平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




03/12/1(324号)
日本経済を支えているもの

  • 米国の大統領選挙
    総選挙後の特別国会も終了し、来年始めの通常国会まで政治には大きな動きはないと思われる。自民党の総裁選と総選挙と言った政治イベントが終わり、しばらくは政治に対する世間の関心は薄れる時期である。一方、経済は最悪の段階を脱し、春先の危機的状況を底にして上昇に転じていると経済官庁は判断し、マスコミも同様のことを報じている。

    しかし、このまま日本経済が拡大し、好景気がやって来ると思っている人は少数派である。実際、需要項目である消費、設備投資、住宅投資、政府支出、輸出の中で、これからどんどん増える可能性があるものが見当たらない。これまで順調だった設備投資や輸出の増加にも限界がある。


    ところが人気のある有名証券アナリストが、最近講演で大勢の聴衆を前に「小泉政権こそは、財政出動を行なわずに景気を回復させた初めての政権」と驚くようなことを言ってのけている。たしかにこのような事をテレビや新聞で言っているエコノミストが他にもけっこういる。しかしこれは誤解を与える表現である。

    まず本当に日本の景気が回復したかどうかが問題になる。たしかに企業業績が良くなっている。しかしこれは一部の企業である。たとえば大手の製造業、特に輸出に依存している企業である。また前年まで大幅なリストラを実行した企業の業績も良くなっている。しかし後者は、これまで余剰人員を抱えるだけ余裕があった大企業と言うことである。一人当たりのボーナスもほんの少し増えている。しかしこれも人員が減少しているのだから、残った従業員の一人当りの金額が増えただけである。ボーナスの総額が増えたと言う話ではない。

    小泉政権が財政出動をしていないと言う表現もおかしい。国の財政赤字は急速に増えている。小泉政権発足当時、国債の新規発行額を30兆円に抑えようとして失敗し、今年度はとうとう40兆円に達しようという勢いである。これは税収がどんどん減っているのに財政支出を削減していないからである。公共投資は減少しているが、福祉関連支出が増えている。

    さらに年金財政は赤字に転落し、その赤字幅は大きくなっている。雇用保険の赤字額も増えている。これらの社会保険の赤字は、財政赤字と同じことである。たしかに小泉政権は、景気対策として財政支出の拡大を行なっていないが、決して緊縮財政ではない。むしろ増税や保険料のアップを大幅に行ないたいが、国民の反発が恐くて、小粒の増税(発泡酒やタバコなど)を行なっている。このため財政や社会保険の赤字がどんどん膨らんでいる。


    たしかに4ー6月のGDPの伸び率は大きかった。しかしこれは実質経済成長率の数値である。この主な要因はデフレータが大きかったからであり、名目の経済成長率は依然マイナスである。つまり物価の下落が続いているから、実質経済成長率が大きく見えただけである。たしかに10月の消費者物価指数は、プラス0.1%と5年半ぶりでプラスになった。しかしこの中味を見てみると、冷夏による米の不作による米価上昇や酒税・タバコ税の増税、そして社会保険の個人負担増が要因である。依然、デフレは続いており、実態経済は良くはなっていない。


    たしかに小泉政権は景気対策として積極財政を行なっていない。しかし日本の代りに、米国を始めとした各国が、金融緩和や減税と言ったデフレ対策を行なっている。特に米国などは、2001年は財政黒字がGDPの1.3%もあったのに、2003年は4%近くの赤字である。ブッシュ大統領も来年の大統領選挙のために、このように景気対策と失業対策に真剣である。

    一方、日本の当局は大規模な為替介入をずっと行なっている。これが米国の景気対策の恩恵を受け続けるためと言われてもしょうがない。米国の景気対策の効果をかすめ取るために為替介入を行なっているとは言わないが、結果として米国が日本のために大型の景気対策を行なっているようなものである。

    日本は為替介入を継続に行なって、結果的にこの果実を採っている図式になっている。だいたい年初から合計18兆円の為替介入額は異常である。筆者の記憶では、過去においてはどんなに大きくても、一連の介入額は200億ドル程度であった。また介入の仕方もぜんぜん違っていた。以前は、かなりの水準まで円高が進行した段階で介入が行なわれた。しかし今日、ほんの少しでも目標値を越えると必ず介入が行なわれている。このような介入方法なら、どれだけでも介入額は膨らむ。

    政府は、円高は景気の腰を折ると、大規模な為替介入を正当化している。しかし介入の結果積み上がった70兆円にもなる外貨準備高は、本当に異常である。だいたい変動相場制を採用している日本に場合、理論上、外貨準備は不要なはずである。本来このような資金は、為替介入に使うのではなく、財政支出に使うべきである。またいずれもっと円高が進めば、外貨準備の評価損が発生する。たとえば10%の円高・米ドル安になれば、約7兆円の評価損ということになる。ところが外為特別会計は、評価損を計上しないことが慣習になっているらしい。


  • 中国の元の防衛政策
    小泉政権の中途半端な政策によって、日本の経済や社会は、急速に破綻はしないが確実に悪くなっている。ところが日本人は状況が悪くなっても、それに対応する性質があり、世の中が悪くなっても騒ぎ出さない。しかしとうとう家計の貯蓄がマイナスになった。これは異常な事態である。ところが逆に企業(非金融法人企業)の貯蓄が増えている。

    普通の国なら、政府(一般政府)の貯蓄がプラスかマイナス(マイナスの国が多い。これを国債・地方債を発行して埋めている)、家計の貯蓄がプラス、そして企業(非金融法人企業)の貯蓄がマイナスというのが通常である。つまり貯蓄余剰の家計の資金を、銀行などの金融機関を介して、資金の必要な企業や政府に回しているのが普通の国の経済である。日本もずっと家計の大きな貯蓄が企業と政府のファイナンスに使われてきた。ところが今日の日本では、企業は設備投資を抑え、借入金を返済している。反対に、家計は貯蓄ができなくなっているどころか、貯蓄を取崩したり借金を増やしている。

    このような異常な状態に日本経済が落込んでいるのに、マスコミはこのことをまるで問題にしていない。経済学者も沈黙を守っている。メディアに登場するエコノミスト達は、前段で紹介したように、「財政支出なしで景気が回復している」とトンチンカンなことを言っている者ばかりである。本当の問題は、今日話題になっている10年後、20年後の年金の問題どころではないはずである。

    企業が十分に設備投資を行なわない時には、政府が公共投資を行なって需要不足を補うのが普通である。ところが「もう高速道路は造るな」と反公共投資キャンペーンが行なわれている。日本は不思議な国である。このままでは日本は限界まで、家計が貯蓄を取崩したり、借入を行なって、経済を支える形になる。15年前にはほとんどなかった貯蓄なし世帯が、今日では20%にもなった。さらに今後はこの数字はどんどん大きくなるはずである。


    日本の外需を支えている代表は前段で述べた米国の景気対策と、もう一つ中国経済の拡大である。日本から中国への輸出が増えている。中国の景気が良いからである。しかし中国経済には注意する点がある。中国経済の好調さの裏側には、過度の金融緩和の存在が考えられる。

    しばらく前から米国は、中国の人民元が不当に安く維持されていることにクレームをつけ始めている。このことは本誌もずっと指摘してきたことである。しかし今のところ中国は元を高くするつもりはない。ところが市場は元高を見越した動きとなっている。どうも中国は、元の防衛に向かっているようだ。徹底した米ドル買いと、大量の元の市場への放出である。

    このため一段と経済成長に拍車がかかっている。これによって日本からの輸入の拡大が続いている。また中国政府は、元の防衛の一環として貿易収支をバランスさせることを行なっているらしい。原油などの一次産品の輸入を急増させている。これは国内景気が良いことの反映を越えており、備蓄の要素がある。このため不定期用船が急増しており、世界の船運賃も高騰している。ついに最近中国の貿易収支が赤字になったという話もある。

    元の防衛政策は金融面にも影響が現われている。大量の資金が市中に出回っており、これが実物経済だけでなく、投機的な方面に流れているらしい。大都市の不動産価格が上昇しているのである。特に上海周辺の不動産価格の動きは、日本のバブル期を彷佛させる状態と言われている。問題は、いつ頃このバブルがはじけるかである。簡単には、バブルははじけないと思われるが、日本にとっても今後の中国の経済政策は要注意である。


    このように日本経済は、大統領選挙を控えた米政府、元の防衛政策を行なっている中国政府の経済政策に依存している。しかし両者ともこのままずっと続くとは思われない。とても「構造改革による景気回復」なんて言えないのが日本経済の現状である。



来週号は、足利銀行の国有化問題と地方経済を取上げたい。

11月20日、六本木の居酒屋で開いた第2回目の亀井静香勝手連のオフ会(亀井静香勝手連のホームページ亀井静香勝手連のホームページhttp://www.nb-j.co.jp/katteren)に参加されていたある中小企業の経営者は、最近、30人いた従業員のほとんどを解雇したと話をされていた。

この方の会社は茨城にあり、これまで部品を納めていた工場が中国に移転したためである。最近の地方経済の苦境を物語る典型的な話である。現実を知らない経済学者は、「創造的破壊」と言っているが、実際の経済においては「創造なき破壊」が進行しているのである。経済自体が拡大して行かなければ、産業の再生なんか無理である。



03/11/24(第323号)「総選挙結果から見えるもの」
03/11/17(第322号)「総選挙結果の分析」
03/11/10(第321号)「総選挙の結果他」
03/11/3(第320号)「総選挙の予測」
03/10/27(第319号)「動態的会計による企業価値算定」
03/10/20(第318号)「道路公団、財務諸表の怪」
03/10/13(第317号)「藤井総裁解任劇」
03/10/6(第316号)「総裁選と総選挙」
03/9/29(第315号)「総裁選の総括」
03/9/22(第314号)「ドキュメンタリー総裁選」
03/9/15(第313号)「レポート総裁選・・その2」
03/9/8(第312号)「レポート総裁選」
03/9/1(第311号)「混迷の終始符」
03/8/25(第310号)「急がば回れ・・再び」
03/8/18(第309号)「自民党の総裁選に向けて」
03/8/4(第308号)「日本の実稼働率」
03/7/28(第307号)「設備投資の実態」
03/7/21(第306号)「企業経営と創造的破壊」
03/7/14(第305号)「頭が破壊されている人々」
03/7/7(第304号)「頭が混乱している構造改革派」
03/6/30(第303号)「経済の循環(その2)」
03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」
03/6/16(第301号)「経済政策の混乱」
03/6/9(第300号)「りそな銀行の件」
03/6/2(第299号)「規制緩和と日本経済」
03/5/26(第298号)「経済学と経営学」
03/5/19(第297号)「政府紙幣発行の認知度」
03/5/12(第296号)「滝田洋一氏への反論」
03/5/5(第295号)「政府紙幣発行政策の誤解」
03/4/21(第294号)「逆噴射の財政政策」
03/4/14(第293号)「危機管理下の経済政策」
03/4/7(第292号)「国債の管理政策」
03/3/31(第291号)「経済再生政策提言フォーラム」
03/3/24(第290号)「日本の有名経済学者達」
03/3/17(第289号)「波乱の株式市場」
03/3/10(第288号)「政府貨幣の理解」
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03/2/24(第286号)「日本の清貧の思想」
03/2/17(第285号)「日本のデフレの原点」
03/2/10(第284号)「小泉首相の「もっと重要なこと」」
03/2/3(第283号)「スローパニック経済」
03/1/27(第282号)「所得を生むマネーサプライ」
03/1/20(第281号)「マネーサプライ政策の限界」
03/1/13(第280号)「データに基づく経済論」
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