平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




03/6/2(第299号)
規制緩和と日本経済

  • 規制緩和の意味
    経済がこれだけ混迷し、大銀行が実質国有化される事態になっても、「規制緩和」や「構造改革」で日本経済は蘇ると言った『幻想』を頑に信じている多くの人々がいる。このような人は、小泉首相だけではないようだ。彼等は、今日の経済の不調が続く原因を、「規制緩和」や「構造改革」に抵抗する勢力が強く、「改革」がうまく進まないからだと言っている。

    しかしこれらの人々は何ら論理的に物事を考えているわけではない。このような主張を行っている経済学者や財界人も同類である。面白いことに、いまだにこのような事を言っている経済学者やエコノミストに限って、昔から間違ったことばかりを言い続けていた。しかしそれらが後で間違いと証明されても、彼等は一度も釈明したことがない。今回も同じである。


    「規制緩和」や「構造改革」で経済が成長するのは、極めてまれなケースだけである。たとえば消費や投資が極めて活発で、生産が間に合わないほど経済が活況を呈している場合である。つまり大きなインフレギャップが生じ、価格が上昇するような状況である。このような場合、規制によって労働や資本と言った生産資源がうまく配置されていないことがある。このような時、規制緩和を行うことによって生産資源の適正な配置が実現し、これによって生産余力が生まれ、さらなる経済成長が可能となる。

    注文がどんどん増え、工場の生産ラインを合理化しようとした場合、労働組合が反対したり、各種の法律が合理化を阻害する場合がある。このような場合には、たしかに規制緩和は生産性の向上に助けとなる。この合理化の結果、労働力や生産設備の余剰が生まれ、これらの生産資源が他のものの生産に使われれば、国全体で生産が増え、所得が増えるのである。

    また需要はあるが、国内の産業に国際競争力がない国がある。このような国の市場は、輸入商品で溢れているのが通常である。このような国では、規制緩和を行い、生産性の向上と労働力の流動化を図ることは意義がある。特に為替を大幅に切下げることを同時に行えば、このような国は競争力をある程度回復する。サッチャー政権以降の英国が良い例である。


    ところが日本は、これらの条件が全く適合しない国である。昔から日本は、常に過剰投資により過剰設備を抱えており、低い設備稼働率で推移してきた。配置転換が原因で労働争議が起ったというケースもまれである。むしろ昔から、ずっとデフレギャップを抱えてきたのが日本経済の特徴である。またこれだけ円高が進んでも、日本の輸出競争力が著しく衰えたとは考えられず、また国内の市場に輸入品が溢れていることもない。

    たしかに規制緩和を行い、競争を活発化することは、潜在成長率を高めるための一つの手段である。しかし現実の日本の経済の活動レベルは、潜在生産力よりずっと下にある。潜在生産力と現実の生産レベルの差がデフレギャップである。日本のデフレギャップは極めて大きい。したがって潜在成長率を大きくし、潜在生産力を大きくしても、十分な需要がない日本では何の意味もない。


    不思議なことに改革派の人々は、昔は規制緩和によって投資が増えると言っていた。つまり規制緩和によって供給サイドが強化され、競争力が回復すると言っていたのである(不思議なことに、国際競争力の強化を主張しながら、為替水準には一切言及しないのが彼等の特徴である)。しかし政府が「日本経済はデフレ」と正式に認めてからは、これがコロッと変わり、最近では「規制緩和で新しい需要が生まれる」と言い出し始めた。今度は規制緩和の需要創出効果を強調しだしたのである。実にいい加減な人々である。


  • 規制緩和の効果
    そこで規制緩和でどれだけの需要が増えるかが問題になる。改革派の言い分は、需要と言っても、今度は消費が増えると言い出したのである。何となく規制緩和を行えば、消費が増えるような気がするのはたしかである。

    しかし肝腎の所得が増えなければ、全体の消費が増えることは難しい。通常、消費は所得の一定割合である。これを「消費の所得効果」と呼ぶ。つまり消費額は所得の動きに左右されるのである。

    さらに消費には、もう一つ「代替効果」というものがある。これは「ある消費が増えた場合、他の消費が減る」といった消費の性質である。具体的に、たとえば携帯電話への消費支出が増えた場合には、他の消費が減っている。よく消費は「イス取りゲーム」に例えられる。誰かがイスを確保すれば、他の誰かがすわるイスを失っているのである。コンビニの売上が増えれば、スーパーの売上が減っていたりする。実際、消費はGDPに占める比率は極めて大きいが、毎年の消費の増減は極めて小さい。

    消費にはこのような性質があるため、たとえ規制緩和である消費が増えても、全体の消費額はほとんど変わらない。最近話題になっている「特区」も同様と考える。「特区」で規制緩和が行われても、日本全体の消費が増えるわけではない。つまり「特区」は日本経済のデフレの解決には何の関係もない。


    たしかに規制緩和で消費が増えるケースが全くないわけではない。何らかの規制緩和によって、過去の貯蓄を取崩しても買いたいようなものが出現すれば話は違ってくるかもしれない。本誌も過去にそのような規制緩和の具体例を例示したことがある。しかしこれらは「麻薬」「売春」「賭博」「拳銃」などである。たしかにこのような公序良俗に反するものの規制を緩和すれば、多少消費が増えるかもしれない。実際、「カジノ」の解禁は検討されている。

    しかしこれら以外で、規制緩和によって、人々が貯蓄を取崩しても買いたいようなものが出現するかがポイントである。正直に言って、筆者には思いつくアイディアがない。たとえ規制緩和で、多少消費が増えても、他の消費が減るようなものばかりである。


    ついでに規制緩和で投資が持続的に増えるかどうかについても検討したい。規制緩和を行えば、たしかに一時的に投資は増える。最近、タクシー業界で規制緩和が行われ、タクシーの数が増えた。東京では、4万台だったタクシーが4万5千台に増えたと聞く。規制緩和でタクシーが増え、競争が激しくなり、運賃が下がり、それによってタクシー乗車客が増え、さらにタクシーが増えるというのが規制緩和を主張する人々のシナリオである。

    しかしタクシー乗車客がそんなに増えているわけではない。一方、タクシーの運転手の収入は確実に減っている。仕方なく他のアルバイトをやっているタクシーの運転手が増えていると聞く。このため過労で倒れる運転手が増えているという話である。したがってこのような状況では、投資がこれ以上持続的に増えるとは考えられない。


    産業組織論の理論上、規制緩和が意味するところは参入障壁を低めることである。参入障壁が低くなるため、誰でも参入できるようになる。一種の競争促進策である。したがって参入者が増え、投資は一時的に増える。しかし需要が持続的に増えない限り、供給が過剰となり、価格が下落するのが普通である。したがってどの企業も儲からないという状態になる。こうなれば淘汰が始まり、退出する企業が続出することになり、新規の投資どころではなくなる。

    日本のようなデフレ経済下では、規制緩和がなされたと言っても、へたに参入すると投資資金さえ回収できない恐れがある。実際、大店法の改正という規制緩和が行われ、この時投資を大きく増やした事業者が破綻したり、苦境に陥っている。タクシー業界や航空業界なども規制緩和によって参入者が増え、競争が激化した。したがってほとんどの企業は低収益に見舞われている。したがってこれ以上投資が増える可能性はほとんどない。また典型的に参入障壁が低い産業が、インターネット商売である。誰でも開業できる反面、誰もが儲からないのである。米国のドットコム企業群はいまだに黒字のところが少ない。

    このように規制緩和で投資が増えるかどうかは、微妙である。逆に規制緩和が行われない方が、将来の収益が保証され、却って投資がなされることも考えられる。実際、マイクロソフトのような独占企業の方が、将来の収益が見込めるので、投資に積極的と思われるケースもある。また全く反対に規制を強化した方が投資が増えるケースがある。環境規制が厳しくなれば、企業は投資を増やす必要が出てくるのである。排ガス規制の強化で、最近トラックの買い換え需要が増えていることなどは典型例である。

    しかし規制強化で投資が増えることは、トラック業界の負担が増えることを意味する。したがって長期的な観点では、トラック業界から退出が増え、いずれ投資が逆に減ることになる可能性が強い。

    このように一口に規制緩和・規制強化と言っても、経済に及ぼす影響は、プラスとマイナスの両方がある。また短期的な効果だけでなく、長期的な影響も考慮する必要がある。結論として、筆者は規制緩和・規制強化のトータルの経済効果はほぼゼロと考える。かりにプラスとしてもわずかなものであり、これによって日本経済がデフレから脱却することが可能とは到底考えられない。



最近の経済論議や経済政策は混迷の極であり、りそなの実質国営化もその一つの結果と思われる。りそな国有化は、何かの一つのハプニングであり、人々はそれに後付けで色々と理由を付けているだけである。来週号は今日の経済政策のでたらめ振りを取り上げたい。

19日から三日間、日刊現代に日本経済復活の会の小野さんのシミュレーションが紹介された。50兆円の財政政策を5年以上実行することによって、財政はむしろ好転することを示している。もちろん株価は上昇し、失業率も低下する。一方、物価の上昇もほとんど起らない。さらに経済活動が活発化し、税収が飛躍的に増える。為替や国債が暴落する危惧する声があるが、これは政府・日銀がコントロールできるとしている(この点は最終取材の時に論理的に説明した)。むしろ小泉政権のような緊縮財政を続ける方が、確実に財政状態が悪くなることを証明している。

この日刊現代の特集記事では、我々のもう一つの主張である「政府貨幣の発行」や「国債の日銀による購入」といった実質的に国の借金にならない財源調達に触れていない。もちろんこれを行えば、たちどころに財政は健全化する。これを行わないまでも財政が健全化するところが、一つのポイントである。

5月29日堺屋太一氏ら「救国会議九人委員会(このような組織があったことを筆者は知らなかったが)」が3年間で100兆円の補正予算編成を柱とする提言を発表した。景気と雇用情勢を押し上げる政策によって、税収が増えると主張している。我々の日本経済復活の会とほとんど同じことを言っている。ちょっと驚いたが、同じような考えの人々が増えること自体は良いことである。



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