- 問題解決の手詰り感
政府の累積債務問題の最大の問題は、累積債務問題の存在自体を問題にする声によって、政府の財政政策が縛られることである。橋本政権の財政再建路線の失敗で、さすがに一方的な緊縮財政を主張する声は小さくなった。しかし最近、また「財政支出の削減と景気対策は同時に達成できる」と言った主張が増え始めている。規制緩和を進め、構造改革を行えばこれができると言うのである。そして彼等は、これを阻んでいるのが、既得権益を保持しようとしている勢力と主張している。
規制緩和とその経済効果については、本誌でも何度も取上げている。筆者は、規制緩和の需要創出効果はほぼゼロと考えている。規制緩和には、プラスの効果がある反面、マイナスの効果もあるからである。同様に規制強化の経済効果も長い目でみればプラス・マイナスがほぼゼロと思われる。たとえば環境基準を厳しくすれば、それに伴う投資や消費が増えるが、このコスト増によって消費そのものが減少するからである。
具体的な一例として「チャイルドシートの義務化」を取上げる。これによりチャイルドシートの消費と関連の投資は増えるが、自動車の保有コストが上昇して、自動車そのものの売上にはマイナスの効果があると思われる。つまり規制を強化してもトータルでGDPにはほとんど影響がないのである。 これまで行われた規制緩和に、GDPの増大効果があったと言う各種の研究結果が発表されているが、よく見るとこれらは規制緩和によるプラス効果だけを強調している。マイナス効果については、過小評価を行っている。正しく評価すれば、筆者は規制緩和の効果はほぼゼロとなると思われる。
「構造改革」を行うことこそが「日本経済の再生の途」と言う主張がなされている。この魔法のような言葉を信じる人々が増えることは危険である。これらの人々の多くは財政支出増大に反対の人々であり、財政の累積赤字を問題にしている人々でもある。
またこれらの人々は規制緩和によりベンチャー企業を育成することが日本経済を救うとも主張する。しかしこれも幻想である。 例えば渋谷周辺には、多数のネット関連のベンチャー企業が集まっており、この地帯はビットバレーと呼ばれている。そしてその数は500社とも1,000社とも言われている。しかし一社当りの人数は極めて少ない。せいぜい平均で3名くらいであろう。株価が1億円となって世間で話題になった「ヤフー」の従業員は46名。メールマガジンの「まぐまぐ」は6名から7名である。また全国のベンチャー企業の利益の合計は、バブル期のちっぽけな不動産会社一社の利益にも満たないものと思われる。 一方、日産やNTTのリストラは2万人を越えるのである。いかにベンチャー企業が高度成長を実現しても、これらの人々を全部受入れることは絶対に不可能である。また「IT革命」で設備投資が急速に増大し、景気が回復すると言う話も信じ難い。今問題なのはマクロで需要が絶対的に不足していることである。
日本政府の財政赤字は、民間の貯蓄超過を埋めるために必要である。今、これが不十分なのである。財政再建の声に押され、現在のような中途半端な経済政策を続けておれば、かえって日本経済はジリ貧街道を進むことになる。そこで今週号では政府の長期債務問題を解決するための第二の方法を示し、条件が揃えばこの問題が比較的容易に解決がつくことを説明したい。
- 解決のための第二の方法
先週号で、日本の政府の財政問題の解決方法を一つ説明したが、今週号ではもう一つ別の方法を提案したい。この第二の方法は極めて簡単である。まず政府が600兆円の長期国債を発行し、日銀がこれを引受ける。これで終わりである。この時点で形式的に日本の長期公的債務問題は解決することになる。ところで600兆円と言う金額は地方の債務問題をも考慮しているからであり、国の分だけなら400兆円もあれば十分と考える。
まず政府が発行する600兆円の国債の満期は、50年から60年くらいが適当と思われる。とにかく長い方が良い。世界にはもっと期間の長い国債はある。米国も100年債を発行している。利回りはいくらでも良いが、他の国債とのバランスを考慮し、一応年利3%くらいが適当と考える。
したがって年間18兆円の利息を日銀に払うことによって、政府は600兆円の資金を手にすることができる。ここから第一のポイントである。政府は、たしかに年間18兆円の利息を日銀に払うことになるが、日銀の収入は最終的に国庫に納められる。利息として払う18兆円はまた政府に戻ってくるのである。つまり国債を発行し、日銀が引受けることによって、実質的にコストのかからない資金600兆円を、政府は手にすることができるのである。また先に述べたように利回りがいくらでも良いと言ったのは、結果が同じだからである。
政府は手にした600兆円の資金を自由に使うことができる。もちろん国債の償還や財政の赤字の補填に使えるが、その他、一般企業の社債への投資にも使える。つまり資金運用を行い、収益を得ることもできるのである。また資金が市中に放出されたり、税収にとらわれずに景気対策が行えるため、日本の経済活動にも良い影響がある。そしてこれによって税収も増えるはずである。特に機能不全に陥っている銀行を飛越えて直接資金を市中に供給できる。さらに資金が潤沢に流通することにより、地価の下落が収まるか、あるいは上昇に転じれば、銀行の信用仲介機能も改善されるはずである。これも景気にはプラスである。
次に第二のポイントがある。たしかに政府はコストのかからない600兆円の資金を手にするが、どこまで使うことができるかと言う限度の問題がある。物価上昇、つまりインフレが起る可能性があるからである。先程述べたように600兆円の国債を発行した時点で、債務問題は解決すると言ったのはあくまでも形式上のことであり、このインフレのことを念頭に置いていたのである。しかしこれも国民のコンセンサスができれば、決定的な問題にはならないと思われる。例えば年間3%までの物価上昇率まで、政府はこの資金を自由に使うことを容認すると決めるのである。さらに筆者は、最近の日本経済は簡単には物価上昇を起こさないような体質に変わっていると考えている(これについては来週号でも述べる)。したがって政府はかなりの額まで、この600兆円の資金を使うことができると考える。そして600兆円の資金のほとんどが使えるのなら、累積債務問題は単に形式的ではなく、実質的に解決がつくと筆者は考える。税収の増加と運用益、さらに国債の支払利息の減少によって、少なくとも10年後には解決のメドは立っていると思われる。
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