平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




02/8/5(第263号)
マスコミのチャイナースクール化
  • 日本企業の怠慢?
    先週号で、外務省のチャイナースクールについて述べた。しかし事態はもっと深刻で、日本のマスコミ界やエコノミストまでがチャイナースクール化している。先日放送、テレビ朝日系列のサンデープロジェクト、経済ジャーナリストの財部氏の中国経済レポートは奇妙なものであった。この特集では中国の民間企業が力をつけ、生産や輸出を伸ばしていることを紹介していた。たしかに中国は、日本を始め、外国から技術や資本を導入し、順調な輸出の伸びと旺盛な需要を背景に経済は高度成長している(たしかに中国は深刻な水不足でカナダからタンカーで「水」を輸入しているとか、役人の汚職が酷く、内部はガタガタと言う話は聞くが)。

    一方、日本の企業は、全般的に長期的に不振であり、特に中国や韓国と競合している電機などは大きなリストラを余儀無くされている。しかし財部氏のレポートの結論は、日本企業の不振の原因を「大企業の幹部がサラリーマン化しており、経営判断が常に遅れる」と言うことになっていた。また日本は、むしろ中小企業が頑張っており、中国との競争に色々な工夫を行っていると指摘していた。このような元気な中小企業の代表的な企業として、デニムの製造会社と燕のマグネシューム合金の加工会社を取上げていた。


    そしていつも奇妙な記事を書いているのが、日経新聞香港支局の鈴置と言う記者である。度々彼は、中国の産業がしっかりとした技術を習得し、成長していると報道している。そして注目されるのは「元が30%くらい切り上がっても、中国の競争力に影響はない」と断言していることである。そして日本企業が相対的に弱くなったことの原因は「怠慢」と決めつけている。そして日本は、中国に為替の切り上げを求めるのではなく、構造改革を行って、競争力を回復すべきと言っている。

    鈴置氏の日経の記事は毎回同じような論調である。また好業績の韓国のサムソンを取上げ、日本企業の「選択と集中」が遅れたことを指摘している。とにかく中国や韓国がからむと、最近は日本企業の怠慢が必ず取上げられる。これは財部氏と鈴置氏にも共通している。


    しかしこのような単純な結論で本当に良いのであろうか。一つの大企業だけの調子が悪いのならともかく、全ての企業が苦戦しているのであるから、もっと根本的でマクロ的な原因を追求すべきである。そこで筆者が問題にしたいのがやはり為替の問題である。中国の輸出はものすごい勢いで伸びている。この要因としては、先進国からの技術の導入だけではなく、どうしても異常な元安が維持されていることを無視できない。

    また韓国の半導体や液晶も伸びている。しかし韓国ウォンは90年以降、対円で50%以上も下落している。また半導体など最先端部品については、各国政府による支援の存在が噂されている。一方、日本は、少なくとも日米半導体協定以降、半導体産業は冷たい立場に置かれていたと思われる。とにかく中国や韓国は、自国の為替を安く維持することによって、家電製品や半導体を始め、異常な勢いで製品輸出を増やしている。一方、日本は、この間、GDPに対する輸出比率がどんどん小さくなっている(誤解してもらって困るのは、筆者が、日本は輸出依存を大きくしろと言っているのではない。ただ中国や韓国が輸出比率を高めているのに対して、日本の輸出比率が極めて小さくなっていると言う事実を述べているのであるーーーとうとう最近では米国より小さくなり、輸出大国なんてとっくの昔話となっている)。

    とにかく財部氏と鈴置氏は、共に日本の企業の不振は、日本企業の怠慢であり、為替は全く関係がないと言うスタンスである。さらに日本における産業の空洞化は、仕方がないものであり、日本はより先端的な製造業に特化すべきと主張している。ちなみに財部氏は、以前この番組で「タオルはもはや日本で作る必要は無い。中国に全部まかせろ。」と叫んでいた。先週号で、中国政府の見解を紹介したが、この両名の意見は、まったくこれに見事に一致する。まさにこの二人は、身勝手な中国政府の代弁者である。チャイナースクールは、外務省の中国担当や、やはり外務省出身の早大現代中国総合研所長の谷口誠氏だけではない。マスコミ界もチャイナースクール化しているのである。


  • 人民日報
    彼等、チャイナースクールの人々の主張や論理は、どうしても無理があり、穴だらけである。日経の鈴置氏は、「元が30%くらい切り上がっても平気」と言っている。彼は「中国の製造業の人件費のコストは、10%くらいであり、元の30%の切り上げがあっても、最終コストはたった3%の上昇にしかならない」と主張している。しかしこれは、輸入中間財が製造コストに占める割合が90%近い特殊なケースである。中国での内製化が進めば、対外的にコストの増加はだんだん30%に近付くはずである。実際、最近の日本メーカの進出動機には、中国での安い部品が入手できるようになったことが挙げられている。

    鈴置氏は「元」の切り上げを30%と勝手に決めているが、何を根拠にしているのか全く不明である。筆者が指摘してきたように、実際の元の購買力は4.55倍もある。切り上げと言うことになれば、30%なんてとても考えられない。公平な為替レ−トの決め方としては、一旦「元」をフロート状態にした場合の為替水準と言うことになろう。これが技術的に困難と言うなら、フロートを想定した場合の、想定のレートと言うことになろう。中国の大きな黒字を考えれば、円に対して少なくとも30%の上昇と言うことは絶対にない。筆者は、1元が50円から60円くらいと想像している。

    これでも中国の人件費は、日本の5分の1から9分の1と相当安い。しかし20分の1から30分の1と言う現在より、かなり格差は縮まる。もしこのような状況になれば、中国移転を迫られている工場も、努力によって日本に止まれる可能性が出てくると言うものである。したがって為替が適正なものになれば、「タオル」も工夫次第で、中国製品と競争できる訳で、日本で製造しても良いはずである。とにかく今日の20分の1から30分の1と言う人件費の格差では、まるで話にならないのである。


    財部氏が、「中国の物価も場所によってかなり違う。上海などの都市部は物価が高く、レストランのカレーのように日本とほとんど変わらないものもある。」と言っていた。しかし中国各地の物価と言っても、しっかりしたデータが簡単に入手できない。しかし中国の元の購買力平価が、現行の元レートと著しく乖離していることははっきりしている。

    限られたデータから財部氏の感想が正しいかどうか判断する他はない。6月20日の日経新聞に上海などの物価に関する記事が掲載されている。これによれば、タクシーが東京の4分の1(中国では極めて高い車を使い、これまた貴重なガソリンやガスで走るタクシーが東京よりずっと安いのである)、ビールが4分の1から6分の1、公共料金が5分の1と言う。高級百貨店関係者も「上海の可処分所得は統計の少なくとも5倍ある」と言っている。つまり世界銀行の調査の4.55倍と言う数字はかなり実態を反映したものと判断される。また筆者は、ずっと中国の物価は、表示の6倍くらいが実態と言い続けている。上海などの大都市の物価が若干高いとすれば、筆者の換算方法もほぼ正解だったことが裏付けられる。

    そこで問題になるのが財部氏のテレビでの発言(上海の物価は日本とそんなに変わらないと言う間違った発言)である。どうして財部氏がテレビでこのような発言をする必要があったかが問題である。中国が外国企業の進出が活発な原因は、とんでもなく安い人件費である。このことははっきりしている。この安い人件費を武器に中国は急速に輸出を伸ばしている(対GDPは実に23%であり、輸出の半分は進出しているのが外資企業。ちなみに日本の輸出比率は11%まで低下している。)。そしてこの人件費が相対的に安くしているのは、とんでもない元安である。まさに中国経済の生命線はこの「元安」である。中国政府はこの為替水準を維持することが、いかに重要か十分理解している。したがってこの元の為替水準については絶対触れてもらいたくないところである。

    世界の中には報道の自由度を調べたデータがあり、最下位グループの一つが中国である。つまり中国にはほとんど報道の自由と言うものがない。たしか天安門事件の頃には、朝日新聞を除き、日本の全てのマスコミを追出した国である。このような国でのレポートは、ほとんどが中国政府の意向が反映されていると考えるべきである。テレビ朝日の財部氏のレポートはまさに中国政府の望む内容であった。

    中国人なら絶対買わないような高額のスニーカや高いTシャツをわざと写したりして、「上海の物価は相当高い」と言う印象を与えるような演出がなされていた。しかしむしろテレビ東京系の「ガイヤの夜明け」で、中国で事業を行っている日本の中高年者が、上海のスーパで菜っ葉を取上げ「これがたったの10円」と喜んでいる姿の方が実態を表していると考えられる。

    中国では、日本人などの観光客に対する料金体系が、対現地の人と違うことはよく知られていることである。日本人に対する料金がバカ高いのである。日本人は金持だから、余計に金を取っても良いと言うのである。したがって上海でも外国人、特に日本人がよく行く店の料金が特別に高いことは十分考えられる。財部氏の「レストランのカレー」の話もよく調べてみる必要がある。とにかく財部氏や鈴置氏の言っていることは「人民日報」と何ら変わらないのである。


    最後に、日経香港支局の鈴置氏はいつも日本企業の怠慢を弾劾しているが、奇妙なことに足下の香港経済の苦境には一切触れない。今日、香港は不況が深刻で、失業は増え続け、失業率は7.7%となっている。工場や資本がどんどん中国本土に移転しているからである。この原因を、筆者はやはり為替と考えている。香港ドルが割高のまま中国返還がなされ、中国本土との通商が増えたからである。

    解決策は、香港ドルを大幅に切り下げることである。しかしこれが簡単にはできないところが、民主国家の難しいところである。民主国家では、色々な立場の人がいて、利害がぶつかる時には、必ずしも正しい政策が行えない。たしかに香港の資産家にとっては、香港ドルが今のように、元より割高の方が好ましい。中国製品が安く手に入るし、上海で不動産物件を購入する時にも有利である。

    同様な問題はタイでも起っている。タイの産業を守るため、中央銀行はタイバーツを安くする政策を採ろうとした。しかしこれでは輸入品が高くなると言って、消費者の声を気にした首相はこれに反対した。このように民主国家においては、政府が一方的に自国の通貨を安くする政策を採ることが難しい。独裁国家である中国とは訳が違うのである。日本においても、筆者のような円安論者がいれば、一方には円高が良いと言う人もいるのである。



来週号は、経済に関する「よもやま話」を載せたい。なお、来週号の後は3週間の夏休みとなり、休み明けの発行は9月9日である。

先週号で「丹羽教授を中心とした勉強会」への参加を募ったところ、極めて多数の方々から参加希望のメールをいただいた。会場の広さの関係もあり、これ以上希望者が増えた場合、8月ではなく、9月の勉強会に回ってもらう可能性がある。また今後、参加希望のメールには、参加者名簿の作成の関係で、氏名のほか、お住いの都道府県名と簡単なご職業のご紹介を書いていただきたい。

日経新聞は、毎月、景気討論会を行っている。今回は、特に参加者に「小泉改革」に対する評価をしていた。その結果は次の通りである
吉川洋東大教授(経済財政諮問会議議員)70点
R・フェルドマン(モルガン・スタンレー証券チーフエコノミスト)70点
香西泰(日本経済研究センター会長)75点
田中直毅(経済評論家)点数は明示しなかったが「高い評価」

いずれも高い評価である。たしかにこれはあくまでも「小泉改革」に対する評価であり、経済政策全般の評価ではないと逃げ道がありそうである。しかし今日の経済政策は、「小泉改革」とやらを念頭に置いたものである。「小泉改革」を高く評価すると言うことは、今日の経済政策を少なくとも是認するものと考えられる。

小泉首相登場以来、株価はさらに下がり、失業も確実に増えている。企業の倒産が増える一方、日本経済を支えるような新規の産業が興っている訳でもない。むしろ製造業は、倒産か中国への移転かを迫られている。犯罪も確実に増えている。新卒者の就職はますます難しくなり、増えているのはフリータだけである。さらに今日の日本で一番悪いことは、将来の展望がまったく見えなくなったことである。

このように将来に展望がなく、経済や社会がどんどん悪くなっているのに、これらの人々は、小泉改革を高く評価していると言うのであるから驚く。たしかにR・フェルドマン氏については、彼等の仕事を考えると、企業がどんどん倒産し、買収する企業のオプションが広がった方が良いことは解る。したがって彼は、いつもデフレを加速させる政策を主張し、銀行の不良債権の処理にこだわっている。しかし他の日本の有力エコノミストと言われている人々も同じことを言っているのである。

日本国民が不況で困っているのに、これらの人々は、さらにデフレを加速させる「小泉改革」を評価しているのである。このような状態では、日本が長い経済の不調から脱出できるはずがない。「日本人は、本当に頭がおかしくなったのではないか」と思われる今日この頃である。

「小泉改革」なんて、決して日本経済が不況や苦境から脱する方策ではない。むしろデフレを深刻化させるものである。「改革」と言っているが、単に人々が持っている「嫉妬心」を刺激し、それを煽っているだけである。昔から煽動家がよく使う手である。不況で苦しんでいる人々に「皆さんが苦労している一方で、こんなに楽をしながら収入を得ている人がいます。私が皆さんを代表してこの連中を懲らしめてあげましょう。」と言っているようなものである。しかしこのような連中を懲らしめても、人々の苦労がなくなることはない。そしてこのような人々嫉妬心を刺激することは、政権基盤の弱い為政者が政権を無意味に維持するための常套手段である。



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