平成9年2月10日より
経済コラムマガジン



99/5/3(第113号)


地価動向と景気回復
  • 地価と日本経済
    読者のご質問もあり、今週号では地価の動向と経済について述べることにする。筆者が考える今後の地価の動向は、2年前に97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」で述べたことと基本的には変わっていない。つまり超長期において日本の地価は下落する可能性は強いが、目先下落はストップし、場所によっては上昇に転じると考えている。2年前にも同様の予想をしたが、目先の地価動向は残念ながら予想をはずれ、依然下落を続けている。しかしこれについては、橋本内閣の財政再建路線による不況の深刻化を甘く見ていたからと言い訳する他はない。実際、財政再建路線が始まる直前には、地価の下落が止まるきざしがあったのは事実である。筆者は、まさか拓銀や山一の破綻するほどの信用不安が発生するとは考えなかったのである。そのような事態が起こる前には、必ず政府は手を打つと信じていたのである。
    内閣も小淵内閣に代わり、ようやく適切な経済運営が行われるようになり、今度こそ地価の下落に歯止めがかかるものと期待している。しかしここまでの現実は厳しい。日本不動産研究所の調査によれば、3月末時点の6大都市圏の商業地の地価はピーク時の約五分の一になっており、住宅地も二分の一以下になっている。さらに全体ではこの下落傾向は続いていると言うことである。ビルの賃貸料も依然下がり続けている。特に大阪での下落が目立っている。
    しかし一方には物件によって、下落が止まったと言う情報もある。住宅関連減税と低金利の住宅融資政策で久し振りに住宅建設は活況を呈している。マンションの売れ行きも好調である。このため好立地の土地の不足が目立ってきている。住宅関連減税も一応期限があるため、マンション業者も土地の手当に焦っている。この結果、条件の良い土地の値段は上がり始めていると言うことである。全体的ではないが部分的に地価の上昇が見られるのである。また、外人投資家も良質の商業用地への投資を継続的に行っている。つまり一等地についてはほぼ地価の下落が止まっていると推測されるのである。部分的であっても良いが、地価の上昇が起こると、その影響が少しずつ周辺にも及ぶものである。筆者は地価の底入れは近いと考えている。いずれにしても次回の日本不動産研究所の調査結果が注目される。
    逆に日本経済の動向は地価の動向と密接な関係がある。これは先進諸外国にちょっと見られない現象である。地価との関係で、日本経済に近い特徴を持つのは香港の経済くらいであろう。まず株価も地価と密接な関係がある。日本のPER、つまり株価収益率は諸外国に比べ大きい。株価収益率は一株当たりの利益で株価を割り返した数値である。株に投資した時、何年で元がとれるかと言う数値でもある。株式がバブルと言われている米国でも25倍くらいなのに対して、現在でも日本はその倍くらいである。100倍を越える企業もごろごろしている。この一つの原因は日本の低金利であるが、もう一つの原因は企業が持つ内部留保と土地の含み益である。例え利益がほとんどない企業でも、清算した場合には株主の持ち分としてこれらのものが表面化するのである。特に古い企業ほど大きな土地の含みを持っている。もっとも土地の含みを持っていても利益が出ないと言うことは、経営がまずいからとも言える。逆に土地の含みを持たない新興の企業の株価は、金利の話を別にすれば、国際的に標準的な株価収益率に近い必要があると言える。
    バブル期に日本の株式は高騰し、株価はバブルと言われた。しかし筆者は、株価がバブルであったと言うより、地価がバブルで高騰し、株価が忠実にそれを反映して上昇したものと考えている。今後、株価が今の水準を越えて上昇して行くには、企業収益の回復に加え、地価下落の終息ないし反転が必要と考えている。
    また土地は、企業にとって借入金の担保となっている。よほどの信用のある大企業でない限り、担保なしで銀行から借り入れることはできない。ところがこの担保となっている土地の価格が下落しているのである。リスクを嫌う銀行が貸し出しを渋ったり、融資の回収に走ることは容易に想像できる。いま中小企業の倒産が小康状態を保っているのは、政府による信用保証と言う実に大胆な政策のおかげである。しかし、いつまでも政府の保証で信用を維持するわけにはいかない。早く地価の反転が待たれるゆえんである。

  • 土地評価方法の変更
    土地の評価方法には「原価法」「取引事例比較法」「収益還元法」の三つがあり、これらを組み合わせて地価の鑑定が行われる。ただし「原価法」は土地が造成されたり、干拓によって土地が新たに生まれる場合に限られた評価方法であり、既成市街地では使えない。つまり通常の土地の評価は「取引事例比較法」「収益還元法」の組み合わせである。
    国土庁の地価公示もこの方法による。しかしこれまでの実際の売買される土地の値段は、圧倒的に取引事例の比較により決定されていた。特にバブル期においてはどこかの土地が高値で取引されると、近隣の土地の評価も上昇すると言うわけである。このため土地の収益を元に算出する「収益還元法」を加味する公示価格は、実際に取引されている実効価格を追い掛ける展開になっていた。したがって実際の土地の取引価格は、公示価格の何割増し、時には何倍と言うひどいケースもあった。もちろんこのような高値で買った土地にビルやマンションを建てても、とても賃料ではペイはできない。唯一利益を得るには、この土地をさらに高く売る他はなかったのである。しかしバブル期にはこれが可能だったのである。
    人々が目を覚ましていれば、そのような地価が暴落することははっきりしていた。ところがバブル期には銀行も酔ったようにこのような土地買収に大量の資金を提供していたのである。
    たしかに国土が狭く、平地の少ない日本では、再生産のできない「土地」は特別の資産である。土地の保有に関わる経費も諸外国に比べ小さい。また銀行も担保物件として「土地」を重視している。さらに過去からの経験で、オイルショック時を除けば、地価は一貫して上昇してきた。人々が「地価はまだまだ上がる」と考えても仕方がない状況ではあった。しかし人々が「土地の使いで」と言うもう一つの要素を完全に忘れていたのも事実である。
    国土庁は、今後土地の評価に当って「収益還元法」を重視することを方針として打ち出した。これも自然の流れと言える。
    今後の地価動向については色々な意見がある。企業のリストラによって土地の売却が増え、地価はさらに下落すると言う予想もある。しかし、筆者は、地価も下落が続いたため、「収益還元法」での評価に既に到達した土地も現われていると考えている。前段で説明したように、場所によって、土地を買収し、建物を建てても賃料で収益を得られるケースが出てきたことに注目している。「収益還元法」での評価まで地価が下落すれば、これ以上の地価の下落はないと考えるのが普通である。もちろんこの水準まで全ての地価が下落したわけではないので、全体ではさらに下落することもありうるが、少なくともこれまでの全面下落と言う状況ではないと考えている。リストラによる土地の売却も世間で言われているほど大きくないと予想している。一つ危惧することは、経済自体がさらに悪くなり、「収益還元法」で算出される地価のさらなる下方修正が必要な事態である。この場合にはまた地価が下落する可能性が強くなる。
    政府の土地政策が注目されている。筆者は、「収益還元法」での評価よりさらに地価が下落する場合には、政府は具体的な土地政策を発動すべきと考える。しかしこれについては別の機会にまた述べることにしたい。

来週号は「サマータイム」をテーマに取り上げる。
失業者がさらに増え、失業率も4.8%に上昇している。失業問題は今後の最大の経済問題と言う認識が必要である。日本の労働市場は、一旦発生した失業は簡単に吸収されない構造になっている。このような状況で企業のリストラが進めば、失業問題はさらに深刻化する。政府も解決の決め手を持っていない。筆者は、解決方法がないのなら失業を出さない政策を行うことが常識と考える。ところが世間知らずの経済学者達は全く逆の主張を行っているのである。政府もこのばかな連中の影響か、「失業増は再生の痛み」とのんきなことを言っている。このままでは取り返しのきかない事態になりそうである。いずれ方針は変わると思われるが、それまでは時間がかかるようである。



99/4/26(第112号)「お金持ちとリスク」
99/4/19(第111号)「日本のお金持ち」
99/4/12(第110号)「寡占と所得の分配」
99/4/5(第109号)「寡占市場の話」
99/3/29(第108号)「完全競争市場の話」
99/3/22(第107号)「独占市場の話」
99/3/15(第106号)「本誌の経済予想とその間違い」
99/3/8(第105号)「景気の現状(99年春)」
99/3/1(第104号)「立派な社会と景気回復」
99/2/22(第103号)「現代の日本経済と投資」
99/2/15(第102号)「需給ギャップと投資」
99/2/8(第101号)「99年度の経済を見通す」
99/2/1(第100号)「公共投資の将来を考える」
99/1/25(第99号)「今後の景気対策を考える(その2)」
99/1/18(第98号)「景気の見通しを考える」
99/1/11(第97号)「今後の景気対策を考える(その1)」
98/12/28(第96号)「不況の原因と消費税減税を考える」
98/12/21(第95号)「米国経済の光と影を考えるーーその2」
98/12/14(第94号)「米国経済の光と影を考えるーーその1」
98/12/7(第93号)「自自連立政権を考える」
98/11/30(第92号)「公共投資と経済を考えるーーその2」
98/11/23(第91号)「緊急経済対策を考える」
98/11/16(第90号)「公共投資と経済を考えるーーその1」
98/11/9(第89号)「「空気」を考えるーーその2」
98/11/2(第88号)「「空気」を考えるーーその1」
98/10/26(第87号)「景気対策論議を考える」
98/10/19(第86号)「為替レートの今後のトレンドを考える」
98/10/12(第85号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその3」
98/10/5(第84号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその2」
98/9/28(第83号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその1」
98/9/21(第82号)「為替レートのトレンドを考える」
98/9/14(第81号)「バブルの清算と公金投入を考える」
98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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