平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




03/3/24(第290号)
日本の有名経済学者達

  • 現状分析
    緊迫しているイラク情勢を考えると、のんびりと経済コラムを書いている場合ではないのかもしれない。それにしても米国が、2年前から今回のイラク攻撃のために、着々と準備を重ねて来ていたとは驚く。米国は実に戦略的な国である。それにしても米国はよく戦争をやっている国である。このようなあぶない国とは、同盟関係を結んでおくことがなによりである。

    話は変わって、3月19日の日経新聞の経済教室に、日本の有力経済学者グループの緊急提言が掲載されていた。伊藤隆俊東大教授など、9名の経済学者が名を連ねている。皆、有名な経済学者である。

    前半は、日本経済の現状分析であり、後半は具体的な政策提言である。前半の現状分析は、筆者も一部を除き異論はない。まず経済学者グループの現状分析の要点を抜粋する。


    日本経済は90年代半ばからデフレ状態が続いている。その間、不良債権の増加、財政の悪化、失業率の上昇など深刻な問題が発生し、国民の間に将来不安と閉そく感が広がってきた。

    地政学的リスクが中東や朝鮮半島に存在し原油価格の行方などが不透明である。また、米国経済の減速も予測されている。日本経済の先行きには大きな不安がある。

    リスクと将来不安の高まりにより経済が「悪い均衡」に陥ったとき、それを変えることができるのは政府・日銀による果敢な行動のみである。

    日銀の総裁・副総裁が交代するこの時期が、金融政策を含めた新たな政策パッケージを一挙に発動する最良かつ最後の機会である。

    デフレが実質債務を増加させ、逆資産効果から債務者(住宅ローンをかかえた家計や設備資金を借りた企業)の消費や投資を抑制している。

    デフレ解決のためには経済の回復がなくてはならない。その意味でデフレと財政・不良債権問題は同時に解決されるべき問題である。

    いくつかの政策をパッケージで行うことが必要である。パッケージとして発動することでお互いの政策効果が補完され、かつその副作用を打ち消しあうからである。


    どれもこれも納得できる分析である。さすが有名な経済学者達である。唯一疑問に思われるのは、日本がデフレに陥った時期である。まずデフレは、一般の財やサービスと土地などの資産を分けて認識すべきと考える。

    資産デフレがいつ始まったかは、二通りの考えがある。一つは地価が下落を始めた92年から資産デフレのスタートしたと言う考えである。もう一つは、地価の水準がバブル発生前まで下落した時点である。後者なら数年前に資産デフレに陥ったことになる。筆者は、前者の地価が下落に転じた92年が資産デフレのスタートと認識している。いずれにしても、今日、資産デフレは進行中である。

    一方、一般の財やサービスのデフレは、本誌で何回も説明したように75年頃から始まっているという認識である。これがたまたま表面化しなかっただけである。いずれにしても「90年代の半ばからデフレ状態が続いている」とは中途半端な認識である。


  • 緊急提言
    問題は、この経済学者グループの解決策としての提言である。これらに対して筆者の感想を述べることにする。

    1.金融政策
    インフレ目標(1〜3%)を設定し、日銀は当面、デフレからの脱却に全力を注ぐべきである。そのためにはマネタリーベースの適切な形での供給増加が必要である。日銀の資産購入として長期国債の買い切りの増額に加え、ETF(株価指数連動型上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)の市場での購入など「非伝統的手段」を積極的に活用ようすべきである。

    ETF(株価指数連動型上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)の市場での購入話は最近の流行である。しかしETFはまだしも、REITの市場規模をこれらの学者達は知っているのであろうか。このようなものを日銀が買い始めたら、たちまちに価格は高騰する。インサイダーの問題があるだけでなく、価格を保つためには、日銀は永久にこれらを買支える必要に迫られる。地価や株価を上昇に転じさせるためには、実態経済を立直す他はない。一部の人々に利益が発生しても、今日問題になっている失業や倒産がこの政策で解決するとは思われない。

    先日、REITを発行しておられる有力不動産会社の社長にお会いして、不動産の状況について話をきいた。全体ではまだ下げ傾向であるが、東京の超一等地はもう底を打ったということである。日銀がわざわざREITを購入する必要は全くない。むしろ物納された何千億円もの不動産物件を売却する予定の、財政当局の計画の方を問題にすべきである。

    さらにETFやREITを日銀が購入した場合、国債が大きく売られる可能性が出てくる。もちろん日銀が国債を買支えれば良いのだが、日銀との間でどのような取決めを想定しているのか、全く不明である。もし国債利回りが上昇し、長期金利が上昇すれば、住宅ローンなど関連する金利は上昇することになるのである。またインフレ目標については後程述べることにする。


    2.為替レート
    経済状態が悪く、金利も低い日本の通貨は減価しても不思議はない。それにもかかわらず、最近十二カ月はむしろ円高傾向にある。貨幣供給の増加は為替レートを円安にすると期待されるが、そうした努力により円安が生み出されるならこれを放置すべきである。円安放置は輸出産業を中心に経済の活性化につながる。

    経済状態が悪いことは、日本から資本が逃げて行く要因となり、円安を招く。しかし世界中の景気が悪かったり、地政学的なリスクがあれば、いくら日本の経済が悪いと言っても、資本の流出圧力は弱まる。また金利が低いから円安というのは単純過ぎる。他のリスクを含め、総合的に為替レートは決まる。ましてや毎年物価がさがり続けている日本の、実質金利は世界的に見ても高い。つまり実質金利で見る限り、円高は自然の流れである。

    一頃に比べ、貿易収支の黒字は小さくなっているが、莫大な海外の資産からの利息や配当は依然として大きい(昨年は海外事業の不振と低金利で少し小さくなったが)。つまり日本の経常収支の黒字は依然大きく、むしろ円高になるのが普通であり、放置しておけば円安なるとは一体何事であろう。まるで有名経済学者達は、為替の変動要因に全く理解がないようである。

    正直に言って、日本の有名経済学者のレベルにはいつもながら驚かされる。だいたい十二カ月も円高傾向が続いているのなら、円高要因について少しは考えてみるべきであろう。また輸出産業を中心に経済の活性化とは、これからも外需依存の経済を続けるという意味であろうか。これはまさに近隣窮乏策ではないか。


    3.不良債権処理
    一時国有化による不良債権切り離しと正常債権・要注意先の売却または再民営化が必要である。

    これはハードランディングによって不良債権処理を行おうということであり、アイディアとしては陳腐である。また本誌で繰返し述べているように、デフレが続いている今日、このような処理は何の解決にもならない。もうこれ以上のコメントは必要がないであろう。


    4.財政政策
    構造改革に根差した財政政策が金融政策と協調しなければならない。財政赤字を増やさずに新しい需要を創出するように歳出内容の大胆な変更を行う。公共投資の大幅な削減、義務的経費の抜本的見直しも必要だ。デフレ脱却後は消費税や所得税の上昇は不可避である。


    財政支出の内訳を変更することによって、需要が増えるこという話は迷信に近い。仮に財政支出の内訳を変えることによって乗数効果に違いが発生するとしても、それは微々たるものであろう。

    このように有名経済学者の提言は、全く今日のデフレの解決には役にたたない。そしてデフレが解決しないのなら、インフレ目標をたてても意味がない。


    デフレを解決するには、大胆な財政政策に転換する他はない。金融政策はあくまでも、財政政策を補完するものである。経済活動が活発になり、過度に金利の上昇の徴候が現れたときに有効なのである。ところが有名経済学者達は、財政支出の規模を大きくしなくても、金融政策だけでデフレが解決できると言っているのである。

    このような考えは、ちょっと前までは通用したかもしれないが、今日ではこのような学者グループの言っていることなど誰も信じない。デフレの解決には「財政政策の拡大」が、世間の常識になりつつある。筆者も色々な人々と話をする機会が多いが、全ての人がやはり「財政出動が必要」と言うようになっている。一年前とは大きく変わっている。つまり有名経済学者は大きくピントがずれている。何故、これらの人々は率直に「財政出動」しかないと言えないのか不思議である。

    9名の学者の中には、たしかに伊藤元重東大教授のように、日頃の発言を考えると、何故このメンバーに加わっているのか疑問の人もいる。ところで最近、経済政策の失敗を隠すため、日銀の働きに異常に期待する風潮が生まれている。この学者グループの緊急提言も、その一つと認識している。



来週号のテーマも未定であるが、27日に経済再生フォーラムが開催されるので、これに関した事柄を取上げることになるであろう。

イラク攻撃に関しては、フランスは国連決議にこだわった。フランスは戦争に弱く、いつも負けて他国に占領されるが、不思議なことに最後には戦勝国側にいる。その弱いフランスは、自国が常任理事国である国連の決議にこだわる。一方、分担金も払わない米国は、国連を軽視する。どうもフランスは時代の流れを読み間違った可能性が強い。今後の米国とフランスの関係が注目される。

サンデープロジェクトに金子勝慶大教授が登場し、米国のイラク攻撃について興奮気味のコメントを行っている。経済学者のはずの金子教授が、この番組以外でもイラク攻撃についてさかんに発言を行っている。普通の経済学者ではないのであろう。そしてこの学者が、なぜ「無茶な銀行の不良債権処理」を日頃から主張しているのかが理解できる。このように日本の経済学者は色々と問題が多い。発言をまともには受け取ることができないのである。



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