平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




03/10/13(317号)
藤井総裁解任劇

  • 藤井総裁の更迭
    衆議院は10日に解散し、28日の総選挙の公示、11月9日投票日が確定した。しかしどう考えても、来年の参議院との同一選挙を実施した方が自民党には有利なのに、どうしてこのような判断を小泉首相が行ったのか大いに疑問である。自民党は現在衆議院で過半数を占めており、また野党の抵抗で重要法案が通らないといった状況ではない。つまり自民党としては、解散・総選挙を行う理由がないのである。ましてや民主党が、自由党と合併し、勢いがある今日の状況で解散を選択することはない。

    一説では、同一選をどうしても回避したい公明党の要望を小泉首相が聞き入れれたということである。おそらくこれが正解であろう。もちろん総裁選でも、この約束のもとに、公明党が小泉陣営に協力したことは容易に想像できる。森田実氏も同様のことを言っている。そして総選挙の結果は、当然、その後の政局に多大な影響がある。総選挙については、近いうちにまた取り上げることにする。


    話は変わる。藤井道路公団総裁を巡り、世間は混乱している。そこで今週号は、予定を変更して道路公団問題を取上げることにする。予定していた構造改革のバイブルとなった林文夫教授の論文については、後日取上げることにする。

    マスコミや世間は、藤井総裁を「極悪人」と見なし、更迭されるのは当り前という捉え方である。したがって藤井総裁が辞表を出さなかったため、総裁に対する批難がさらに大きくなっている。

    特に東京新聞などは、総裁の「薩摩の人間だから地位に連綿としない」という発言に対して、「薩摩の人々が迷惑している」とまで言っている。しかしこのような記事を書いた記者は、どれだけ道路公団の事を調べたのか疑問である。単に、この記事は物事を余り考えない人々に、藤井総裁は悪人という印象を与えるのが目的としか考えられない。先の総裁選における毎日新聞の報道振りと言い、あまりにも日本のマスコミについては、世論をある一定方向に持って行こうという意図が見え透いている。


    道路公団に関しては、本誌も03/2/10(第284号)「小泉首相の「もっと重要なこと」」で取上げた。この時には、猪瀬直樹氏らの民営化委員会の不明朗さを指摘した。今日マスコミによって猪瀬氏らは正義の味方となっているが、実態は全く違うと言いたかったのである。この感想は今も変わっていない。そもそも藤井総裁の更迭問題の発端は、文芸春秋の8月号の片桐日本道路公団四国支社副支社長の「藤井総裁の嘘と専横を暴く」という内部告発がもとになっている。

    さらにこれに追い討ちをかけるように、文芸春秋の9月号、10月号に道路公団内部の「改革有志」という人々が、藤井総裁の国会での答弁がおかしいと内部告発の文章を寄せている。しかし藤井総裁は、片桐副支社長を名誉毀損で訴えると同時に文芸春秋社も同様に訴えこれらに対抗している。とうとう総裁は、石原国土交通大臣から更迭を告げられた。とにかく藤井総裁は袋叩き状態である。しかしこれに対して藤井総裁は辞表を提出しなかったため、今後、聴聞を経て解任される予定である。解任となれば、2,600万円と言われる退職金はもらえないことになる。ところが藤井総裁は、さらに粘り、総裁解任問題を裁判に持込むという観測も出ている。

    筆者は、マスコミの道路公団問題の扱い方が異常であり、藤井総裁には、裁判まで頑張ってもらたいと思っている。裁判を通じ、道路公団を巡る様々な不明朗な点を天下に明らかにすることこそ、今日、求められていることと考える。

    筆者は、道路公団を巡る問題が、まさに今日日本で問題になっている様々なことの縮図と考えている。したがってこの問題にはひときわ関心が高い。道路公団に関しては、総裁選挙中に、亀井静香勝手連のホームページ亀井静香勝手連のホームページhttp://www.nb-j.co.jp/katterenの掲示板に、注目される投稿がいくつかあった。

    一つは自民党の青木参議院幹事長の元の秘書が重役を務めている建設会社の件である。この建設会社が道路公団からの受注を巡って問題になっていると言うのである。なにしろ怪文書的な投稿だったので、真偽のほどは不明であった。そこで知合いの政治家に確認したところ「それは有名な話だよ」と教えてくれた。今回の総裁選では青木幹事長の奇怪な行動が目立っていた。さらに藤井総裁の更迭に特に強い執着を持っている人物こそが、まさにこの青木氏という話も聞く。

    ところが文芸春秋の9月号の改革派の告発文書では、2001年12月、工事発注停止をめぐって、藤井総裁と青木幹事長が対立しており、この時道路公団側は検事出身の弁護士をずらりと並べ、コンブライアンス本部を設置していることが記されている。特にコンブライアンス本部の本部長は、なんと元の金融庁長官の日野正晴氏である。このコンブライアンス本部が、今度の片桐副支社長と文芸春秋への訴訟にも関与している。このように怪文書と言っても軽視できないのである。

    さらにもう一つ注目される投稿があった。配信リリース内容http://www.pressnet.tv/log/view/2322を紹介するものである。これには片桐日本道路公団四国支社副支社長の告発文が文芸春秋の8月号に掲載された経緯や、猪瀬氏のこの件への関わりまでも記されている。また猪瀬氏のアドバイザーを務めていると言われる外資系証券会社の人物も登場する。たしかに怪文書的要素もあるが興味深い内容である。

    特にこの外資系証券会社の人物は、竹中大臣と昔から極めて親しい間柄と噂されている。まさに道路公団の騒動は、注目スターのオンパレードである。このように道路公団を巡っては、水面下で日本の構造改革派とこれに対抗する勢力が激しくぶつかっている様が見てとれる。しかし完全に構造改革派に染まっている日本のマスコミはこの種のことは全く報道しない。日本のマスコミの報道を鵜呑みにしていては、道路公団問題の本質がまるで見えてこないのである。日本のマスコミは重傷である。


  • 改革派の実態
    筆者は、03/2/10(第284号)「小泉首相の「もっと重要なこと」」を書いた時から、道路公団の内部には派閥があり、両者の確執こそが道路公団問題の本質だと確信していた。道路公団には、高速道路の建設をどんどん進めるという人々がいる。藤井総裁を中心にしたグループであり、これまでの主流派である。しかし高速道路も採算の取れる所から順番に建設すれば、段々採算を取ることが難しい路線が残る。たしかに今日、計画されているが未着工の高速道路は採算が難しい。そこで今日、これ以上の高速道路を道路公団で建設することに反対するグループが出て来た。改革派と言われているのは、このグループと考えて良い。

    建設派は、主に技術系の人々であり、建設省(現国土交通省)からの天下り組が主導権を握っている。一方、改革派は道路公団プロパーの人々が中心になっている。分りやすい図式である。建設派は、どんどん素晴しい高速道路を造ることに生き甲斐を感じ、一方改革派は道路公団の将来の経営状況に関心がある。改革派の人々は、計画されていても、採算の合わない高速道路はもう建設を止め、道路公団の経営が健全化することを願っている。

    さらに改革派は、道路公団を民営化し、株式も公開し、国土交通省からの干渉を受けない形を望んでいる。したがって改革派の人々は、猪瀬氏達の道路公団民営化委員会との結びつきが強かったと考えられる。本誌が指摘したように、道路公団の将来の収益予想で用いられた金利水準は、異常に高かった。高速道路は儲からないということを演出したかったのである。

    このような数値を用意したのも、当時、道路公団民営化委員会の事務局を務めていた片桐副支社長達である。これに対応するように、民営化委員会の方も事務局が示した金利水準については全く議論していない。借入金がこれだけ大きいのに、試算に使う金利水準の妥当性については何も議論しないとは、いかに道路公団民営化委員会自身が欺瞞の存在かを物語っている。

    改革派の人々は、高収益のまま道路公団が民営化され、自分達の将来の生活が保証されることを願っている。彼等は、さかんに「国民の負担となる借金をこれ以上増やすわけには行かない」と言っている。しかし彼等、改革派の告発文には、道路公団職員の給料が高いことも、建設コストが高いことも、ファミリー企業の実態にも全く触れていない。改革派の人々は、二言目には「国民のため」と言っているが、実にそらぞらしい。


    以前本誌で述べたように、そもそも道路公団方式は、田中角栄元首相の発案である。道路の使用料を徴収し、これを新しい高速道路の建設費に充当するというのが道路公団方式である。これは国の金を使わずに高速道路が次々に整備されるという画期的なアイディアであった。しかしこれは道路はタダという常識に反するもので、当時の建設省の役人は猛反発した。そこで田中角栄氏は東京の勝鬨橋で料金を徴収していることを例にとり、役人を説得したのである。今日では、世界で有料道路は当り前になっているが、これは日本の高速道路をヒントにしている可能性がある。

    田中角栄氏は、道路建設の財源として、財政投融資を使うことにした。この返済に、高速道路の将来の料金収入を充てるのである。そしてこの道路公団方式によって、日本の高速道路の建設は比較的順調に進んだ。おそらく国費だけで高速道路を造っていたなら、今日の半分も完成していなかったであろう。

    このように道路公団の役目は、どんどん高速道路を造ることである。この点では藤井総裁の考えや行動がまともなのである。むしろ改革派の言っていることがおかしい。改革派が言っているように、もう高速道路を造らないなら、公団を民営化するのではなく、道路公団を廃止すべきである。ここがJRと大きな違いである。JRは、新線の建設というより、列車の運行を行う会社である。しかし道路公団に残された仕事は、高速道路のメンテナンスだけである。それならば職員が9,000名もいる道路公団は不要である。せいぜいこの10分の1以下の人員で十分である。


    それにしても道路公団を巡っては、色々な人々がうごめき、噂が飛び交っている。財務諸表や収益予想についても、どれが本当なのかさっぱり分らない。猪瀬氏達の民営化委員会の松田JR東日本会長自身がエクセルで作成したと言われている収益計算書も一向に公開されない。問題になっていながら、道路公団に関しては実に不明朗なことばかりである。このような状況で、藤井総裁だけが悪人と告発されているのである。筆者の希望は、藤井総裁が石原大臣の解任に対して訴訟を起こし、裁判で何が正しいのかを明らかにしてもらいたい。へたな和解などは無用である。

    文芸春秋は、筆者が何十年も読み続けている雑誌である。この雑誌は、比較的公平な編集に特徴がある。しかし今度の道路公団の件では、甚だしく片寄った編集になっている。道路公団が二つの派閥に別れていることは、編集者も十分理解しているはずである。しかし一方の意見だけを三ヶ月に渡り掲載しておきながら、反対派の意見は全く無視している。極めて公平さを欠いた編集となっている。筆者は、この道路公団を巡る文芸春秋の取上げ方は、文芸春秋創刊以来最大の汚点になるという感想を持っている。



この道路公団の件は、今週号では表面的な事柄を中心に述べたが、来週号ではさらに深く掘り下げる予定である。一つは道路公団の会計についてであり、もう一つは高速道路建設とマクロ経済の関係である。

先の総裁選の実状については、色々と情報が入って来ている。選挙の実態は、発展途上国、と言うより低開発国の選挙そのものであった。筆者はこの反動が総選挙に現われると見ている。

今月の初旬、ある参議院議員と面会するため、もう一人と一緒に参議院会館を訪れた。驚くことにテレビでよく見かける外資系証券会社のチーフエコノミストが来ていた。我々の隣で手慣れた手付きで面会票に記入を行っていた。政府がまともな政策を行おうとすると、必ず「そのような政策を日本政府が行うなら、日本からはさよならね」といつも言っているが、決して日本から離れようとしない怪しい人物である。どの参議院議員と面会予定なのか知らないが、真昼間から営業活動を行っているのか、それともロビー活動を行っているか。



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