平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




04/5/17(344号)
土地売買の盲点

  • ラッファー教授が多すぎる
    グリーンスパンFRB議長は、低迷を続ける日本経済に対する処方箋を聞かれた時、「1%の長期金利が続くような日本経済についてはよく訳が分らない」と答えている。実に正直な答えである。日本以外の経済をずっと見てきた経済のプロが、日本の経済のことが理解できないことは十分ありうる。ところが日本の経済のことを知らないのに、知ったかぶりをして日本経済を論議している経済学者やエコノミストが実に多すぎる。このため日本経済の論議は混乱している。それにしても日本の経済に関してはあまりにも虚言・妄言が多すぎる。

    代表的な虚言・妄言は「構造改革なくして成長なし」である。他にも「規制緩和で投資が増える」「経済成長するには、日本の生産性の低い産業を潰す必要がある」「低成長は高齢化・小子化が原因」「減税で設備投資が伸びる」「恒久減税で消費が伸びる」「財政支出を削減することによって、企業家の精神がシャンとする」など数限りない。

    筆者などは、所得が増えれば、自然と需要が増えると単純に考える。デフレの解決も所得を増やすことが決手である。しかし所得を増やさなくても、規制緩和をすれば新しい需要が創出されると主張しているエコノミストがいる。彼等は規制緩和でデフレも克服できると主張する。筆者の手元にも医療・福祉分野で規制緩和をすれば数兆円の需要が増えるという論文の切抜きがある。しかしこの話の真偽は別にして(多分嘘)、本誌で先週号まで話してきたことは100兆円単位の話である。このようなエコノミスト達は、どうも日本経済の問題の本質を何も解っていない。もし解っていれば、このような下らない議論はしないはずである。


    一頃「バブル崩壊後、経済成長率が低くなったのは、日本の生産性の伸びが小さくなったから」という計量経済学者の主張がもてはやされた。そしてこの学者は「生産性の低い産業の比率が大きくなったことが、日本経済の低成長の原因」と指摘した。当時、テレビに登場する思考力のないエコノミストも同じことを言っていた。

    しかしちょっと考えてみれば、バブル崩壊で需要が減り、企業の稼働率が低下したなら、生産性が低下するのは当り前である。企業のコストは簡単に言えば、変動費と固定費で成っている。注文が急に減った場合、変動費はカットできるが、固定費の方は簡単に減らすことができない。この結果、需要が減れば、当然生産性が低下する。固定費の中心は管理部門の人件費である。つまり注文が減っても、固定費を削減するにはある程度の時間が必要である。

    低生産性の産業としてやり玉に挙がっていたのは、建設・土木業である。この学者は、建設・土木業のような低生産性の産業を排除すれば、日本経済はまた成長すると言っていたのである。しかしこのような建設・土木業の生産性の低下の原因が需要不足なら、需要さえ増やしてやれば、稼働率が大きくなり生産性が向上するのだから、この学者の議論はまるで意味がなくなる。つまり現実の経済を知っている学者なら、このような下らない研究自体を絶対に行なわない。筆者は、このような現実離れをした日本の経済学者やエコノミスト達に対しては、論文の発表の前に「経済の常識テスト」を課すべきと昔から考えている。

    最近、年配のえらい経済学者が「今日の日本経済が没落の道を歩んでいるのは教育が深く関係している」と主張している。「禁欲主義」「強い勤労意欲」といった儒教の考えが、今日の学校教育に欠除していることが問題と指摘している。まさに日本は精神経済学の花盛りである。

    このような虚言・妄言を吐いているのは構造改革派の経済学者・エコノミスト達である。しかし彼等の主張に沿った政策、たとえば公共投資の削減(低生産性の産業の建設・土木業が排除し、日本全体の生産性を高めることが目的)といった政策はずっと実施されている。ところがどれだけ公共投資が削減されても、一向に日本経済は回復しない。しかし彼等は自分達の考えの間違いを絶対に認めない。むしろ恐いことに、自分達の理論が実現する社会にするための制度改革を押し進めようとしている。

    したがって虚言・妄言がどんどんエスカレートする。前述の医療・福祉分野で規制緩和を主張しているエコノミストは、「医者は全部人材派遣にしろ」と主張している。おそらく彼は日本の労働者を全て人材派遣にすることを考えているらしい。たしかに労働者の全てを人材派遣会社の社員にすれば、日本で失業はなくなるかもしれない。その代り働きの悪い労働者の時給は100円くらいになるのである。


    レーガン時代、米国にラッファー教授という経済学者が脚光を浴びた。「ラッファー曲線」で有名な学者である。彼の主張通り、レーガン政権は大減税を行なったが、投資は増えず消費だけが増え、財政赤字と経常収支の双子の赤字が大幅に増えた。後にラッファー教授の理論は「ブドゥー(呪術)経済学」と誰も相手にしなくなった。

    ところが日本では、いつまでもこのブドゥー(呪術)経済学者の類がピンピンと活躍しており、あらゆる分野(学会、政界、官界、マスコミなど)で幅をきかしている。日経新聞を開けばまさに「ラッファー教授が多すぎる」状態である。それにしても日本経済低迷の原因に儒教が関係しているとは、さすがに筆者もまいった。


  • 間抜けな遣唐使達
    今日の日本経済の問題の核心は、冒頭に引用したグリーンスパンFRB議長の言葉、「1%の長期金利が続く経済」である。さすがにグリーンスパンFRB議長である。1%の長期金利が異常という指摘が日本経済を語る上でのポイントである。しかし他にも日本経済には異常なことが沢山ある。80兆円を超える財政支出を行なっているのに税収は、その半分である。したがって毎年40兆円近い新規国債を発行している。国・地方の累積債務残高はとうとう700兆円とGDPの1.4にも達した。

    まともな経済理論によれば、これだけの膨大な財政赤字を毎年続けていたなら、超高金利になっているか、とんでもないハイパーインフレになっていても良いはずである。しかし日本経済の現実は反対に歴史的な低金利が続き、物価上昇率はマイナスである。さらに日本のマネーサプライは、GDP比で先進各国の4倍もある。そして筆者に言わせればこれらの異常な事柄が全て関連している。ところが決して現実の経済を見ようとしないブドゥー(呪術)経済学者達は、一切これらの事柄に触れようとしない。


    ここで土地代が2,000万円、建物が1,000万円、合計3,000万円の住宅を購入するケースを考える。1,000万円の建物の建設は、乗数効果によって次々所得を生む。日本の場合、この所得の6割くらいが消費に回る。一方、土地の売却代金は、大半が貯蓄に回るため、土地代の2,000万円は次の所得を生まない。

    そこで土地代がもっと安く、極端にタダのケースを考える。住宅購入者は、建物を豪華に3,000万円にすることが考えられる。または住宅が1,000万円で手に入るから、残りの2,000万円を他の消費に充てることがあり得る。どちらにしても3,000万円の全額が乗数効果を生む。当然、所得も増え、消費もその分増加する。

    日本の土地代を合計すると、アメリカ合衆国がいくつも買える。ここまで述べてきたように、このような異常に高い地価が経済に大きな影響を与えている。特に土地取引が活発に行なわれた後に、経済の大きな歪みを残すのである。しかし世界中には、日本のような国はない。したがって経済学に土地取引の影響といった項目なんてない。いまだに遣唐使のように米国に留学して、米国の経済学をありがたく学んでくる学者達には、土地取引の経済への影響なんてとても思いもつかない。

    国民経済計算の上では、土地の売却に伴う収入は所得と見なされない。まず土地の売却代はGDPを構成しない。土地の売買は資本取引であり、1万円で買った土地が50万円で売れても、差額の49万円は所得とはならない。ただし税務上だけは、これを譲渡所得として見なし、所得税を課している(税務の世界では資本取引は非課税という考えがあるが、地価は上がる一方だったので、不公平を生じるという考えなのだろう)。

    土地の取引は、GDP計算の対象外のため、ほとんど誰も注目しない。話はちょっと変る。バブルの時に資産が高騰し、資産家の消費が増えた。今日これは「資産効果」と呼ばれているが、これさえ認知されるまで時間が相当かかった。また注目されないだけに、土地の売買については統計資料がほとんどない(筆者も苦労している)。これも国民経済計算が国連で定めた各国共通の基準でなされているからである。日本だけの特殊要因である土地代が入り込む余地がないのである。

    日本のマネーサプライを異常に大きくしている要因をもう一つ挙げられる。このように凍り付いた預貯金に対する利息である。元本が凍り付いているのだから、利息も凍り付く。この利息が使われないままどんどん蓄積されている(この利息額も莫大になっている)。ちなみに利息も国民経済計算上では所得と認識されていない。日本一国の経済では、利息の支払いと受取りが相殺されるからである。ただし税務上は、利息も所得と見なされている。この点は土地の売却代と似ている。


    先々週号で述べたように、日本のマネーサプライは異常に大きい。しかしこの大きなマネーサプライがほとんど凍り付いており、ほとんど動かない。このため金利は極めて低くなり、物価も下落している。ところがこれらの異常な経済数値も、巨額の凍り付いたマネーサプライの存在によって説明できるのである。

    一頃昔、日本の個人の巨額な金融資産を狙い、外資系の金融機関が日本に大挙してやって来た。ラップ口座など新商品を携えての参上であった。しかし日本での商売は甘くなく、彼等の目論みは脆くも崩れどんどん撤退している。日本のマネーサプライは本当に凍り付いていたのである。しかしこのかなりの部分が土地の売却代金とその利息でが構成されているとしたなら、マネーサプライが凍り付いていることも納得ゆく。そして日本の経済政策で一番必要なことは、巨額のマネーサプライが凍り付いていることを前提に行なわれることである。



来週は、凍り付いているマネーサプライを前提にした日本の経済政策を考える。

国会議員やニュースキャスターの国民年金未納問題が騒がれている。本当に下らない騒動である。日本人は「バカ」になったのではないかと思われる今日この頃である。しばらく前まで、年金制度に疎い人物(テレビ朝日のタマイとかいう記者が典型)が、めちゃくちゃの事を言っていた。驚くことに年金の専門家と言われる人々も、これに合わせた発言を繰返していた。ここのところテレビはこのような視聴者に誤解を与える番組をジャンジャン流していた。簡単に言えば今日の制度は年金を納付した人に有利な制度であり、未納の人には損を与える。安倍幹事長の言っているように「納付していない人は、年金の給付がなくなるか、給付が削られるだけの話」である。

今回の国民年金未納騒動は、日露戦争後の賠償問題に係わる騒乱事件と似ている。ロシアにやっと勝った日本であったが、ロシアの賠償が小さすぎるとまずマスコミとアジテーターが騒ぎだした。何も事情を知らない国民は、このマスコミに煽動され、日本政府に怒り始めた。人々は日比谷で騒乱事件まで起こした。政府も本当のことが言えなくなり、国民を説得できなくなった。最後には、国民を焚き付けたはずのマスコミまでが、国民の怒りを買うような報道(本当の話)ができなくなった。戦前の日本がおかしくなったのは、この事件あたりからである。

小泉首相の突然の訪朝が決まった。当然、参院選を意識したものである。しかしこれに関して筆者は、ニクソン大統領のウォーターゲート事件を思い出す。ニクソン大統領は再選間違いないという状況にもかかわらず、民主党本部に盗聴器を仕掛け、それが後に問題となり大統領を辞めた。孤独な大統領が血迷って余計なことをやったのである。

しばらく前までは次の参院選は自民党は苦戦するという話になっていた。たしかにイラクの人質事件が起った頃には危機感があった。しかし菅代表の年金未納問題で民主党が混乱し、民主党の楽勝はなくなった。したがって何もしなくとも、自民党は目標の議席を確保できると誰もが思っていた。つまり参院選後も小泉政権の安泰が確実と予想されていた。しかしここに来て唐突な小泉首相の訪朝である。筆者には、孤独な首相の余計な行動と感じられる。

亀井静香勝手連のアドレスは(亀井静香勝手連のホームページhttp://www.nb-j.co.jp/katteren)である。



04/5/10(第343号)「日本経済の体質と財政政策」
04/4/26(第342号)「凍り付くマネーサプライ」
04/4/19(第341号)「デフレ体質の日本経済」
04/4/12(第340号)「火星の土地」
04/4/5(第339号)「円高は構造的」
04/3/29(第338号)「規制緩和に飛びつく人々」
04/3/22(第337号)「矛盾の出発点」
04/3/15(第336号)「日経の貧乏神」
04/3/8(第335号)「実感なき経済成長」
04/3/1(第334号)「為替介入ではなく財政支出を」
04/2/23(第333号)「為替介入への道」
04/2/16(第332号)「為替介入資金の働き(その2)」
04/2/9(第331号)「為替介入資金の働き(その1)」
04/2/2(第330号)「為替介入政策の限界」
04/1/26(第329号)「今日の政治課題」
04/1/19(第328号)「今年の政局の課題」
04/1/12(第327号)「今年の日本の景気」
03/12/15(第326号)「日本の公的年金」
03/12/8(第325号)「足利銀行の破綻処理」
03/12/1(第324号)「日本経済を支えているもの」
03/11/24(第323号)「総選挙結果から見えるもの」
03/11/17(第322号)「総選挙結果の分析」
03/11/10(第321号)「総選挙の結果他」
03/11/3(第320号)「総選挙の予測」
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03/10/20(第318号)「道路公団、財務諸表の怪」
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