平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




04/2/23(333号)
為替介入への道

  • 特別会計の不明朗さ
    先週号で、為替特別会計の予算枠の消化額が87兆円になっていると述べた。本年度当初予算が79兆円、補正予算で20兆円追加され、来年度はさらに40兆円ほど増え、合計で140兆円になる。本年度の当初予算(79兆円)に比べ実に60兆円も増える。しかし政治家の、この為替特別会計を始め、こと特別会計に対する認識は、信じられないほど低い。ほとんど官僚の裁量に任されているのが現状である。

    先日も予算委員会で、谷垣財務大臣に対して、民主党の議員が特別会計の合計額を質問していた。しかし谷垣大臣は全く答えられなかった。民主党のこの議員は「だいたいの数字ならそらで言えるでしょう」とさらに追求した。あわてた財務省職員とおぼしき人物が谷垣大臣に駆け寄ってメモを渡していた。さらに驚くことに谷垣財務大臣は「特別会計の総額は3,800兆円でありまして・・・」とこのメモを読み上げていた。しかしこれに対して「一桁違うでしょう」と質問者に突っ込まれていた。さすがに与党議員達も失笑をもらしていた。財務大臣でさえこの程度の認識である。

    一般会計に対して異常に関心を持つ政治家達も、特別会計には関心がない。ここが盲点になっている。31ある国の特別会計は、いくつかの収支トントンの例外を除けば、ほとんど歳出より歳入の方が大きい。例えば社会保険なんかも、保険料収入の方が保険金の支払より大きい。しかし将来の保険金支払が心配だからと言ってもっと収入を増やそうとしている。他の特別会計も将来に備えて貯蓄を増やしている。このようなことをやっておれば、日本の内需が不足するのことは当り前である。本来このようなことを指摘するのは財政学者の役目である。しかし日本の財政学者は御用学者であるから役にたたないだけでなく、有害であり、全く逆のことを言ってのける。

    よくグリーンピアなどの施設が無駄の典型としてヤリ玉に上がる。しかし国債を買うか、財政投融資に回さなければ、特別会計の資金は余ってしまうのである。したがってグリーンピア建設も、マクロ経済の観点からは、税金以外の形で国が集めた金(保険料、郵便貯金などの名目で)を経済の流れに還流するという点では意味がある。これを無駄と決めつけるのなら、余った資金をどのようにして経済の循環に戻すか提案すべきである。ちなみに筆者なら、国債を発行し、これらの資金を集め、公共投資を始めとした財政支出に充てる。少なくともグリーンピアより高速道路や空港の方が価値があると考える。とにかく特別会計に対して国民は興味がなく、政治家のチェックが十分でなく、資金の使い方が不明朗な部分がある。

    役所は特別会計の使い道に困っているのか、社会保険庁関連の高級公用車の購入は全て社会保険特別会計で行なっている。また亀井静香勝手連(亀井静香勝手連のホームページhttp://www.nb-j.co.jp/katteren)に投稿があり一時話題なったのが、G7に出席する日本の代表団が贅沢にも飛行機をチャータしていると言う話である。そして日本の代表団は高級ホテルに陣取り、各国からは「大名旅行」と見られていると聞く。そしてこの費用は為替特別会計から支出されているという話である。


    為替特別会計が他の特別会計に比べ、一段と理解が難しいのは、まず資金の調達を外為政府短期証券の発行し、さらにかなりの部分を日銀が引受けていることが挙げられる。また介入資金のほとんどを米国債などの購入に充てているが、為替と米国債価格が日々変動している。さらに為替特別会計は簿価で計上されており、評価損は計上しないことが慣例になっていると当局が主張している(先々週号で触れたように、実際には7.8兆円もの評価損が既にあり、さらに円高が進めばこの数字は天文学的に大きくなる)。しかし為替特別会計は資産も負債も金銭勘定であり、もっとも時価会計に適しているはずである。

    為替特別会計で注目されるのは、当局が予算額をたった一年で60兆円も増やしていることである。しかし60兆円もの外為政府短期証券を市中で消化することは絶対に不可能である(ましてや一般会計での36.5兆円の新規国債発行が別にある)。建前は公募入札になっているが、ほとんどを日銀が引受ることになる。これは先週号で述べたように実質的に、本誌がずっと主張して来たセイニア−リッジ政策であり、政府貨幣発行政策と同じことである。これが特別会計という馴染みのない会計制度を通して行なわれているから、世間の人々やマスコミも気が付かないだけである。


  • 「財政危機」というデマ
    デフレ経済が続く日本では、本来貯蓄が赤字の主体であるはずの民間企業が、キャッシュフロー内の投資しか行なっていないため、民間の企業の貯蓄が黒字になっている。これは異常な事態である。消費者は貯蓄を減らして消費を行なっているが、所得が増えない現状では、消費も自ずと限界がある。家計の貯蓄率も相当低下している。本来、経済がこのような状態なら、財政が出動するのが常識である。しかし小渕政権の一時期を除き、日本政府の財政政策のスタンスは、中立ないし緊縮型で推移している。

    このような日本政府のマクロ経済政策では、内需がどんどん小さくなる。したがって企業は不足する需要を海外に求めるしかなくなったである。実際、日本の貿易黒字は記録的に大きくなっている。今日の円高傾向も、慢性的な内需不足・外需依存の日本経済の大きな調整である。


    問題は、何故、財政を出動させることができないかということである。この理由として「国・地方は既に巨額の借金を抱えており、これ以上債務を増やすことができない」と「財政政策の効果が小さくなった。あるいは効果がなくなった」が挙げられてきた。たしかに政治家、財政学者(御用学者)、官僚、エコノミスト、マスコミの多くがこのような主張を行なっている。特にこのような声が大きくなったのは、橋本政権の時、国・地方の長期債務がちょうど500兆円を超えそうになった97年頃であった。

    ここから、前者「これ以上国の借金は増やせない」という話が真っ赤な嘘だということを述べる。実際、現在国・地方の長期債務は、500兆円どころか700兆円を軽く超える勢いである。ところが逆に長期金利は当時の2.5%が1.25%まで下がっている。昨年の春には何と0.5%を切る水準まで低下した。97年当時、このように借金を増やしたら「国債価格が暴落し、金利が急騰する」と騒いでいた財政学者(御用学者)は、このことをきちんと説明すべきである。ましてや最近の政府・地方の債務の増加の大きな原因は税収の減少である。これも緊縮財政によって、本来稼動すべき生産資源(生産設備と労働者)が遊休状態で、国民所得が伸びないどころか、国民所得が名目で縮小しているからである。


    筆者が一番問題にしたいのは、500兆円の借金が限界と言っていたはずなのに、現実にどれだけでも国・地方の借金を増やしていることである。そしてこれまで述べてきたように為替特別会計では、来年度一気に40兆円も借入を増やす予算を組んでいる。実際、昨年の1月からの13ヶ月で27兆円も為替介入を増やしている。経済オンチの小泉首相は、新規の国債発行枠を30兆円にすると言って登場した。つまり小泉政権のイメージは、財政再建を行なうため、無駄な出費を削る緊縮財政である。ところがとんでもないことに、来年度は場合によって、36.5兆円(一般会計)プラス40兆円(為替特別会計)、つまり76.5兆円の国債を実質的に増発することになる(これら以外にも地方交付金の銀行借入など雑多なものがある)。この人物を支持する人々は一体何を考えているのか。

    このようなことが出来るのも、外為政府短期証券の大半を日銀が引受けているからである。まず為替特別会計資金の調達のかなりの部分は、日銀による通貨発行による。つまり既に広義のセイニア−リッジ政策がかなりの規模で行なわれているのである。


    財政当局は、97年当時、500兆円の借金が限界とデマを流した。これに訳の分らないエコノミストや政治家が飛びつき、「財政危機」を風潮して回った。これに日頃から公的部門の非効率に不満を持っていた国民が呼応して、「財政支出は悪だ」という世論が完全に出来上がってしまった。今さら「本当はもっと金は使える」なんて言えない。自民党の政治家の3分の2は積極財政に賛成でも、なかなか口に出せない。とうとう積極財政に転換したくても、積極財政に転換できなくなっているのである。

    小泉政権には財政再建という「うその看板」があり、財政支出という手は使えない。そこで最後の手段としてやっているのが、為替特別会計を使った為替介入である。一年ちょっとで27兆円もの支出である。たしかに財政出動という名は使われないが、明らかに財政の支出である。たしかに特別会計という盲点を使った政策である。しかしこの政策は作用が間接的であり、効果は小さい。せいぜい輸出企業の業績が良くなったり、株価が少し上がるだけである。

    さらに借金が急速に増えるだけでなく、米ドルの急落や米国債の価格下落といった大きなリスクを抱え込む結果となっている。購入した米国債はFRBが押えており、よほどのことがない限り売れない。また仮に米国債を売って、資金を日本国内で使おうとすれば、米ドルを円に換える必要がある。しかしこの資金を円転すれば、たちまち円高になる。つまり日本にとって為替介入資金は、米国社会への寄付金のようなものである。寄付金の一部が、日本からの輸出代金や日本株式の投資資金として戻ってきている。



ここまで4週間、為替介入をスタートにした、今日日本政府が行なっている為替特別会計資金を使った、奇妙な経済の下支え政策を説明してきた。このような常軌を逸した政策を行なうことになったのも、突き詰めれば何かに憑かれたような「デフレ下の財政再建運動」や「構造改革運動」のせいである。来週は、これまでの話のまとめとして、これらを取上げる。

先週号で、続いている円高傾向も一時的に膠着するのではと予測したが、膠着状態というより4円くらい円安になった。しかし円高傾向は大きなトレンドであり、このまま円安に転換するとは思われない。

新生銀行の株式が上場された。新生銀行については、本誌02/11/4(第272号)「外資系ファンドの実態」で取上げた。リップルウッドが新生銀行を買収したことになっているが、正確にはリップルウッドが出資したオランダの投資組合ニュー・LTCB・パートナーズ(LTCB)が買収している。この号ではオランダとの租税条約の関係で、日本がLTCBの利益に課税できるかどうかが問題なると提起した。この問題がクリアされているのか注目される。



04/2/16(第332号)「為替介入資金の働き(その2)」
04/2/9(第331号)「為替介入資金の働き(その1)」
04/2/2(第330号)「為替介入政策の限界」
04/1/26(第329号)「今日の政治課題」
04/1/19(第328号)「今年の政局の課題」
04/1/12(第327号)「今年の日本の景気」
03/12/15(第326号)「日本の公的年金」
03/12/8(第325号)「足利銀行の破綻処理」
03/12/1(第324号)「日本経済を支えているもの」
03/11/24(第323号)「総選挙結果から見えるもの」
03/11/17(第322号)「総選挙結果の分析」
03/11/10(第321号)「総選挙の結果他」
03/11/3(第320号)「総選挙の予測」
03/10/27(第319号)「動態的会計による企業価値算定」
03/10/20(第318号)「道路公団、財務諸表の怪」
03/10/13(第317号)「藤井総裁解任劇」
03/10/6(第316号)「総裁選と総選挙」
03/9/29(第315号)「総裁選の総括」
03/9/22(第314号)「ドキュメンタリー総裁選」
03/9/15(第313号)「レポート総裁選・・その2」
03/9/8(第312号)「レポート総裁選」
03/9/1(第311号)「混迷の終始符」
03/8/25(第310号)「急がば回れ・・再び」
03/8/18(第309号)「自民党の総裁選に向けて」
03/8/4(第308号)「日本の実稼働率」
03/7/28(第307号)「設備投資の実態」
03/7/21(第306号)「企業経営と創造的破壊」
03/7/14(第305号)「頭が破壊されている人々」
03/7/7(第304号)「頭が混乱している構造改革派」
03/6/30(第303号)「経済の循環(その2)」
03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」
03/6/16(第301号)「経済政策の混乱」
03/6/9(第300号)「りそな銀行の件」
03/6/2(第299号)「規制緩和と日本経済」
03/5/26(第298号)「経済学と経営学」
03/5/19(第297号)「政府紙幣発行の認知度」
03/5/12(第296号)「滝田洋一氏への反論」
03/5/5(第295号)「政府紙幣発行政策の誤解」
03/4/21(第294号)「逆噴射の財政政策」
03/4/14(第293号)「危機管理下の経済政策」
03/4/7(第292号)「国債の管理政策」
03/3/31(第291号)「経済再生政策提言フォーラム」
03/3/24(第290号)「日本の有名経済学者達」
03/3/17(第289号)「波乱の株式市場」
03/3/10(第288号)「政府貨幣の理解」
03/3/3(第287号)「軽視される高橋是清の偉業」
03/2/24(第286号)「日本の清貧の思想」
03/2/17(第285号)「日本のデフレの原点」
03/2/10(第284号)「小泉首相の「もっと重要なこと」」
03/2/3(第283号)「スローパニック経済」
03/1/27(第282号)「所得を生むマネーサプライ」
03/1/20(第281号)「マネーサプライ政策の限界」
03/1/13(第280号)「データに基づく経済論」
02年のバックナンバー

01年のバックナンバー

00年のバックナンバー

99年のバックナンバー

98年のバックナンバー

97年のバックナンバー

日頃忙しいビジネスマンへのオンラインマガジン