平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




04/1/12(327号)
今年の日本の景気

  • 今年の景気予測
    年頭にあたり、恒例によって今年の経済の見通しを行うことにする。結論から言えば、今年の経済は昨年の経済の延長線上にあると思われる。大きく沈むこともないかわりに、どんどん成長することもない。このことは需要項目を一つ一つ見て行けば、だいたい予想がつく。

    まず消費である。消費は、本来あまり景気に左右されない。消費は名目の所得の一定割合であり、この比率は比較的に安定しているはずである。しかし近年、家計の貯蓄率が急速に低下していることが注目される。消費水準を維持するため、貯蓄を取崩していることが考えられる。一種のラチェット効果である。

    ただ家計には、個人事業主も含まれており、給与所得者だけの消費の実態ははっきり分らない。また家計の貯蓄率の低下の原因には諸説があり、高齢者の貯蓄の取崩しと見る人もいる。たしかに比重が増している年金生活者の消費についての動向は今後重要である。ところで消費については別の機会にもっと詳しく分析する必要があろう。ただ現段階においては、全体として消費に大きな変化はないと言う他はない(正直に申して消費動向については自信がない)。

    次の投資には、民間設備投資、住宅投資、公共投資がある。公共投資は引続き減少し、住宅投資は横這いか微減といったところである。一方、設備投資は極めて低いレベルながら回復基調が続くと予想される。したがって投資全体では、公共投資の減少を民間の設備投資でカバーするという形である。ただし法人企業部門の貯蓄がプラスという異常な事態に見られるように、増えるといっても民間の投資レベルは極めて低い。銀行からの借入金を増やしてまで投資を行なうというケースは少ない。また産業構造の変化により、需要の伸びのある業種は、投下資本が比較的小さくて済むようである。

    公共投資を除く政府支出(予算案)は、少し増えることになる。これは各種補助金や防衛費などの諸経費は減るが、社会福祉関連支出が増えているからである。この傾向も昨年と同じである。これに前述した国の公共投資と地方の財政支出を含めた一般政府支出は、ほぼ昨年と同じレベルと推定される(現段階では地方の来年度の予算は不明だが)。ただし今後補正予算が組まれれば、その分増えることになる。

    結局、最後の需要項目である輸出がポイントとなる。まず米政府の景気対策により米国の経済が急上昇している。また中国の経済状態も過熱気味である。したがって米国と中国に対する輸出が順調に伸びている。さらにユーロも高くなっており、欧州への輸出まで増えている。この結果、貿易・サービスの収支は、年間10兆円の大幅な黒字ベースである。為替の動向も影響するが、この傾向は今年一杯続きそうである。


    このように今年の経済を需要面から見れば、どの項目も去年と大きな違いがないことになる。したがって低い水準の経済活動が今年も続くということになる。波乱要素としては、輸出の動向である。そして波乱要因を具体的に示すならば、米国と中国の経済の状況の急変と、急激な円高の進行である。しかし筆者は、今年一杯は米国と中国の経済状況に大きな変化はないと考える。また為替については、後程述べることにする。

    ところで小泉政権の財政運営は、緊縮財政と言われている。しかし実態は、かならずしも緊縮財政ではない。実際、当初予算では来年度の予算規模も僅かながら大きくなっている(もっとも昨年度は小さな補正予算を組んでいる)。特に物価下落が続いており、実質のGDP比ではむしろある程度大きくなっている。

    小泉政権には、最初の年に行なった予算編成で、新規の国債発行額を予定の33兆円から3兆円削った緊縮予算を実行したため、そのイメージが残っている。もっともこの年にはさっそく補正予算を組み、30兆円枠を簡単にオーバーしている。今年度の国債発行額は36.5兆円であり、来年度は36.6兆円と微増になっている。ただし来年度予算では、自賠責の特別会計などへの返済を繰り延べているため、本当は新規国債の発行は38兆円となるところであった。この状態の予算編成を緊縮予算と呼ぶのは適当ではない。

    このように新規の国債の発行額は年々着実に増えている。小泉政権の財政は、決して積極財政ではないが、緊縮財政でもない。何が目的なのかさっぱり分らない中途半端な財政運営である。経済が底割れしないのも、このように財政の赤字額を増やしていることが一因である。本当に緊縮財政にするなら、歳出をもっとカットするか、大増税を行なう必要がある。もっともそれをやれば、もっと景気は低迷し、税収はさらに減ることにはなる。

    ところで今年の景気は去年と同じくらいと述べたが、これはあくまでも全体のことであり、地域別に見るとかなり状態は異なる。東京と東海地方はまずまずの景気である。特に本社機能の集中する東京は、好調を維持する。少しぐらい円高が進んでも、生産拠点を移動させることにより、収益を確保できる。また都心部の再開発もあと2年くらいは続く勢いである。東海地方は、自動車に代表される輸出企業が好調であり、中部国際空港と愛知万博の公共投資の特需がこれに加わる。一方、公共投資が減るため、その他の地方経済は一段と冷え込む。したがって地方の地価の下落は止まらなくなっており、地方を拠点とする銀行は今年正念場を迎えることになる。


  • 経常収支と為替介入
    今日の日本経済の特徴は、ズバリ外需依存である。財政は、経済が底割れしない程度の規模をキープしている。したがって経済が成長するかどうかは、輸出にかかっている。輸出が伸びれば、それに応じて経済が成長し、設備投資も増える。貿易・サービス収支の年度ベース黒字額は、01年度386億ドル、02年度636億ドル、03年度(つまり今年度の筆者推定)880億ドルである。

    また積み上がった外貨資産の利息や配当も年々大きくなっており、今年度の経常収支の黒字額を筆者は1,672億ドルと推定している。この数値は相当大きい。しかし不思議なことに、誰もこのことを指摘しない。

    ちなみにここ11年間の経常収支の黒字額の推移を表にすると次のようになる。
    経常収支黒字額の推移
    黒字額(億ドル)
    93年度1,422
    94年度1,243
    95年度948
    96年度717
    97年度1,295
    98年度1,319
    99年度1,324
    00年度1,240
    01年度1,191
    02年度1,339
    03年度1,672(推定)

    上記の表の数字を見れば、今年度の1,672億ドル(推定)の黒字がいかに大きいかが理解できる。円が80円を瞬間的に切った95年の超円高は、93年度1,422億ドル、94年度1,243億ドルの経常収支の大きな黒字を反映したものである。つまり今回の円高局面においても、ほっとおけば80円を超える円高になっても不思議がない状態である(もっとも95年の円高にはかなり大きな投機マネーの影響があったのは事実であるが)。


    この状況で、政府日銀は一生懸命に為替市場に介入して、円高を防いでいる。昨年一年で20兆円以上もの巨額の介入を行なっている。ちなみにこれを1ドル113円(平均介入単価の推定値)で換算すると、1,770億ドルとなる。もし介入額を半分(この程度でも大きい)に抑えておれば、円は100円を切るような円高になっていたと想像される。

    世間には「日本の企業は競争力を失った」とか「財政支出を抑えても経済が成長している」と言ったボケたことを発言するエコノミストや経済学者が沢山いるが、日本経済を支えているのは、あい変わらず輸出である(意外と財政も下支えを行なっている)。そしてこのような輸出の増加を可能にしているのが、日本企業の競争力とこの政府・日銀による為替介入である。内需拡大に政策を転換しなければ、このようなことが今後もずっと永遠に続くと考える。



為替の動向と為替介入の経済への影響については、そのうち改めて取上げることにしたい。来週号は、政治面の今年の課題を取上げることにする。

最近の亀井静香勝手連の掲示板(亀井静香勝手連のホームページhttp://www.nb-j.co.jp/katteren)では、居酒屋で偶然居会わせた日銀マンらしき人々との論争の様相が面白かった。どうも本誌の読者の投稿のようである。実際、国の金で公共投資を行なうのも、米ドルを買って円高を阻止することも同じである。どちらも国が資産を増やすことになる。ただ前者は、財政支出であり、為替介入は外為特別会計の支出である。

日銀マンらしき人々は、公共投資にははっきり反対しているが、為替介入にはあいまいな態度と言うことである。しかし今日、日本経済を支えているのは年間20兆円の為替介入である。国内の資金を海外に流して、当座をしのいでいるのである。このため海外資産がどんどん増え、この利息や配当が増えている。このような状況では、少しくらい貿易収支を赤字にしても、経常収支は黒字にとどまり、依然として円高圧力が残るのである。内需依存型に経済を変えない限り、永遠に円高圧力は収まらない。今日の政策当局は、為替介入によってこの問題を先送りしているだけである。

変動相場制のもとでは外貨準備は不要である。しかし不要な外貨準備を増やしながら、輸出を助け、日本経済を保っているのである。しかしこの結果、将来の円高圧力がさらに大きくなる。そしてこの先には大英帝国の崩壊と全く同じ構図が見えてくる。異常な巨額に膨れ上がっ外貨準備を使えるのは、円高によって日本の産業が本当に競争力を失い、完全に崩壊した後である。



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