- 不況カルテルの適用
先々週号で、筆者の考える失業対策についてざっと説明した。もちろん失業対策として、財政政策と金融政策による内需拡大も大切である。しかしこれだけでは不十分であり、もっと直接的な対策が必要である。
一つは、国内向きの成熟したサービス産業で、過剰競争に陥りやすい分野での競争の制限である。一つの具体的な方法は不況カルテルの適用である。このような分野は、規制緩和を進めても、価格が低下するだけで、需要がそれほど増えない分野である。むしろこのような分野は、規制緩和を進めるより、雇用の確保に重点を置いた施策に転じるべきである。
現実の経済を知らないエコノミストは、さらに規制緩和を進め、投資を誘発すべきといつも言っているが、今日日本には規制緩和で投資が大きく増大するような分野はほとんどない。あるのなら具体的に示すべきである。彼等の話は、いつもNTTの接続料の引下げの話ばかりである。接続料の引下げでどれだけの投資が増えると言うのか。さらにNTTの接続料の引下げと言うことになれば、NTTは設備投資を減少させるはずである。このマイナスとの見合いと言うことになり、単純に新規の設備投資だけが増えると言うことにはならない。ちょうど電気料金の引下げに伴い電力会社が設備投資を減少させたことと似ている。この時には日立などの重電機メーカは、売上が減り、業績を悪化させたのである。
特にその分野が成長産業でないのなら、自由化が進み競争が激化すれば、利益が見込めないことは容易に分る。一体誰がそのような分野に投資なんかするのであろうか。もし投資が増えるとすれば、唯一経営判断を間違えたケースだけである。実際、大店法の改正による規制緩和で、デパートや大手スーパが設備投資を大幅に増やした。ところがこれらの企業は揃って、経営危機に直面している。大きな貯蓄を背景に、融資を増やしたい銀行は、企業の採算を無視して、資金を企業に提供しがちである。しばらく前までは、担保となる土地があれば、安易に融資を行ってきたのである。
ガソリンスタンドも自由化が進んだ。しかし設備投資が増えるどころか、廃業するスタンドが跡を立たない。そして筆者は、もし石油業界で規制緩和を進めるのだったら、20年以上も前に行うべきであったと考えている。当時なら、スタンドの跡地も他の店鋪への転用ももっと容易であったはずである。今は規制緩和を推進する時期ではない。 需要の伸びが期待できない今日では、逆に競争を制限する方向に行くべきである。つまり不況カルテルの適用である。これによって雇用を維持する方が、国民経済にとって、より大きなメリットがあると思われる。
建設業界やタクシー業界も同様である。提供するサービスが同質であり、差別化が難しく、多数の小さな企業で構成されている業界は、規制緩和を進めると直ぐに過当競争となる。需要が伸びている時代は良いが、今日のような低成長の時代では、競争激化はこのような業界に勤める人々の死活問題となる。
たしかに経済の実態を知らない経済学者が言うように、規制緩和を行えば、価格が低下し、消費者にとってメリットはある。しかし純粋に消費者であるのは、年金生活者と金利生活者だけであろう。多くは消費者であると同時に供給者である。このような状況で一律に規制緩和を進めると、所属している産業分野によって所得の格差が異常に拡大することになる。これまで話をしてきたような業界では、所得が下がり、失業が発生することになる。一方、規制緩和がどうしても及ばない分野や業界が存在する。ここに勤める者は、全体の規制緩和が進むことによる物価の下落により、相対的に所得が増えることになる。
法律などで価格競争が制限されている業界は安泰である。よく話題になる金融機関だけではない。最近、高給過ぎると週刊誌で取上げられる、免許制のテレビ局なども典型例である。新聞も再販価格を維持と言うカルテルを行っている。ある大手の新聞社は、一社で3,000名もの新聞記者がいると言う話である。このようなマスコミが先頭に規制緩和の合唱を行っている。そして訳の分らないエコノミストがマスコミに媚を売るようにこれに同調している。 そして極めつけは公務員である。規制緩和と一番縁遠いのが、公務員である。つまり規制緩和で最大のメリットを受けるのが公務員である。そう言えば、特に規制緩和に熱心なのは、通産省の役人と国立大学の経済学の教授である。
- 究極の失業対策
建設業界やタクシー業界などが過当競争に陥りやすいことは前段で説明した。たしかに規制緩和が進み、その結果このような業界にもリストラが行われても、もし他に良い就職口があれば、問題は小さいであろう。しかし今日の日本のように雇用の流動性が乏しい国では、次の受け皿が全くない。むしろこのような業界が、他の産業からの失業者の受け皿だったのである。
始めからタクシーの運転手の人だったと言う人はまずいない。長距離トラックの運転手や、自営業をやっていた人々が転職してタクシーの運転手をやっているのである。中には事業に失敗してタクシーの運転手になっている人もいる。つまりタクシーの運転手なら人並みの収入が得られると期待して転職してきたのである。ところが、この不況と競争の激化で思惑は外れているのである。
建設業界はもっと深刻である。この業界も他の仕事から転職して人々が多い。しかし10年前のことを思い出してみれば良い。建設業界は、いわゆる3K職場、つまり「きつい、危険、きたない」とどちらかと言えば人々から敬遠された業界である。そこへあえて転職してきたのである。ところがこのような業界も、工事単価のカットや工事量の減少に直面している。そしてこの業界からリストラされた人々には、もう行くところがほとんどない状態である。
先日、これまで一方的に進められてきた規制緩和に、ようやく待ったを掛ける動きが自民党の中からあった。筆者は当然のことと考えている。 よく取上げられるのは酒類販売に関わるものとタクシー業界に関わるものである。ところが、これに対して案の定、マスコミやエコノミストは「改革の後退」と声高に非難を行っている。
経済が順調に成長している時ならともかく、今日のようなデフレ経済が続く日本で、本来、失業者の受け皿になるような業界を合理化してどうなる。IT革命で雇用が増えると言っても、どれだけの実績があるのであろうか。ましてや後がないと言う状態の人々が、簡単にIT関連業界に移ることができるとでも考えているのであろうか。
大手の企業は依然過剰雇用を抱えている。為替の動向も関係してくるが、今後も大手の企業には合理化の圧力が掛かることは必至である。しかしこれらの企業からの失業者にも受け皿がない。政府は、職業訓練と補助金でこれを解決しようとしている。しかしこれがうまく行くはずがない。どの企業も余剰人員を抱えているのである。実際、これまで政府の失業対策はほとんどうまく行っていない。
これにも増して問題なのは、新卒者の就職口である。新卒者の就職状況が悪化している。彼等の立場から見れば、今日「ろくな就職口」がない。したがって就職しても、直ぐに辞めてしまう。そして筆者は、「ろくな就職口」がないと言うこと自体が彼等の日常の行動に微妙に影響していると考える。これは経済問題と言うより、もはや社会問題である。しかし企業にとっては、長年勤めた者を辞めさせるより、新卒者の採用を取り止める方が容易なのである。 色々考えたが、筆者は、これらの問題に対する具体的な対策は「公務員の増員」しかないと言う結論に達した。つまり企業の余剰人員を特別の公務員として採用し、一方企業は新卒者を採用するのである。そしてこれが究極の失業対策である。
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