平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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00/12/4(第188号)
シミュレーション分析の見方
  • 変なシミュレーション分析
    今年度の国と地方の債務残高は645兆円に達すると予想されている。これには国民各層から危惧する声が上がっている。「このままでは財政が破綻し、国家も破綻を招くことから、まず財政の再建をおこなえ」と言う主張である。しかし財政赤字増大イコール財政破綻ではない。国債を買う人がいれば財政は破綻しない。逆に財政赤字が小さくても、発行する国債をどんなに金利を高くしても誰も買わないならば財政は資金繰がつかず、まさしく財政は破綻する。少なくとも日本の場合、1.6%台と言う史上空前の低利回りで国債が買われており、現在のところ世界で財政破綻から一番遠い国と言う解釈も成り立つ。

    ところが財政赤字増大が、経済そのものを破綻させると自信を持って断言する人々も実に多い。ちょうど日経新聞の「やさしい経済学」と言うコーナに、最近「財政再建と日本経済」と言うタイトルで6日間、これに関連した研究成果が掲載されていた。執筆者は京大の吉田和男教授である。

    教授は供給側モデルを使い、2025年までのシミュレーション分析を行っている。労働人口、客年令階層別貯蓄率などの予想数値を使い、生産関数によって、国内総生産(GDP)を計算し、階層別所得、財政収支、資本蓄積などを計算している。そして分析の結論は実に悲惨なものとなっている。

    現状がこのまま続くと、GDPは2,010年頃から減少し、2,019年頃には資本ストックがゼロになり、日本経済は消滅する。教授によるとこれを回避する手段は、財政支出の削減と増税である。財政支出を毎年1%ずつ削減すると、2,012年から成長率は1%を切るが、2,025年まではマイナスにはならないと分析している。
    一方、増税である。消費税を40%に引上げた場合は、2,019年から成長率は1%を切るが、2,025年までマイナスにならない。消費税率を30%アップにとどめる場合には、2,020年から成長率はマイナスと言うことになっている。

    つまり教授の結論は、このままでは日本経済は10年後には破綻に向かう。これを回避するには、財政再建、つまり財政支出の削減と増税と言うことになる。これは財政再建論者がいつも言っていることであり、今回の自民党の分裂劇の主人公である加藤氏の意見と一致する。財政で景気対策を行うより、じっと我慢していた方が、日本の経済成長率は今後高くなると言う主張である。


    しかしこのシミュレーション分析の結果は実に奇妙である。30%より、40%の方が成長率が高いと言うことは、消費税率をドンドン上げた方が経済成長率は高くなることを意味している。江戸時代のような「五公五民」くらいの方が経済は繁栄すると言うことである。また毎年1%と言ったケチなことを言わず、公共事業は即刻全部止め、財政を毎年20%くらいずつカットすれば、経済は高度成長路線に乗ることになる。

    そしてこの教授も、この結果を見て、自分達のシミュレーション分析はどこかがおかしいのではと思わないのであろうか。このシミュレーションが正しいとしたなら、今日行われている財政支出の増大や減税による景気対策は、全く経済にマイナスと言うことになる。


  • これも一週間前の日経新聞
    筆者が考える、このシミュレーションの問題点は、将来の貯蓄率の想定である。異常に小さい貯蓄率を前提にこのシミュレーションがなされていると言うことである。
    シミュレーションを行う場合、一番重要なことは、前提条件の吟味である。いい加減な前提でシミュレーションを行えば、結果もいい加減なものが出てくる。ゴミを入力すれば、ゴミが出てくるのである。

    具体的な数値は示されていないが、日本の将来の平均貯蓄率を相当小さなものとして想定していることは間違いない。教授も高齢化に伴い貯蓄率は小さくなると言っている。さらに国債発行の増大によって国債利回りは高騰し、高金利によって民間に資金が回らず、投資が減退し、GDPは減り、貯蓄も減ると言う説明である。

    たしかに高齢者の割合が増えれば、一般的に国全体の貯蓄率は小さくなる可能性はある。またライフサイクル仮説と言うものがあり、国民の高齢化に伴い、国全体の貯蓄率が小さくなると考えられている。しかし筆者は必ずしもこれに単純に賛成できない。まず過去の実績を元にした思われる客年令階層別貯蓄率は修正される必要があると考える。昔の50才と現在の50才では違う。昔なら引退して貯蓄をすることはなかったかもしれないが、寿命が延びたため、誰でも60才や65才まで働き続けるのが普通になると考える。またより多くの家庭の主婦もパートに出て収入を得ることも予想される。そしてこれによって貯蓄率が急減する事態はないと思われる。

    ところでライフサイクル仮説自体が日本の現状には、ほとんどあてはまっていないのである。現実の貯蓄率は、バブル期まではたしかに緩やかに低下を続けた。しかし家計貯蓄率は90年度の11.6%を底に、それ以降反対に大きくなってきている。ちなみに96年度12.7%、97年度13.2%、98年度13.7%である。高齢化が進むにつれ、想定とは反対に貯蓄率が大きくなっているのである。驚くことに、今年7月の調査では、70才代の平均貯蓄額は1,943万円と前年よりなんと180万円も増えている。

    ところで貯蓄率が低下することによって経済成長率が小さくなることは、こんな面倒なシミュレーションを使わなくても分かる。本誌00/9/25(第178号)「経済成長率の話」で示した、g(経済成長率)=s(貯蓄率)/v(資本係数)の数式で、s(貯蓄率)が小さくなる場合を考えれば良い。極端な例としてs(貯蓄率)をゼロにすれば、国の生産の全てが消費財になり、新たな設備投資が全くなくなると考えれば良い。なるほどこれでは経済は成長しないことになる。

    しかし貯蓄率が小さくなり、ゼロになったら経済成長はしないと言うのも嘘である。貯蓄率がマイナスの米国でも経済成長を続けている。つまり米国のように他国からの資本の流入と言う事態もあり得るのである。
    国債利回りは高騰し、高金利の結果、貯蓄が減ると言う想定もおかしい。金利がほとんどゼロにもかかわらず、せっせと貯蓄を行っている国民は金利が高くなれば、もっと貯蓄率を上げると想定する方が普通であろう。

    さらに現在進行中の所得格差の拡大傾向も貯蓄率を押上げる。元々貯蓄性向の小さい低所得層の所得が一段と減り、貯蓄性向の大きい高額所得層の所得が増えることによって、国全体の貯蓄性向がアップするのである。
    さらにここまで所得からの貯蓄をだけを考えていたが、土地などの資産売却による所得からの貯蓄も考慮する必要がある。特に日本では土地の売却代金からの貯蓄が大きい。

    このように現実の貯蓄率の推移は、頭だけで考えたように単純に小さくなるとは考えられない。むしろ逆にこの貯蓄が大きいこと自体が、今日の日本の不況の元凶でもある。もっと貯蓄が消費に回るようなら、需給ギャップも縮小し、政府の景気対策もそれだけ小さくて済むことにもなる。

    筆者は、将来の貯蓄率に大きな変動がないと言う仮定でこのシミュレーションをやり直せば、結果は違ってくるはずと考える。筆者には、経済の破綻は起らず、ただ政府の累積債務だけが積み上がっていく状態が予想される。


    このシミュレーションに関して、どうしても指摘しておかなければならない重要なことがもう一つある。シミュレーションが問題にしている成長率は、現実の経済成長率ではなく、潜在成長率である。日本経済のように常に過剰設備と過剰雇用を抱えている場合、需要不足のため、現実の経済成長率は潜在成長率を下回る。実際、不足する需要を輸出と財政で埋めようとしているのが日本経済の姿であるが、それでも需要不足が解消しないのが現状である。

    今年原油代がかなり高い水準で推移した。原因の一つが米国の灯油在庫の不足である。そしてその大きな原因が米国の石油精製設備の不足であった。反対に日本では、石油精製設備500万bpdのうち2割、つまり100万bpdが過剰で廃棄される必要があると言う。もちろんこれは石油精製設備だけに限った話ではなく、日本ではあらゆる産業分野で設備の過剰が存在する。現在活発に投資が行われているIT関連業界も、そのうち過剰設備を抱えることは必至である。日本では需給ギャップの存在が30年以上続いている。このように慢性的な需給ギャップの存在する日本で、潜在成長率を高める方法を今日検討すること自体があまり意味がない。

    そして最も重要なポイントは、潜在成長率を高める政策・施策こそが、現状の景気に打撃を与え、現実の経済成長率をマイナスにする原因となることである。
    このシミュレーションが掲載されてほどなく、日経新聞の景気に対する論調が変わった。今日連載されているのは「さざ波立つ景気回復」と言う特集である。夏頃には補正予算はいらないと言った論調だった日経が、今度は景気の落込みを気にし始めている。やはりこのシミュレーションも先週号で述べた「一週間前の日経新聞」であろうか。
    そして筆者は、日本経済が将来破綻するとしたなら、別の角度から起ると考える。これについては来週号で述べる。



来週号は、今日日本で行われている景気対策や経済政策をめぐる混乱を取上げる。

国債利回りの低下傾向は依然続いている。そしてこれに多少なりとも影響受けた市場の動きが目立つ。為替と株式市場である。為替の円安傾向である。筆者は、為替は中長期的には円高と考えている。しかし当面は円安局面が続く可能性が強いと考える。

地価の下落も続いており、株式市場とりまく環境は、決して良くない。筆者の感想では、現在のダウ14,000円台、15,000円台はほぼ妥当な線と考える。しかしここに来て、株式市場に少し資金が戻ってきている印象を受ける。
一つの原因は、述べているような世間の予想に反した長期金利の低下である。もう一つは、やはり亀井政調会長の「株価対策発言」である。この発言には世間知らずのエコノミストなど、各方面から大きな非難がある。しかしこれによって投資家が最近まで密かに抱いていた「株価の大暴落」への危惧をある程度払拭したと考える。底抜けの暴落があった場合には、政府は何らかの手段を講ずると言う安心感である。
外人投資家も日本から全面的に撤退すると言う訳ではない。世界的に良い投資先がないのが現状である。外人投資家は値嵩株を売却し、中低位株を購入しているようである。活況を呈してる中低位株の相場がいつまで続くか注目される。


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00/11/27(第187号)「面白い言葉二題」
00/11/20(第186号)「日本のエリート考」
00/11/13(第185号)「急がば回れ」
00/11/6(第184号)「「国債の日銀引受」への評価」
00/10/30(第183号)「財政問題の究極の解決法(その2)」
00/10/23(第182号)「財政問題の究極の解決法(その1)」
00/10/16(第181号)「巨額財政赤字騒動の不思議」
00/10/9(第180号)「財政赤字とマスコミの扇動」
00/10/2(第179号)「日本の需給ギャップ」
00/9/25(第178号)「経済成長率の話」
00/9/18(第177号)「日銀の独立性をめぐる誤解」
00/9/11(第176号)「日銀の独立性の怪しさ」
00/9/4(第175号)「ゼロ金利とマスコミの論調」
00/8/28(第174号)「今後の株価の動向」
00/7/31(第173号)「日本における「IT革命」」
00/7/24(第172号)「日銀から通貨庁へ(その2)」
00/7/17(第171号)「日銀から通貨庁へ(その1)」
00/7/10(第170号)「政府の経済への関わり」
00/7/3(第169号)「昨今の話題(その1)」
00/6/26(第168号)「効果ある失業対策」
00/6/19(第167号)「総選挙と「無党派層」」
00/6/12(第166号)「本当の「セーフティーネット」」
00/6/5(第165号)「日本の産業構造と失業」
00/5/29(第164号)「GDPと政策目標」
00/5/22(第163号)「グローバル化と市場の競争」
00/5/15(第162号)「経済のグローバル化とNGO」
00/5/8(第161号)「インターネットと株式市場」
00/4/24(第160号)「米国の株式市場の行方」
00/4/17(第159号)「Eコマースの将来性(その2)」
00/4/10(第158号)「Eコマースの将来性(その1)」
00/4/3(第157号)「「日銀による国債の引受」政策」
00/3/27(第156号)「インフレとデフレの功罪(その2)」
00/3/20(第155号)「インフレとデフレの功罪(その1)」
00/3/13(第154号)「国債の日銀引受に関わる諸問題」
00/3/6(第153号)「資金供給の増大とインフレ」
00/2/28(第152号)「澱んだ資金の経済への影響」
00/2/21(第151号)「もう一つの累積債務の解決方」
00/2/14(第150号)「政府の累積債務に関わる問題」
00/2/7(第149号)「ペイオフ延期騒動と日経新聞」
00/1/31(第148号)「「ペイオフ強行派」への反論」
00/1/24(第147号)「「ペイオフ解禁」の延期」
00/1/17(第146号)「有力エコノミストの対談」
00/1/10(第145号)「新年度の経済を見通す」
99/12/20(第144号)「為替の話あれこれ(その1)」
99/12/13(第143号)「中堅以下の企業のリストラ」
99/12/6(第142号)「大企業のリストラ」
99/11/29(第141号)「商工ローンと日本人」
99/11/22(第140号)「あやしい常識」
99/11/15(第139号)「金融のさらなる量的緩和」
99/11/8(第138号)「為替変動と日銀」
99/11/1(第137号)「ニセ札とインフレ」
99/10/25(第136号)「もう一つの実質金利の実体」
99/10/18(第135号)「もう一つの実質金利」
99/10/11(第134号)「もう一つの調整インフレ」
99/10/4(第133号)「日銀の独立性(その2)」
99/9/27(第132号)「日銀の独立性(その1)」
99/9/20(第131号)「社会的欲求と日本経済」
99/9/13(第130号)「欲求と日本経済成長の関係」
99/9/6(第129号)「日本経済と欲求の限界(その2)」
99/8/30(第128号)「日本経済と欲求の限界(その1)」
99/8/9(第127号)「エコノミストの格付け(その3)」
99/8/2(第126号)「エコノミストの格付け(その2)」
99/7/26(第125号)「エコノミストの格付け(その1)」
99/7/19(第124号)「規制緩和と通産省」
99/7/12(第123号)「供給サイドの経済学」
99/7/5(第122号)「インターネットと日本経済(その2)」
99/6/28(第121号)「インターネットと日本経済(その1)」
99/6/21(第120号)「銀行員とリスク(その2)」
99/6/14(第119号)「銀行員とリスク(その1)」
99/6/7(第118号)「銀行のバブル期の行動」
99/5/31(第117号)「日本の銀行とリスク」
99/5/24(第116号)「需給ギャップと景気回復」
99/5/17(第115号)「経済の構造改革」
99/5/10(第114号)「サマータイムと日本人」
99/5/3(第113号)「地価動向と景気回復」
99/4/26(第112号)「お金持ちとリスク」
99/4/19(第111号)「日本のお金持ち」
99/4/12(第110号)「寡占と所得の分配」
99/4/5(第109号)「寡占市場の話」
99/3/29(第108号)「完全競争市場の話」
99/3/22(第107号)「独占市場の話」
99/3/15(第106号)「本誌の経済予想とその間違い」
99/3/8(第105号)「景気の現状(99年春)」
99/3/1(第104号)「立派な社会と景気回復」
99/2/22(第103号)「現代の日本経済と投資」
99/2/15(第102号)「需給ギャップと投資」
99/2/8(第101号)「99年度の経済を見通す」
99/2/1(第100号)「公共投資の将来を考える」
99/1/25(第99号)「今後の景気対策を考える(その2)」
99/1/18(第98号)「景気の見通しを考える」
99/1/11(第97号)「今後の景気対策を考える(その1)」
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