得の一部は仕送りとして東京に流れる。ところが何も考えていない東京の自称インテリ達は「公共事業は地方の救済」と猛反発する。このような公共事業でさえ、毎年確実に削られてきた。


    総務省の公表する完全失業率は4.9%であるが、この数字を信じている者はほとんどいない。さらに先ほど述べたように雇用の形態が変っており、雇用の質がかなり悪くなっている。さらに年齢層によって失業率が大きく異なっている。特に若年層の失業率はかなり高く、地方によっては深刻な問題になっている。

    都道府県によっては、年齢層別の失業率を公表している。例えば高知県の15才から24才の男性の場合、完全失業率は21.8%である。この数字は全国平均の完全失業率4.9%から絶対に想像できない数字である。しかしこの21.8%に対して、総務省は、これは高知県が勝手に算出している数字という見解である。しかし総務省の公表数字に疑いを持っている筆者などは、むしろ高知県が公表している数字の方が本当に見える。

    総務省は、地方自治体が勝手に数字を算出していると言っているが、このような数字こそ総務省が基準を設定し、定期的に公表すべきである。全国平均の完全失業率を知っても、失業問題の本質は全く見えない。知事達は、今、総務省と財務省の三位一体とやらの計略に乗せられ、「けちな自主財源」を得ようと奔走している。地方にとって何が今一番の問題なのか、知事達の行動を見ていると分らなくなる。


    今回の参院選で自民党はボロ負けをした。特にこれまで勝てると思われた地方の一人区で次々と誤算が起った。自民党の敗因は「年金問題」と言われている。しかし筆者は、これは全く違うと考える。21.8%の完全失業率を前にすれば、「年金」や「小子化」の問題どころではない。

    参院選で、候補者や自民党幹部は「小泉改革の成果でようやく景気が良くなった」と発言していた。しかし地方の実感は、完全失業率21.8%である。つまり地方の有権者は、このような発言を聞く度に神経を逆なでされていたのである。これでは政府が、完全失業率21.8%の地方に対して、これ以上何もしないと宣言しているのと同じことである。参院選で大敗したのは当り前である。ところが自民党はいまだにこのことに気が付いていないようである(まだ年金で負けたと思っている)。

    高知県の21.8%の完全失業率に象徴されるように、地方の経済は完全に疲弊している。しかし小泉政権は郵政民営化にしか興味がない。また民主党も自民党への批判票を集めただけである。もし今回の参院選で、まともな政策を掲げた新党が現われていたら、かなり議席をさらっていったと思われる。今後、自民党が再生するには、よほど大胆な政策転換が必要である。



大胆な政策転換については、後日もっと詳しく述べる。来週号は、レーガン時代の米国の規制緩和の実態を取上げる。

9月16日に亀井静香元政調会長を囲んでの居酒屋でのオフ会を予定している。参加希望者はオフ会のご案内http://www.nb-j.co.jp/katteren/off4.htmをご覧いただきたい。開催日が迫っているので、申込みは早めにお願いしたい。

亀井静香勝手連のアドレスは(亀井静香勝手連のホームページhttp://www.nb-j.co.jp/katteren)である。



04/9/6(第357号)「虚言・妄言が跋扈する世の中」」
04/8/30(第356号)「日本の「韓国化」」
04/8/2(第355号)「日本の分割統治」
04/7/26(第354号)「自民党大敗北の要因分析」
04/7/19(第353号)「参院選で見たもの」
04/7/12(第352号)「日本のエネルギー自立政策」
04/7/5(第351号)「危うい石油の確保」
04/6/28(第350号)「テロと中東石油」
04/6/21(第349号)「対談の論点(再)」
04/6/14(第348号)「対談の論点」
04/6/7(第347号)「富の分配と公正」
04/5/31(第346号)「小泉首相訪朝の成果」
04/5/24(第345号)「日本に必要な財政赤字政策」
04/5/17(第344号)「土地売買の盲点」
04/5/10(第343号)「日本経済の体質と財政政策」
04/4/26(第342号)「凍り付くマネーサプライ」
04/4/19(第341号)「デフレ体質の日本経済」
04/4/12(第340号)「火星の土地」
04/4/5(第339号)「円高は構造的」
04/3/29(第338号)「規制緩和に飛びつく人々」
04/3/22(第337号)「矛盾の出発点」
04/3/15(第336号)「日経の貧乏神」
04/3/8(第335号)「実感なき経済成長」
04/3/1(第334号)「為替介入ではなく財政支出を」
04/2/23(第333号)「為替介入への道」
04/2/16(第332号)「為替介入資金の働き(その2)」
04/2/9(第331号)「為替介入資金の働き(その1)」
04/2/2(第330号)「為替介入政策の限界」
04/1/26(第329号)「今日の政治課題」
04/1/19(第328号)「今年の政局の課題」
04/1/12(第327号)「今年の日本の景気」
03/12/15(第326号)「日本の公的年金」
03/12/8(第325号)「足利銀行の破綻処理」
03/12/1(第324号)「日本経済を支えているもの」
03/11/24(第323号)「総選挙結果から見えるもの」
03/11/17(第322号)「総選挙結果の分析」
03/11/10(第321号)「総選挙の結果他」
03/11/3(第320号)「総選挙の予測」
03/10/27(第319号)「動態的会計による企業価値算定」
03/10/20(第318号)「道路公団、財務諸表の怪」
03/10/13(第317号)「藤井総裁解任劇」
03/10/6(第316号)「総裁選と総選挙」
03/9/29(第315号)「総裁選の総括」
03/9/22(第314号)「ドキュメンタリー総裁選」
03/9/15(第313号)「レポート総裁選・・その2」
03/9/8(第312号)「レポート総裁選」
03/9/1(第311号)「混迷の終始符」
03/8/25(第310号)「急がば回れ・・再び」
03/8/18(第309号)「自民党の総裁選に向けて」
03/8/4(第308号)「日本の実稼働率」
03/7/28(第307号)「設備投資の実態」
03/7/21(第306号)「企業経営と創造的破壊」
03/7/14(第305号)「頭が破壊されている人々」
03/7/7(第304号)「頭が混乱している構造改革派」
03/6/30(第303号)「経済の循環(その2)」
03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」
03/6/16(第301号)「経済政策の混乱」
03/6/9(第300号)「りそな銀行の件」
03/6/2(第299号)「規制緩和と日本経済」
03/5/26(第298号)「経済学と経営学」
03/5/19(第297号)「政府紙幣発行の認知度」
03/5/12(第296号)「滝田洋一氏への反論」
03/5/5(第295号)「政府紙幣発行政策の誤解」
03/4/21(第294号)「逆噴射の財政政策」
03/4/14(第293号)「危機管理下の経済政策」
03/4/7(第292号)「国債の管理政策」
03/3/31(第291号)「経済再生政策提言フォーラム」
03/3/24(第290号)「日本の有名経済学者達」
03/3/17(第289号)「波乱の株式市場」
03/3/10(第288号)「政府貨幣の理解」
03/3/3(第287号)「軽視される高橋是清の偉業」
03/2/24(第286号)「日本の清貧の思想」
03/2/17(第285号)「日本のデフレの原点」
03/2/10(第284号)「小泉首相の「もっと重要なこと」」
03/2/3(第283号)「スローパニック経済」
03/1/27(第282号)「所得を生むマネーサプライ」
03/1/20(第281号)「マネーサプライ政策の限界」
03/1/13(第280号)「データに基づく経済論」
02年のバックナンバー

01年のバックナンバー

00年のバックナンバー

99年のバックナンバー

98年のバックナンバー

97年のバックナンバー

日頃忙しいビジネスマンへのオンラインマガジン