平成9年2月10日より
経済コラムマガジン



99/6/14(第119号)


銀行員とリスク(その1)
  • 銀行の国有化
    日本の銀行の行動を理解したり、今後の銀行の行動を占う上で、日本の銀行員の独特の性質を考えることが重要である。先週号で述べたように、日本の銀行は徹底的にリスクを避ける。これも日本の銀行員自体がとくかくリスクを嫌うからである。

    銀行員がリスクを嫌うのは、ほぼ本能的である。したがってリスクの金額的な大小にはあまり関係がない。極端な場合には、貸倒損失が500万円でも1,000億円でも同じと感じるようである。よく銀行員の巨額の不祥事が報道されるが、どれも発端は小さなミスや小さな損失から始まる。そのミスを取り返そうとして、却って損害がどんどん大きくなるのである。世間に明らかになる頃には、損失額が既に千億円単位になっていると言うしだいである。

    今日、地価が依然下落を続けている。中小企業から受け入れている担保の価値が目減りしている。つまり中小企業が倒産すれば、担保でカバーされない部分が発生し、それが貸倒損失になる可能性が高いのである。銀行が貸し渋りどころか、融資金の回収に一生懸命なのもこのような銀行員の性質を考えるなら当然の行動である。

    以前は銀行に集まった多額の預金も比較的スムーズに企業に循環していた。これも日本の地価が毎年順調に上昇していたからである。少なくともバブル期までは担保土地の価値が上昇を続けたので、このようなリスクを極端に嫌う銀行の体質が、偶然にも長い間表面化しなかっただけである。

    しかし地価の下落が続き、今日事情が一変した。リスクを全く取る気のない銀行の貸し渋りがあり、30兆円もの信用保証枠を設定し、政府は銀行に代わって中小企業の倒産を防いでいる。つまり政府が銀行に成り変わってリスクを全て引き受けているのである。ところがそれを良いことに、銀行は自分達からの企業への融資をこの国の信用保証付き融資に切り替えるよう、顧客に迫るケースがあると言う。野中官房長官はこのような銀行の行動に怒りを込め非難をしていたが、しかしこれが銀行の本質である。信用保証付き融資は、銀行にとってリスクなしで確実に利鞘を確保できる融資であり、全く銀行にとっても都合の良い商売である。

    筆者は、地価の上昇、あるいは少なくともこれ以上の下落のストップが景気回復への重要な条件とこれまで述べて来た。これも一つは銀行のこのような行動を念頭に置いていたのである。

    1月〜3月のGDPの成長率は年率で7.9%のプラス成長であった。これについては別の機会に触れると思われるが、久々のプラス成長である。この景気回復を確実なものにするには、銀行に集まる資金が企業に循環される必要がある。残念ながら日本の銀行の体質を考えるなら、担保土地の評価が維持される必要がある。もし地価の下落が続くようなら、今後も政府の信用保証枠の増額などの対策が必要となってくるのである。

    このような日本の銀行を本当に「銀行」と呼べるのか疑問である。日本の金融システムを守るため、公的資金の投入だけではなく、様々の対策が行われているが、これは金融システムを守るためであり、けっして銀行員の生活を守るためではなかったはずである。政府も、当初はこれらの政策によって銀行の貸し渋りは解消されると言うことを建て前にしていた。しかし結果は、銀行員の生活のための政策に終わりそうである。そして筆者は、今後も日本の銀行の体質が変わる可能性はないと考えている。ところで郵便貯金の民営化がしばしば話題になるが、筆者は、実現性が全くないとしても、反対に大手銀行の国営化を提案したい。一旦国営化し、内部を徹底的に整理した後、再び民営化するのである。こうでもしない限り、日本の銀行の体質は変わらないと考えられる。例えば現行の高い給与水準では、中小企業に対するリテール業務はとても採算が合わないと考えられる。そしてこの分野には経験豊富な信用金庫などの中小専門銀行や手形割引業者などのノンバンクが競争相手としており、さらにノンバンクは社債を発行し、資金を市場から直接調達できるようになった。また優良な大企業はもとから銀行を必要としていないのである。一体、銀行は、今後何から収益を得ようとしているのか分からないのである。


  • 銀行員と日本の社会
    「大手銀行から次々に優秀な行員が辞めていく」とか「銀行は優秀な人材を腐らせている」と言う話を聞くことがある。しかし「銀行員は優秀だ」と言う言葉に、筆者は違和感をおぼえる。そんなに優秀な人材がいたのにどうしてこれだけ膨大な、しかも間が抜けたような不良債権を作ったのか。また、導入が検討されている確定拠出型年金の運用を受託するには、今の銀行には人材がいないため、外銀と提携したり、外国人を雇う必要があるらしい。さらに不良債権の回収のノウハウも持っていないのである。これでどうして「銀行員は優秀だ」と言えるのであろうか。ところが世間には「銀行員は優秀だ」と言う間違った常識がまかり通っているのである。

    「銀行員の給料は高すぎる」と言う話に対して、銀行の幹部は「銀行には優秀な人間が集まってくるから給料が高いのは当然」と答える。しかし、銀行員がけっして優秀とは思われないことは前述の通りである。ところが話が「銀行員は学校での成績は優秀であった」と言うことになれば、筆者も100%賛成する他はない。たしかに大手銀行の銀行員は成績が優秀な者ばかりである。

    しかし銀行に成績優秀者が集まるには訳がある。これは以前聞いた話である。給料が特別に高く、経営が安定していると考えられている銀行には、とにかく大勢の入社希望者が集まる。大きな大学なら一つの学部から数百人が一つの銀行に志願することも珍しくはないと言うことである。しかし銀行側にも事情がある。信用をとにかく重要視する銀行としては、絶対に「面接」を行いたい。ところがこんなに志願者が多くては、とても全員と「面接」を行うことは無理である。物理的に不可能なのである。そこで志願者を学校の成績でふるいにかけることになる。銀行は、大学によって、「優」とか「A」の数を25とか30に最低ラインとして設定し、面接を行う志願者を絞るのである。この結果、銀行には成績優秀者だけが集まることになる。ただし成績優秀者が実業界でも優秀だとは必ずしも言えない。むしろここまでの現実は、この逆だったことを示している。

    大手銀行の中でも長期信用系の銀行には、特に大学の成績優秀者が集まる。長期信用銀行は金融債を発行して資金を集める。金融債を売り捌くのは証券会社などである。したがって長期信用銀行の行員は、銀行につきものの「預金集め」を行わなくて良い。以前は、長期信用銀行の行員は、ただ「天下国家のことだけを考えておれば良い」と言われたものである。また給料が高い銀行の中にあって、さらに長期信用銀行は一番給料が高いのである。長期信用銀行に極め付きの学校秀才が集まるのも道理である。

    ところが長銀、日債銀と長期信用銀行三行のうち二行までもが実質的に破綻したのである。それもみじめな破綻の仕方であった。残る興銀もあやしい「料亭のおかみ」に巨額の株式投資資金を融資して、これを焦げ付かせている。興銀は過去の蓄積が大きかったから残っているとも言えるのである。まさかこれらの破綻の原因は、秀才の集め方がまだまだ足らなかったとは言わないだろう。実際には、大手銀行の中でも学校秀才が集まる銀行ほどリスクに対して脆弱であったと言うことである。

    しかし今週号は銀行員に悪態をつくことが目的ではない。ただ学校秀才が集まる組織ほど、リスクに対して弱いと言うことを指摘したいのである。そしてこれは銀行だけの問題と言うより、日本の社会全体の問題でもある。日本の社会の組織のいたる所にこのような銀行員タイプの人間がごろごろいるのである。しかし学校秀才を作ることは、これまでの日本社会の全体が目指してきたことでもある。この結果、日本は極めてリスクに弱い国家になってしまっているのである。銀行員は、現在の日本人の縮図とも言えるのである。

    ところがここへきて急に、自分でリスクを取る、つまり「自己責任」の重要性が強調され始めたり、ベンチャービジネスの育成の必要性が叫ばれ始めた。しかし、筆者は、日本にはそのような土壌はないと考えている。そしてこの続きは来週号で述べるが、さらに核心に迫ることになる。


来週号は「銀行員とリスク(その2)」である。特に後段では、日本においてリスクにまつわる重要なことを指摘したい。

10日に政府・日銀の「円売り介入」があった。予想外の117円台での介入であった。本誌の為替動向の予想は、前から述べているように、目先は別にして、中長期的には「円高」と考えている。したがって今回の円高傾向自体には驚いてはいない。ただ当局のすばやい対応が注目される。やはりこれも景気に対する配慮と考えられる。

本文で述べたように、1月〜3月のGDPの成長率は年率で7.9%のプラス成長であったと経済企画庁は発表している。ただし毎月行われている経済企画庁の月例報告とのズレがちょっと気になる。これについてはまた述べることにするが、実際にはどちらが正しいのか見極める必要がある。
本誌は、99/2/8(第101号)「99年度の経済を見通す」で述べたように、条件付きながら本年度の経済成長率をプラスと予想している。ほとんど全部のエコノミストがマイナス成長を予想している中で、ほとんど唯一プラス成長を予想しているのは金森久雄氏であった。筆者も同氏の考えに基本的に賛同している。そして本当に1月〜3月がプラス成長だったのなら、この予想が当る可能性が大きくなったと言える。もし予想が当ると言うことになれば、それはそれで実に痛快なことではある。



99/6/7(第118号)「銀行のバブル期の行動」
99/5/31(第117号)「日本の銀行とリスク」
99/5/24(第116号)「需給ギャップと景気回復」
99/5/17(第115号)「経済の構造改革」
99/5/10(第114号)「サマータイムと日本人」
99/5/3(第113号)「地価動向と景気回復」
99/4/26(第112号)「お金持ちとリスク」
99/4/19(第111号)「日本のお金持ち」
99/4/12(第110号)「寡占と所得の分配」
99/4/5(第109号)「寡占市場の話」
99/3/29(第108号)「完全競争市場の話」
99/3/22(第107号)「独占市場の話」
99/3/15(第106号)「本誌の経済予想とその間違い」
99/3/8(第105号)「景気の現状(99年春)」
99/3/1(第104号)「立派な社会と景気回復」
99/2/22(第103号)「現代の日本経済と投資」
99/2/15(第102号)「需給ギャップと投資」
99/2/8(第101号)「99年度の経済を見通す」
99/2/1(第100号)「公共投資の将来を考える」
99/1/25(第99号)「今後の景気対策を考える(その2)」
99/1/18(第98号)「景気の見通しを考える」
99/1/11(第97号)「今後の景気対策を考える(その1)」
98/12/28(第96号)「不況の原因と消費税減税を考える」
98/12/21(第95号)「米国経済の光と影を考えるーーその2」
98/12/14(第94号)「米国経済の光と影を考えるーーその1」
98/12/7(第93号)「自自連立政権を考える」
98/11/30(第92号)「公共投資と経済を考えるーーその2」
98/11/23(第91号)「緊急経済対策を考える」
98/11/16(第90号)「公共投資と経済を考えるーーその1」
98/11/9(第89号)「「空気」を考えるーーその2」
98/11/2(第88号)「「空気」を考えるーーその1」
98/10/26(第87号)「景気対策論議を考える」
98/10/19(第86号)「為替レートの今後のトレンドを考える」
98/10/12(第85号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその3」
98/10/5(第84号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその2」
98/9/28(第83号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその1」
98/9/21(第82号)「為替レートのトレンドを考える」
98/9/14(第81号)「バブルの清算と公金投入を考える」
98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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