平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




04/3/8(335号)
実感なき経済成長

  • 経済成長率の算出方法
    昨年10ー12月のGDPが実質で2.6%成長し、これを年率で換算すると7%成長になる。これはバブル景気以来の高い経済成長率である。小泉首相も「やはり改革路線が正しかった」と機嫌が良いという話である。しかしこれが額面通り受け取れないから問題なのである。本当にこの数字が景気の急回復を示すものなら、金利は上昇するはずである。ところが長期金利は、この高い経済成長率が発表されてから、逆に一時低下した。おそらくこれによって政府の財政政策の転換が、さらに遠のいたと市場が察知したからであろう。

    たしかに米国や中国、そしてアジアへの輸出が伸び、さらにユーロ高によって欧州への輸出も順調である。しかし百貨店やスーパーの売上は依然低迷しており、一部の地域を除き雇用情勢も良くなっていない。つまりこれは実質経済成長率が、もはや本当の景況感を示す数字ではなくなっていることを示している。


    そこでまずGDP統計が、必ずしも景気動向を正しく反映していないことを説明する。GDP統計は国の豊かさを示すものであるが、経済の活動レベルを正しく反映するものではない。たとえばGDP統計には農家の自家消費額の見積額が算入されている。つまり自家消費が増えればGDPは大きくなり、経済成長率が大きくなる。しかし農家がどれだけ自分達の作った作物の消費を増やしても、金銭での取引がないのであるから、経済全般に何の影響もない。

    また家計最終消費支出には持ち家の帰属家賃と言うものが含まれている。一般の賃貸住宅では、家賃を借り主が貸し主に払っており、これは消費に含まれ、GDP統計に反映される。持ち家の帰属家賃はこれに見合うものであり、家賃を擬制的に算出している。つまり机上の計算値である。したがってもし持ち家の帰属家賃が増えれば、GDPは増えることになり、計算の上では経済が成長したことになる。

    農家の自家消費や帰属家賃などの市場外取引の額は実に80兆円もある。つまり実際に金銭取引の対象となっているGDPは、500兆円から80兆円を差引いた420兆円である。ところが最近のGDP統計では、この帰属家賃が大きくなっているという話があり、消費の実態がもう一つ分らない。またマスコミが行なっているGDP統計関連の解説は、このような点まで踏込んでない。実態がはっきりするのは、GDP統計の確定値が出される今年の秋以降である。その頃には、国民も今日公表されている速報値のことなど完全に忘れている。


    政府の公表している年率7%の経済成長が実感と大きく乖離があるもう一つの理由は、デフレータである。経済が成長しても、物価が上昇すれば、実質値はその分差引くことになる。名目成長率から実質成長率を求めるために、差引く物価上昇率がデフレータである(デフレータは、国内で産出された物品(サービスを含む)を対象にした物価上昇率であり、輸入品の物価動向の影響を除いている)。

    注意が必要なのは、最近のデフレータは、ずっとマイナスで推移している。つまり名目の経済成長率がマイナスでも、デフレータのマイナス値が大きいと、実質経済成長率がプラスになる。昨年10ー12月では名目で0.7%(年率2.6%)しか成長していないのに、実質では1.7%(年率7%)も成長したことになっている。これもデフレータのマイナス値が極端に大きくなっているからである。


    そして最近、デフレータのマイナス値が大きくなったことには理由がある。デフレータの算出基準を変更していることが影響しているのである。デフレータは消費者物価指数や国内企業物価指数(昔の卸売り物価指数)と同様に、品目別にウェートを決め、加重平均をとっている。ところで最近の物価指数は、技術革新による品質向上分を反映させようという試み(ヘドニック分析)がなされている。これはパソコンなどで、価格が同じでも性能が向上している場合には、その分を価格が低下したものと見なし、物価上昇率の算出に反映させている。

    昨年10ー12月のGDP統計でも、この要素が大きく、デフレータは前年比でマイナス2.6%にもなっている。特に技術革新の激しい設備投資のデフレータは6%も下落している。さらに消費者物価指数や国内企業物価指数の算出に際しては、品目のウェートは一定期間固定されているのに対して、デフレータの算出では、品目別の比重を随時更新している。つまり技術革新が激しく、かつ売上が増えている商品があれば、デフレータの下落は極端に大きくなる。このため消費者物価や国内企業物価が下げ止まり傾向にあるのに対して、デフレータだけが今回大きく下落した。したがって名目経済成長率から差引くデフレータのマイナス値がそれだけ極端に大きくなり、実質経済成長率がその分大きくなっている。

    また今日のデフレータのヘドニック分析自体にも問題がある。IT関連だけは、技術革新分が考慮されているが、たとえば自動車関連などの技術革新部分は対象外となっている(おそらく自動車関連は複雑で、技術革新分を算出するのが難しいからと考える)。つまり技術革新分を算入する「モノ」の対象範囲が極めて恣意的である(つまり分りやすいものだけを対象にしており、その分りやすい「モノ」だけの消費がたまたま伸びている)。どうも今回のGDPの速報値で、日本のヘドニック分析の問題点が一挙に出た感じである。

    小泉首相は、今回のGDPの速報値に大きな問題があることを無視して、改革の成果が出たと喜んでいる。しかし専門家と思われる多数のエコノミストも、10ー12月のGDPの実質成長率を見て、同じようにデフレは克服されつつあると言っているのだからあきれる。日本のエコノミストの経済感覚は小泉首相とほとんど変らないのである。ところでさすがに内閣府もこれではまずいと気付き、デフレータをもっと実感に近付けるために、算出方式を2005中に見直す方針である。GDPデフレータの基準年が1995年と古い点も改善される見通しである。ちょうど3月7日の日経新聞に、GDPデフレータを説明した特集が組まれている。


  • GDP統計の罠
    昨年10ー12月のGDPの速報値は、年率7%と極めて高い実質成長率を示している。しかしデフレータの問題点を勘案すれば、「技術革新の激しい分野の需要(消費・輸出)と設備投資が増えた」ということだけが分る。実際、GDP統計の中で、金銭取引と関係のない帰属家賃やこのような形でデフレータの値が下落しても(主に商品の質が向上による)、経済の実態には影響がない。

    国民経済計算、つまりGDP統計は前段で説明したように国の豊かさを示すものである。商品の質が向上すれば、国民の生活はその分豊になることは認めるが、それによって失業が減る訳ではない。たしかに国際的に各国の豊かさを比べるには有益な数値であろうが、一国の経済状態の動向を知るには不都合な点が多すぎる。特にデフレ経済においては、誤解を招きやすい。

    本当に一国の経済が豊になるには、全体のパイが大きくなる必要がある。しかしそれを示す適当な経済数値がない。デフレ経済下の日本においては、かろうじて名目の経済成長率が一番それに近いと考える。そして名目経済成長率経済はやっとわずかながらプラスに転じた段階である。これが日本の経済状況であり、日本全体の経済は、依然停滞していると判断せざるを得ない。

    面白いことに、米国でも似た状況にある。米国は、一頃より下がったと言え、表面的にはかなり高い経済成長率を維持している。しかし一向に失業が減らない。これまで経済成長に関して生産性の向上を重視していたグリーンスパンFRB議長も、生産性が向上することによって、むしろ雇用が増えないことを気にし始めている。米国もようやくデフレ経済下においては、むしろ生産性の向上が雇用にはマイナスだということに気が付き始めたのである。

    再選を目指すブッシュ大統領も、高い経済成長率の割には、雇用状況があまり改善しないことにあせりを感じている。同じ状況を「構造改革の成果」と喜んでいる脳天気な日本の首相とは好対照である。これもGDP統計の罠である。GDP統計の手法は、国連で国際的な取決めが行なわれており、各国で同様の手法が採られている。したがって米国でも実感よりずっと高い経済成長率が算出されている可能性が強い。


    昨年10ー12月の経済状況を客観的に評価するなら、「日本経済は外需によりわずかに上向いている」といった程度である。一応、名目経済成長率がようやくプラスになっている。マスコミの解説では、内需も増えていることになっているが、この主なものは外需関連企業の設備投資と見られる。やはりこれも厳密には外需にかなり依存している。さらに設備投資のデフレータが6%も下落している。たとえば前年同期がどん底で、それから僅か5%増加しても、デフレータの関係で、設備投資は11%も増えたことを意味する。

    たしかに日本経済は、輸出関連の大手製造業の業績が回復し、全体でも少し明るくなっている。しかしこれが日本全体に広まるほど力強くはない。とてもバブル期以来の経済成長率というものを実感できない(もっともバブル期は、一般に思われているより経済成長率は決して高くなかったが)。多分にGDP統計の「あや」みたいなものである。この次は地方にも景気回復が波及すると期待する向きもあるが、とてもそのような力強さはない。


    この極めて弱い景気の回復は、不確実な外需に依存しており、さらに常軌を逸したような為替介入で支えられている。先週号で説明したように、このような介入資金をそっくり財政支出に使えば、確実に経済は回復する。ちなみに内閣府のデータをもとに計算すれば、年間20兆円の財政支出を続ければ、実質成長率は、1年目が4.56%、2年目が8.68%、そして3年目には12.03%にもなる。

    為替介入資金は、外為政府短期証券(FB)の日銀引受けで調達されている。しかしこれは国債の日銀引受けとなんら変らない。そしてこれはまさに筆者達がずっと主張してきた通貨増発政策(セイニア−リッジ政策)そのものである。セイニア−リッジ政策を行なうなら、何故、その資金を財政政策に使わないのかが誰でも持つ疑問である。

    これは「構造改革で経済成長する(つまり景気回復に財政出動は不要)」といった明らかな「嘘」をなんとしても守りたい人々がいるからと考える。財政出動を行ない、効果が現われたならば、自分達のウソがバレるのである。それを誤魔化すために、効果の薄い為替介入を常軌を逸した規模で行なっているのである。彼等も必死である。しかし円資金を海外に流出させて、その時には円高を阻止できても、流出した資金がさらに収益を生み、これがまた次ぎの円高圧力となる。このようなことをいつまでも続けるのではなく、内需を拡大させ、長期的な円安を図るべきである。



来週は、日経新聞に掲載された論説委員の奇妙な一文を取り上げる。

米国の財務長官に続き、ついにグリーンスパンFRB議長が、日本の当局の常軌の逸した為替介入に警告を行なった。当り前と言えば当り前である。莫大な経常収支の黒字を記録している日本が為替を円安にするため、為替介入を行なっているのである。これでは変動相場制を採用している意味がない。

為替相場には、短期・中期的な投機マネーが流入しており、経済の状態で円を買ったり売ったりしている。しかし筆者は、長期的なトレンドは経常収支で決まると考える。日本の経常収支の黒字額は非常に大きく、少なくとも黒字の基調は変らない。つまり一時の相場のあやで円安になっても、長期的なトレンドは円高である。

本誌は既に6週に渡り、為替介入を取上げている。日経新聞を始め、各メディアもこの常軌を逸した為替介入を取上げはじめた。しかし介入資金を日銀の通貨増発政策によって得ていることを指摘しているものがない。これは明らかに政府の借金であるが、日銀が引受けることによって実質的に国の借金にならない。つまりこれはここ何年も言われ続けてきた「日本政府はこれ以上借金を増やせない」という話が真っ赤な嘘ということを意味する。日銀が国の借金を引受けるなら、金は使えるのである。金が使えるのなら、為替介入ではなくもっと有意義な金の使い方があるということが長年の筆者の主張である。

亀井静香勝手連のアドレスは(亀井静香勝手連のホームページhttp://www.nb-j.co.jp/katteren)である。



04/3/1(第334号)「為替介入ではなく財政支出を」
04/2/23(第333号)「為替介入への道」
04/2/16(第332号)「為替介入資金の働き(その2)」
04/2/9(第331号)「為替介入資金の働き(その1)」
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