平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




04/9/6(357号)
虚言・妄言が跋扈する世の中

  • 外国為替証拠金取引
    今週は為替の話から始める。為替は色々な思惑が交錯し、短期的な動きを予測することが難しい。まず橋本政権下で為替が円安で推移していた頃の話である。本誌は「今日の日本の大きな経済収支の黒字を考えると、円安はおかしいので、いずれ円高に反転する」とずっと言い続けた(世間のほとんどの経済学者やエコノミストはさらに円安が進むといっていた)。しかしこの時もやはり最終的には円高に反転したが、本誌で円高反転を予測してから実際に反転するまでに実に一年くらいかかった。もっとも無理な円安がずっと続いたため、かなりの大きな円高修正になった。

    今日の為替の動きも、当時と似ている。日本の経常収支の大きな黒字を考えると、いずれ円高になると本誌は主張する。しかし現実の為替は一気には円高にならず、もたついている。一つには15ヶ月で35兆円というとほうもない為替介入の余韻みたいなものが残っていると考える。しかし米国政府は、日本の為替介入に不快感を表わしており(FRBは、今後しばらく金融引締めの方向に向かおうとしているため、政府・日銀の為替介入が邪魔になる)、今後、日本の当局の為替介入が難しくなった。つまり次に円高に向かう場合には、かなりの水準の円高を覚悟しなければならない。


    本誌04/4/5(第339号)「円高は構造的」で「昔は石油輸入大国の日本への影響がより大きかったので、原油高は米ドル高・円安要因であった。しかし日本の省エネが進み(GDPに対する石油の原単位が米国より小さくなっている)、最近では原油高はむしろ円高要因になっている。」と述べた。しかしその後、市場では「原油高は、ほぼ全量の石油を海外に依存する日本にとって悪影響が大きく、円安要因となる」といったデマが流れ、逆に原油が高くなるにつれ、円安となった。

    しかしこれはおかしいということになり、最近では原油の価格変動が、為替にはほとんど影響しなくなったという話である。8月27日の日経のマーケット欄でこの辺りの説明がなされていた。1976年から2000年の原単位(100万ドルのGDPを産むのに必要なエネルギーのトン数)の改善は、米国が433から255、ドイツが184から146、そして日本は126から92である(三井住友銀行調べ)。このように依然として日本の圧倒的な優位性は変らない。つまり客観的に見て、筆者は原油高はやはり円高要因と見る。


    最近、外国為替証拠金取引仲介業のトラブルがよく報道されている。為替の自由化によって、誰でも為替取引ができることになり、このような業態が生まれた。特に昨年あたりから仲介業者は急増している。業者が一般から証拠金を預り、その10倍以上の取引を行なって、値上がり益を得るというものである。つまり1万ドル(約110万円)の証拠金で、10万ドルの米ドル投資が行える。もし10円円安になれば100万円の利益となる。

    このような業者の典型的なセールストークは「米国の大統領選挙が近付き、ブッシュはドル高(つまり円安)を画策している。強いドルこそ大統領選で有利に働く」である。驚くことにこのような根拠の薄弱なセールストークでも金はどんどん集まっている。テレビ報道によれば、仲介業者は2,500社を越えており、集めた金も2,500億円を越えている。この数字は分っているものだけであり、実際はもっと多くの業者がいそうである。しかし業者が急増するにつれ、不良業者も増えている。

    このような証拠金取引では、どうしても米ドルを買う一方と想われる。したがって証拠金の10倍以上ということになれば、2兆円から3兆円の米ドルが既に買われていることになる(ただし業者が正直に米ドルを買っているなら)。もし本当にこのような業者が米ドルを買っていたなら、これまで為替相場に一定の影響があったはずである。

    大統領選挙が近付いてもセールストークのように円安にはならず、また業者のほとんどがインチキということが知れ渡れば、解約が続出すると思われる。この場合には円が買い戻されることになり、この買い戻し自体が円高要因になる。最悪の場合、解約を申込んだ時には業者が既に逃げてしまっているという事態があり得る。実際、テレビ番組ではそのような事例(業者の夜逃げ)を取上げていた。


  • 学者の良心
    本誌は既に7年半になり、今週号が357号である。本誌の基本的な姿勢は、過去のコラムを修正しないことである(誤字・脱字を何回か直したことはあるが)。たしかに見通しが甘かったこともあり、時には経済が予想外の動きをすることがある。そのような場合に、本誌は何回か釈明を行なったことはある。しかし過去に行なった発言には責任を持つべきと考え、過去のコラムは無修正のまま全部公開している。

    前段で為替証拠金取引の業者のインチキセールストークを紹介した。しかしよく考えてみれば世の中はこのようないい加減な話で溢れている。例えば竹中大臣が先週のサンデープロジェクトに出演し、奇妙な発言をしていた。4〜6月のGDP伸び率(経済成長率)の速報値が急低下していることにコメントを求められ、「景気回復も32ヶ月続き、景気循環の下降に入ったかもしれない」と答えていた。しかしこれはおかしな発言である。しばらく前まで、彼は景気の循環に関係なく、「経済の回復は構造改革の成果である。皆様の所にもこの成果はそのうち行渡るはずだ」と言っていた。筆者は、参院選の選挙運動で小泉首相に付いて来た竹中大臣が、そう発言していたことをはっきり覚えている。

    今回の景気回復が景気の循環というのなら構造改革は関係がなく、むしろ米国や中国への輸出増加が日本経済を牽引したというべきである。さらに35兆円もの為替介入がこの外需依存の日本の景気回復をフォローし、下差さえを行なったのである。この竹中という人物については、これまでも発言をコロコロと変えている。このことを本誌でも02/10/28(第271号)「竹中平蔵大臣の研究」で取上げたことがある。


    思えば本誌の7年半は、経済にまつわる「虚言・妄言」との戦いであった。虚言・妄言だから、いずれ間違いと分る。しかしその頃には、誰がそのような虚言・妄言をはいたのか分らなくなっている。中には言い始めた学者が海外に行ったきりになり、日本に戻らないケースがある。そして新しい虚言・妄言がまた次々と現われるといった具合である。以前、筆者はこれを「逃げ水」のようだと表現した。

    科学性が重視されるべき経済学で、奇妙な手法の経済学が猛威をふるっている(日本では90年代から酷くなった)。最初に結論を決め、これに合うように理論を構築するのである。しかしこの結論は間違っているので、理論構築はでっち上げでなされる。しかし彼等は平気で、次ぎから次ぎへとこのでっち上げをやってのける。

    しかし彼等の手法はまことに単純である。現実の経済ではありえい前提を置いて、理論を構築したり、シミュレーションを行なうのである。例えば生産設備の稼働率を常に100%といった非現実的な設定を行なうのが常套手段である(しかし直ぐにはバレない)。とにかく彼等の望む結論を得られれば良いのである。米国で最近話題になっていた「オフショアリング」もこれを使ったのであろう。


    彼等には、学者の良心というものが無関係である。彼等が行なおうとしていることは、経済学を使った社会改造である。例えば政府が全く関与しない経済社会、つまり「小さな政府」の実現である(筆者は、政府は効率的であるべきだが、政府の大きさは国の経済の状況で変えれば良いと考える。今日のように民間の消費や投資が不足している時には政府の支出を増やすべきである)。要するに彼等は一種の使命感で、このようなインチキ理論を振りまいている。昔、同じことをやっていたのはマルキスト達である。両者ともにユートピア神話に完全に洗脳されており、決して現実を見ようとしない。

    しかしこのようなインチキ経済理論や為替証拠金取引の業者のインチキセールストークの跋扈が許されるのも、世の中全体がいい加減な方向に向かっているからである。そしてこのような風潮も、国政トップのいい加減な言動の影響が考えられる。さらにこのような風潮を助長しているのがテレビというメディアである。テレビは視聴者に深く物事を考えさせない。「放送」のことを「送り放し」と呼ぶとテレビ関係者も自嘲しているくらいである。



来週号は、政府の経済政策の転換を取上げる。

9月16日に亀井静香元政調会長を囲んでの居酒屋でのオフ会を予定している。参加希望者はオフ会のご案内http://www.nb-j.co.jp/katteren/off4.htmをご覧いただきたい。

亀井静香勝手連のアドレスは(亀井静香勝手連のホームページhttp://www.nb-j.co.jp/katteren)である。



04/8/30(第356号)「日本の「韓国化」」
04/8/2(第355号)「日本の分割統治」
04/7/26(第354号)「自民党大敗北の要因分析」
04/7/19(第353号)「参院選で見たもの」
04/7/12(第352号)「日本のエネルギー自立政策」
04/7/5(第351号)「危うい石油の確保」
04/6/28(第350号)「テロと中東石油」
04/6/21(第349号)「対談の論点(再)」
04/6/14(第348号)「対談の論点」
04/6/7(第347号)「富の分配と公正」
04/5/31(第346号)「小泉首相訪朝の成果」
04/5/24(第345号)「日本に必要な財政赤字政策」
04/5/17(第344号)「土地売買の盲点」
04/5/10(第343号)「日本経済の体質と財政政策」
04/4/26(第342号)「凍り付くマネーサプライ」
04/4/19(第341号)「デフレ体質の日本経済」
04/4/12(第340号)「火星の土地」
04/4/5(第339号)「円高は構造的」
04/3/29(第338号)「規制緩和に飛びつく人々」
04/3/22(第337号)「矛盾の出発点」
04/3/15(第336号)「日経の貧乏神」
04/3/8(第335号)「実感なき経済成長」
04/3/1(第334号)「為替介入ではなく財政支出を」
04/2/23(第333号)「為替介入への道」
04/2/16(第332号)「為替介入資金の働き(その2)」
04/2/9(第331号)「為替介入資金の働き(その1)」
04/2/2(第330号)「為替介入政策の限界」
04/1/26(第329号)「今日の政治課題」
04/1/19(第328号)「今年の政局の課題」
04/1/12(第327号)「今年の日本の景気」
03/12/15(第326号)「日本の公的年金」
03/12/8(第325号)「足利銀行の破綻処理」
03/12/1(第324号)「日本経済を支えているもの」
03/11/24(第323号)「総選挙結果から見えるもの」
03/11/17(第322号)「総選挙結果の分析」
03/11/10(第321号)「総選挙の結果他」
03/11/3(第320号)「総選挙の予測」
03/10/27(第319号)「動態的会計による企業価値算定」
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03/10/13(第317号)「藤井総裁解任劇」
03/10/6(第316号)「総裁選と総選挙」
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03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」
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