平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




02/7/29(第262号)
チャイナースクールの落日
  • 中国経済の規模
    日本(日本だけでなくほとんどの国)と中国の間では「比較優位の原理」が働かないと言うことは、重大な問題であると言うことを先週述べた。さらに中国は、人民元を米ドルとタイトにリンクしている。つまり対中国の貿易赤字がどれだけ膨らんでも、為替がパラメータとしての機能を果たさないため、どの国も対中国の貿易赤字はどんどん大きくなる。このような状態が今後も放置されると言うことは深刻な問題を引き起す。ところで日本には狂信的な市場至上主義の経済学者やエコノミストが実に多い。日頃から彼等は、市場が機能するよう「規制撤廃」とか「構造改革」と騒いでいるが、不思議なことに中国のこのめちゃくちゃの為替操作には一言も文句を言わない(一部の例外を除き)。このような状況を見ても、これらの人々がいかに「いい加減」な存在なのかは容易に判る。

    たしかにもし人手不足になって中国の人件費が4倍とか5倍にでもなれば、日本も中国に対する競争力を回復できる。しかし中国の失業者は実質的に1億人とか2億人と言われている現状では、このようなことは100%可能性がない。端的に言えば、今日日本は、自国の失業者を犠牲にして、市場を開放し、中国のために失業対策をやっているみたいなものである。

    中国の為替政策をこのままにしておけば、中国からの製品輸入がどんどん増えるだけでなく、日本の生産拠点の全てが中国に移転することになる。たしかにこのような筆者の意見に反論はある。日本と中国の経済は、補完的と言うのである。つまり日本から中間財が中国に輸出され、それを人件費の安い中国で最終製品に仕上げ、その価格競争力が強い製品を海外に輸出すると言うパターンを補完的と言っているのである。しかし中国がいつまでも中間財を日本から輸入するとは思われない。技術が中国に移転すれば、これらの全てが国産化できるのである。今日の状況はその通過点に過ぎない。実際、家電関連のかなりの部品は中国で作るようになっている。普及品は中国で作り、特殊な付加価値のある製品は日本で作るといった「のんきなこと」を言っているのは今のうちだけである。


    先週は、中国政府の異常な元安政策が、国際的にどうして放置されているかについての一旦を説明した。実際、中国の為替政策に対して、これまで先進各国はやかましいことを言ってこなかった。たしかにこれには、中国を始め、インドと言った国々が発展途上国と言う位置付けにあったことも影響している。しかし中国の場合、購買力平価でGDPを換算すれば、日本をはるかに追抜き、世界で第二位の規模になっている。貿易額も極めて大きくなっている。また軍事費の大きさも、実質的には米国に次いで第二位と言う観測もある。もはや為替政策で特別の待遇を保障する必要はない。むしろ周辺諸国への悪影響が大きくなっているのである。


  • チャイナースクールの人々
    中国の瀋陽の日本領事館で亡命騒ぎがあり、武装警察官の行為に対して、日本国内から大きな批難が起った。筆者も、これには少し驚いた。これは日本国民の中に中国に対する、なんとも言えない鬱積した不満の現れと筆者は感じた。たしかにここ数年の間に日本国民の中国に対する感情はものすごく悪くなっている。中国との国交回復の頃と今日では、日本人の中国への見方がかなり違って来ている。特に工場が閉鎖され、それらがどんどん中国に移転していっているような地域では、中国への感情は複雑である。特に中国に対するODAに不快感を示す人々も増えている。日本の援助で、自分達の生活を脅かす工場を何故中国に造ってやらなければならないのだと人々は訴えているのである。

    このような状況で亡命騒ぎが起ったのである。中国だけではなく、人々の怒りは日本の外務省にも向けられた。特にチャイナースクールと言われる外務官僚の一群に対してである。外務省のキヤリアのうち中国語の研修を受け、主に中国との外交業務に就いている人々である。チャイナースクールの人々の役目は、日中間にもめごとが起った時に中国政府と掛け合い、問題を解決に導くことである。外務省にとっては重宝な存在である。しかしこれまでも発言や行動が中国寄りと言うことで、しばしば批難の対象になっていた。日本の公務員なのに、中国政府の代弁者のごとき言動が疎まれたのである。


    話を経済の問題に戻す。まず中国政府が考えている、今後の日中間の経済や通商のあり方である。中国政府は「中国はまず労働集約型の工業の発展に力を入れ、その次には徐々に技術的に高い工業製品を作るように持って行く。日本企業には安い労働力を提供するので、日本は技術と日本の市場を提供してほしい。日本はさらに高い技術を要する工業製品の製造に資源をシフトすれば良いではないか」と言っている。このための有力な手段が「元」を安く維持することである。

    しかしこれはあくまでも中国の勝手な希望である。そして問題は、これを実現するため、人件費が日本の20分の1、30分の1になるように為替を操作していることである。このため、日本の生産拠点を閉鎖し、本来なら移転する必要のない工場もどんどん中国に移転している。もっと正確に言えば、中国での製造品(日本の進出企業の製品)の逆輸入の影響による価格競争の激化のため、他の企業も移転せざるを得ないのである。異常な元安によって、異常な企業の行動が起っているのである。

    今日、中国のこの破壊的な為替政策に対して、日本政府は何も対抗手段を持っていない。わずかにWTOで認められている「セーフガード」の発動と言った単品毎の対処方法しかないのである。ところが驚くことに、このわずかに残された対抗手段を実施した際、この「セーフガード」の暫定発動に対して国内から批難が出たのである。

    一年前、本誌で取上げたが、谷口誠氏と言う早大現代中国総合研所長は、「セーフガード」の暫定発動を批難して、「輸入制限より構造改革」と言っていた。詳しい内容は省略するが(日経に載ったこの人物の文章を読むうち、筆者は段々腹が立ってきた)、さらに「外務省は大局的な視点から自由貿易の重要性を訴える役割を果たせ」と言っていた。この人物は外務省の出身であり、典型的なチャイナースクールの一員と思われる。彼はみごとな中国政府の代弁者であり、発言は中国政府の言っていることと「一字一句」異ならない。もちろん「元」が異常で不当な水準に維持されていることには、一切触れない。もし外務省がこの人物と同じ考えなら、「外務省無用論」に筆者も大賛成である。むしろ外務省の存在自体が日本にとって有害と言うことになる。


    今回の事件では、中国政府も驚いたはずである。一般の日本人があまりにも中国へ嫌悪感を示したのである。中国政府は、日頃接触している日本のチャイナースクールの雰囲気と一般の日本国民の感情に大きな開きがあること知ったのである。中国政府は、中国に対していつも「甘い」ことを言ってくれる「チャイナースクール」の人々を相手にしていては、とんでもないことになることに、ようやく気がついたのである。

    だいたい外務省が問題である。チャイナースクールのような専門家を養成することは、外務省にとって都合が良いかもしれない。しかしこのようなやり方は必ずしも国益に合致しない。中国との外交が一生の仕事となれば、チャイナースクールの人々が中国政府から睨まれたくないと考えるのが自然である。したがって、時には日本の国益より、自分達の中国での立場を考えた行動に走り、中国寄りの発想をするのは当然である。

    そして今回、ついに中国政府は、チャイナースクールの親玉である阿南中国大使にとって立場が悪くなるような発言を敢て行った。要するに中国は、日本のチャイナースクールを簡単に切って捨てたのである。ところで筆者は、自分の国の国益と言うものをないがしろにして、中国政府の代弁者となっているチャイナースクールに対して、中国自体がどんな感想を持っているかが興味ある。「尊敬」していたのか、それとも「軽蔑」の対象だったのかと言うことである。いずれにしても今後は、「チャイナースクール」も落日を迎えることになろう。



外務省だけでなく、マスコミやエコノミストまでもがチャイナースクール化しているのが、今日の日本である。来週号は、中国との通商問題の締めくくりとして、それを取上げる。

丹羽春喜大阪学院大学教授を中心にして、「セイニアリッジ政策」の研究会を行っており、筆者もこれに参加している。この研究会は勉強にとどまらず、この政策が日本で実行されるよう、色々な方面に働きかけを行っている。先日(7月24日)も第二回目の民主党への説明を行った。今回は民主党の中でも牧野副幹事長など経済に明るい議員に対して説明を行った。今回は、衆議院議員4名、参議院議員1名、秘書の方が数名出席された。こちらは丹羽教授と他3名が同席した。「セイニアリッジ政策」の説明した後、意見交換を行った。

出席予定の財政金融グループの海江田議員は、所用で今回欠席であった。都合をつけて、また説明を聞きたいと言うことなので、こちらもまた時間を調整して説明に窺うことになる。残念ながら、筆者は都合が悪く、今回は同席できなかったが、今後このような機会があれば、説明に同席したいと考えている。ところでこれまで本誌は民主党に批判的な論調であった。しかしこのように我々の主張する政策に耳を傾けようとしている同党の姿勢を見ていると、ちょっと見方を変える必要があると感じた。

丹羽教授を中心とした集まりは、毎月、最終木曜日に行っており、次回は8月29日の予定である。ほとんど霞ヶ関の霞山会館の一室で開かれる。約3時間の勉強会の半分は、丹羽教授の講義と質疑応答であり、残りがゲストや会員の講演である。次回の8月29日には筆者が講演する予定であり、今準備を始めるところである。出席は全くのオープンである。これまでも当「経済コラムマガジン」の読者の方が数名参加された。「経済コラムマガジン」の読者の方で、参加を希望する方がおいでなら、メールをaqua@adpweb.com宛に送っていただきたい。会費は、6,000円で、これは会場費と弁当代(ビール1本付き)他である。



02/7/22(第261号)「中国の不当な為替政策」
02/7/15(第260号)「セイニアリッジ政策への反対意見」
02/7/8(第259号)「榊原慶大教授の文章」
02/7/1(第258号)「小泉政権の本音」
02/6/24(第257号)「小泉政権への批難」
02/6/17(第256号)「サッカーのワールドカップ大会」
02/6/10(第255号)「成功は失敗のもと」
02/6/3(第254号)「為替と物価」
02/5/27(第253号)「消費税の減税効果」
02/5/20(第252号)「小泉政権のデフレ対策」
02/5/13(第251号)「酔っぱらいの論理」
02/4/22(第250号)「生産力を生まない投資」
02/4/15(第249号)「商品相場と世界の動き」
02/4/8(第248号)「経済予測のレビュ-」
02/4/1(第247号)「ニュークラシカル派の実験」
02/3/25(第246号)「ニュークラシカル派の論理」
02/3/18(第245号)「日本の所得格差の動向」
02/3/11(第244号)「通常では行わないような経済政策」
02/3/4(第243号)「セイニア−リッジ政策への準備」
02/2/25(第242号)「資金の使途(その3)」
02/2/18(第241号)「資金の使途(その2)」
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02/2/4(第239号)「確信犯(その1)」
02/1/28(第238号)「政策の実現性」
02/1/21(第237号)「国債の日銀引受け政策」
02/1/14(第236号)「経済政策の目標」
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