平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




04/2/9(331号)
為替介入資金の働き(その1)

  • 為替介入の実態
    為替介入というと、一般の注目を集めるのは為替の動きへの影響ばかりである。しかし介入金額が大きくなれば、為替水準にだけでなく、介入資金そのものが経済に影響を及ぼすのである。このことが案外と軽視されている。

    まず政府・日銀の為替介入と言われるが、正確には日銀は介入の実務を行なっているだけで、為替介入を行なうかどうかの判断は政府にある。担当の部署は財務省の国際金融局である。為替介入には外為特別会計が使われる。国の財政には一般会計の他に31の特別会計があり、外為特別会計はその一つである。

    先週号で述べたように外為特別会計には借入枠が設定されており、この借入枠(予算)は国会の承認事項で、この範囲で為替介入が行なわれる。しかし一旦、国会の承認を得られれば、この範囲の介入に関して当局は政治に干渉されない。ところが最近、為替介入額が大きくなり過ぎ、借入枠をオーバーしそうになった。外為特別会計の補正予算で大幅に借入枠を増やす予定でいたが、補正予算案がまだ国会を通過していなかったのである。そこで当局は、苦肉の策として米国債を日銀に売却し、5兆円の資金を調達し、これを為替介入に使った。

    しかしこのようなことが許されるなら、借入枠(予算)の国会承認はまるで意味がないことを先週指摘した。おそらく日銀には、米国債の購入限度は設定されていないと思われる。為替介入で得た米ドルで購入した米国債を日銀に次ぎから次に売却すれば、永久的に為替介入資金が調達できるのである。


    当局は、政府短期証券(FB)を発行し、介入資金(円資金)を調達している。外為特別会計で発行される政府短期証券(FB)は特別であり、以前は全額日銀が購入していた。平成11年度から外為政府短期証券は公募入札になった。しかし売残った場合には、日銀が引き受けることができるようになっている。

    過去からの推移を見ても、政府・日銀の介入で、米ドルを売って円を買うようなケースは稀であった。ほとんどが米ドルを買って円を売る為替介入であった。したがって外貨準備高も増える一方である。それに対応して外為特別会計の借入枠(予算)も徐々に大きくなっている。

    外為政府短期証券の期間は三ヶ月であり、通常三ヶ月経つとそっくり借り換えることになる。さらにこれに新規の発行が加わり、発行残高は増えている。ほぼ外貨準備高の増加と同じスピードで増えている。また米国債の利子も米国債の購入に充てられているようである。


    以前の為替介入の方法は、かなりの円高(米ドル安)が進んだ段階で米ドルを買い、円安(米ドル高)局面で米ドルを売っていた。したがって外為特別会計はかなりの評価益をずっと保持していた。また運用していた米ドル資産の利息も入り、外為特別会計はまさに「財政の孝行息子」と呼ばれていた。

    しかし小泉政権発足以来の為替介入は、少し円高になると直ぐに介入すると言った具合に大きく変わった。ところが度重なる介入にもかかわらず、円高は進行する一方である。原因の一部は米国経済にあるが、輸出にしか頼れない日本経済にも問題がある。まるで財政出動による景気対策のように為替介入を行なっている。このような日本の為替介入策に各国は納得していない。特にユーロ高をそのまま受入れている欧州の見方は厳しい。

    膨大な経常黒字を持つ日本は、米ドルに完全にペッグするような為替政策はとれない(中国はこれを行なっているが、中国は発展途上国としてこれまで大目に見られてきた)。したがって日本は少しずつ進む円高を甘受する立場である。しかし外貨準備高は膨大になっており、円高が進むにつれ評価損は加速度的に膨らむことになる。既に7.8兆円もの評価損があるという報道もある。


    政府短期証券(FB)は国債となんら変わらない。ただ期間が短いだけである。しかし三ヶ月毎にそっくり借り換えを行なっているのだから、実質的に長期債を発行しているのと変わらない。日本のマスコミや財政学者は、国債の新規発行が30兆円とか40兆円とかいって騒いでいるが、昨年一年間で20兆円以上の新規の外為政府短期証券(FB)が発行されていることをまるで問題にしていない。

    財政学者(御用学者)は「新規発行の国債がどんどん増えており、財政は危機状態であり、経済の底上げのための財政支出なんてとんでもない」と言っている。そして彼等は財政破綻が明日にでも起ると国民を脅かしている。政治家のほとんどもこの言葉を信じている。しかし財政当局は一年間で20兆円以上もの政府短期証券の発行を増加させ、また補正予算で20兆円、さらに来年度はこれに加え40兆円も予算枠を大きくすることを決定している。実際、今年一月だけで既に7兆円以上もの米ドルを買っている。つまり財政当局は財政危機や破綻が来ることなんてみじんも感じていないのである。この点は来週号でもっと詳しく述べる予定である。

    しかし先程述べたように、米ドル安の進行で、外為特別会計の評価損は急増している。評価益を持っていたのが7.8兆円の評価損になっているのだから、一年間で10兆円くらい損をしたことになる。米ドル安が進めば評価損はどんどん大きくなる。しかし政治家はわずか2.6兆円ほどの年金の国庫負担の財源のメドがたたないと頭を抱えているし、頭のおかしいエコノミストは「高速道はもう造るな」と騒いでいる。さらに参院選を前にして、わずか4,5千億円の税収増にしかならない、消費税の免税点と簡易課税適用上限が引下げが行なわれようとしている。外為特別会計など特別会計の全容を知っている財政当局者は、おかしくてしょうがないであろう。


  • 為替介入の実態
    新規の外為政府短期証券(FB)発行が急増している。昨年一年間で20兆円以上、今後も20兆円、30兆円と増えて行く可能性が強い。述べてきたように新規の外為政府短期証券(FB)の増発は、国債の新規発行と変わらない。36.5兆円の新規発行の国債に加え、これに匹敵する規模の外為政府短期証券(FB)が新規に発行される予定である。

    普通の国なら、このような大量の国債を発行すれば、国債価格は暴落し、金利は急上昇するはずである。そうなればその国の政府が発行する国債なんか誰も買わなくなるはずである。つまりアルゼンチンのように文字取り財政が破綻する。しかしそのような事態が起るはずがないことを知っているから、財政当局は、新規外為政府短期証券(FB)の天文学的な増発を予定した外為特別会計の予算案を決めたのである。

    日本はこれまで家計の貯蓄率が大きかった。しかしこの数値が近年急速に小さくなっている。一方、本来貯蓄が赤字のはずの民間企業の貯蓄が黒字、つまり借金の返済を行なっている。つまり全体では、一応民間は貯蓄が過多にはなっている。しかしこれだけでは、巨額な国債の新規発行と外為政府短期証券(FB)発行の大増発を賄えない。

    そしてこれを解決しているのが日銀である。ところで長期国債の日銀購入には限度が設定されているが、外為政府短期証券(FB)購入には制限がない。外為政府短期証券は公募入札になっているが、かなりの部分を日銀が購入している可能性が強い。

    またかりに公募入札で民間の金融機関が外為政府短期証券を購入しても、日銀が市場にそれに見合う資金を供給している。たとえば手形や国債の買入れを行なって、資金供給を増やしている。ちなみに1月30日の当座預金残高は34兆円(数年前までは5兆円ほどあった)で、10日間で3兆5千億円も増えている。つまり政府が市場から介入資金を調達する場合、それに見合う資金を日銀が市場に供給しているのである。


    このような金融政策に対しては、日銀内部からも異議が出ている。建前上、政府は景気が回復しているとの見解をとっている。しかし日銀はさらなる金融緩和を進めているのである。本来日銀に求められている範囲を逸脱した政策が行なわれているという見方ができる。実際、金融9名いる審議委員のうちいつも2,3名の日銀の金融政策への反対者が出ている。満場一致(たまに一名くらいの反対者が出る)が続いた日銀の政策委員会ではめずらしいことがここ何か月も続いている。

    財政政策がなく、金融政策だけで経済を支えようとすれば、今日のような異常な金融政策となる。異常な金融政策で支えられているのが、今日の日本経済である。しかし頭のおかしいエコノミストやマスコミは「改革の芽が出て来た」「財政が出動しなくても景気が回復した(現実は、多額の新規の国債を発行しているように、決して積極財政ではないが、緊縮財政でもない)」とボケたことを言っている。


    もしこのような常軌を逸した政府・日銀の為替介入がなければ、米ドルは90円くらいにはなっていたと思われる。本誌は、これまでずっと常軌を逸した政府・日銀の為替介入を輸出補助金と言ってきたが、まさに輸出の補助であり、輸出企業への補助金である。たしかに日本は、長い間輸出に依存する経済が続いた。しかし最近、輸出が増えても、日本の経済を浮揚させる力が弱い。またデジタル家電は好調と言われているが、この種の産業の投資額は小さい。このことは設備投資が好調と言っても、民間企業の貯蓄が黒字であることが如実に物語っている。資本の効率が良くなったと言えばそれまでだが、効率的になればなるほど経済は浮揚しにくくなっているのである。つまり政府・日銀がいくら常軌を逸した為替介入を行なっても、今日の日本経済への影響は限定的である。

    円高によって競争力を失うと、リストラを行なって競争力を回復する。しかしこのようなことを行なっておれば内需が萎み、また輸出に依存する経済になり、そのうちまた円高になって、次のリストラが必要になる。このような悪循環を断ち切るため、日本経済の「内需依存型への転換」が目指されたはずなのに、これが全くの失敗に終わっている。むしろ外需依存型経済を助長しているのが、今日の政府の経済政策であり、政府・日銀の異常な為替介入である。



来週は、為替介入資金の米国経済への影響と外為政府短期証券の日銀購入が実質的にセイニア−リッジ政策ということを説明したい。

G7が終了した。日本政府の為替介入に理解が得られ、日本にとって成功と報道されている。しかし米国は「日本が介入したければ、勝手に介入すれば良い」と言っていると読み取れる。決して米国が米ドル防衛のために、共同で行動をおこすとは言っていない。昔、円高局面で、米国の共同介入が開始されてようやく円高傾向が反転したことがあった。この時の米国の介入額はわずか数千万ドルであった。

元々、今回の大掛かりの日本政府・日銀の介入は、はっきりしたシナリオ(各国の協力が得られるという見通し)のもとで行なわれたものではない。効果の薄い景気対策のような介入である。ましてや日本の経常収支の空前の黒字を記録しており、介入自体が市場の動きに矛盾している。いずれにしても月曜日からの為替相場の動向が注目される。

4月1日から消費税の免税点と簡易課税適用上限が引下げられる。136万事業者に影響が出る。改正消費税制の実施について、メディアは総額表示のことばかり報じていた。しかし免税点と簡易課税適用上限が引下げの方がずっと影響が大きいはずである。ようやく日経新聞も2月8日の特集でこれを取上げている。

亀井静香勝手連(亀井静香勝手連のホームページhttp://www.nb-j.co.jp/katteren)でも、これについて「警告」を行なっているが反応があまりない。一番影響のあると思われる個人事業者の経理に影響があるのは来年の1月1日からであり、まだ先のことと考えられているからかもしれない。あるいは影響のある人々が、税制改正があること自体をまだ知らない可能性がある。7月には参院選があり、これに大きな影響があるかどうか微妙である。自民党は、参院選に向けての政策を策定する作業を行なうという話であるが、そのようなことより、展開によっては、消費税制改定の悪影響の方がずっと大きいと思われる。わずか4,5千億円の増税で自民党はボロ負けするかもしれないのである。



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