平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




03/12/8(325号)
足利銀行の破綻処理

  • りそな銀行との比較
    足利銀行に一時国有化の処置がなされた。かなり前から、経営不振が噂になっており、国の管理下に置かれるのは時間の問題と見られていた。ただ処置方法がどのようになるかが注目されていた。りそな銀行のように資本注入だけで済む、いわゆるソフトランディング方式なのか、破綻処理といったハードランディング路線が採られるのか予想が割れていた。結局、足利銀行には、後者の破綻処理が適用された。

    昨年竹中氏が金融担当大臣に就任した当初は、明らかにハードランディング路線を指向していた。ところが経営不振が伝えられていたりそな銀行への対応では、方針を大転換し、実質的に多額の資本注入(2兆円)を行ない、破綻処理を避けた。いわゆるソフトランディング方式への方針変更である。市場はこれを好感し、その後の株価上昇の一因となった。したがって足利銀行についても、同様の処置がなされると関係者が期待したのも無理はない。

    しかしこの期待は裏切られ、足利銀行は破綻処理され、株式は紙屑となった。破綻処理となって国有化されれば、融資先への対応はより厳しくなることは避けられない。取引条件が変更されたり、別の金融機関に融資の肩代わりを要請しなければならないケースも出てくる。またこれまで資本不足解消の増資(99年以降第三者割当増資700億円超)に協力した企業は、取得した株式が無価値となって打撃を受けている。銀行が国有化され、銀行の存続が維持されても、地元経済への悪影響は大きい。


    しかしりそな銀行と足利銀行のケースを比べると、共通している点もある。処置が極めて政治的という所である。しかし政治的であるが、政治家が関与したということではない。むしろ政治家には、今回の措置を事前に知らされてはいなかったという印象である。破綻処理に関して、栃木県知事を始め、地元選出の与野党の国会議員が不満を示している。

    政治家の関与がなかった点では、りそな銀行の時も同様であった。以前、本誌で触れたが、筆者はりそな銀行への資本注入が決定された直前、何人かの自民党の有力議員と話をする機会があった。しかしこれらの人々は、りそな銀行の処置の詳細を知らされていた気配が全くなかった。りそな銀行の場合、監査法人がどうしても方針を曲げないということで、急遽、資本注入が担当官庁ペースで決定されたと想像する。足利銀行のケースもこれに非常に似ており、最後の引き金を引いたのは、やはり監査法人であった。さらに両行とも問題になったのが、税効果会計による繰延資産の扱いであった。


    それにしても最近は、政治家の存在が薄れている。重要なことは、ほとんどが官庁ペースで進んでいる。りそな銀行に2兆円、足利銀行に1兆円、そして為替介入には今年に入って何と18兆円がそれぞれ投入されている。しかしこれらがほとんど官庁のペースで行なわれている。わずか数千億円の住専への資金投入で与野党の政治家が揉めていた頃がなつかしい。この時には、野党の国会議員が国会に泊まり込みまで行なって、これを阻止しようとした。

    ひょっとして、この住専国会の混乱を見て、官僚は具体的な政策の実行に政治家が関与させない方策を編み出したのではないかと思われる。最近では、大胆な国費投入については官僚が判断し、金額の小さな政策は政治家の担当となっているようである。たとえば政治家は、税制改正で細々したことを真剣に討議している。また官庁同士の争いに政治家が二つに別れ、夫々の味方となって競っている。厚生労働省と財務省の年金改革を巡る争いが典型である。しかし両方の方針は、あくまでも官庁ペースで作成されたものであり、政治家の発案ではない。

    副大臣制度の導入も政治主導の助けになっておらず、政治家不在はいたる所で見られる。特に小泉政権になってから、政治家の影が急速に薄れた。たとえばイラク問題の外務省や足利銀行の金融庁など、重要な懸案を抱えるところの担当大臣は、政治家ではなくみな民間人である。政治家は、物事が決着してから不満を訴えるだけである。


    しかし政治家不在ではあるが、両行の処理の違いには政治的判断・配慮が感じられる。りそな銀行の問題が発覚したのが総裁選の前であり、足利銀行のケースは総選挙の後であった。足利銀行の件が半年前なら結果は違っていたかもしれないと筆者は考える。今年の3月には、株価もバブル崩壊後最安値を這っていた。もし5月にりそな銀行を破綻処理していたなら、株価や経済へのマイナスの影響も大きかったはずである。逆にりそな銀行のケースが総選挙後に問題になっていたなら、ひょっとして足利銀行と同様に破綻処理をされていたとも考えられる。


  • 官僚主導の問題
    地方銀行の中で足利銀行だけが特殊だったのか、今後、注目される点である。たしかに都市銀行より、地方銀行などに対する監督官庁の検査はこれまで甘かった。おそらく都市銀行に対するのと同等の厳しさで資産査定を行えば、ほとんどの銀行で自己資本を大きく毀損すると思われる。

    そして最も重要なことは、東京を除き、日本の経済は悪い状態が続いていることである。例外は好調な自動車の輸出、中部空港建設、万博関連建設で支えられている東海ぐらいである。経済の不調を反映し、地方の地価は下がり続けている。地域によっては下落率が大きくなっているところが多い。特に生産拠点の海外移転が続く地方は、地価が下げ止まる見通しがない。このような経済状況では、かりに今日問題がないとされる地方の銀行でも、そのうち自己資本に問題が生じる可能性が大きい。金融庁の資産査定の厳格化は、これに追い討ちをかけることになる。


    一方、東京は、地価の下落にブレーキがかかっているだけでなく、民間資本による再開発続いており日本の中で一番景気が良い。さらに今日のような高度情報化時代は、東京のように情報が集まるところが一番有利であることがはっきりしている。反対に地方経済は先行きが真っ暗である。当然、地方に拠点を持つ銀行の経営も一段と難しくなると思われる。

    このような状況で、資産査定を厳しくすれば、今後資本不足の銀行がかなり出ると思われる。しかし資本が不足するからと言って、足利銀行のように問題銀行を破綻処理しても問題が解決するわけではない。また今回の処置はペイオフ解禁を睨んだものという解説がある。しかし地方経済の不調と地価の下落が続く限り、新たな問題銀行が次々と生まれのである。そのうち収拾がつかない事態まで起ると考える。

    小泉首相は「向こう3年間は景気は回復しない」と総選挙中に明言している。もちろん小泉政権の政策の継続は、地方へより大きな打撃となる。つまり地方の銀行の苦境はこれからが本番を迎えるのである。また今回の一件で、地方の経営不振行の第三者割当増資は困難になった。本誌がずっと主張しているように、銀行の不良債権問題の解決には、まず実態経済の底上げが必要である。ところが小泉政権の今日やろうとしていることは、全く逆であり、まさに麻酔なしで手術を進めるようなものである。まともな政策は、手術が不必要ないくらいまでに患者を健康体に戻してやることである。


    このように小泉政権では官僚主導の政治が行なわれている。小泉首相が目立つから、政治家主導と誤解する人が多いかもしれないが、実際に行なわれている主要な政策は明らかに、官僚が決めている。筆者は必ずしも官僚主導の政治が間違いと決めつけてはいない。むしろ官僚主導の方がうまく行くケースもあると考える。しかし官僚はどうしても過去の延長線で物事を考え、前例のない事項に弱い。

    官僚の性格から、進める政策は現状維持政策であり、自分が担当している間に大事が起らないことが重要なポイントと考える。しかし日本にとって必要なことは、大胆な政策転換である。官僚主導の小泉政権では、状況が徐々に悪くなるだけである。

    しかし大胆な政策転換は、官僚にとって自分達がこれまで主導してきた政策の否定につながる。たしかに小泉首相は官僚主導の政治に口を挟むこともなく、まさに全てが丸投げである。官僚にとって小泉政権は案外都合が良く、続いてもらいたい政権なのであろう。為替への常軌を逸した介入を見ていても、官僚は小泉政権を支えるような動きを必死に行なっている印象がある。しかしこのまま小泉政権を支えることが、本当に日本国民にとって良いことなのか冷静に考えてみる必要がある。国民の中には閉塞感が蔓延しており、これは危険な徴候である。



今年は来週号が最後であり、新年は1月12日号からを予定している。来週号は、最近よく話題になっている年金を取上げる。

イラクへの自衛隊派遣が問題になっている。法律が成立した8月に派遣を決定しておけば、今日ほど問題にならなかったはずである。しかし不思議なことに、小泉政権は派遣決定を躊躇した。おそらく総裁選や総選挙を意識したからであろう。派遣決断の延期も小泉再選のための戦術の一つである。しかしそのうちイラクの情勢が悪化し、とうとう日本人外交官にも被害者が出て、自衛隊派遣が難しくなったのである。

数々の不手際と、今回のイラク問題で小泉政権の支持率が急落している。支持率の回復は難しいであろう。経済問題で窮地に立つと思われた小泉政権は、経済ではなくむしろイラク問題が鬼門となった。亀井静香勝手連のホームページ亀井静香勝手連のホームページhttp://www.nb-j.co.jp/katteren)の掲示板も、内閣支持率が急低下とともに投稿が増えている。



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