平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


今週号が今年の最終号で、新年のスタートは1月12日号を予定しています。

03/12/15(326号)
日本の公的年金

  • 年金問題の概要
    今週号は、最近特に話題になっている年金を取上げる。まず一口に年金と言っても、公的年金、企業年金、個人年金がある。このうちで最近問題になっているものが、公的年金である。

    年金には、将来の給付額が確定しているものと、今日払う保険料が決まっているが給付額が変動するものがある。公的年金は全て前者である。一方、後者の例としては確定拠出年金があり、これは米国の401Kを模したものである。しかしこのような確定拠出型年金はめずらしく、年金と言えば給付額が確定しているのが普通である。確定拠出型年金は本来の年金というより貯蓄に近い。

    問題は、今日約束されている年金の給付額が将来本当に支払われるかどうかである。実際、年金に関しては、将来のことであり、不確定な要素が多い。保険料を運用して将来の給付に備えているが、金利が予定より低くなったり、運用していた株式の株価が下落して、約束していた給付ができなくなることがある。このような場合には、誰かがこの負担を負うことになる。企業年金の場合には制度の主体となっている企業であり、保険会社の個人年金の場合には保険会社が不足分を補填することになっている。しかし企業や保険会社がこの負担に耐えられないケースが出てくる。

    個人年金の場合には、一頃生命保険の予定利率の引下げが話題になった。予定利率が引下げられれば、本来確定していた年金の給付額は少なくなる。生保によっては、予定利率が引下げが実現しない場合には破綻することもあり得る。生保が破綻した場合には、予定利率は強制的に引下げられる。企業年金の厚生年金基金の中にも負担に耐えられず、既に解散したものがある。これは事実上の基金の破綻である。厚生年金基金が解散した場合には、一応厚生年金基金連合会が支払保証事業を行なっている。しかしこれまでの例では、保険金の満額給付は難しく、給付額は減額されている。


    ここからは年金の中でも公的年金に焦点を絞って説明を行なう。まず世間で言われているような公的年金の破綻という事態はない。原資が不足する場合は国が補填することになっているからである。しかし今後も予定している年金が自動的に給付されることにはなっていない。公的年金は年金収支と年金制度をほぼ5年毎に見直ししており、その都度年金制度は改正がなされている。つまり公的年金の破綻はないが、給付が予定より減額されることはあり得る。

    年金に関してはやたら詳しい人がいる反面、ほとんど知識のない人もいる。まず年金制度の話を進める前に、筆者なりに簡単に日本の公的年金制度を概説する。公的年金には、国民年金、厚生年金(民間企業)、共済年金(公務員)がある。国民年金には、20才以上の者の全員が強制的に加入することになっている。厚生年金や共済年金の加入者、さらに厚生年金基金と言った企業年金加入者も国民年金に加入している。全ての人々が共通して加入しているこの国民年金のことを基礎年金と呼ぶ。

    厚生年金と共済年金は、この基礎年金にプラスして報酬比例部分がある。加入者は、基礎年金部分と報酬比例部分の保険料を払う。ただし報酬比例部分の半分は使用者が負担する。また基礎部分には、国が3分の1保険料を拠出している(今後この割合が2分1まで増やされることになっている)。自営業者などが加入している国民年金はこの基礎年金部分だけであり、報酬比例部分の話は関係がない。

    厚生年金、共済年金の給付は、基礎年金部分を含め現役当時の収入の60%くらいをメドに行なわれている。しかしずっと60%の給付を続けることは無理ということは分っている。実際、今日年金を給付されている人々が過去に払った保険料の総額(使用者の負担や国の拠出額、さらに運用益を加えても)は、想定される給付総額よりずっと小さい。今後、年金に関する発想を大きく変えるか、あるいは財政によるよる大きな補填がなければ、60%を維持することは困難である。これに関して筆者は発想を変える方が良いと考えており、このことについては後ほど簡単に触れる。

    年金制度は賦課方式と積立方式がある。積立方式なら個人の積立額の範囲で給付額を決めるので、年金財政が赤字になることはない。しかし日本は賦課方式である。原則として決められた給付額は変えないことになっている。したがって年金の受給者が想定より長生きしたりすれば、当然年金財政は赤字になる。保険料を上げたり、国の財政負担を増やせば可能であるが、60%給付を続けることは昔から不可能と分っていたことである。しかしこれまで年金財政は表面的に余裕があったため、60%給付が続けられてきたのである。

    ところで日本の年金制度は単純に賦課方式と言えない面がある。賦課方式なら現役世代の保険料が引退世代に充てられる。ところがこれまでは給付される年金額より集まる保険料の方がずっと大きかったため、差額が積み立てられてきた(これまで年金受給者の人数が極めて少なかったため)。厚生労働省はその積立金を元に加入者の年金が全て給付できることを目指さしている。実際、日本の年金制度を修正積立方式と厚生労働省は称している。このように日本の年金制度は賦課方式であるが、たしかに積立方式の要素もあるため混乱するのである。厚生労働省これでも年金対象者の将来の給付を考えると、これでも不足すると言っている。巨額の積立金を確保するため、5年毎の年金改定期に保険料を上げてきているのである。


  • 年金問題解決の第三の道
    ところで今日の日本の公的年金に関する議論は分かりにくい。これを理解するには、話を多少整理した方が良い。年金改定で問題になっている事項は二つある。一つは基礎年金の国庫負担の引上げの話である。国の負担を3分1から2分の1に引上げるための、年間2兆7千億円にのぼる財源が必要である。厚生労働省は所得税の定率減税廃止などのアイディアを示しているが、これに対しては反対が多い。この財源問題については実質的な結論を先送りするが、いずれ決着が付くはずである。

    もう一つの問題は、厚生年金の給付水準と保険料負担増の問題である。まず現行制度の元では、60%給付を永遠に続けることは無理であり、この水準をどこまで下げるかが問題となっている。厚生労働省の案は、50%給付が精一杯としている。さらにこれだけ給付水準を下げても、さらに加入者の保険料を年収の13.5%から20%まで上げる必要があると言っている(最終的には当面18%におさまりそうである)。しかし保険料の引上げには、各方面から批難が出ている。企業の代表としての財界は、保険料率の引上げに絶対反対である。


    不足する年金財源の確保方法に対して二つの異なった考えがある。一つは厚生労働省の保険料率の引上げ路線である。もう一つは消費税の増税である。財界は明らかに後者であり、奥田会長の持論は消費税を16%までアップすることである。しかし小泉首相は、消費税を任期中増税しないと宣言しており、政治家や他の省庁の消費税増税論者も具体的な案を示すところに到っていない。とりあえず今回の年金改定は、厚生労働省ペースで進められている。もっとも政治家は、選挙のことを考えると消費税の増税を強く主張することをためらっている。

    しかし年金への不信、失業やフリータの増加、そして未加入者の激増を考えると厚生労働省路線がそのうち行き詰ることは目に見えている。いずれ保険料だけではなく、税金の本格投入がテーマになると考えられる。基礎年金の国庫の拠出金の増額の動きもその一つである。たしかに国民全体の負担で考えると保険料でも、税でも同じことである。しかしこれだけ保険未加入者が増えているなら、税による年金制度の補完は避けられないと考える。


    今日の日本では、年金の負担方法について「税方式」と「社会保険方式」をそれぞれ唱える人々がいる。「社会保険方式」を主張する人々は、今回の厚生労働省の保険料の増額政策を支持し、「税方式」を主張する人々はこれに反発している。実際、先進国では「税方式」の国が圧倒的に多い。しかし「税方式」を唱える人々は将来の年金財源を確保するため、すぐにでも消費税を増税することを主張している。つまり保険料にしても税にしても、将来のため今日から国民負担を増やす点では一致している。

    しかし両者に欠けていることは、マクロ経済への影響である。保険料でも税でも、将来のために国民負担を増やすことは、今日のデフレ経済をさらに深刻化させることになる。特に積立金が問題と筆者は考えている。日本の公的年金の積立金は突出して巨額である。国民年金10兆円、厚生年金137兆円、共済年金50兆円と積立金の合計は197兆円もある。日本の財政は大きな累積債務を抱えているが、この大きな原因の一つは景気対策費である。これだけ大きな景気対策費が日本で必要になったのも、国民の過剰貯蓄による民需の不足である。公的年金として197兆円も将来に備えて貯蓄をすれば、民間の有効需要が不足することは当り前の話である。

    厚生年金に限って言えば、積立金は年金給付の5.5年分もある。ドイツの積立金は1カ月分である。同じ社会保険方式の英国が1.2カ月であり、日本はこれらの国の60倍もの巨額の積立金を持っている。しかも厚生労働省はさらに不足が心配だから積立金を増やそうとしているのである。「税方式」にしても「社会保険方式」にしても、主張している人々がこの異常に巨額になっている積立金について何も触れないことが不思議に思われる。「将来の給付が心配だから今のうちに必要な金額を積立てておこう」という厚生労働省の荒唐無稽な考えに、日本中が振り回されているのである。


    日本は「税方式」と「社会保険方式」で議論が分かれているが、筆者は、第三の道を提唱したい。将来的に、年金は「税方式」を採用せざるを得ないと考えている。ただし当分の間、巨額に積み上がった積立金を取崩し、国民負担はむしろ軽減すべきである。この政策はデフレ解消に有効であり、税収の増加にも繋がる。税収が増えれば、「税方式」を採用しても増税額を小さく抑えることができる。他国並の積立金まで取崩すなら、100兆円以上の財源が生まれるのである。

    しかしどうもこと積立金の取崩しについてはタブーになっているようである。たしか以前、安倍幹事長も積立金の取崩しを主張されておられた。しかし今日これについては誰も触れることがなくなった。来年度の予算編成において年金の取扱いが厚生労働省ペースで進められる。しかし落着いた時期に、巨額の積立金のことを含め抜本的に年金制度は見直すべきと考える。

    ただし積立金の取崩しについては注意が必要である。積立金は、色々な形で運用されている。財政投融資に充当されていたり、国債などの債券で運用されている。株式も相当購入している。たとえば国債を売却し年金給付に充てれば、国債の価格は下落し、金利が上昇することになる。つまり積立金を使うと言っても、これ附随する問題が別途に生じるのである。これを解決する一つの方法は、日銀による一層の金融緩和や国債購入を増やすと言った政策である。

    今日、年金問題は厚生労働省の所管となっているが、抜本的な改正ということになれば、財務省の財政政策や、日銀の金融政策にも関わるのである。日本の年金議論は間違った方向に進んでいる。所管する省庁が自分達の都合で意見を主張しあい、互の妥協点を見い出しているのが現状である。ところが国民経済からの観点が完全に欠落している。年金の積立金もこれだけ巨額になれば、マクロ経済に深刻な影響を与えているのである。ところが年金を論議しているエコノミストや経済学者は、ほとんどが片寄った考えの持主ばかりであり、年金問題を経済の問題として捉えることがないのである。



今年は、今週号が最後である。良いお年迎えていただきたい。来年は1月12日号からである。

筆者は年金の話にはあまり興味がなく、本誌ではほとんど取上げたことがなかった。しかし先月の20日の六本木の居酒屋で開かれた亀井静香勝手連のオフ会(亀井静香勝手連のホームページhttp://www.nb-j.co.jp/katteren)で年金が話題になった。総選挙の話の中で、亀井さんはある老人が「山陽と山陰を結ぶ高速道路の建設は止めてくれ。国の借金が増え我々の年金が減らされる。」と言っているのにはまいったと話していた。

高速道路の建設と年金とどのような関係があるのか誰も説明できないと思われるが、年金に関してはデタラメな話が実に多い。今後は本誌でもちょくちょく年金問題を取上げることにする。特に年金に関しては人々を脅すような話がよく出る。そして年金の話になるとあやしいK大のA教授が頻繁にテレビに出演している。

またA氏という別の人物が著書で「国債は暴落して紙屑になる。資金を海外に逃避させろ。」と人々を脅かしている。彼の著書はベストセラーになっており、著書が本屋に山積になっている。どうもこのA氏は投資を斡旋する団体を作っており、資金を集めているらしい。その資金を海外の投資組合に投資しているようである。これは本誌の読者から相談を受けたことで知った。筆者は、この相談者に投資するのは自由であるが、今後円高になる可能性が強いので注意を促しておいた。今年の1月の最初の頃の話であり、その後予想通り円高になった。A氏の話を信じた人々は相当損をしているはずである。このA氏とK大のA教授は共著を出版して、いつものように国債は暴落すると人々を脅かしている。あやしい人々は、互に繋がりやすく、いつも人々を脅かしているのである。



03/12/8(第325号)「足利銀行の破綻処理」
03/12/1(第324号)「日本経済を支えているもの」
03/11/24(第323号)「総選挙結果から見えるもの」
03/11/17(第322号)「総選挙結果の分析」
03/11/10(第321号)「総選挙の結果他」
03/11/3(第320号)「総選挙の予測」
03/10/27(第319号)「動態的会計による企業価値算定」
03/10/20(第318号)「道路公団、財務諸表の怪」
03/10/13(第317号)「藤井総裁解任劇」
03/10/6(第316号)「総裁選と総選挙」
03/9/29(第315号)「総裁選の総括」
03/9/22(第314号)「ドキュメンタリー総裁選」
03/9/15(第313号)「レポート総裁選・・その2」
03/9/8(第312号)「レポート総裁選」
03/9/1(第311号)「混迷の終始符」
03/8/25(第310号)「急がば回れ・・再び」
03/8/18(第309号)「自民党の総裁選に向けて」
03/8/4(第308号)「日本の実稼働率」
03/7/28(第307号)「設備投資の実態」
03/7/21(第306号)「企業経営と創造的破壊」
03/7/14(第305号)「頭が破壊されている人々」
03/7/7(第304号)「頭が混乱している構造改革派」
03/6/30(第303号)「経済の循環(その2)」
03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」
03/6/16(第301号)「経済政策の混乱」
03/6/9(第300号)「りそな銀行の件」
03/6/2(第299号)「規制緩和と日本経済」
03/5/26(第298号)「経済学と経営学」
03/5/19(第297号)「政府紙幣発行の認知度」
03/5/12(第296号)「滝田洋一氏への反論」
03/5/5(第295号)「政府紙幣発行政策の誤解」
03/4/21(第294号)「逆噴射の財政政策」
03/4/14(第293号)「危機管理下の経済政策」
03/4/7(第292号)「国債の管理政策」
03/3/31(第291号)「経済再生政策提言フォーラム」
03/3/24(第290号)「日本の有名経済学者達」
03/3/17(第289号)「波乱の株式市場」
03/3/10(第288号)「政府貨幣の理解」
03/3/3(第287号)「軽視される高橋是清の偉業」
03/2/24(第286号)「日本の清貧の思想」
03/2/17(第285号)「日本のデフレの原点」
03/2/10(第284号)「小泉首相の「もっと重要なこと」」
03/2/3(第283号)「スローパニック経済」
03/1/27(第282号)「所得を生むマネーサプライ」
03/1/20(第281号)「マネーサプライ政策の限界」
03/1/13(第280号)「データに基づく経済論」
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