平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




02/10/7(第269号)
銀座のデモ隊
  • 吉田さんの話
    先月、9月3日、「景気新興アップ大会」と題した集会と、1,000人規模の銀座でのデモ行進があった。信用組合の相次ぐ破綻、銀行の「貸し渋り・貸し剥がし」によって資金繰りに苦しむ東京都中央区の中小企業経営者がこれを主催した。

    筆者が参加している「政府貨幣発行特権」の勉強会の連絡用の掲示板に、このこと(東京新聞の記事他)が紹介された。筆者はこれに興味を持ち、これを本誌の先々週号で取上げた。集会とデモを主催した中小企業景気新興東京会議の発起人の一人であり、広報の責任者である吉田さんとおっしゃる方が、たまたま本誌の2年来の読者と言うこともあり、さっそくメールをいただいた。メールには、新聞には取上げてはいない深刻な話があった。我々の勉強会でも是非詳しい話を聞きたいと言うことで、3名で吉田さんの日本橋の事務所を訪ねた。


    吉田さんお話では、今深刻な問題は、やはり銀行の対応、とくに融資金の回収に関わるものであった。具体的な例では、バブル期前後に銀行の強い勧めもあり(相続税対策として勧めているケースが多い)、借入金で店鋪を賃貸ビルに建替えたケースなどである。当時は賃料が坪当り4万円であったが、どんどん安くなって現在は2万円くらいと言う話である。本業の方も長期の景気低迷によって伸び悩み、このケースでは仕方なく毎月の銀行への返済を当初の25年間から60年に延してもらっていた(リスケジュール、いわゆるリスケ)。

    ところが金融庁の特別検査の検査マニュアルでは、返済がビルの耐用年数の30年を超える返済の融資金は、「破綻懸念先」として銀行に引当金を積むことを要請しているのである。つまり60年の返済に延したため、銀行は引当金を積む必要に迫られている。しかし銀行には余裕が無く(資本が不足しているため)、引当金の積み増しができない。そこでビルのオーナにビルを任意売却して、融資金を返してくれと迫っているのである。

    しかしこのビルオーナの事業は、黒字であり、借入金の返済を60年に延してもらったが、元本と利息はきちんと毎月支払っているのである。さらに住居もこのビルの一角にあり、ビルを売却することは、住む所もなくなることを意味している。吉田さん話では、これに近い話は沢山あると言うことである。この辺りは老舗の店が多く、これらの人々は決してバブル期に「一獲千金」の賭け事を行った訳ではないのである。


    吉田さんは、銀行によって貸金の回収方法に違いがあることも説明してくれた。余裕のない銀行は、上記の例のように、資産の売却を求めてくるが、多少余裕のある銀行は、債権をさっさとRCC(整理回収機構)に売っ払ってしまうと言う話である。つまり損失が出ても、早く債権の回収を行うことが目的である。たしかに年々地価が下落している現状では合理的な行動かもしれない。

    不良資産の処理方法としてRCC(整理回収機構)の活用を挙げる人がいる。しかしこれは銀行の存続だけを考慮しているのである。実態を見れば、これによって路頭に迷う人々がどんどん出て来ることを意味する。政治家でRCC(整理回収機構)の買取価格を問題にしている者がいる。しかしこれは債権を売却する銀行だけの関心事である。不良資産処理の過程で追出される人々にとって、RCC(整理回収機構)が幾らで買おうとも関係のない話である。このような政治家は、どこまで物事を考えて発言しているのであろうかと思われる。


    我々から、吉田さんに「現在行おうとしている対策や政府の政策に対する要望」をうかがった。やはり売上が年々減少することが堪えており、政府にはまず需要政策への転換を切望していると言う話である。我々が主張している「政府の貨幣発行特権」による財政出動にはもちろん賛成で、さらに自分達でも地域通貨、つまりエコマネーの発行を検討されていると言う話である。

    しかし身近の問題はやはり資金繰問題である。そして吉田さんは「借入金に対する個人保証の解消」「もう一度5,000万円貸出しの政府保証枠の設定」「2年程度の借入金返済の猶予(モラトリアム)」「公的融資への借換」「金融庁の検査マニュアルの改定」などを強く希望しておられた。おそらくこれら要望に対しては「とんでもない」と否定的な感想を持つ人がいるはずである。しかし現実の経済はここまで深刻になっていると理解すべきである。デモでもストでもやりたくなる気持ちが十分に解る。

    先週号で触れたように、吉田さん達は活動を東京全体に広げ、次は5,000人規模の集会とデモを計画しておられる。日程は12月の20日前後と言っておられた。またこのよう運動は全国に広がって行くべきと考えおられ、とりあえず次回の集会とデモに地方からの参加を歓迎していると言う話である。連絡はinfo@ibasen.comにお願いしたい。

    中小企業景気新興東京会議の活動は、中央区や都議会議員の有志がバックアップしている。中には我々の勉強会に関係している都議会議員もいて、話ははずんだ。もちろん我々も全面的に協力するつもりである。たしかに自分のところが資金繰りが難しいと言う話は、なかなかあからさまにはできないものである。しかしこれだけ長期間の景気の低迷は、個々の経営者の問題ではない(むしろここまでよく頑張っていらっしゃると思われる)。はっきり言ってこれは政府の経済政策の失政が原因である(橋本政権で大失敗した政策をまた繰返すなんて頭がおかしいのである)。


  • 政府の犯罪
    日経新聞を始め多くのマスコミは、銀行の不良債権の処理さえ行えば、経済が上向くと言った実に「いい加減」な論調を振りまいている。実態は、吉田さんからうかがったように、実態は全くの逆である。だいたい経済が拡大して行かなければ、不良債権の処理なんて絶対に無理である。銀行の不良債権を処理すれば、景気は「V字回復」すると、誰でもわかるような大嘘をついている人もいる。しかしこれらの人々が嘘をついている目的が分らない(彼等が破綻した企業をタダのような値段で買取るファンド関係者なら解るが)。

    これまでだって銀行はかなりの不良債権を処理している。もし彼等のセリフが正しいのなら、とっくの昔に景気は上向いて良いはずである。むしろ破綻した企業の後には、別の企業が次々に破たんに瀕しているのが現実である。そして失業者と企業の破綻による自殺者は増える一方である。

    ある人の話では、経営不振が原因で自殺する経営者は年間5,000人を超えていると言うことである。しかしこれは言葉が悪いが、5,000人超と言うのは、自殺に成功した人々であり、自殺未遂の方々の数はこの7倍もいると言う。また自動車で塀にぶつかって死んだが、ブレーキの跡がなく、自殺者に含まれていない人もいると言う話である(おそらく保険金の関係もあるのであろう)。また自殺までに到らなくとも、今日の緊縮財政によるデフレ政策で不幸な状況に置かれている人は、この何十倍もいる。しかしこれらの人々は声を上げることなく、じっと耐えている。このような悲惨な状況に陥れた政策は、まさに「犯罪」の名に値する。政府による犯罪である。念をおすようだが、小泉政権の経済政策は、既に橋本政権で失敗した政策である。

    物価上昇をインフレと捉えるなら、インフレは全ての人々に影響する。つまりインフレは、ひどくなれば政治にも声が通りやすい。一方、デフレの場合、これが原因で不幸になる人々は、少しずつ増えるが、全ての人を一遍に不幸にすると言うことはない。したがっていまだに直接デフレの被害を受けない人々は、デフレ経済の悪影響を軽視しがちである。中にはデフレで物価が下がり、喜んでいる人さえいる。さらに「企業の破綻なんかは他人事」であり、むしろ他人の不幸を喜んでいる人々もいるのも事実である。

    デフレ経済で痛めつけられているのは、借入金で投資や家を取得した人々、不況で倒産した会社の関係者、就職難の新卒者などに限られるのはたしかである。しかしデフレの影響は徐々に広がり、影響を受ける人々も増えていくのである。デフレ経済が長引けば、当然、治安も悪くなる。世の中が乱れてから、「やはりデフレ経済を解決しなければならない」と言っても遅いのである。


    問題は、中央区の中小企業経営者のように長引くデフレ経済で苦しんでいる人々の声が、全く政治に届かなくなったことである。たしかに都議会議員の有志など地方議員は、このような状況を深刻に受取っている。問題は、国会議員のレベルである。小選挙区制の実施以降、2世、3世議員が増えただけでなく、国会議員と選挙民との距離が遠くなったようである。どうも党の公認を受ければ、だいたい当選する仕組になったためか、選挙民をこれまでより軽視している。したがって多くの国会議員は個々の問題に突っ込むより、世間の時流である「構造改革」と言ったお題目を唱えている方が良いと思っているのであろう。

    たしかに国会議員の中にも、現状の経済が厳しいことを理解し、中小企業に関心を持ち、バックアップをしている人もいる。しかしこのような国会議員でさえ、国会で具体的な活動を行うことが難しいと聞く。国会で中小企業を救済するような政策を訴えると、「抵抗勢力」とレッテルをすぐ貼られると言う。

    そう言えば、朝日テレビ系「サンデープロジェクト」の田原総一郎氏が、「改革を進めるには、国会を解散する時、自民党の中の抵抗勢力には党公認を与えないことを考えるべき」と発言していた。しかも筆者が聞いた範囲では、田原氏は同番組で最低2回は同様の発言を行っている。これは自民党と言う政党に対する露骨な干渉であり、国会議員へのブラフである。それにしても、最近の「サンデープロジェクト」の内容と田原総一郎氏の発言は極めて偏向している。また関係者の驕りだけが目立つようになった。筆者は、最近、この番組に、まともなことを言う「エコノミスト」や「政治家」が全く登場しなくなったことに注目している。



マスコミが伝える「市場の声」とか「市場関係者の声」と言うものがある。本誌で何度も言っているが、これが実にいい加減なものである。しかしこれが、政治を動かすことがあり、世の中を混乱させたりしている。例えば、ちょつと前まで「景気回復には銀行の不良債権の処理が必要であり、これには国費投入が必要」と言っていた。しかし一週間の間に、人々の論調は「不良債権の処理はデフレを一層深刻化させる」とガラッと大きく変わった。今度は本誌の主張と同じことを言い始めたのである。

「日本の銀行は健全で、公的資金の注入は不必要」と主張していた柳沢金融担当相は、先週本誌が誉めた途端、更迭された。小泉首相は、一週間前までの「国費投入を拒否している柳沢金融担当相を切れと言う市場関係者の声」を参考にして、金融担当相を変えたのであろうか、全くの人事のミスである。そこで来週は、この「市場関係者の声」と言うものを取上げる。


内閣改造後、株価は下落を続けている。要因は色々ある。「米国の株安」「9月中間決算対策のPKOの反動」「証券税制改正の不透明感」などである。しかし「金融分野緊急対応戦略プロジェクトチーム」、いわゆる竹中チームのメンバーに木村剛氏が選定されたことも影響している。それにしても外人売りが大きい。「柳沢金融担当相を切れば株価は上昇する」と言う風評が事前に流れていたが、結果は全く逆であった。どうも「嵌められた」可能性もある。

それにしてもこのメンバー、特に民間のメンバーはすさまじい。まず公認会計士協会会長の奥山氏についてはよく分らない。また前日銀審議委員の中原氏は、日銀政策委員会では一番まともな発言を行っていた人物である。しかし残りの木村、吉田、香西の各氏には驚いた。本誌でもこの3名は、問題のあるエコノミストとして何度も取上げたことがある。それにしても小泉首相の周りのエコノミストは、この様な者ばかりである。


筆者は、小泉首相のことを「首相に向かないだけでなく、そもそも政治家に向いていない」と評して来た。実際、本誌は、首相になるずっと前から、この人物を否定的に捉えていた。今日の経済の混迷と株価の推移を見ていると、最悪のケースでも来年の2月までには首相を辞めてもらいたい。後四ヶ月半である。贅沢は言わない。後任は誰でも良い。



02/9/30(第268号)「末期的な経済政策」
02/9/23(第267号)「銀行の不良債権問題(その3)」
02/9/16(第266号)「10月号「諸君」の対談」
02/9/9(第265号)「セイニア−リッジ政策の推進(その1)」
02/8/12(第264号)「経済よもやま話」
02/8/5(第263号)「マスコミのチャイナースクール化」
02/7/29(第262号)「チャイナースクールの落日」
02/7/22(第261号)「中国の不当な為替政策」
02/7/15(第260号)「セイニアリッジ政策への反対意見」
02/7/8(第259号)「榊原慶大教授の文章」
02/7/1(第258号)「小泉政権の本音」
02/6/24(第257号)「小泉政権への批難」
02/6/17(第256号)「サッカーのワールドカップ大会」
02/6/10(第255号)「成功は失敗のもと」
02/6/3(第254号)「為替と物価」
02/5/27(第253号)「消費税の減税効果」
02/5/20(第252号)「小泉政権のデフレ対策」
02/5/13(第251号)「酔っぱらいの論理」
02/4/22(第250号)「生産力を生まない投資」
02/4/15(第249号)「商品相場と世界の動き」
02/4/8(第248号)「経済予測のレビュ-」
02/4/1(第247号)「ニュークラシカル派の実験」
02/3/25(第246号)「ニュークラシカル派の論理」
02/3/18(第245号)「日本の所得格差の動向」
02/3/11(第244号)「通常では行わないような経済政策」
02/3/4(第243号)「セイニア−リッジ政策への準備」
02/2/25(第242号)「資金の使途(その3)」
02/2/18(第241号)「資金の使途(その2)」
02/2/11(第240号)「資金の使途(その1)」
02/2/4(第239号)「確信犯(その1)」
02/1/28(第238号)「政策の実現性」
02/1/21(第237号)「国債の日銀引受け政策」
02/1/14(第236号)「経済政策の目標」
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