平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




04/7/12(352号)
日本のエネルギー自立政策

  • 石油資源の枯渇
    先週号で国家百年の政策としてエネルギー政策を取上げた。具体的な政策として「政情が安定した地域での石油開発」「代替エネルギーの開発」「徹底した省エネの推進」の三項目を提起した。たしかに今日においても、日本政府は補助金などによってこれらの政策を推進している。しかしBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)経済の拡大と、地政学的リスクの増大といった局面の変化によって、エネルギー対策を一段と強力に進める必要に迫られている。

    筆者は、今日の状況の変化をむしろ好機と捉え、エネルギー資源の他国への依存を大幅に減少させることが必要と考える。エネルギーの自立政策である。日本は、エネルギーだけでなく、食料や安全に関しても、他国に大きく依存してきた。特に食料は悲惨であり、国内の自給率はカロリーベースで40%しかない(他の先進国は食料自給率がほとんど100%を越えている)。このような国家の生命線と言える事柄を他国に依存していても平気という感覚が、そろそろ反省される時が来ている。


    三つのエネルギー政策を推進するには、国のバックアップを別にして、それ以前に市場メカニズムの働きが重要である。エネルギー価格が上昇することによって、エネルギーの開発や省エネが進むのである。反対に原油価格が軟調な時代には、エネルギーの開発や省エネは進まない。OPECの主導権を握るサウジアラビアはこのことを知悉しており、需要国のエネルギーの開発や省エネが進むことを阻止するための価格政策をリードしてきた。

    2000年以降OPECは、バスケット価格でバーレル当り25ドルを適正価格と明示し、生産量を調整するために22ドルから28ドルの目標価格帯制度を導入している。これは需要国の動きを牽制しながら、最大の利益を得ようとすることを意図している。しかし最近、原油価格の高騰を受け、サウジアラビアの方針が変更されたようである。これまで25ドルとしていた適正価格を32ドルに引上げたようである。

    原油価格の上昇は、需要国の経済に大きな影響を与える。原油高は需要国の購買力の一部が産油国に移転することを意味する。最悪の場合には各国の金利上昇や経済の後退を招くことになる。しかし筆者は、国家百年の政策のためには、むしろ原油価格の上昇は好ましい現象と考える。原油価格が上昇すれば、一時的に日本経済はダメージをうけるが、このことによって「代替エネルギーの開発」「徹底した省エネの推進」が実現しやすい環境が整う。


    永久に原油が安定的に供給されるものと錯覚している人が多い。たしかに原油の可採埋蔵量は30年くらいであり、この年数は昔から変っていない。これは次々と新しい油田が開発されたり、採掘技術が進歩し可採埋蔵量が増えているからである。たしかにこれからあと30年経っても、まだ原油の可採埋蔵量が30年ということはありうる。しかし油田の状況は確実に悪くなっている。

    昔は50万トンという巨大タンカーが運航していた。経済性を考えるとより大きなタンカーの方が好ましい。たしかに一頃、100万トンのタンカー建造という話があったくらいである。しかし今日一番経済性が高いのは20万トンから30万トンのタンカーであり、反対に巨大タンカーは廃船となっている。これは一つ一つの油田の生産量が小さくなっていることが影響している。巨大タンカーだといくつかの石油積出し港をはしごする必要があり(以前ならアラビアンライトだけで50万トンタンカーが満杯になった)、却って経費がかかるのである。やはりこれは、将来、石油がなくなるということを暗示する出来事である。


  • 原油高は好機
    それでは原油価格が上昇する場合、どこまで上がる可能性があるのか検討してみる。一時的に極端な価格(例えばバーレル当り70ドルくらい)に上昇することはありうるが、そのような価格がずっと続くとは考えられない。筆者はバーレル当り50ドルくらいが限界と見ている。原油価格が上昇すれば、油田の開発が加速されたり、石油の消費が抑制されるからである。また代替化石燃料の開発も進むと考える。代替化石燃料の一つは石炭であり、もう一つはオイルサンドやオイルシェールである。

    実はオイルサンドやオイルシェールはそれぞれ原油より確認埋蔵量が大きい。ただしオイルサンドやオイルシェールは原油以上に産地が遍在している。オイルサンドはベネズエラとカナダであり、オイルシェールは米国である。その中で原油の代替エネルギーとして有力なのがオイルサンドである。実際、カナダではかなり以前よりオイルサンドから油分の抽出が商業的に行なわれている。

    ただオイルサンドは重金属を含んでおり、これを取除くためのコストがかなりかかる。しかし原油価格が50ドルにまで上昇すれば、十分競争力を持つと考えられる。実際、7月3日の日経夕刊に、2009年末からカナダの会社がオイルサンドから抽出した原油を、40万bpd(日本の石油消費の8%)日本へ輸出する方針という記事が掲載されている。パイプライン建設などの総事業費は2,000億円かかり、日本の企業にも出資や輸入を求めている。このようにOPECの高価格政策は、需要国の代替エネルギーの開発を促進するため、産油国にとって裏目に出る可能性が強い。


    省エネも原油価格が上昇することによって進む。省エネの「種」は無限である。日本はあらゆる分野で既に省エネが進み、これ以上の省エネは限界という声がある。しかしこれは技術の進歩がなく、エネルギー価格が変らない場合である。

    ボイラーの空気の調節だけでも省エネになる。熱交換器を掃除するだけでも燃料は節約できる。省エネはどうしてもこのような経費のかからないものから順番に実行される。しかし経費のかからないような省エネが限界に来ても、エネルギー価格が上昇すれば、多少の設備投資をしてもペイする案件が次には実行されることになる。つまり原油代が上昇すれば、次々に省エネ技術が開発され、省エネ投資がどんどんなされるのである。幸いなことに、このような省エネ技術の開発力に関しては、日本は抜群の力を持つ。この日本の潜在能力を活用するためにも、むしろ今回の原油高はしばらく続いた方が良いとまで筆者は考えている。


    東シナ海での中国の天然ガスの開発が話題になっている。東シナ海に原油や天然ガスがあることは昔から知られていたことである。日本も20年前に試掘を行なっている。当初、日本が独自に開発をすることになっていたが、どういう訳か、韓国が急にその海域は韓国から続く大陸棚と言い始めた。話がもめらちがあかなかったので、最終的に日韓が共同で開発をすることになった(日韓大陸棚開発)。当時、日本政府は不思議と中国と韓国の要求に弱かった。

    このように日韓大陸棚開発はスタートからけちがついていた。東シナ海である程度の数の試掘が行なわれたが、残念ながら有望な油井に当らなかった。天然ガスは多少噴出したが、商業生産に到らない規模であった。そのうち国際的な原油価格も落着き、東シナ海での石油開発の熱も冷めたのである。この開発の失敗がトラウマとなっており、今回の中国の天然ガス開発に対しても、日本政府の反応が鈍かったのである。

    ところで日本政府も、東シナ海での無策を責められ、ようやく日本独自の資源調査を開始することになった。しかしこの背景として、原油価格の上昇もあると考える。まだまだ一般の国民に間にはエネルギー問題に対する認識は低いと思われるが、漠然とした不安感はあるはずである。原油高は、日本経済にマイナスの影響があるが、長い目で見れば日本経済にとって悪いことばかりではない。日本のエネルギー自立政策に、今回の原油高が契機となれば良いと考える。



来週号は参院選の結果を取上げる。

亀井静香勝手連のアドレスは(亀井静香勝手連のホームページhttp://www.nb-j.co.jp/katteren)である。



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