平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




03/1/13(第280号)
データに基づく経済論
  • 自生的有効需要の伸び率
    毎年、年初には日本における経済論議が混乱していることを取り上げている。残念ながら、今年も同じようなスタートである。年末年始、読んでなかった月刊誌をまとめて読んだり、テレビでの経済論議を視たりした。驚くことは、いまだ「構造改革」と言っている論者が沢山にいることである。


    まず、これまでも日本における経済論議が科学的でないことを、本誌はずっと指摘して来た。とにかく事実に基づかない議論が多すぎる。これが一般の人々ではなく、エコノミストや経済学者と言った専門家の言っていることであるから呆れる。

    代表的な意見が「国・地方の累積債務が大きくなった原因は公共投資など、効果のない財政出動が大きかった」「財政政策は効果がなくなった」、あるいは「日本ではマクロ政策は効果がなく、ミクロ、つまり個々の企業や個人が変わる他はない」などである。驚くばかりである。「財政政策は有効であるが、財政が逼迫しているので、政策として限界に来ている」と言う意見はまともな方である。

    「日本では乗数効果がなくなった」と主張する「たわけもの」まで出る始末である。乗数効果がなくなったと言うことは、自生的支出の波及過程で発生する所得が全く消費されないことを意味する。これは日本の消費が、預貯金の取崩し、年金、失業手当などからしか行われないことを意味する。つまり勤労者は、所得から消費を全く行わないと言う意味である。


    ここで02/7/15(第260号)「セイニアリッジ政策への反対意見」で掲載した表をもう一度取り上げる。
    GDPと自生的有効需要の伸び率比較
    年度GDP総額民間投資+純輸出政府支出(うち公共投資)
    70→002.562.492.572.38(2.34)
    80→001.661.661.831.51(1.41)
    80→951.601.601.671.53(1.63)
    95→001.041.041.100.96(0.87)

    表の総額は民間投資、純輸出、政府支出の自生的支出の総額である。また政府支出は国と地方の財政支出の合計である。

    この表から分るように、GDPと自生的支出の総額の伸び率の関係は、少なくとも2000年までは極めて安定的に推移している。つまり乗数の値がほとんど変わっていないことを示している。また国と地方の財政支出の合計(政府支出)の伸び率はむしろ小さくなっている。

    この表を見た人は必ず「公的債務残高急増の原因が財政支出の増加と言う話が真っ赤な嘘であったことが解った」と言う。そこで次は、最近国・地方の債務が急増している原因が問題になる。たしかに日本の財政は昔から基調としては赤字であった。しかし急増した理由は、説明したように財政支出の増加ではない。

    一番の原因は、税収の大幅な減少である。1990年の63兆円から2002年の42兆円と実に20兆円以上も税収が減少している。これは国税だけであり、地方税を加えるなら、もっと数字は大きくなる。税収が減っている原因は、政策としての減税もあるが、意図せざる減税、つまり企業や個人の所得が減少したための税収の落込みと言った要素が大きい。たしかに銀行を始め、企業や個人まで、不良債権処理や資産売却損を計上している現状では、税収が減るのは当たり前である。

    さらに政府は、破綻した金融機関の預金の補填や銀行への公的資金注入を行っているが、これは国の債務残高を増やすだけで、所得を生まない。さらに国鉄の長期債務を毎年償却しているが、これも所得を生まず、国の債務に振替えられているだけである。このように国債を発行した資金の一部は所得の生まない分野に投入されているのである。また本誌がずっと主張しているように「減税(意図せざる減税を含め)」の所得創出効果は小さい。つまりバブル崩壊後、国債の発行はかなり増えたが、かなりの部分が所得を生まないか、あるいは生んでも小さい分野への支出ばかりが増えたのである。

    そして注目されるのは公共投資の大きな落込みである。特にここ5,6年の公共投資の減少はすさまじい。1996年の国と地方の公共投資額は44兆円であったが、これが2002年には33兆円までに減っている。逆に増えているのが福祉関連の義務的経費、たとえば生活保護費などである。つまり小泉政権のやっていることは「仕事をやらなくても良いから失業手当を貰ったり、生活保護を受けなさい」と言うことである。

    いまでも「日本経済が苦境に落ち入っているのは、公共事業など生産性の低いところに資金が流れているから」と、全く事実無根なことを言っている経済学者やエコノミストがよくテレビに登場する。しかし実際は、公共投資は激減しているのである。したがってゼネコンの債務が減らないのは道理である。ところで公共投資は激減しているが、一向に経済は回復しない。つまり「公共事業などの低生産性説」は全くの「嘘」なのである。

    驚くことに、このようなゼネコンを潰すことが、日本経済の再生と言う論者が沢山にいることである。ゼネコンを潰し、銀行に公的資金を注入しても、国民所得は全く増えない。回り回って国債が買われるだけである。むしろこのような資金があれば、それを公共投資に使い、ゼネコンの仕事を増やすのが筋である。これによって日本のGDPは増え、銀行の不良債権も減る。このような簡単で当り前の解決方法が、話題にもならないのであるから、日本の経済の論壇は異常である。


    財政支出に関連した話を加える。マスコミは今日、公共投資を削減している市長や県知事をヒーロー扱いしている。市場は、競争状態が異なる産業の集まりである。今日のようにデフレ経済で価格下落が続けば、競争にさらされていない人にとっては収入が安定しているから、むしろ良い時代である。一方、参入障壁が低く、いつも過当競争に陥りやすい業界は、デフレ経済が続くことは死活問題である。収入は確実に減る。タクシー業界や建設業界などは典型である。

    市町村が業務を外部に発注せず、市の職員やボランティアにまかせていることがよく美談のように語られている。景気が良く、失業がない時代ならそうであろう。しかし今日の経済状況で、このようなことをどんどんやれば、市町村が失業を発生させていることになる。もっとも近くの大都市でビルがどんどん建設されていたり、近くで愛知万博の大型公共工事が行われいて、失業が小さいのなら話は別である。


  • 製品在庫指数
    最近、日本経済の不調について「日本の産業構造が新しい需要構造に合っていない。したがって構造改革が必要」と言う「雲を掴むような話」が頻繁に出ている。そして「これには徹底した規制緩和と、減税などの投資の優遇が必要」と言うのである。つまり日本経済再生のカギは、供給サイドの整備」と言っている。もっともらしく聞こえるが、筆者に言わせれば、これは「マルチ商法」のセールストークと同程度のものである。

    筆者の見解を経済産業省(旧通産省)のデータを用いて説明してみる。
    製品在庫指数の推移
    製品在庫指数
    92年度118.5
    93年度119.7
    94年度112.8
    95年度117.0
    96年度98.9
    97年度104.3
    98年度110.8
    99年度101.6
    00年度100.8
    01年度111.6

    まずこの表の数字は、98年の5月において以前の数値(96年度分から)を調整している。ところで00年の12月までは、製品在庫率と称していた。また金融危機による景気の急速な冷込みのあった98年度と、同時多発テロの影響のあった01年度の数値が多少大きくなっている。しかしこのような例外的な時期を除けば、製品在庫指数は極めて安定的に推移している。たしかに時には10%くらいのブレが生じることがあるが、毎月のデータを追って行くと、わずか数カ月で調整されている。ちなみに直近の数値は、昨年の11月であり、98.6と平常値に戻っている。

    製品在庫指数が極めて安定的に推移しているこの事実は重要である。これは「日本においては製品の需要と供給はみごとにマッチしていること」を意味している。つまり消費者が望む製品が必要な数量だけ製造され、市場にうまく供給されているのである。たしかに時には供給不足や供給過剰が生じている。しかしこのような需給のブレも短期間のうちに調整されているのである。

    もし消費者の望まない物ばかり作っているなら、どこかに大量の在庫が発生しているはずである。反対に消費者の需要に生産が追いつかない場合には、製品在庫指数がもっと極端に小さくなっているはずである。しかしそのような数値は皆無である。そうでなくとも、供給者は日夜真剣に消費者の行動を研究し、新製品を開発しているのである。コンビニなんかはその典型である。

    このことは物に限定されず、サービスにも言えることである。もしサービスの分野で消費者の望む供給がうまくされずに、需給にミスマッチが生じているなら、そのサービスの価格が上昇しているはずである。しかし筆者は、それがどのようなサービスなのか全く思い当たらない。はっきり言えば、そのようなものはないのである。かりにそのようなサービスがあっても、おそらく短期間のうちに、そのサービスの供給が増やされていると考えるべきである。

    つまり「日本の産業構造が新しい需要構造に合っていない。したがって構造改革が必要」と言う話は、いい加減な作り話である。もしうまく供給されていない物やサービスがあるとあくまでも主張するのなら、経済学者やエコノミストを辞め、その供給者として転職すれば良い。貴重なビジネスチャンスであり、大儲けができるはずである。実際は、彼等は何の考えがないのに、偉そうにでたらめを言っているだけである。筆者の知る限りで、学者から実業者に転進して、自分の理論を実践し、大儲けした人はいない。例外は「森ビル」の創業者ぐらいのものである。このように日本のデフレ経済は、ミクロの問題ではなく、大きく総需要が不足していることが原因である。



来週は、金融関係のデータを取り上げ、この方面から日本経済を解析してみる。

国債の利回りがとうとう一時0.85%になった。2002年には国債が暴落するとか、2003年には国債を買う人がいなくなり、日本財政は破綻すると騒いでいた人々が沢山いた。しかし本誌の予想通り、現実は全く逆に国債の入札には応札が殺到している。国債暴落論者は土下座して謝るべきである。そう言えば小泉首相もその中の一人である。

しかし国債の利回りが低下し続けることは、これはこれで日本経済が健全でないことを示している。あまりにも利回り低下を野方図に放置すぎである。本来、これは国債を発行を増やし、それを財政支出に充てろと言う市場のサインと考えるべきである。

しかし筆者は、3月末までには一度は国債が大きく売られる局面があると考える(おそらく誰でもそう思っていると感じられる)。金融機関が持っている含み益は、外債とこの日本国債だけである。決算を考えれば、国債を売って益出しが行われると考えるのが普通である。問題はそのタイミングである。筆者は、史上最低利回りが一つのメドになると思っている。

地価の下落が止まらない。ミサワMRDの調査によれば、昨年12月1日現在の八大都市圏の地価は、住宅地・商業地とも下落している。首都圏では年間7.2%も下落している。これでは銀行の不良債権が減るはずがない。一部を除き、下落幅が大きくなっているいることが無気味である。バブル崩壊後、地価は一度となく下げ止まり兆しを見せたことがあるが、橋本・小泉の両政権の緊縮財政政策によって下げが加速されて来ている。とにかく小泉内閣は一刻も早く退陣してもらう他は無い。

「銀座のデモ隊」の吉田さん(日本橋・株式会社伊場仙社長)が頻繁にテレビに登場している。フジテレビ「特ダネ」NHK「ニュース10」テレ朝「ニュースステーション」などである。今後も色々とマスコミに登場する予定である(いくつかは既に録画撮りは終わっていると言う話である)。

中小企業景気振興東京会議の次回の行動日程も、二転三転したが、3月12日に決定したと言うことである。筆者達もこれに参加させていただくつもりである。次回はかなり規模が大きくなるはずである。

「政府貨幣発行」と言う政策を実現させるため、筆者達は新しい組織を立ち上げた。名称は「日本経済復活の会」である。ゆくゆくはこの会は政策に賛同する政治家を中心に組織される予定で、我々はその事務局を務める。ここでは政策のシミュレーションを行い、パンフレットを作成し、政策の広報も行う。ところでシンクタンクに依頼してシミュレーション一つ行うにも、かなりの費用がかかるため、この会では活動資金を寄付金の形で集めることになる。

急な話であるが、「日本経済復活の会」の第一回目と言うか準備会のような会合が1月14日午後1時から開かれる。場所は文京シビックホール3F「会議室1」(東京都文京区春日1ー16ー21、TEL03ー5803ー1100)。営団地下鉄丸の内線、南北線後楽園駅下車0分。都営地下鉄三田線、大江戸線春日駅下車0分。今回は、東大英数教室の小野氏が「政府貨幣発行のシミュレーション結果の発表」を行う。何分平日の昼間なので、ちょっと忙しいと思われるが、出席できる方は誰でも参加してもらいたい。入場は無料である。ただ筆者は、都合が悪く今回の会合には参加できない。



02/12/23(第279号)「乗数値の低下と経済政策」
02/12/16(第278号)「零細企業・個人の借入金問題」
02/12/9(第277号)「ルーカスの子供達」
02/12/2(第276号)「日本のデフレギャップの怪」
02/11/25(第275号)「小泉政権の支持率の怪」
02/11/18(第274号)「セイニア−リッジ政策の推進(その3)」
02/11/11(第273号)「セイニア−リッジ政策の推進(その2)」
> 02/11/4(第272号)「外資系ファンドの実態」
02/10/28(第271号)「竹中平蔵大臣の研究」
02/10/21(第270号)「嵌められた話」
02/10/7(第269号)「銀座のデモ隊」
02/9/30(第268号)「末期的な経済政策」
02/9/23(第267号)「銀行の不良債権問題(その3)」
02/9/16(第266号)「10月号「諸君」の対談」
02/9/9(第265号)「セイニア−リッジ政策の推進(その1)」
02/8/12(第264号)「経済よもやま話」
02/8/5(第263号)「マスコミのチャイナースクール化」
02/7/29(第262号)「チャイナースクールの落日」
02/7/22(第261号)「中国の不当な為替政策」
02/7/15(第260号)「セイニアリッジ政策への反対意見」
02/7/8(第259号)「榊原慶大教授の文章」
02/7/1(第258号)「小泉政権の本音」
02/6/24(第257号)「小泉政権への批難」
02/6/17(第256号)「サッカーのワールドカップ大会」
02/6/10(第255号)「成功は失敗のもと」
02/6/3(第254号)「為替と物価」
02/5/27(第253号)「消費税の減税効果」
02/5/20(第252号)「小泉政権のデフレ対策」
02/5/13(第251号)「酔っぱらいの論理」
02/4/22(第250号)「生産力を生まない投資」
02/4/15(第249号)「商品相場と世界の動き」
02/4/8(第248号)「経済予測のレビュ-」
02/4/1(第247号)「ニュークラシカル派の実験」
02/3/25(第246号)「ニュークラシカル派の論理」
02/3/18(第245号)「日本の所得格差の動向」
02/3/11(第244号)「通常では行わないような経済政策」
02/3/4(第243号)「セイニア−リッジ政策への準備」
02/2/25(第242号)「資金の使途(その3)」
02/2/18(第241号)「資金の使途(その2)」
02/2/11(第240号)「資金の使途(その1)」
02/2/4(第239号)「確信犯(その1)」
02/1/28(第238号)「政策の実現性」
02/1/21(第237号)「国債の日銀引受け政策」
02/1/14(第236号)「経済政策の目標」
01年のバックナンバー

00年のバックナンバー

99年のバックナンバー

98年のバックナンバー

97年のバックナンバー

日頃忙しいビジネスマンへのオンラインマガジン