平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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00/10/30(第183号)
財政問題の究極の解決法(その2)
  • 反国債発行キャンペーン
    先週号まで、日本のように過剰貯蓄が続く国では、政府が財政支出を増やし、需給ギャップを埋める必要があることを説明した。しかしこのような状態の恒常化は、公的債務残高の増大傾向を定着させる。まさに今日問題にされている日本の財政状況である。もっとも一方に多額の過剰貯蓄が存在するのだから、マクロ経済上では、特に問題はないと筆者などは主張する。しかしこのような考えにはマスコミや財政学者は真っ向から反対する。

    そこでまず一つのことを指摘したい。国債に関わる金利負担である。10年前の1,990年度末の国債の発行残高は166兆円であり、GDP比では38%であった。また今日の国債の発行残高は350兆円くらいであり、これはGDPの約70%に相当する。一方、国債の利回りは90年度が6.6%で、現在が1.8%である。これから金利負担額を計算すると、90年度の11.0兆円に対して、今日は6.3兆円になる。驚くことに借金が増えているにもかかわらず、逆に計算上の金利負担は減っているのである。(もっとも利回りはここ10年間ほど少しずつ下がってきている。つまり以前発行した高金利時代の国債もまだ流通しているため、実際の金利負担は6.3兆円より大きい。)

    新規発行の国債利回りは下がり続けており、少なくとも金利負担は変わらないか、あるいは逆に負担は小さくなっている。マスコミや財政学者もこのことは分かっているはずである。しかし国債の金利負担のことに触れれば、彼等が行っている「反国債発行キャンペーン」の意味がなくなってしまうのである。そこで彼等は、絶対あり得もしない「国債価格の暴落説」を流布するのに一生懸命なのである。

    既発の国債は流通市場で取引されるが、現実の取引が活発ではない日もある。午前中に市場取引が閑散としていて、商いが成立しない場合もある。つまり国債の流通利回りの数値は結構ブレやすいのである。政府要人の発言でも大きく変動することがある。また日本では国債の利回りを「長期金利」と言っているが、日々の国債利回りはかなり変動しているのである。そして国債の利回りが何かの拍子に上昇する度に、マスコミや財政学者は「長期金利が上昇した」と例の「反国債発行キャンペーン」を行う。ところが一週間もして利回りが落ち着いてくると、これらの人々は「ダンマリ」を決込むのである。

    しかし彼等の言動はボディーブローのような効果があり、世論や政治家は国債の発行に神経質になっている。そして「反国債発行キャンペーン」が効を奏したのか、今回の補正予算は昨年に比べかなり小さくなっている。地方の財政難も加わり、今後の公的需要は期待できないと言うことになっている。これが逆乗数効果として働き、今後の景気に確実に悪影響を与える。

    株式市場は不調が続いている。この理由は、米国株式の不安だけではない。下げ止まらない地価や日銀の「ゼロ金利解除」に加え、このような政府の中途半端で消極的な財政による景気対策の問題を市場は読み取っているからと考えている。この程度の政策では景気が上昇するはずがない。したがって地価の下落も収まらない。また企業倒産も増えるはずである。
    そしてこのままでは第二次金融不安が起る可能性が強い。筆者はこれを来年の2月か3月と予想していたが、中堅生保の連続破綻を見ていると、この時期が早まっていると感じる。これを抑える有効な手段は、今のところ「ペイオフの凍結」ぐらいしかない。ところでこれらについては別の機会にまた取上げることにする。


  • 国債発行の限度
    それにしても日本国債の利回りは低い。しかし先週号で触れた、過剰な貯蓄や短期国債の増発だけでは説明がつかない気がする。筆者はの考えるもう一つのポイントは日銀の行動である。日銀の保有国債残高の推移が注目されるのである。今年3月末の保有国債の価額は75兆円であるが、昨年3月末の数字は49兆円である。ちなみに10年前はこの数字が20兆円であった。筆者は、最近の利回りの低下はこの日銀の国債保有の増加傾向も関係していると考えている。ところで日銀も一応店頭市場に登録しており、これらの数字は、「日経の会社情報など」で簡単に知ることができる。

    日銀は市場の金利調整の手段として、国債や他の債券の売買を行う。いわゆる金融市場のオペレーションである。このため中央銀行である日銀は、ある程度の国債を保有している。しかしそれとは別に、日銀は国債の買い切りを行っている。時々新聞にも入札情報が載っている。一回の入札額は2,000億円くらいである。入札の対象は比較的古いもの、つまり償還が近い国債(金利が高い国債が多い)である。したがって日銀が保有している国債は、オペレーション用の国債に加え、この買い切り分を含めたものである。日銀は通貨の発行量の増加に応じて国債の買い切りを行っていると言う話を聞いたことがあるが、このようなことが特に話題にはならないことをいつも不思議に思っている。

    日銀が保有していても、国は日銀に対して国債の利息を払っている。しかし日銀の収入は最終的に国庫に納められる。つまり日銀の保有分の国債は、実質的に金利ゼロの借金である。たしかに日本の国債発行残高は多いが、実質的な残高は日銀の保有分を差引く必要がある。また毎年の国債の利払いについても、日銀の保有分については別の形で戻ってくるのであるから、実質的な負担も差引いて考えるべきである。

    このように日銀の国債の買入は大変都合の良い制度である。マスコミや訳の分からないエコノミストは、今回の4,5兆円の小さな補正予算についてさえ、「長期金利が上昇する可能性が強く、かえって景気にはマイナス」ととんでもないことを言っていた。しかし日銀は一年間で25兆円も国債の保有を増やしているのである。ところがこれについては話題にもならないのである。

    ところで筆者は、00/3/13(第154号)「国債の日銀引受に関わる諸問題」から何回か続けて「国債の日銀引受」による財政問題の解決方法を提案した。今週号の日銀による国債の市場からの買入も、これと基本的に同じである。国債を市場から買入れるか、それとも直接引受けるかの違いだけであり、金利への影響など経済上の影響に違いはない。ところが「日銀による国債の市場からの買入」には何の抵抗もないのに(一年間で25兆円も国債の保有を増やしているのに)、「国債の日銀引受」には「インフレが起る」とか「やってはいけないことである」と真面目な顔で言っているのである。実にばかばかしい人々である。

    今後景気対策のために国債が増発されても、過剰な貯蓄を抱える日本では、これらは市場で十分消化されると筆者は考える。つまり国債利回りの上昇を伴わず、政府は必要な資金を調達できるのである。しかし要人発言などで時々市場が混乱することがあり、その度に「反国債発行キャンペーン」が繰返されている。さらに先週号で提案したような大規模な雇用対策を行えば、相当額の国債を増発することになる。これらによって国債利回りが急上昇することがあり得る。したがってこのような時こそ日銀が大胆に市場に介入し、国債を買上げれば良いのである。技術的にも極めて簡単なことである。少なくともこのような場合には、日銀が国債を買上げ、資金を潤沢に供給すると言うことをはっきりさせれば良いのである。


    ではどこまでも野方図に国債を増発することが可能かと言うことが、次の問題になる。国債を増発すると言うことは、それだけ日銀券を印刷して市中に供給することを意味する。つまりこれによって物価が上昇する可能性が発生するのである。そこでどの範囲までの物価上昇までなら容認されるかと言うことが問題になる。まさしく「目標インフレ率」の議論に及ぶのである。

    筆者は、日本では問題になるほどの物価上昇は絶対に起らないと言い続けている。この理由は、過剰生産設備と企業の過剰雇用、さらに多くの失業者と潜在失業者の存在である。そして地価も依然下げ止まらい状態である。また中国などの発展途上国の製造する製品の品質が向上して、安く大量に輸入されている。このような状況では、ちょっとやそっとで物価が上昇するはずがないのである。

    先々週号で、公的債務問題の解決が一番近い国は日本と述べたのも、日本のこの過剰生産力の存在と物価が上昇しない日本経済の状況があるからである。
    政府は大胆に国債を発行し、全て日銀が引受ければ良いのである。国債は日銀が引受けるのであるから、得られる資金の実質的なコストはゼロである。政府はこの資金で先週号で述べたような景気対策を行う。また政府はこの資金を使って企業の社債購入などの運用も行うこともできる(なにしろコストはゼロなのだからまる儲けである)。税収増と運用益で既発債を償還して行けば良いのである。

    本誌のこのシリーズでは国債発行残高の限度を一つの問題として取上げている。観念論者は、将来の日本経済がどれだけ増税に耐えられるが国債発行残高限度と言っているが、これは全く馬鹿げた論理であり、そのようなことが実行できるはずがない。そうではなく、発行する国債をどこまで日銀が引受けられるかが、筆者の考える一つの限度である。つまり国債発行(日銀引受け分を含め)による、資金供給増に伴う物価上昇を人々がどこまで容認するかと言うことである。筆者は、現在の経済状況を考えると、びっくりするほどの額の国債を日銀が引受けてもさして物価は上昇しないと踏んでいる。実際、日銀が一年間で25兆円もの国債の保有を増やしているのに、物価と地価は逆に下落を続けているくらいなのである。



今週号で述べたような筆者の考えは、世間では異端と思われるかもしれない。しかし筆者自身は、極めてオーソドックスな考え方と思っている。来週号ではその辺を検証してみることにする。


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00/10/23(第182号)「財政問題の究極の解決法(その1)」
00/10/16(第181号)「巨額財政赤字騒動の不思議」
00/10/9(第180号)「財政赤字とマスコミの扇動」
00/10/2(第179号)「日本の需給ギャップ」
00/9/25(第178号)「経済成長率の話」
00/9/18(第177号)「日銀の独立性をめぐる誤解」
00/9/11(第176号)「日銀の独立性の怪しさ」
00/9/4(第175号)「ゼロ金利とマスコミの論調」
00/8/28(第174号)「今後の株価の動向」
00/7/31(第173号)「日本における「IT革命」」
00/7/24(第172号)「日銀から通貨庁へ(その2)」
00/7/17(第171号)「日銀から通貨庁へ(その1)」
00/7/10(第170号)「政府の経済への関わり」
00/7/3(第169号)「昨今の話題(その1)」
00/6/26(第168号)「効果ある失業対策」
00/6/19(第167号)「総選挙と「無党派層」」
00/6/12(第166号)「本当の「セーフティーネット」」
00/6/5(第165号)「日本の産業構造と失業」
00/5/29(第164号)「GDPと政策目標」
00/5/22(第163号)「グローバル化と市場の競争」
00/5/15(第162号)「経済のグローバル化とNGO」
00/5/8(第161号)「インターネットと株式市場」
00/4/24(第160号)「米国の株式市場の行方」
00/4/17(第159号)「Eコマースの将来性(その2)」
00/4/10(第158号)「Eコマースの将来性(その1)」
00/4/3(第157号)「「日銀による国債の引受」政策」
00/3/27(第156号)「インフレとデフレの功罪(その2)」
00/3/20(第155号)「インフレとデフレの功罪(その1)」
00/3/13(第154号)「国債の日銀引受に関わる諸問題」
00/3/6(第153号)「資金供給の増大とインフレ」
00/2/28(第152号)「澱んだ資金の経済への影響」
00/2/21(第151号)「もう一つの累積債務の解決方」
00/2/14(第150号)「政府の累積債務に関わる問題」
00/2/7(第149号)「ペイオフ延期騒動と日経新聞」
00/1/31(第148号)「「ペイオフ強行派」への反論」
00/1/24(第147号)「「ペイオフ解禁」の延期」
00/1/17(第146号)「有力エコノミストの対談」
00/1/10(第145号)「新年度の経済を見通す」
99/12/20(第144号)「為替の話あれこれ(その1)」
99/12/13(第143号)「中堅以下の企業のリストラ」
99/12/6(第142号)「大企業のリストラ」
99/11/29(第141号)「商工ローンと日本人」
99/11/22(第140号)「あやしい常識」
99/11/15(第139号)「金融のさらなる量的緩和」
99/11/8(第138号)「為替変動と日銀」
99/11/1(第137号)「ニセ札とインフレ」
99/10/25(第136号)「もう一つの実質金利の実体」
99/10/18(第135号)「もう一つの実質金利」
99/10/11(第134号)「もう一つの調整インフレ」
99/10/4(第133号)「日銀の独立性(その2)」
99/9/27(第132号)「日銀の独立性(その1)」
99/9/20(第131号)「社会的欲求と日本経済」
99/9/13(第130号)「欲求と日本経済成長の関係」
99/9/6(第129号)「日本経済と欲求の限界(その2)」
99/8/30(第128号)「日本経済と欲求の限界(その1)」
99/8/9(第127号)「エコノミストの格付け(その3)」
99/8/2(第126号)「エコノミストの格付け(その2)」
99/7/26(第125号)「エコノミストの格付け(その1)」
99/7/19(第124号)「規制緩和と通産省」
99/7/12(第123号)「供給サイドの経済学」
99/7/5(第122号)「インターネットと日本経済(その2)」
99/6/28(第121号)「インターネットと日本経済(その1)」
99/6/21(第120号)「銀行員とリスク(その2)」
99/6/14(第119号)「銀行員とリスク(その1)」
99/6/7(第118号)「銀行のバブル期の行動」
99/5/31(第117号)「日本の銀行とリスク」
99/5/24(第116号)「需給ギャップと景気回復」
99/5/17(第115号)「経済の構造改革」
99/5/10(第114号)「サマータイムと日本人」
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99/4/26(第112号)「お金持ちとリスク」
99/4/19(第111号)「日本のお金持ち」
99/4/12(第110号)「寡占と所得の分配」
99/4/5(第109号)「寡占市場の話」
99/3/29(第108号)「完全競争市場の話」
99/3/22(第107号)「独占市場の話」
99/3/15(第106号)「本誌の経済予想とその間違い」
99/3/8(第105号)「景気の現状(99年春)」
99/3/1(第104号)「立派な社会と景気回復」
99/2/22(第103号)「現代の日本経済と投資」
99/2/15(第102号)「需給ギャップと投資」
99/2/8(第101号)「99年度の経済を見通す」
99/2/1(第100号)「公共投資の将来を考える」
99/1/25(第99号)「今後の景気対策を考える(その2)」
99/1/18(第98号)「景気の見通しを考える」
99/1/11(第97号)「今後の景気対策を考える(その1)」
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