平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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01/11/12(第230号)
中国通商問題の分析(その2)
  • 自由貿易主義者は混乱の元
    中国との通商問題は、今後、深刻さが増すことを覚悟しておく必要がある。日本の側では、産業の空洞化の原因が中国と言う認識が広がるであろう。これによって日本の失業が増えると言う事態が現実化していることが重要である。特に中国の産業と競合する産業を抱える地域は深刻である。これは消費都市である東京の人々にはなかなか実感できないことである。例えば大都市と思われる大阪でも、政府のODAの一環である、中国への円借款に対して、憤りが起っている。大阪も中国からの輸入品の急増で、中小企業が大変なのに、さらに生産力を増す可能性の強い中国の設備投資への円借款に非難が出ているのである。

    しかし東京が中心のマスコミは、このような地方の人々の神経を逆なでする論調を毎日続けている。先日もテレビに登場したコメンテータは、「タオルは中国にまかせ、日本はもう作るな」とまで主張していた。またWTOにコメントを寄せる経済学者やエコノミストは、「日本の農業保護政策がWTOの交渉の障害になっている」と昔ながらの陳腐なセリフを並べて満足している。中国からの輸入が急増することに対するセーフガード発動に対し、「これは自由貿易に反する」と批判する人々の意見が圧倒的に多くマスコミに登場する。

    これらの人々は自由貿易論者であり、市場経済至上主義者である。筆者は、市場の価格調整メカニズムを決して否定しない。しかし市場がいつも正常に機能するとは限らず、その場合には政府が積極的に介入すると言う考えである。

    また市場が効率的に機能するには、規制などの撤廃でより、市場を競争的にする必要がある。しかし世の中には、どうしても規制緩和が及ばない分野があり、そのような分野の人々と常に競争にさらされている人々の間には、大きな所得の格差が生じる。つまり単純で一律的な規制緩和は所得の分配上の問題を生じる。したがって国内の所得の格差を一定の範囲に押さえるには、常に競争にさらされている分野の保護政策と言うものがどうしても必要になる場面がある。そしてこれらのより競争的な産業は特に地方に多く配置されている。ところが中国からの製品の輸入は、まさにこの日本の地方の経済と競合している。


    問題は、世の中の自由貿易主義者が、全て中途半端な論理で意見を述べいることである。究極の自由貿易の姿は、まさに世界各国の境界をなくした状態を前提にすることになる。しかしそのようなことは絶対に不可能であり、あり得ないことである。おそらく彼等の本心を全て述べれば、彼等は世間の誰からも相手されないはずである。そして今日、彼等の中途半端な意見が世の中を混乱させているのである。所詮、今日行われている自由貿易化も妥協の産物である。したがって各国が自国の利益を優先した上で、交渉に臨むことは当然のことである。

    世界には国境があり、各国は各々通貨を発行している。そしてこの通貨のレートが変動すると言うことは重要である。同士の貿易で不均衡が生じた場合、これを是正するのが為替レートの変動である。たしかに今日の経済では資本取引が活発であり、貿易収支や経常収支だけが為替の変動要因ではない。しかし長い目で見れば、経常収支が為替のトレンドを決めていると筆者は考える。したがって本来、為替レートが変動することが、貿易による国内経済への影響をシャットアウトする手段のはずである。ところが中国はこの為替を操作し、元の価値が対外的に上がらないようにしている。

    日本には中国の為替操作への対抗手段がない。今日中国の影響が特に大きいのは、先程述べたように日本では地方である。したがって日本の地方だけ違う為替を用いて、これを元にリンクさせれば中国に対抗できるのである。しかしこのアイディアは非現実的と非難され、とても受け入れられないであろう。

    ところが自由貿易主義者からは、この中国の為替操作について、特に意見を聞いたことがない。筆者には、元々彼等は国境の存在とか、各国が夫々通貨を発行していること事態を否定していると思われるのである。つまり彼等の考えは、世界中単一の通貨を前提にしていると思われる。たしかに世界中が金本位制の時代には、かれらの考えが擬似的に実現していたのである。

    自由貿易主義者が黙っていることがもう一つある。それは「移民」のことである。彼等の考えは、人の行き来が自由と言うことを前提にしている。あたかも国内を移動するかのごとく自由に国境をまたいだ人の移動である。しかし世界中で人の行き来が全く自由と言う国はない。「移民」を認める場合でも、先進国の場合、厳しい制限があるのが普通である。所得の低い国から大量の失業者が自国にやって来ることは、どの国も困ることである。

    以前、本誌01/6/11(第211号)「深刻な中国との通商問題」で、「日本がバブル景気に沸いていた頃、日本は人手不足であった。その時、ある中国の高官が、日本の政治家に「日本は人手不足と言う話を聞いている。何なら中国から人を貸しましょうか」と言った。そして貸すと言った人数が1,000万人と言うことで、その政治家は腰を抜かすほど驚いた。」と言うエピソードを紹介した。しかし今日中国が日本からの進出企業を使ってやっていることは、まさにこの政策である。1,000万人中国人を日本に移民させることと同じ効果のあることを行っているのである。進出企業が中国の失業者を一人雇えば、日本の雇用が一人減ることになる。ところが自由貿易主義者から見れば、これは当然の流れと考えるのである。


    自由貿易主義者は、各国の関税を低くし、各種の貿易障壁を取り除けば、世界貿易が活発になると主張する。そしてこのことによって各国は経済成長が実現でき、人々は幸せになると言う。彼等は、まさにあり得いユートピアを前提に話をしているのである。しかし現実はそうはなっていないのである。さらに自由貿易主義者が全く想定していない、中国のような為替を操作している国が、大きな存在として登場して来たのである。

    中国に日本の企業が移転し、国内に失業者が増え、日本国内の社会が荒れても、中国が助けてくれるはずはない。これは日本の政府の責任である。ところが自由貿易主義に影響を受けた経済学者やエコノミストが、「中国からの逆輸入の急増を、これは中国の問題ではなく、日本の企業の構造改革が遅れているから」と言っているのが今日である。筆者が強調したいのは、まず日中の通商問題は、日本に問題があるのではなく、中国に問題があることだけははっきりさせておくことである。


  • 中国は浦島太郎
    中国の経済を脅威と考える人と中国経済はボロボロと言う人がいる。筆者は、中国経済はボロボロであるが、脅威と考える。もっと正確に言えば、中国国内の経済はボロボロであるが、対外的には大きな脅威である。さらにボロボロだからこそ脅威とも言える。ところで筆者は、決して中国経済の専門家ではない。しかし専門家でないからこそ見えてくる部分もあると考える。

    中国の経済のレベルはちょうど日本の高度成長期と同じくらいと考えられる。しかし中国の実際の経済の動きと、日本が高度成長期に経験したことには大きな違いがある。筆者は、これが中国政府の予想や予定を大きく狂わせていると考える。そしてこの狂いが、最終的には世界に対して脅威になる。

    日本では高度成長期に何が起ったかと言えば、それは「物価の上昇」である。「物価の上昇」の原因は、人件費の高騰であった。そしてその背景には深刻な人手不足があった。ところが中国では毎年高い経済成長率を実現していても、人手不足や物価上昇が一向に起らない。

    日本の高度成長期には、設備投資がどんどん行われ、最初、製造業、つまり第二次産業の求人が大幅に増加した。これによって日本中で人手不足が起り、第三次産業、つまりサービス業の人手不足も深刻になった。この人手不足によって第二次産業だけでなく、第三次産業の賃金も上昇した。そして賃金の上昇によって物価が毎年上昇することになった。

    ところで日本の高度成長期の物価上昇の主な原因は、サービス業や農産物の価格上昇による。卸売物価が安定していたように、工業製品の価格は上昇していない。この分野では技術進歩による生産性の向上が継続的に起っていたからである。つまり製造業における賃金上昇は生産性の向上の範囲内であった。したがって日本製品は対外的に強い競争力を維持することができた。むしろ当時の物価上昇は、人手不足による賃金上昇を背景にしたそれ以外の産業の価格上昇による。つまり日本の物価上昇は生産性格差インフレと言う要素が強かった。

    日本の高度成長期には、この他にも大きな出来事が二つある。一つは、地方から人手不足の都会への大きな人の流れである。これによって都市の過密と地方の過疎を同時に生んだ。もう一つは、地方への生産拠点の移転である。製造業は、工業用地と人手を求めて地方に工場を進出させたのである。


    ところが今日の中国では、これらの一連の日本が高度成長期に経験したことが起っていないのである。物価の上昇もなければ、賃金の上昇もない。地方から都会に人がやってきてもしばらくすれば戻ってしまう。工場は沿海部に集中し、地方には進出しない。人手不足どころか中国には失業者が溢れている。


    中国は人口が多すぎるから、日本の高度成長期と比較できないと言う意見があるかもしれない。しかしこのような事柄が、今後の日中間の通商問題を考える上で重要なポイントになると確信している。中国の経済成長の経路が日本の場合と違う原因は、経済の高度成長をものすごく遅れてスタートさせたからと筆者は考えている。日本より40年、韓国や台湾より15年から20年遅れたのである。言わば中国は「浦島太郎」である。

    先に述べたように日本の高度成長期を引っ張ったのは製造業である。しかしこの製造業もその後、過当競争と継続的な円高傾向によって、生産性の向上を常に行うことを強いられた。生産性の向上のため、工場はなるべく人手を使わない生産システムをどんどん採用することになった。余った労働力は生産現場から事務や販売に回った。社会的にも第二次産業の就労人口が減り、第三次産業の就労者が増えている。つまり工場からサ−ビス業や建設業に労働者が移動しているのである。この傾向は世界の先進国の間では共通している。

    話はちょっとそれる。面白いことは、以前は第二次産業の就労人口比率が高い国ほど経済成長率が高く、一方、サービス業の比率を早く高めた国ほど低成長に悩んだ。前者は日本やドイツであり、後者は米国や英国である。為替も前者が強く、後者が弱かった。ところが中国や東欧の台頭に期を合わせるように、日本とドイツの調子が悪くなったのである。ところでこの産業構造と経済成長については別の機会に取上げることにする。


    中国は、経済成長のため、お定まりのように工業化を積極的に進めた。まさに先進国が歩んだ道である。中国は、沿海部に経済特区を設け、ここに外国の企業を招いた。信じられないくらい安い人件費に気が付き、外国企業の中国への進出ラッシュが起っているのである。経済特区はまさに戦前の租界である。外国企業は資本と技術をここに持込み、極めて価格競争力の強い製品を作ることができる。また外国企業のこれらの技術はいつのまにか中国の企業に移転している。外国企業からの最新の技術の移転は、改革開放を進める中国政府の狙いの一つでもあった。

    しかし発展途上国と言うより、後進国である中国が外国企業から最新の技術を取入れたことは、別の問題を引き起すことになる。今日の先進国の製造現場は、以前に比べずっと少ない労働者で生産を行うシステムになっている。つまり中国は生産性の高い先進国のシステムをそのまま取入れているのである。したがって生産量が多い割には人手を必要としないのである。このことは中国政府の誤算とも言える。本来、失業が解消し、人手不足に陥るほどの経済成長が実現しているはずなのに、中国国内の失業は減らないのである。さらに生産性の高い工場がどんどんできたため、たいていの物が過剰生産になっている。最近登場したはずの携帯電話も、既に過剰生産となっており、価格は暴落している。

    中国が先進国の生産システムを取入れ、急速に近代化したことは、色々なひづみを生んでいる。本来、中国は高度成長によって色々な問題を解決する予定であった。貧困問題もその一つである。しかし貧困は沿海部など国の一部では達成できたと言うのが現状である。むしろ解決に到っていない問題の方がずっと多いのである。そして中国が今日までの延長線上での政策でこれらを解決しようとすると、日本だけでなく、諸外国とさらに大きな摩擦を生じることになる。さらに国内的にも経済が「どつぼ」に突っ込む可能性が強い。またWTOへの加盟は一つの賭である。



来週号では、中国が現在抱えている経済問題が、日本の経済問題とよく似ていることを述べる。浦島太郎の中国は、発展途上国を飛び越え、まさに日本と同じような問題に直面しているのである。

同時テロ後、世界の株式市場は急速に下落したが、度重なる利下げや景気対策によって持直している。米国の株価はかなり戻している。金余りによる金融相場である。このままでは不況下の株高と言う現象になる可能性がある。しかし日本の株価だけは冴えない。これも日本政府の政策がなにもないからである。


普通の電話を使うインターネット電話。市外一律3分20円、携帯電話へも割安。音質も良好。


01/11/5(第229号)「中国通商問題の分析(その1)」
01/10/29(第228号)「経済政策の科学性」
01/10/22(第227号)「9月11日の以前と以降」
01/10/15(第226号)「カルロス・ゴーンと上杉鷹山」
01/10/8(第225号)「金融の量的緩和の終着駅」
01/10/1(第224号)「金融の量的緩和」
01/9/24(第223号)「「インフレ目標」と「調整インフレ」」
01/9/17(第222号)「対中国、WTOの特例保護措置」
01/9/10(第221号)「「生産性」と「セイサンセイ」の話」
01/9/3(第220号)「今日の日本経済の諸問題」
01/8/6(第219号)「支離滅裂な構造改革派」
01/7/30(第218号)「日本は建前の国に」
01/7/23(第217号)「日本を滅ぼす松下政経塾」
01/7/16(第216号)「戦略的パートナシップ」
01/7/9(第215号)「Let it be !」
01/7/2(第214号)「日本における起業」
01/6/25(第213号)「小泉政権の構造改革」
01/6/18(第212号)「需要があっての経済成長」
01/6/11(第211号)「深刻な中国との通商問題」
01/6/4(第210号)「中国の為替政策」
01/5/28(第209号)「中国との通商問題」
01/5/21(第208号)「消費の拡大策」
01/5/14(第207号)「消費不振の分析」
01/5/7(第206号)「小泉政権雑感」
01/4/23(第205号)「「IT革命」騒ぎの舞台裏」
01/4/16(第204号)「グリーンスパンのかかった二つ目の「罠」」
01/4/9(第203号)「グリーンスパンのかかった二つの「罠」」
01/4/2(第202号)「銀行の不良債権問題(その2)」
01/3/26(第201号)「銀行の不良債権問題(その1)」
01/3/19(第200号)「与党の緊急経済対策」
01/3/12(第199号)「自分の家の前の掃除」
01/3/5(第198号)「公共投資の経済効果」
01/2/26(第197号)「公共事業雑感」
01/2/19(第196号)「日本の経済政策の方程式」
01/2/12(第195号)「老人の貯蓄と経済(その2)」
01/2/5(第194号)「老人の貯蓄と経済(その1)」
01/1/29(第193号)「老人と貯蓄(その2)」
01/1/22(第192号)「老人と貯蓄(その1)」
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