- 投資の景気に及ぼす影響
GDPを構成する最終需要には、消費、投資、政府支出、輸出、住宅投資などがある。このうち消費は、金額的には圧倒的に大きい。しかし消費の所得(名目)に対する比率は、3年前の金融不安(山一、拓銀の経営破綻)と言った特殊な時期の落込みを除けば、ほぼ一定で推移している。つまり消費は金額的に大きいが、景気変動への影響力は、見かけほど大きくはない。 一方、投資は、消費に比べ、金額的にはずっと小さいが、GDP比で14〜20%と変動幅が大きい。この最大と最小の差である6%は、金額では約30兆円にもなる。したがって投資額の変動が景気変動に及ぼす影響は非常に大きい。
そしてこの日本の設備投資のGDP比は世界的に見ても、極めて大きい。長い間、米国の倍くらいで推移している。しかしこの大き過ぎる設備投資が思わぬ問題を引き起こしている。このため日本経済は常に過剰な設備を抱える状態になっているのである。生産設備だけでなく、商業設備も過剰である。したがってあらゆる分野で過当な競争が行われ、これが企業の低収益の一つの原因となっている。
過剰設備の原因の一つに、日本の銀行の融資制度がある。日本の銀行は土地を担保に融資を行っている。これは諸外国ではあまり見られないことである。事業の将来性や収益性を重視して融資が実行されるのではなく、土地と言う確実な担保(バブル期までは確実に地価は上昇していた)をもとに融資が行われるのである。高い貯蓄率を背景に潤沢な資金が銀行に集まったが、土地担保融資と言う実に効率的な融資制度によって、企業に大量の資金が提供されたのである。土地担保融資について今日色々と非難されるが、集まった大きな資金を企業にスムーズに流れるように機能していたことは事実である。
旺盛な設備投資のおかげで、日本は常に最新の生産設備を持ち、国際競争の上で優位に立つことができた。しかし反面、前述のような設備の過剰を抱えることになった。このため景気が落込み、内需が不足する時には、一段と輸出にドライブがかかり、諸外国と貿易摩擦を起こすことになる。また輸出の増加は、その後の円高の原因となり、輸出企業自らがまた苦しむことになる。
日本の設備投資が大きいことは事実であるが、貯蓄はそれよりも大きいのである。バブル崩壊後、設備投資のGDP比が多少小さくなった。このため直ぐに需要不足が顕在化し、経済は不況に陥ってしまった。日本の投資と貯蓄のアンバランスは、見方によっては相当重症である。そしてこの需要不足を補ってきたのが、輸出と住宅投資、そして財政である。この結果、為替は一段と円高になり、住宅購入者は大きなローンで苦しみ、財政も莫大な赤字を抱えることになった。
間違ってはいけないのは、日本の場合、投資が小さいから需要が不足するのではなく、貯蓄が大き過ぎ、つまり消費が小さ過ぎることが問題なのである。しかし前述したように、国民の貯蓄率や消費率はそう簡単には変わらない。放っておけば、需要不足が解消されるまで経済規模は縮小することになる。
- 投資の二面性
先週号でg(経済成長率)=s(貯蓄率)/v(資本係数)と言う経済成長率の定式を示した。しかしこの算式で算出されるのはあくまでも潜在成長率である。貯蓄より投資が小さい場合には、実際の成長率は潜在成長率に達することは難しい。日本ではこの差額を財政の赤字(景気対策としての財政支出)で埋めている。しかし貯蓄を投資が大きく下回る場合には、財政だけでは埋め合わせることができず、大きな需給ギャップが残るケースがある。この場合には、経済はマイナス成長に陥ることにもなる。
前述したように、景気動向は、変動幅が大きい設備投資の動向に左右される。筆者は、それほど実感がないが、日本は現在景気回復の過程にあると言う。IT関連を中心にした設備投資が牽引していることになっている。たしかに機械受注や鉱工業生産のレベルも高くなっている。しかし末端の消費がそんなに増えているとは思われない(もっとも消費は所得に対して一定の比率であり、あまり変動はしない。つまり所得が増えなければ、消費も増えない。むしろ地価とここへ来ての株価の下落による逆資産効果が注目される。これによる消費減退が想定されるのである。)。したがって国内で消費されない生産物は、在庫になっているか輸出されているはずである。(製品在庫は7月までの統計では特に増えていない。しかし筆者にはこれが不思議でならない。)
国際収支の推移を見る限りでは、目立ってはいないが、数量ベースの輸出は好調と判断される。昨年、一昨年より為替が円高になっているのに拘わらず、輸出は依然増えているのである。これは米国の消費が好調だからである。アジアへの輸出が増えているとしても、最終製品はアジアから米国に輸出される。つまり今回の景気回復は、設備投資の増加と米国の消費に依存していると言える。大体、ダンピングで騒がれている(最近では米国での鉄鋼製品のダンピング問題)時は、輸出が急増している場合が多い。
今年度の政府の経済成長率の見通しは1%である。ところが昨今の設備投資主導による景気回復を本物と見なし、民間の各シンクタンクは成長率の見通しを上方修正している。これらの修正後の平均は2.2%くらいである。中には3%に近い成長を予想しているところもある。 ところが景気回復宣言に政府は依然慎重である。一方、民間シンクタンクは「既に景気は回復路線に乗っている」と見ている。この官民の景気に対する見方の違いが注目される。
筆者は、政府の見方に近い。前述したように、ポイントは設備投資の動向と米国の景気動向である。これが不透明なのである。米国の景気が失速した場合には、政府見通しの1%さえも無理と言うことになる。 今回の補正予算も、額的には決して大きいものではない。政府はギリギリ1%成長が達成できる程度の補正予算を組んだものと筆者は想像している。
今回の景気回復は、かなり設備投資の回復に負っている。そして冒頭で述べたように、投資はGDPを構成する需要項目である。しかしここで強調したいことは、投資が一方で生産能力を大きくすることである。いわゆる「投資の二面性」である。たしかに投資は、設備を更新し、競争力を維持するために重要である。しかし投資は、同時に生産能力を増強させるため、最終需要が増えない場合には、新たな過剰設備を発生させることになる。そして一旦、過剰設備の発生が顕著となれば、投資は一気に失速する可能性がある。注目されるのは、このような事態が起るとしたならば、それはいつの時点なのかと言うことである。今年度中に起るなら、政府の経済成長見通しの1%さえも難しくなるのである。
住宅投資は既にピークを過ぎたようである。住宅融資の申し込みもかなり減っているようである。財政支出は補正を含めても前年実績に達しない。地方は財政難で、前年並の支出はとても無理である。財政投融資も前年を下回るはずである。これらが全てマイナスの乗数効果として働くはずである。さらに地価の下落は依然として止まらない。プラスとして働くのは、高金利時代の郵便貯金の満期金ぐらいなものである。
主要企業の業績回復によって株価上昇を予想する向きも多いが、それに反して株価の動きが冴えない。企業はリストラでりっぱになったが(まだリストラは十分ではないと言う声も多い)、りっぱになった企業の製品を一体誰が買うかと言うことである。株式市場はリアリズムで動く。筆者には、筆者がここで指摘しているようなことを市場が気にし始めているからと思われる。 ところが世間では、「既に自律成長路線に乗った」と言った声で溢れている。中には「補正予算はいらない」と言う意見まである。とても正気とは思われないが。
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