平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




01/6/11(第211号)
深刻な中国との通商問題
  • 通商問題の今後
    中国との通商問題の核心が、中国の異常なほど低い為替水準の維持政策と先週号まで説明した。そして中国が、簡単には現在の為替政策を変更するとは考えられないことも述べた。そして今後大きくなる思われる中国との通商問題を考える場合、ネックは日本国内の考えが統一されにくいと言うことである。一言で「国益」と言っても、日本全体で見れば、色々な形で中国との貿易に関わっており、立場によって利害が異なり、考えがまとまらないのである。したがって中国から見れば、日本は御しやすい相手になる。つまり日本のような民主国家は、中国のような全体主義的な国家との交渉が難しい。後ほど民主化の進んだ台湾の事情にも触れるが、同じような困難さは、台湾と中国の間でも発生している。むしろ台湾の方が深刻と言えるかもしれない。

    「い草」農家が、中国産の「い草」製品の大量流入で窮地に立たされ、中には自殺に追込まれた人々も出ていると言っても、中国はまともには取合わないであろう。「日本のさもしい業者がやって来て、中国人が使いもしない「い草」を農家に栽培するよう言ったのである。これは日本人同士の問題である。」と主張するであろう。むしろ「い草」を栽培させておいて、セーフガードで引取り量を制限するとは何ごとかと抗議しているのである。さらに日本の輸入業者の常套句は「我々は消費者の利益を考えている」である。彼等は、中国の異常な低為替政策によって、日中間ではとてもまともな競争ができないことが分かっていながら、こう言うのである。彼等は「消費者の利益」と必ず言うが、本音は、自分達の利益である。商売にはつきもののセリフである。

    また日本国内の競争で負けそうになった日本の企業も、中国の企業に生産委託して、価格競争で優位に立つことができる。この場合も彼等は「消費者の利益」と言うのである。そして追い討ちをかけるように、「悪いことは言わないから、競争に勝ちたかったら、生産拠点を中国に移しなさい」と中国も言うはずである。実際、ニット業界のように、中国に生産拠点を移したところが多すぎて、セーフガード申請に必要な賛成企業数が全く足りず、セーフガードの申請を断念する業界まで出てくる始末である。

    今後、このようないびつな各国の為替水準をそのままにして、自由貿易と言う立て前だけでことが進行する事態は最悪である。メーカはより条件の良い国にどんどん生産拠点を移すことになる。さもしい企業だけでなく、世界的な競争を行っている企業は、必然的にそうせざるを得なくなるのである。そしてそのより良い条件とは、中国に見られるように、実力よりずっと低い為替水準を維持することが第一番目に挙げられる。したがって今後世界で競争しながら生残るためには、全ての企業が生産工程の一部、あるいは全部を中国などに置く必要に迫られることになりかねない。たしかに企業によっては、雇用確保のために国内の生産にこだわるところもあるかもしれないが、これは事業と言うよりもはやボランティアに近いものである。


    もし中国の元が適正な為替水準であれば、おそらくこれだけの企業が中国に進出することもなかったと考えられる。たしかに元が適正な為替水準でも、中国の人件費は安いことは間違い無く、ある程度の企業が中国に生産拠点を持つことは考えられる。しかし今日のニット業界ような異常な状態にはならなかったはずである。筆者は、決して企業間の競争を否定しているのではなく、またその競争がグローバル化することも承知している。しかしその競争はなるべく同じ条件で行われるべきと考える。少なくとも、現在のような異常なまでに低い元の為替レートは是正されるべきである。現状では競争にまるでなっていない。

    かりに元が適正な為替水準なら、日本製品と中国製品は激しい競争になると考えられる。競争の結果、日本の市場の一定の割合は中国製品に占められるかもしれないが、現状のようにほぼ全滅と言う状況にはならないと考える。また日中両国製品の住み分けと言うことも可能と考えられる。今日の中国の為替による有利さは、日本企業の努力の範囲を大きく超えており、話にならないのである。


    ところが日本のマスコミ、エコノミストさらに政治家のこの問題に対する認識が全く狂っているのである。驚くことに国内からセーフガードの発動に対して色々批判が相次いでいる。日経新聞にも毎日のように、セーフガードの発動に対してクレームと思われる意見が数多く載っている。「流れに逆らうのは非効率」(井本省吾編集委員。)、「日本国内で保護主義の動きが強まっている」(大機小機・複眼)と言う具合である。ユニクロの社長も異常なほどマスコミに登場し、「保護された産業が生残った例はない」と毎回同じことを言っている。さらに今後は、ユニクロは中国から米などの農産物の輸入も手掛けるとも言っている。

    このユニクロの社長は、最近各方面でもてはやされおり、よくマスコミにも登場するが、よく分からない人物である。中国人の人件費が異常に安い原因は、本誌が主張しているように元が実態よりずっと安く設定されているからである。決して大量生産だけによって製品が安いのではない。この事情を本当に知らないのならこの社長はバカである。またこのことを知っていながら、今日のような発言を繰返しているのなら、この人物に問題があると考えざるを得ない。

    また日本の製造業が直面している問題は、保護政策で解決するとかしないとかの種類のものではない。発展途上国の為替政策が問題であり、保護政策以前の問題である。そうでなくても大量の輸入品に市場を奪われている業界は、実力以上の円高のハンディキャップも背負っているのである。また一般国民の間にも誤解がある。今日、セーフガードが発動されたのは、ほんの一握りの農産物であり、自分達には関係ないと考えている。しかしこのような動きは近い将来、他の全ての産業にも及ぶと言う現実である。

    しかし小泉内閣には全くこのような認識はない。それどころか先週号で述べたように、竹中経済財政担当大臣は、農水省の役人に対して講演を行い、セーフガード発動を牽制している。ところが彼は「セーフガードの猶予機関200日で対抗できる核心がなければ、セーフガードの申請を行うべきではない」と表現している。問題の核心が為替なのであり、圧倒的な価格差が存在し、200日間で解決できる訳がないことは誰でも分かっている。実に卑怯な言い方である。つまり彼は事実上セーフガードの申請はするなと言いながら、自分の逃げ道は作っているのである。本当に当事者は救われない。しかしセーフガード発動によって、大変な事態が起っていると言うことが世の中に知られただけでも今回の騒動は意義がある。


  • 中国の通商問題は国際的な問題
    中国との通商問題の解決は、小泉政権に全く期待ができない(他の問題もそうであるが)。ポスト小泉政権を待つほかは無い。ただでさえ解決が難しい問題なのに、時間だけが無為に過ぎていくことになる。その間にどんどん問題が大きくなることが危惧される。

    このような現状ではあるが、この問題に対しては、二つの動きに筆者は注目している。いずれも国際的な動きである。考えて見れば、中国の為替政策の影響が及ぶのはなにも日本だけではない。先々週号で英国への中国人の密入国の話をしたが、中国の異常に低い為替レートは世界各国に影響している。またこれは先進国だけでなく、他の発展途上国の政策にも影響する。

    筆者の予想では、他の発展途上国はいずれ、通貨の切下げに動かざるを得ないと考える。つまりこれから各国の間で為替の切下げ競争が起る可能性が強い。実際、当初ASEAN諸国に生産拠点を設けていた日本の企業も、次々に中国にシフトしている。ちょうど中国が為替を大幅に切下げた頃からである。

    ただ各国には色々と事情があり、まだ為替政策は一律の動きにはなっていない。たしかにマレーシアのように為替水準を維持しようと言う国もある。またタイのように低金利政策により、タイバーツが下落し過ぎたと言う理由でタイ中銀の総裁は解任された国もある。しかし自由貿易を前提にする以上、最終的には、これらASEAN諸国が中国に対抗するとしたなら、通貨の切下げが一番有効な手段と言う結論に達すると考えられる。もしこれらの国々が次々に通貨の切下げに走れば、改めて中国の為替政策がクローズアップされると言うものである。

    日本と並んで、中国からの消費財の輸入が急増しているのが台湾である。台湾の場合は、台湾の企業が中国に直接投資を行い、この現地企業からの輸入品で市場が溢れている。この影響で台湾の物価上昇率もマイナスになり、台湾もデフレ経済の入口に立っている。また米国へのハイテク製品の輸出で、中国と競合するケースが増えている。皮肉にも台湾企業が資本を投下した中国企業との間で競争が起っているのである。もちろん為替が異常に安い中国の生産品の競争力はとても強い。

    このように台湾は生産基地としての地位が揺らいでおり、今日正念場に立たされている。そう言えば、昔は養殖うなぎの輸入先と言えば台湾であったはずが、今日では、中国の日本への極めて有力な輸出品がその「うなぎ」である。これが年間7億ドルにもなっており、既にセーフガードが発動された三品が比べものにないくらいの規模にまで成長している。したがって中国にとっては、「うなぎ」にセーフガードが発動される事態をなんとしても阻止したいところであろう。

    台湾の対中国の貿易問題の推移は、ある意味で日本にも参考になる。台湾は、競争力を回復する方法として台湾ドルの切下げを目論んでいる。しかしこの動きを察知し、台湾の株式が下落した。また民主国家となっている台湾の人々が、簡単に物価が上昇する可能性の強い通貨の大幅な切下げを容認するか難しいところである。特に最近台湾の人々の間では海外旅行が盛んになっており、民主国家である台湾が、どこまで台湾ドルの切下げを実行できるか興味がある(同様に旅行好きが多いドイツでも、通貨が弱くなることに抵抗感が強い)。


    世界的な動きで、もう一つ注目されるのはNGO(非政府組織)の動きである。NGOがWTOなどの国際機関の動きに猛烈に反対している事情については、本誌でも以前取上げたことがある。残念ながら日本のマスコミは、NGOが暴れ回っているところだけは報道するが、彼等の主張をまともに取上げたことがない。これでは何故彼等は経済のグローバル化に反対しているのか、誰にも解らないのである。もっとも話合うより前に暴れ回っている彼等に、筆者も違和感を持っているのはたしかである。しかし今日中国の経済の発展の方向を見ていると、彼等が危惧している事態が少し理解できる。

    暴れ回っているNGOは、ほとんどが欧米の先進国の人々で構成されている。経済のグローバル化が、人々に幸福を与えるどころか、地場産業をどんどん窮地に追込む事態に、彼等が危機感を持っても不思議はない。日本のマスコミ報道だけでは信じられないかもしれないが、彼等の行動は欧米の庶民レベルでは相当賛同者がいるのではないかと筆者は見ている。したがって彼等の政治的な影響力を無視することは間違いである。ただ彼等が、どの範囲で経済のグローバル化に反対しているのかはっきりしないのも事実である。

    そして筆者が最も注目していることは、このNGOのターゲットが中国に絞られてきたと言うことである。これも日本のマスコミが報道しないことである。つまり日本のばかな経済学者が、セーフガードの発動は日本の保護主義の流れとか色々とポイントのずれたことを言っているが、中国は今や世界中で問題になっているのである。ただ筆者は、中国で問題になるのはその為替政策と言っているのに対して、NGOが中国の何を問題にしているのかもう一つ分からない。また欧米経済に対して、中国がどれだけの大きさの存在になっているのかも分からない。さすがに筆者も、NGOの主張に簡単には賛成できないのである。


    WTOの活動は、各国の貿易が活発になるよう、その障壁を取り除くことである。貿易の大半が先進国の間で行われている時には、主な障壁は関税や補助金であった。また、先進各国は変動相場制を採用し、為替水準は市場で決まる。これまで為替水準自体は特に問題になることはなかった。先進国の場合、実際の為替水準が購買力平価と異なると言っても、一定の範囲に収まっていた。たしかにあまりにも貿易のインバランスが大きくなった場合には、先進各国の間で話合いが行われ、ある程度の調整を行うとはあった。たとえばプラザ合意の結果、ドル安・円高誘導が行われた。また国よって好ましい為替の水準があり、必ずしも自国の通貨が弱いことを善しとはしない。前述したようにドイツのように、強い通貨を好む国もある。

    このようにWTOが各国の為替水準を問題にすることは、これまではなかった。たしかに発展途上国が、購買力平価より著しい低い水準に為替を設定していたことも、暗黙のうちに容認されていた。これは発展途上の貿易額が、全体から見れば極めて小さかったからである。むしろこのような低い為替水準でも、なかなか発展途上国が経済成長できなかった時代が続いた。しかしここ10年くらいで状況は大きく変わった。アジアを中心に、投資の増加と技術の移転が急激に進み、生産力を高めたのである。現在のアジア諸国の為替水準はまちまちであり、一概には言えないが、中でも中国の為替水準が極めて低いことは事実である。特に数年前中国が大幅な切下げを行ったため、この傾向が特に顕著になった。

    中国の為替政策は、関税や補助金よりずっと大きな障壁にもかかわらず、これまで問題にされなかったことが不思議である。これは関税や補助金が客観的な数値で示されるのに対して、為替の適正な水準と言うものが分かりにくいのも一因であろう。たしかに筆者のように、購買力平価で比べるのも一つの方法であろうが、これも絶対的なものではない。しかし分かりにくいから、為替については不問とすると言う考え方はおかしいのである。他国の産業を根こそぎにするような輸出がなされている現実を見れば、中国の為替政策が異常と考えるべきであろう。むしろこれを自由競争の結果だから甘受すべきと言うばかな人々が日本に多いことが大問題である。中国の会社経営者が120万円しか年収がないのに豪邸に住んでいたり、いつまでも中国人の賃金が日本人の30分の1と言うことが、何故おかしいと考えないのであろうか。

    日本がバブル景気に沸いていた頃、日本は人手不足であった。その時、ある中国の高官が、日本の政治家に「日本は人手不足と言う話を聞いている。何なら中国から人を貸しましょうか」と言った。そして貸すと言った人数が1,000万人と言うことで、その政治家は腰を抜かすほど驚いたと言う新聞記事を読んだことがある。中国のこの高官は冗談を言っていたのではない。今日の中国は、まさに当時この中国の高官が言っていたことを、日本企業を使って実行しているようなものである。しかも失業者が溢れている今日の日本に対してである。日本の政府や政治家は、自国の失業者をほったらかしにして、本気で中国の失業者の面倒を全部見るつもりなのであろうか。



中国の通商問題については、まだまだ述べることがあるが、それはそのうちまた取上げることにする。来週号では、なぜ米国が10年もの長い間好景気を持続できたたかについて述べる。小泉首相を始め、訳の分からない多くのエコノミストは「構造改革なくして景気回復はない」と言っている。しかしこれが大嘘であることを、米国経済を参考に説明したい。あの米国でさえ、景気を引っ張ったのは需要の増大である。

依然、小泉政権は高い支持率を維持している。しかし本誌は、この小泉政権を一貫して非難している。筆者は、小泉氏と言う人物が首相に向かないと言うよりも、政治家に向かないとずっと思っていた。しかしこれは小泉総理だけの話ではなく、多くの政治家に言えることである。特に二世、三世議員の特徴でもある。彼等の目線が問題である。これらの政治家は目線を低くすることがない。末端で起っていることに興味がないのである。したがって今日社会や経済がどんなに困難な方向に進んでいるのかさえ感知できない。たとえば今週号まで取上げた中国通商問題などは、もっと以前から起っていたはずである。反対に彼等が異常に興味を示すのは、マスコミが取上げるか、あるいは取上げる可能性のある問題だけである。マスコミが取上げそうなことは、どんなにつまらないことでも問題にするのである。




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01/6/4(第210号)「中国の為替政策」
01/5/28(第209号)「中国との通商問題」
01/5/21(第208号)「消費の拡大策」
01/5/14(第207号)「消費不振の分析」
01/5/7(第206号)「小泉政権雑感」
01/4/23(第205号)「「IT革命」騒ぎの舞台裏」
01/4/16(第204号)「グリーンスパンのかかった二つ目の「罠」」
01/4/9(第203号)「グリーンスパンのかかった二つの「罠」」
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01/3/26(第201号)「銀行の不良債権問題(その1)」
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