平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




04/2/16(332号)
為替介入資金の働き(その2)

  • 非伝統的な金融政策
    昨年前半、米国の債券がかなり売られ、長期金利が急上昇する場面があった。一つのきっかけは米国株式が買われ、債券が売られたことである。ちょうど米・英軍のイラク攻撃が成功しそうな頃からであった。たしかに米国政府の積極財政が実施され、景気も上向き株式が買われ始めた。一部の資金が債券から株式に移動したのである。

    しかし米国債券が売られた原因は、この株式市場(含日本の株式市場)への資金の移動だけではない。米・英のイラク攻撃に反発したアラブが、米ドル資産を売って、ユーロ資産を買ったことも一因である。また欧州から米国への資金の流れがパタリと止み、反対に資金の一部が欧州に戻った。また米国は経常収支と財政収支の双子の赤字を抱えており、米国からの民間資金の流出はもはや恒常化している。少しぐらいの金利高では、この流れは変わらないと考える。


    しかし昨年の半ば頃から米国の債券価格の動きは落着き、安定的に推移している。長期金利は一旦急上昇した後、多少下落し、その後安定している。問題の米国債などの債券を買っているのは、日本を始めとした大きな貿易黒字を持つ中国、台湾、韓国などのアジア各国の政府である。特に日本の買いの大きさは突出している。

    各国とも自国の通貨高を避けるため、自国通貨を売り、米ドルを買い、その米ドルで米国債を買っているのである。民間が米国債に投資しているのではなく、各国政府が外貨準備(米ドル債券)を増やしている。昨年のアジア各国の外貨準備高の増加率は、中国41%、台湾28%、韓国28%である。そして中でも日本は、実に43%も増やしている。

    特に日本は昨年末の外貨準備高は6,735億ドル(2,025億ドルの増加)と飛び抜けて大きな数字になっている。アジア各国の中には、今後の米ドル安を見込み、外貨準備の一部をユーロ建資産で持つ動きがあるが、日本は律儀にも米ドル債券を買い続けている。つまり巨額の米国の財政赤字を穴埋めし、米国債の価格の安定を維持しているのは、主に日本の政府・日銀の為替介入資金である。この傾向は今年に入っても続いており、日本は1月には実に7兆円を超える為替介入を行なっている。


    昨年の春、米国債券が売られた場面で「連銀が非伝統的な金融政策を行なうのではないか」という憶測が流れた。「非伝統的な金融政策」とは、連銀による米国債の購入(買支え)である。グリーンスパンFRB議長はこれを否定したが、この時分、米国債の買手がいなくなっていたのである。

    しかし結果的に日本政府が必死になって米国債を買うことになり、連銀による「非伝統的な金融政策」の話はなくなった。今日、まさに日本は財政においても「同盟関係」にある。米国にとって、為替介入を行ない、日本が米国債を買うことは、決して悪い話ではない。今回のG7においても、日本の為替介入に対しては一応理解を示している。米国にとって「日本が介入を止めて円高になって」も「介入を行なって米国債を買って」もどちらでも良いという感じである。しかし介入などの対策を行なっていないユーロは、円に対してもかなり高くなっており、日本の為替介入に対しては、欧州はかなり厳しい意見を持っている。


    ところで中央銀行の国債購入は、通貨の増発を意味する。実質的に政府貨幣発行と同じことである。後者が名目的に国の借金にカウントされないだけである。現在、連銀は米国債の発行総額の15%くらいを保有している。以前は連銀は米国債をもっと保有していた。ピーク時には、発行額の半分以上を保有していた。

    (ここからは以前本誌で述べたことと重複する部分がある)ところで1929年に始まる大恐慌以来、米国のデフレは極めて深刻であった。デフレギャップは第二次大戦の軍需でも解消しないくらい大きかった。大戦後も米国政府は財政支出を大きくして、デフレ経済からの脱出を企てた。

    また大戦後、共産主義国家ソ連の台頭は、資本主義国家の代表である米国にとって脅威であった。米国政府は、軍事費を増やすことに加え、労働者の支持を得るために社会福祉予算を大幅に増やした。したがって財政支出が大きく膨らみ、国債の発行も増えた。しかし連銀はこの国債を青空天井で買支えた。長期金利が2.5%以上に上昇しないように連銀が国債を買ったのである。

    さすがに米国経済はデフレからインフレになりそうになったので、連銀の無制限の国債購入を止めることにした。1951年のことである。しかしこれ以降も米政府は財政支出の増大を続け、国債の連銀買入れも続いた。

    またベトナム戦争などの戦費も嵩み、米国経済はとうとうインフレとなった。貿易収支も赤字に転落し、産業の競争力も衰えた。この頃にはさすがに放慢な財政支出に対して、反省する声が出るようになった。本来、デフレ経済において財政支出を増やすことを主張した「ケインズ政策」も批難の対象になった。とんでもない誤解である。そして極端なケースでは、政府支出の全てが「悪」という経済理論がもてはやされた。ちょうどこの時代に米国に留学して経済学を学んだ日本の経済学者や官僚は、この時代に米国ではやった経済理論(小さな政府論や供給サイド重視の経済論)を盲信している。まずいことにそれをデフレ経済の日本で実行しようとしているから、日本経済が狂ってしまったのである。


  • 為替介入とセイニア−リッジ政策
    政府貨幣発行(セイニア−リッジ、発音としてはシーニョアリッジが近い)と国債の中央銀行の購入(直接引受を含め)は通貨の増発という点では同じである。実際、日本は、政府貨幣発行が明治維新政府を行なっており、日銀の国債引受けは、昭和恐慌時に高橋是清が行ない、両方ともうまく行った。

    このように国債の日銀の購入を広義のセイニア−リッジ政策とするなら、日本は今日これを行なっていることになる。実際、日銀は国債の買い切りオペを行なっており、保有残高も81兆円(平成15年3月末)になっている。国債の発行総額の15%前後である。これは81兆円の政府貨幣を行なっているのと同じことである。

    日銀が保有する81兆円の国債は、国の日銀への債務である。日銀から見れば国に対する債権を持っていることになる。しかし日銀を国の子会社と見なし、連結決算を行なえば、子会社に対する債務と親会社(日本国)に対する債権は相殺される。つまり日銀が引受けた国債は実質的に国の借金ではなくなる。実際、日銀が購入した国債にも国から利息が払われるが、この利息は最終的に国庫納付金として国に吸い上げられている。つまり日銀が国債を引受けた場合、その分の国債は実質的に国の借金にならない。

    もっと驚くことは、為替特別会計の補正予算が成立する前(補正予算は2月9日に国会を通過)、介入予算がなくなった日本政府は、米国債を日銀に売却して資金を調達し、5兆円の為替介入を行なった。しかしこれを冷静に考えると、日銀が米国連銀に代って「非伝統的な金融政策」、つまり中央銀行による国債引受け(広義のセイニア−リッジ政策)を行なったことを意味する。


    先週号で為替介入資金調達のための外為政府短期証券(FB)の話をした。この外為政府短期証券の期間は三ヶ月であり、通常三ヶ月経つとそっくり借り換えており、残高は確実に増えている。またこの外為政府短期証券は国債となんら変わらない。

    そしてこの外為政府短期証券のかなりの部分を日銀が購入している。平成11年度から外為政府短期証券は公募入札になったが、少なくとも以前は日銀が全て引受けていたことになる。つまり日銀が外為政府短期証券を購入すること自体がセイニア−リッジ政策そのものである。異なる点は、通常のセイニア−リッジ政策は財政支出を伴うが、外為政府短期証券を購入した資金は、もっぱら米ドルの購入に充てられることである。


    国が公共投資を行なって公共物という資産を手に入れることも、米ドルを買いそれで米国債という資産を手に入れることも全く同じことである。ましてや国債も外為政府短期証券もかなりの部分を日銀が買っているところまで同じである。早い話、公共投資のために発行する建設国債も介入資金調達のための外為政府短期証券も国の借金である。

    公共投資などの財政支出なら確実に内需は増え、失業対策にも有効である。しかし米ドル買いなら、輸出増加、日本株式購入による株価上昇といった間接的な効果しか期待できない。特にトヨタのように輸出増加や米国での事業展開で大きく利益を伸ばした企業でさえ、ベースアップをしない。輸出が伸びても、内需が縮小しているので、景気が良くなるはずがない。

    日本の当局は、昨年が20兆円、そして今年の1月だけで7兆円も米ドルを買っている。合計で27兆円である。この27兆円を公共投資を始めとした財政支出に充てていたなら、日本の経済は確実に上向いていたはずである。内需は拡大し、経済の輸出依存体質もかなり是正されていたと考える。もちろんこれまでに為替介入を行なってきた金額、約87兆円を全部内需拡大に使っていたなら、もの凄い経済成長を実現し、銀行の不良債権問題もあらかた解決していたと思われる。

    筆者は、元々円安論者である。しかしこれは為替介入ではなく、内需拡大型の経済の転換で実現すべきである。87兆円の国債を発行し、これを日銀引受ければ、これはかなり可能な政策だったはずである。ところが今日政府・日銀が行なっていることは、ちょうどインフルエンザで高熱(円高)を出している患者に為替介入という「解熱剤」を処方しているようなものである。患者がインフルエンザウィルスと闘っている根本的な原因(内需不足が原因の慢性的な経常収支の黒字)を見て見ぬふりをして、その場限りの対処療法をいつまでも続けるつもりなのである。しかしこのようなことをずっと行なっていたら、日本は最後には悲劇的な結末を迎えることになる。



来週号からは為替介入のまとめとして、政府・日銀の為替介入政策のむなしさ(政策当局の過去からの間違った政策や言動を誤魔化そうとしている)を取上げる。またこれまでの政府の間違った経済政策で、多くの犠牲者が発生したことに対する責任の追求を行ないたい。来週号のテーマは重要である。

補正予算が2月9日に国会を通過し、当局は新たに20兆円の介入枠を確保した。しばらくは介入警戒で相場は膠着状態が続くと思われる。しかし米ドル安の円高の基調に変化はない。



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