- 通産省の必要性
「サマータイム導入法」の法案提出が今国会では見送られることになった。表面的な理由は、国会の日程により、審議時間が取れないことになっている。しかし、実際は、法案そのものに対する反発が予想以上に大きいかったことが原因と推察される。
この法案は議院立法の形をとっているが、実際に推進していたのは官僚である。また、省エネによる環境対策と言うことで環境庁が前面に立っているが、実質的に法案の作成に深くかかわったのは通産省である。ところで省エネ効果算出にあたって、数字を相当いじったようであるが、それでもたいした数値にはならなかった。これに並行し、アンケートを行い、過半数の人々が「サマータイム導入」に理解を示していると主張していた。ところでアンケート結果と言うものは、設問の作り方で相当操作できる。だいたいアンケートに回答する人は、設問についていつも深く考えてわけではなく、むしろアンケートを取っている人々の主旨を察し、この方々に喜んでもらえるような回答をする傾向がある。
「銀行預金のペイオフ」についてのアンケートについては、本誌でも一度取上げたが、不思議なことに「ペイオフ」に賛成の人々が多かった。しかしこの時も回答者のほとんどは「ペイオフ」の実状についての知識がほとんどなかったのである。このように、アンケートで大半の人々が賛成していると言って、いい加減な法律が次から次に成立したのでは、とんでもないことになるのである。
「サマータイム法」の一件を含め、筆者には通産省の行動には不信感がある。ところで通産省は、通商を司る部署と産業政策を行う部署で構成されている。たしかに通商と言うものは各国の利害がからむものであり、時には外国から理不尽な要求がなされるケースが有りうる。それに対処する窓口を政府が持っている必要はあろう。しかし問題は産業政策である。筆者は、政府はマクロ経済の需給の調整を行う必要性があると考えるが、政府が直接産業政策を行う必要はないと考えている。たしかに明治の初期には、民間がリスクを取らなかったため、政府が率先して外国が技術を導入し、工場を建てると言うことが行われた。しかし今日、時代は大きく変わっているのである。ビジネスチャンスがあれば、民間が自主的に資本を投入するのであるから、政府の介入や指導は不要である。
今日近代化が遅れ、競争力のない業界ほど、通産省を始めとした官庁が深くかかわった所である。個々の企業を見ても、通産省の指導に従った企業ほど体力をなくしている。反対に、本田のように通産省に逆らった企業ほど今日羽振りが良いのである。ところが用もないのに産業界に口を出し続けていた通産省が、180度方向転換し、数年前から強く主張を始めたのが「規制緩和」である。「規制緩和」さえ行えば、経済は成長し、失業問題も解決すると言うのである。これはまさしく「供給サイド重視」の経済論ではないか。
- 「規制緩和」の経済効果
前段で説明したように、通産省はここ数年「規制緩和」を推進する立場にある。2年前には「抜本的な規制緩和を実施すれば、2,001年には1,995年と比べて実質成長率が6.0%、金額で39兆円押し上げられる」と試算している。(ただし表向きには学者の試算になっている)しかし筆者には、「サマータイム法」の時と同様に、この官庁が作る試算が信用できない。経済効果の総額が39兆円と言うと大きいように感じるが、年率にすればGDPのわずか1%である。このような小さな数字なら、試算際の前提条件をちょっと変えることによって、効果が逆にマイナスになる事態も考えられるのである。したがってこの程度の数値で、どうして「規制緩和」が経済成長を生み出すと結論づけられるのか不思議である。
これは本誌でも2年前に取上げたが、当時、通産省だけでなく、経済企画庁や経済学者およびシンクタンクが「規制緩和をすれば経済成長する」と言う研究結果を発表している。しかしどの試算でも経済効果は年率にすれば1%前後と極めて小さいものである。
またどの試算もだいたい次のようなアプローチであった。(以下以前の本誌の再録)
- 内外価格差が縮小すると仮定
- 生産性格差が縮小すると仮定
- 消費者物価指数の上昇率が卸売り物価指数の上昇率の一定範囲内(例えば1%)に収まると仮定
アプロ- チに違いはあるが、結果は次のところまでは共通している。
- 「規制」で守られている分野の産業(日本では比重が大きい)において、競争が活発になり、価格競争が起こる
- この結果、物価が下落し、実質国民所得は増大する
- 「規制緩和」が行われた産業から失業者が出る
筆者もここまでは共通の認識である。(再録部分の終わり)
しかし2年前にも指摘したことであるが、問題は、これらの試算が、規制緩和に伴う実質国民所得の増大による消費の増大を過大に予想していることである。したがってこれらの試算のほとんどでは、「規制緩和」が行われた産業からの失業者も消費の増大によって新産業に吸収されることになっている。しかし筆者は、消費の限界に達している日本においては、物価が下落しても消費は伸びないと考え、「規制緩和」が行われた産業からの失業は解決が難しいと述べた。実際、今日までの現実は、筆者の主張通りに進行しており、依然失業者数は増え続けているのである。
まず、理論的上は、消費は実質所得に比例するのではなく名目所得に比例するのである。つまり給料が増えないのに物価が下落したからと言って消費を増やすのではなく、手取りの給料が増えるから消費を増やすのである。ところが、景気対策の減税で手取り給料が増えたのに消費は伸びなかったように、現実は理論よりさらに厳しかったのである。したがってリストラで失業者が増えている現状では、物価が下落したぐらいで消費を増やすはずがないのである。つまり日本において「規制緩和」が失業を解消すると言う考えは全くの空論である。
この他にもこれらの試算には共通しておかしな部分がある。「規制緩和」によるプラス効果は過大なまでにカウントしておきながら、マイナスの効果については十分カウントしていないのである。マイナスの部分は予想が難しいらしく、はっきりしないものはゼロと割切っているのである。ただ共通してマイナス効果としてカウントしているのは「大店法改正に伴う、中小商店への影響」である。筆者は、これは中小商店の政治的な力を配慮したためと考えている。
このようにこれらの試算がずさんでも、今だに世間には「規制緩和」は経済成長にはプラスと信じている人々が多いのである。橋本前総理もデンバーサミットで「日本は規制緩和を行うことで内需拡大を行う」と堂々と発言し、米国政府首脳をあきれさせた。橋本前総理が当時一番信頼していた秘書官は通産省の出身であり、この人物を中心にこのとんでもない案が練られたのであろう。
以前、通産省は環境産業が将来の有望産業と喧伝していた。これにしたがえば環境に関する規制を強化することが経済成長にプラスと言うことになる。一体、これでは経済を成長させるためには、規制を強化した方が良いのか、規制を緩和した方が良いのか分からなくなるではないか。まったく通産省の主張と言うものは支離滅裂である。
筆者は、規制緩和の経済効果はほぼ中立と考えている。たとえば環境に対する規制も強化すれば、一時的には環境対策としての投資が増え、経済にプラスであるが、長期的には、企業は環境規制の甘い国に生産設備を移転させる可能性があり、これはマイナスの効果である。したがって両者を合計すれば、ほぼプラスマイナスがほぼゼロと考えられるのである。たしかに規制緩和もやり方や行う分野によって結果が多少違うことが考えられる。しかしどのような規制緩和にもプラスとマイナスの効果があり、両者を相殺すれば、差引きの数字はそんなに大きなものにはならないはずである。したがって筆者は、少なくとも、内需拡大策や景気対策として「規制緩和」が有効とはとても考えない。
最後に、意外と思われるかもしれないが、筆者は「規制緩和」には基本的に賛成である。しかしそれは決して盲目的な「規制緩和」ではない。そしてむしろ現状においては、特定の産業においては「規制緩和」どころか、今こそ「不況カルテル」を申請すべきと考えているくらいである。これらについてはそのうち本誌で取上げたいと考えている。
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