- 厳しいリストラの実態
今のところ大企業のリストラは、先週号で述べたように、それほど深刻な状況ではない。リストラと言っても、新卒者の採用減や関連会社などへの出向・転籍が主な手段である。希望退職を募る場合も、好条件を提示している。いきなり「指名解雇」を行うと言うケースはほとんど聞かない。また一昨年の大型金融機関の破綻以降、建設土木・商社と言った一部の業種を除き、大きな人員整理を伴う大手企業の破綻は影を潜めている。このように大企業の場合、リストラで会社を辞める場合でも、まだまだ「ハッピーリタイアメント」が普通である。
ところが、中堅以下の企業の場合は状況が大きく異なる。一般的に企業の規模が小さくなるほど市場での競争は厳しくなる。したがって中小企業は、元々余剰人員と言うものを抱えている余裕がない。つまり誰でもいきなり失業に直面する可能性がある。人員整理の場合でも、大企業のような手厚い条件が提示されることは稀である。特に今日の円高の進行により、輸出関連の中小企業は苦しい立場に立たされている。
中小企業の従業員のリストラにおける厳しい状況は、労働省の統計でもはっきり示されている。過去3年間で倒産や解雇・人員整理など特に厳しい離職を迫られた企業規模別の人数である。該当者の合計は43万人であるが、従業員が30人未満の企業で20万人・47%、30人以上500人未満の企業で17万人・39%である。500人以上の大企業では残り6万人・14%となっている。 たしかに企業規模別の全体の従業員に占める比率が問題になる。しかし労働省の数字と入手可能な中小企業庁の企業の規模別の人数の捉え方が異なるので、筆者はこれを推定で示す外はない。中小企業庁の数字を元に、筆者は、非一次産業の500人以上の従業員の数は日本全体で35%前後と推定している。つまり500人以上の大企業で厳しいリストラを迫られたケースの14%は、これに比べかなり小さい数字である。さらに従業員の数が大きくな大企業ほど、この差は大きくなると考えられる。このように本当に厳しいリストラに直面しているのは、今のところ主に中小企業の従業員である。
次に企業と構造改革について言及する。たしかに不景気にも拘わらず、現状では中小企業の倒産は低い水準で推移している。これは明らかに、政府の中小企業の対する20兆円の信用保証枠(10兆円がさらに増額される予定)の設定の効果である。筆者は、この政策を政府のヒット策と考えている。しかしこの信用保証枠の設定に対して「整理淘汰されるべき企業が延命され、構造改革が先送りされる」と言う意見を最近よく聞くようになった。しかしこの信用保証枠の設定は、不景気に加え、銀行の「貸し渋り」、つまり金融仲介機能の低下に対応するものである。いわば非常時の対策である。
しかしこのような発言を行うエコノミストの特徴は、肝腎の「構造改革」の中味をはっきり言わないことである。筆者は、それは本人達にもアイディアがないからと考えている。まったく無責任なことであり、これについては別の機会にまた述べることにする。 昔のように、経済がどんどん拡大している時代なら、既存の業種から他の成長業種への転換もスムースに進めることができるが、今日の日本のように、どんづまり状態では新規事業と言っても難しい。実際、新規事業で失敗しているケースが実に多いのである。またビジネスチャンスらしきものが登場すると、どの企業もそれに飛びつき、たちまち儲からなくなるのが実態である。
- 大企業のリストラの今後
有力な大企業が次々に大規模なリストラ計画を発表し、マスコミで話題になっている。しかしその実態は本誌が先週号から述べているように、従業員にとってはそれほど深刻な状況ではない。今のところ話題が先行しているだけである。前述したように実際に厳しいのは中小企業である。
筆者は、以前、日本の大企業の雇用状況を「ぬれ雑巾」と表現した。つまり人員的にはまだまだ合理化する余地があると言う意味である。出入業者への単価の引下要請や交際費などの経費のカットを経て、大企業はようやく人員の問題に到達したところである。そしてリストラのやり方はまだまだソフトである。 しかし今後も同じような状況が続くとは思われない。大企業には今後、さらに第二、第三のリストラが構えているのである。筆者は、徐々に企業には余裕がなくなり、リストラの方法も一段と厳しくなるはずと考えている。したがって日本の大企業においては、従業員は、年金の支給を含め、一才でも年をとっている方が有利と考える。同期入社でも、大学に浪人して入った者の方が、年をくっている分有利なのである。
筆者はここまでリストラの善し悪しについて述べてこなかった。むしろ筆者はリストラを善し悪しを論ずる前に、避けがたいものと考えている。特に大企業は余剰人員を大量に抱えているのであるから、今後は大企業からかなりの数の失業が発生することは十分予想される。。さらにリストラの主な対象である団塊の世代は、人数のうえでも各企業で特に突出しており、企業の年令構成を歪になものにしている原因でもある。したがってこの年代の者はいずれ人員整理の対象になる可能性は強かった。それが今日本格的にやって来たのである。
話はちょっと変わるが、エコノミストのほとんどは、10年前のバブル経済を非難する。これを擁護する者はほとんど皆無である。しかし筆者はちょっと違う意見を持つ。たしかにバブル経済は異常な状況であり、色々な面に後遺症も残した。しかし筆者は、元々資本主義経済には常になにかしらバブル的なものがつきまとうものと考えている。
問題のバブルは、為替レートが短期間のうちに240円から120円に急激に上昇した状況を背景に生まれた。政府は為替の急激な円高に対応するための経済対策、つまり景気対策を行った。しかし政府の景気対策は、当時の財政再建路線を意識し、財政出動を控え目にしたため、どうしても金融に偏重することになった。この結果、不動産投機が活発になり大きなバブルが生成されることになった。しかし方法はともあれ、景気は、奇跡的にも大きな落込みを見せず回復したのである。
バブルを発生を押さえながら、円高不況を克服する方法があったかもしれないが、当時の日本の「空気」と日本人の知恵では無理だったのである。しかし景気はみごとに回復したのである。もしもと言う仮定で、当時バブルの発生をおそれ、政府が景気対策に躊躇し、円高不況が深刻になっていたら、今日行われているリストラは10年以上前から行われていたと筆者は考える。ターゲットはもちろん団塊の世代以上である。つまりバブル経済のおかげで、リストラが10年延長されたと言うのが筆者の感想である。また橋本政権の経済政策のミスがなければ、さらに5年間は大丈夫だったかもしれないとも考えている。
これからも続く大企業のリストラの影響は、大企業の間に止まることはない。当然、中小企業を始め、日本全体に影響を与える。しかし誰もリストラの流れを止めることはできないと考える。たしかにちょっと前まで、完全雇用が当り前であった日本では、有効な雇用対策を行える態勢ができていない。日本では全体が、失業に対する対応にまだ慣れていないのである。少なくとも政府が行うべきことは、計画されている景気対策を自信を持って確実に行い、リストラに伴う痛みをできる限り和らげることである。筆者は、失業問題に対しては、「ワークシェアリング」などを含め、社会全体で知恵を出し合うべきと考える。そして税収不足と言って、安易に世論に迎合し、景気対策に逆行するよう「たばこの値上げ」などは決して行うべきではない。
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