- 経済成長率の定式
今週は、経済成長率について述べる。ちよっと難しくなるが、経済理論の話から始める。ただし、筆者も十分に理解していないところもあり、数式が苦手な人は読み飛ばしてもらって結構である。
理論経済学の教科書には、だいたい経済成長の定式が載っている。筆者の理解している形でこれを示すと、g(経済成長率)=s/vとなる。sは貯蓄率であり、貯蓄の所得全体に占める割合である。vは資本係数であり、v=K(資本)/Y(生産・所得)で算出される。1単位の生産・所得を得るのに必要な資本量である。 つまり貯蓄率sが大きいほど経済成長率は大きくなる。またv(資本係数)は社会の資本の生産性の逆数であり、この値が小さいほど資本の効率が良いことを示している。したがって貯蓄が大きく、資本の効率が良い国ほど経済成長率は大きくなる。 ちなみにs(貯蓄率)が0.2、v(資本係数)が5とすれば、g(経済成長率)は0.04、つまり4%となる。
伝統的な経済学の世界では貯蓄はまわり回って、最終的には投資されることになる。s(貯蓄率)が大きいと言うことは、その国の国民は、生産物の費消せずに、将来の生産能力増強のために残しておく割合が大きいと言うことである。逆に生産する物の全てを消費してしまうような国(sがゼロの国)は経済が成長しないことを意味する。 しかし、世界には所得のほとんどを消費してしまう国がある。このような国が経済成長するには、他の国から資金(つまり貯蓄)を持ってくる必要があることを意味している。米国などはこの典型であり、米国の経済成長は、海外からの資金流入と財政の黒字が原資となっている。
この他に、一国の経済成長には、その国の人口の増加が寄与することになる。この場合の人口の増加は、単純な人の数の増加ではなく、生産を担う人の数の増加である。そしてこの人口増加が経済成長率に寄与する値をnとすれば、定式はg(経済成長率)=s/v+nと修正される。
たしかに働き手が増えれば、生産が増え、所得が増える。米国のように、外国から移民を受入れ、さらに発展途上国並の出生率を維持している国はこの値が大きい。
ただしここで注意が必要なのは、人口増加が原因で一国の生産や所得が増えても、一人当りの生産や所得が増えることにはならない。むしろ人口の増加率の方が経済成長率より大きい場合は、一国の経済は大きくなっても、一人当りの所得は減り、個々の人々はより貧乏になってしまう。そしてこれを解決するのが、次に述べる技術進歩、あるいは生産性の向上である。
g(経済成長率)を大きくするには、この他にv(資本係数)を小さくする方法がある。K(資本)とY(所得)の関係で、より小さい資本でより大きい所得を生むようにすることである。これを実現させるのが、技術進歩、あるいは生産性の向上である。つまり前述した「s(貯蓄率)が0.2、v(資本係数)が5」のケースで、v(資本係数)を4にすることができたなら、g(経済成長率)は0.05、つまり5%と大きくなる。
ただしこのケースは、既存のK(資本)の生産性の直接向上させた場合である。これ以外に、既存の資本ストックには手を付けず、技術進歩を体現した設備を新規に導入することによって、全体の資本ストックの平均の生産性を向上させることが考えられる。そしてむしろこちらの方が現実に行われていることであろう。
さらに技術進歩は、資本だけに限られるものではない。労働者の生産性の向上もあり得る。教育訓練や資本と労働の関わり方を改善することによって、一国の生産性の向上させることが可能である。もっとも資本の生産性が向上する場合は、同時に労働の生産性も向上しているのが普通である。
そしてこの技術進歩や生産性の向上の経済成長率に寄与する値をtとすれば、定式はg(経済成長率)=s/v+n+tとさらに修正される。 この数式が示すように、経済成長率が大きい国の条件は、貯蓄率が大きく、資本ストックの効率が高く、人口の増加率が大きく、技術進歩が目覚ましいことである。当たり前と言えば、当たり前のようであるが、高度成長期の日本などでは、これらの条件がほぼ揃っていたのである。
- 日本経済と潜在成長率の関係
前段で示したg(経済成長率)=s/v+n+tの定式で注目されるのは、通常全ての数値が正の値と言うことである。正の値と言うことは経済は常に成長すると言うことを示す。すなわち資本主義経済と言うものは、成長するメカニズムを内蔵しているのである。つまり理論上は、マイナス成長と言うことはありえないことである。
しかし現実の経済では、今日の日本経済のようにマイナス成長を続けることもある。ここが重要なポイントである。経済成長の定式は、生産した物が全て費消され、同額の所得が発生することが前提である。つまり人々に十分消費意欲があり、生産されるものが全て売れて始めて、条件に合致することになり、この定式が有効になる。したがってこの場合には、投資の原資である貯蓄を大きくしたり、生産性を向上させることによって高い経済成長率が実現できる。たしかに終戦直後の「闇市」が盛んだった頃の日本や、貯蓄率がほとんどゼロの今日の米国では、この定式が近似値的に当てはまっている。
しかしここまで述べてきた経済成長の定式は、供給サイドである生産能力の成長率を示しているだけであ。一方、日本のように常に需要が供給を下回る国もある。つまり生産された財の全てが費消されない国である。そしてこのギャップが大きくなり過ぎた場合には、経済がマイナス成長に陥る可能性が強い。まさに最近の日本経済の姿である。そして今日の日本のこのギャップの大きな部分を埋めているのが、輸出と財政赤字である。もし輸出と財政赤字がもっと小さかったなら、日本の成長率のマイナス幅はもっと大きくなっていたはずである。
ところで定式から導き出される成長率は、技術的に経済が成長できる限度と言うことになる。つまり世間でよく言われている潜在成長率である。 筆者は、日本の潜在成長率は依然としてかなり大きいと考えている。理由は、貯蓄率が大きいことと、日本経済の各分野にはまだまだ合理化の余地が大きいことである。しかし筆者は、この潜在成長率と言うものには現在のところ関心がない。日本経済のように慢性的な需要不足の経済の場合には、需要の大きさで経済の規模、つまりGDPが決まるからである。この需要の増加率がとても潜在成長率に達しないのである。したがって経済の成長率も需要の動向で決まることになる。そしてこのことは潜在成長率の値がどれだけであっても、今日の日本経済には関係がない話と言うことを意味する。
ところが、日本の経済学者やエコノミストは、今だに景気対策には「規制緩和や構造改革が必要」と言っている。また彼等は、「公共投資のような非効率的な分野への投資(資源の配分)が不景気の元凶」と言っている。さらに人口の減少が予想される日本では、経済成長のために「移民」を積極的に受入れるべきとさえ主張している者もいる。しかし彼等の主張する政策は、まさに今週号で話をしている潜在成長率を大きくする方策である。日経新聞をちょっと開けば、このような主張や論説で溢れている。
まさに日本経済の現状を考えれば、的外れな議論である。さらに逆に彼等の主張する政策を忠実に行えば、かえって需給ギャップを大きくする可能性がある(3年前の財政再建騒動で実証済み)。実にうんざりする話である。 筆者は、彼等は「南海の孤島」にでも行って、こころゆくまで「潜在成長率」を高めるための方策について議論をしておれば良いと考える。彼等の議論は、少なくとも今日の日本経済には関係がなく、有害でさえある。
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