平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




04/1/19(328号)
今年の政局の課題

  • 本当の政治課題
    先週号の今年の経済見通しに続き、今年の政局の課題を取上げる。19日から始まる通常国会では、大きな課題が目白押しである。具体的には、予算審議の他に、自衛隊イラク派遣、道路公団民営化、年金改革、北朝鮮問題、郵政事業民営化、三位一体改革などである。

    しかし外交問題を除き、緊急性に乏しいため国会での争点がボケ、野党の政府攻撃も決手を欠く事態が予想される。また野党の民主党自身の内部でも、これらに対しては様々な意見があり、一枚岩になって政府を攻撃する場面は考えにくい。

    またこれらの問題に関しては、国民世論も割れており、問題が大きいようであっても、自分達の生活に直ちに影響する案件ではない。国民もこれらの問題がどちらに転がっても大きな関心を持つことはない。つまり国会審議の過程で、小泉政権が崩壊すると言った緊迫した事態が起るとはちょっと思われない。

    ただし、どの問題をとっても、小泉政権に有利に働くものがない。おそらく国会審議が進むにつれて、内閣支持率は少しずつ下がると思われる。そして今後数カ月は国民の不満が徐々に蓄積されることになる。


    本当の国民の関心事は、経済問題である。実際、政府もデフレ克服時期をさらに繰り下げている。具体的な問題は就職難、倒産・リストラ、ローンの返済負担などもっと身近なものである。また経済問題に関連し、犯罪などの増加や将来の年金に対する不安がある。年金についても、今の改革案では、ますます年金に対する不信が増すだけである。

    不思議なことに、マスコミは、一番問題になっている経済問題を積極的に取上げない。むしろ景気は良くなっているかのような報道がなされている。たしかにの輸出企業を中心に高収益を上げており、これらの企業の設備投資は増えている。しかし昔のような輸出増が日本経済全体を引張るという働きは小さくなっている。これも生産拠点が海外に移転している影響があると考える。さらに今の景気回復は、為替介入で支えられていると言って良いほど脆弱なものである。

    消費は、働いている人々の所得が増えて、伸びるといった形になっていない。貯蓄を取崩しての消費がかなりあるようだ。特にデフレ経済が続き、資産を蓄えた人々が安心して消費を増やしている可能性が強い。一種の「ピグー効果」である。この程度では、本格的な経済の回復は期待できない。高収益の企業が日本経済を引張って行くのではなく、むしろその他の人々の犠牲を「踏み台」にして高収益を実現しているかのようである。


    このように、国会やマスコミが取上げる問題と、一般国民の意識との間には、大きな溝ができている。しかし一方の野党も浮き世離れしており、このような国民の本当の支持を掴むことはできない。本当に今日の日本国民は不幸な国民である。国民の声は政治に届かない。むしろ国民の方が諦めている印象を受ける。

    森田実氏もご自分のホームページで「無関心層増大の背景の一つとして注意すべきことは、ニヒリズムと諦めの感情が国民の間に広がっていることである。ここに小泉政権がつづいている要因の一つがある。逆に見れば、小泉政治は国民を絶望させることに成功し、それによって政権が維持されている、ということにもなる。」と述べておられる。本誌がずっと指摘しているように、国民の声が全く政治に届かない状態になっている。


    筆者は、今年の政局で最大のテーマは参院選と考える。前々回の橋本政権のもとで行なわれた参院選で自民党はボロ負けをした。今回の選挙はその改選である。もし再びボロ負けすれば、最低でも今後6年間は、自民党の国会運営は難しくなる。6年前の惨敗で、参議院で自民党は過半数を割り、閣僚が参院の問責決議で辞めさせられる事態が起った。それ以来、自民党は他党との連立を選択せざるを得なくなったのである。このような意味でも、7月に予定されている参院選は極めて重要である。

    しかし自民党には危機感が薄い。前述したように、一般国民の不満は頂点に達している。それが顕在化していないだけである。先の衆院選の結果を見ても、有権者の自民党への不満は徐々に大きくなっている。ただ民主党が弱体であるから助かっているだけである。しかし今度の参院選では、反自民の流れが一段と強まる可能性が強い。このままでは自民党が、弱体な民主党に大敗する可能性がある。


  • 消費税は鬼門
    筆者が参院選の関連で一番注目していることは、4月に実施予定の消費税の税制改定の影響である。むしろ自衛隊イラク派遣以下の国会で取上げられる目立つ問題は、参院選にほとんど影響はないと思っている。ところで今回の消費税税制の改定は、「外税表示から内税表示への変更」だけがマスコミで取上げられている。しかし重要な改定は、もう一つの方の「年間売上3,000万円から1,000万円に免税業者の範囲を狭める措置」である。

    これによって消費税を納税する業者は一気に増える。そして問題は、このような税制改定が予定されていることに誰も気が付いていないことである。おそらく政治家の中でもこのことを知っている人々は、少数派と考える。4月に近づき、事の重大性を知っても遅いのである。これに比べれば、内税表示の問題の方はずっと小さい。筆者は、マスコミがこの「免税点の引下げ問題」を取上げないことを一種の「罠」とまで考えている。

    免税点の引下げによって、納税義務業者が爆発的に増える。それこそ一日の売上が3万円以上の商店は、全て納税義務業者になる。屋台やバーなどの飲食店のほとんどが消費税を納めることになる。数人でやっているソフト会社も対象になる。また満足な会計書類を作成していない個人事業者も納税義務業者になる。

    消費税の問題は、税金の負担(消費税は、利益が出なくても納税義務がある)もさることながら、消費税額算出の事務負担が大きいことである。算出方法にもよるが、原則的な計算を行なえば、結構な事務量になり、いたずらに納税者を混乱させる。また消費税を売値にうまく転嫁できなければ、自己負担が増えることになる。実際、この不景気では、消費税を全部転嫁できるとは考えにくい。


    筆者は、大事な参院選の直前に、何故、消費税の免税点の引下げといった無謀な政策を行なうのか、全く理解ができない。ところで内税表示への変更にしても、この免税点の引下げにしても、将来の大幅な消費税率引上げのための布石である。たしかに消費税の引上げは、将来の年金の国庫負担増の関係で避けて通れないかもしれない。しかし肝心の年金制度の将来像はまだ出来上がっていない。それなのに消費税の形だけを先行して整えることに問題がある。

    自民党は、消費税の導入と前回の消費税の増税によって、参院選で二度ボロ負けを喫している。政府・自民党は消費税ことを観念的、かつ安易に考え過ぎである。たしかに免税点の引下げによって新たに納税業者となるのは、小規模事業者であり組織化されていない人々である。したがって直接的な政治力は弱い。しかしこのような人々は、日頃から多くの人々との接触がある。つまり大きな「口コミ」の力を持っているのである。

    実際のところ、免税点の引下げによってどれだけの数の業者が新規の消費税納税業者となり、どれだけの税額の増税が実現するのか、全くデータがない。おそらく驚くほどの数の業者が新規に納税業者になり、一方増税額はたいしたことがないと予想される。つまり税収がたいして増えないのに、多くの人々を敵に回すことになる。この税制改定によって日頃選挙に出掛けない人でも、参院選には久し振りに投票権を行使し、野党に投票する可能性が強い。


    最後に、外交問題にも簡単に触れることにする。自衛隊のイラク派遣は大きな問題であるが、これは既に日程に乗っており大きな波乱はないと思われる。「大義なきイラク戦争」「大量破壊兵器の存在」といった事柄を問題にする人もいるが、既に手遅れの感である。後は、憲法解釈に踏込んで、イラク特措法の改定の可能性を探ることが考えられる。

    もう一つの外交問題は、北朝鮮である。これには拉致と核兵器の問題がある。たしかに最近北朝鮮政府の対応に少し変化が見られるという観測がある。しかし日本の、将来の北朝鮮への対応にはっきりとしたグランドデザインが見られない。拉致問題が進展すれば、直ぐに経済援助を再開しても良いという人がいる一方、北朝鮮の核問題や政治の民主化の進展が、日朝交渉再開の条件という人もいる。つまり北朝鮮政府の出方によって、今後日本の国論は割れる可能性が強い。

    これらの外交案件や憲法改正問題は、目立つ話であるが国民の生活に密着した事柄ではない。繰返すがやはり有権者にとって重要な問題は経済である。これに対しては、与野党とも決手を欠いている。したがって参院選では、与野党ともに経済問題を避けた公約を掲げて闘うことになる。おそらく有権者にとって白けた選挙になる。そこに「消費税の免税点の引下げ」がどのような影響が与えるか、注目されるところである。



19日に通常国会が開催される。来週号はこれに関連した事項を取上げることにする。

テレビで行なわれている道路公団民営化の論議を聞いていても、日本人がだんだん愚かになっているのではないかと思われる。民営化推進委員会が空中分解するのは当り前である。全くマクロ経済の観点が欠落している。道路公団については、そのうちまた取上げることにする。

亀井静香勝手連(亀井静香勝手連のホームページhttp://www.nb-j.co.jp/katteren)も今年前半が正念場と覚悟し、活動を開始している。



04/1/12(第327号)「今年の日本の景気」
03/12/15(第326号)「日本の公的年金」
03/12/8(第325号)「足利銀行の破綻処理」
03/12/1(第324号)「日本経済を支えているもの」
03/11/24(第323号)「総選挙結果から見えるもの」
03/11/17(第322号)「総選挙結果の分析」
03/11/10(第321号)「総選挙の結果他」
03/11/3(第320号)「総選挙の予測」
03/10/27(第319号)「動態的会計による企業価値算定」
03/10/20(第318号)「道路公団、財務諸表の怪」
03/10/13(第317号)「藤井総裁解任劇」
03/10/6(第316号)「総裁選と総選挙」
03/9/29(第315号)「総裁選の総括」
03/9/22(第314号)「ドキュメンタリー総裁選」
03/9/15(第313号)「レポート総裁選・・その2」
03/9/8(第312号)「レポート総裁選」
03/9/1(第311号)「混迷の終始符」
03/8/25(第310号)「急がば回れ・・再び」
03/8/18(第309号)「自民党の総裁選に向けて」
03/8/4(第308号)「日本の実稼働率」
03/7/28(第307号)「設備投資の実態」
03/7/21(第306号)「企業経営と創造的破壊」
03/7/14(第305号)「頭が破壊されている人々」
03/7/7(第304号)「頭が混乱している構造改革派」
03/6/30(第303号)「経済の循環(その2)」
03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」
03/6/16(第301号)「経済政策の混乱」
03/6/9(第300号)「りそな銀行の件」
03/6/2(第299号)「規制緩和と日本経済」
03/5/26(第298号)「経済学と経営学」
03/5/19(第297号)「政府紙幣発行の認知度」
03/5/12(第296号)「滝田洋一氏への反論」
03/5/5(第295号)「政府紙幣発行政策の誤解」
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03/3/31(第291号)「経済再生政策提言フォーラム」
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03/3/3(第287号)「軽視される高橋是清の偉業」
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03/2/10(第284号)「小泉首相の「もっと重要なこと」」
03/2/3(第283号)「スローパニック経済」
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03/1/20(第281号)「マネーサプライ政策の限界」
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