平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




01/6/4(第210号)
中国の為替政策
  • 為替政策は国策
    本来、為替水準は市場で決まることが、少なくとも先進国の間では常識となっている(乱高下時の政府の為替介入を除けば)。しかし中国の人民元については、常に中国の通貨当局が厳しく管理している。以前から元は米ドルと一定の変動幅でリンクしている。しかしその水準は、中国が勝手に決めているのである。たしかにこのようなことは発展途上国によく見られることではある。

    そして数年前、中国は元を大幅に切下げている。その理由が、成長著しかったASEAN諸国との競争の上で優位に立つためであった。また外国が人民元を国外に持出すことを禁止している。しかしその後、世界経済における中国の存在が急速に大きくなった。もはや中国を発展途上国と考えることはおかしい。したがって筆者は、このような発展途上国時代の態勢に固持する中国とは、今後、これまでのような貿易関係を漫然と続けることに問題があると考えている。

    4年前、アジア通貨危機の際、中国は為替水準を維持すると宣言した。これに対して、内外のマスコミは「責任感のある行動であり、さすがは中国である。それに引換え日本は・・」と言う論評がなされた。筆者は、何を言っているのかと思った。中国はその前に大幅な通貨の切下げを勝手に行っていたいたのである。たしか以前は1元が25円くらいと記憶していたが、いつのまにか15円くらいになっていたのである。さらに中国は大きな貿易黒字を持っており、アジア通貨危機の際に通貨を切下げる状況になかった。つまりマスコミの論評はまるで的外れなのである。筆者は、日本のマスコミの、こと中国に対するコメントがいつもポイントがずれていることに危惧している。


    中国の基本的な国策は富国強兵である。このためにも経済の発展は欠かせない。この手っ取り早い方法が外資の導入である。しかしこれは単に資金を調達するだけと言うのではなく、外国企業を誘致し、技術も同時に取入れているのである。(特に日本の場合は直接投資と言うものは少なく、生産委託、つまり技術だけを提供しているケースが多い。)さらに出来上がった製品は、進出してきた外国企業が売り捌くので、中国が自分で商品の販路を開拓する必要はない。したがってかなりのスピードで輸出競争力を強化できたのである。日本が外資を拒否し、販路も地道に開拓していった戦後の高度成長路線とは、全く正反対のパターンを中国は採用しているのである。

    外国企業の誘致は中国にとって、非常に重要な政策である。外国企業は資金だけでなく、技術の移転にもなる。この技術がいずれ中国全土に広まれば、中国の全体の工業生産力のレベルアップにもなるのである。このための最大のインセンティブが、極めて低い為替レートの維持である。これが、発展途上国によく見られる税金の優遇などが問題にならないくらい強力なインセンティブになる。信じられないくらい低い労賃(中国国内では元は価値があることから、労働者にとっては決して少ない賃金ではない)で、結構品質の高い製品が製造が可能なのである。

    ところで中国国内市場では、進出企業は同じ条件で競争することになる。労賃が安いことは共通の条件であり、それだけでは比較優位には立てない。つまり外資にとって、中国国内での生産物が特別な価格競争力を持つのは、これらが第三国に輸出される場合だけと言うことである。
    今日日本でセーフガードが発動されている畳表やネギは明らかに、日本国内向け商品である。畳表は日本人しか使わないし、ネギも日本人の好む種類のものであり、中国人向けには出荷できない。


    中国にとって、異常に低く為替水準を維持する政策は重要である。これによって技術移転を促進し、これらの外資企業が輸出することにより外貨を獲得でき、さらに中国国内の雇用も確保される。特に所得が低い内陸部における輸出用農産物の生産と、内陸部の人員を使った沿海部の工業生産は大事である。特に低所得の内陸部は、反政府勢力である気行集団の温床となっており、これらの地域の経済状態の改善が急務である。

    したがって中国は、現在の為替政策を変える気は全くない。むしろ他国の為替動向には神経質である。先般一時的に円安が進んだ際には、「130円より安くなるようなら元を引下げる」と脅しに似た発言を行っている。筆者に言わせれば、とんでもないことである。先週号からの本誌を読んでもらえば、この事情はご理解できよう。

    さらに中国にとって為替政策は、国際的な地位や覇権を得るためにも重要である。アジアで中国のライバルと目されるのがインドである。近い将来、アジアでの対立軸の図式は、中国・パキスタン対インド・米国と言う観測もある。そのインドの為替政策が、中国と似ている。インドルピアの為替レートは、購買力平価の実に5.07倍(中国は4.55倍)である。中国とインドの違いは、まだインドには外資の進出がそれほど目立っていないことである。また日本から進出している企業でも、スズキのようにインド国内の市場をターゲットにしている場合には特に問題はない。
    いずれにしても中国にとってインドは覇権争いの相手である。そのインドが為替政策を変更しないのに、中国が単独に変える可能性はほとんどゼロである。

    たしかにインドは今日それほど問題になっていないが、将来、中国と同じような政策(輸出企業の誘致)を積極的に行うようになれば、同様の問題が起る。
    景気の良いはずのシリコンバレーで米国人のIT技術者が仕事にあぶれ、ホームレスになっている姿をテレビで見たことがある。これらの人々から職を奪っているのは、インド人と中国人である。「インド人はIT技術に長けているから」と言う的外れの解説があるが、はっきり言えば給料が安くても済むからである(安い給料でもインド人にとっては望外の高給)。景気が良くなっても物価が上昇しない現象をニューエコノミーと言っていたが、この背景にはこのようなインド人と中国人の存在と両国の為替政策が深く関与していることを見逃してはならない。

    中国やインドと言った人口が多く、失業者が多い国にとって、今日の為替水準を維持することは有効な失業対策である。しかしこのように購買力平価よりとんでもなく低く為替を維持することは、結果的には相手国に対する失業の輸出政策になる。たしかに発展途上国が為替を含め、ある程度国内産業を保護する政策は認められても良い。しかし現在の中国のように存在が大きくなり、日本の農業や地場産業を次々に潰すような事態になれば、話は別であり、当然問題にすべきである。特にこの大きな流れは地場産業からハイテク産業に及ぶのは必至である。

    さらに日本には、中国の経済規模を過小に見る傾向がある。しかしこれは現在の為替レートで換算した場合の話であり、購買力平価で換算すれば、中国のGDPは既に日本の1.5倍もある。つまり実質的な経済規模では、日本は世界の第二位ではなく第三位であり、中国が第二位である。ちなみにインドの購買力平価で換算したGDPは日本の7割くらいである。

    長い間、発展途上国の経済成長は難しい状態であった。一時は、先進国との格差が広がる一方であり、南北問題と言われていた。しかしアジア各国のように、教育やインフラ整備に力を入れてきた地道な努力が報われる時代になったのである。さらにIT技術など最新技術は、日本などよりも、これらの国々に恩恵が大きいかったのである。たとえば携帯電話は、固定電話網が完備している日本よりも、通信インフラ設備の後進国であるこれらの国により大きなメリットを与えた。これらの技術により発展途上国が、先進国をキャッチアップするスピードが格段に早くなっているのである。ところが日本人のようにこれらの国の経済に対する見方が旧態依然としている。発展途上国の為替政策に関心がないのも、その一つである。


  • 解決困難な中国問題
    大きな貿易黒字を持つ中国は、ドルを買上げ、人民元を国内に放出している。ところで本来、国内の通貨の流通量が増えれば、物価が上昇するはずである。しかし中国には多くの失業者がおり、特に内陸部の低所得者層は、沿海部に出稼ぎに来て、安く労働力を提供している。また一つ重要なことは、中国も日本と似ており、過剰貯蓄体質の国である(両国は世界的にもめずらしい国である)。中国政府もゴールデンウイークなどで休日を増やし、消費を喚起することに必死である。さらに中国にとって貿易額は、経済全体に占めるウエートがまだ小さい。このような理由で、中国では、国際競争力を阻害するほどの物価上昇は起っていない。

    中国は、依然日本から借款を続けたり、先進各国から外資を受けている。しかし一方、為替介入で得た外貨は、米国やユーロ建の債券の購入に充てている。外貨準備高も膨大である。また他方では軍事力を強化しており、正直言って、筆者にとってもとても分かりにくいのが中国である。また一つ指摘しておきたいことは、先進各国が個人の集まりを国家と言う概念で捉えられるのに対して、中国の場合には国家と言うものが前面に出てくることである。どうしても中国の場合、個人の顔が見えてこないのである。この点は、今後中国とつきあう場合の重要なポイントとなる。

    日本には、今日、中国製の安いがかなり品質の高い商品が出回っている。これらを購入する個人にとっては有難いことである。しかしこの中国製品と競合する日本企業にとっては死活問題である。たとえその低価格が中国の為替政策で生まれたものだと知っていたとしても、当事者ではない個人にとっては、安く品物が手に入る方が良いと思うのである。たしかに日本人は国家的な観点からは物事を考えなくなっている。特にマスコミやそこに登場するエコノミストは「そのような製品は中国にまかせ、日本はもっと高度な製品に特化すべき」とばかげたことまで言っている。これらの人々は、物事を深く考えていないのである。要するに思考の「幼児化」がマスコミを中心に進行中なのである。

    中国の次の国家的な戦略は、外資の誘致に平行して、先進各国に工場進出を行うことである。八割がた中国国内で作った半製品を海外の工場に送り、最終段階の仕上げだけを現地の工場で行うのである。たしかにこれによって現地で人を雇い入れることになる。たぶん現地では雇用の創出と喜ばれるであろう。しかしその国の競合する企業にとっては、価格競争上では脅威となろう。この場合には、国全体を見ている国家と言うものと、中国企業が進出してきた地域との利害が対立することも考えられるのである。

    中国製品の大量流入が日本で問題になってきたのは、最近の話である。しかしこのままでは、これは将来とんでもない問題に発展する可能性が強い。しかし日本国内ではまだそれほど問題にされていない。一つは、米国の動向も影響している。米国は、一部の戦略的な製品を除き、ほとんどモノ作りを諦めたような国である。このような国では、安く消費財が輸入できる方が良いと言う考えの人々も多い。しかし事情の違う日本は、米国のようにはいかないのである。またこれは別の機会にまた詳しく述べるが、日米や米中の貿易摩擦より、日中の問題の方が深刻化する可能性が強いと筆者は見ている。

    筆者は、全ての製造業が日本に残るべきとは考えないが、今のままでは相当広い分野が打撃を受けるようになることは間違いない。これは別の機会に述べるが、日本は産業の中心はやはり製造業であるべきと筆者は考える。製造業は極めてポテンシャルが高く、さらに日本人に向いているからである。ところが、中国の為替政策によって、その日本の製造業が一つ一つが根こそぎにされそうなのである。こともあろうかその先兵になっているのが、中国に進出した日本企業と言う図式である。



来週号では、中国との通商問題が日本では重くに受け止められていない背景をさぐる。また中国の為替政策は、日本だけでなく各国に影響している。国際的な動きも注目されるところである。とにかく日本は、ピントの大はずれの小泉政権成立により、これからしばらく政治的にも経済的にも空白の時間を過ごすことになる。その間に色々な大きな問題がますます深刻化することは必至である。中国との通商問題もその一つである。

筆者は、小泉政権が問題としている事柄にはあまり関心がない。簡単に言えば週刊誌が取上げそうなことばかりである。筆者は、民主党を週刊誌の中吊り政党と言ったが、小泉首相も同レベルである。週刊誌が飛びつくような題材にしか興味がないようである。無党派層を相手にすると言うことはこう言うことなのであろう。とにかく今日小泉政権が問題にしているのは、究極的には所得の「分配」の問題であり、これはきりのない話である。

7月末の参院選の終了後、日本経済はさらに急速に悪化すると筆者は読んでいる。まず経済実態が回復する兆しが無い。ところでここのところ大型倒産がなく、無気味な状態が続いている。主な企業の株式総会が終わり、選挙が終わった頃がポイントである。株価もここにきて冴えない展開となっているが、参院選まで持つかどうか注目される。それにしても小泉政権は株価や為替レートの動向に全く関心がないようである。筆者は、小泉政権のキーワードはズバリ「幼児性」と考えている。


普通の電話を使うインターネット電話。市外一律3分20円、携帯電話へも割安。音質も良好。


01/5/28(第209号)「中国との通商問題」
01/5/21(第208号)「消費の拡大策」
01/5/14(第207号)「消費不振の分析」
01/5/7(第206号)「小泉政権雑感」
01/4/23(第205号)「「IT革命」騒ぎの舞台裏」
01/4/16(第204号)「グリーンスパンのかかった二つ目の「罠」」
01/4/9(第203号)「グリーンスパンのかかった二つの「罠」」
01/4/2(第202号)「銀行の不良債権問題(その2)」
01/3/26(第201号)「銀行の不良債権問題(その1)」
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01/3/12(第199号)「自分の家の前の掃除」
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01/2/26(第197号)「公共事業雑感」
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01/2/12(第195号)「老人の貯蓄と経済(その2)」
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01/1/22(第192号)「老人と貯蓄(その1)」
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