経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




16/5/23(892号)
アベノミクス停滞の理由

  • 消費増税の行方

    5月14日の日経新聞に「首相、消費増税先送り」「サミット後に表明」という観測記事が出た。安倍総理は、国会で「消費増税は予定通り」と従来の答弁を繰返す一方、「増税時期は適時適切に」「増税によって経済が落込み、税収が減れば元も子もない」とも述べている。また日経は、総理が政府・与党幹部に増税見送り方針を伝えたと書いている。これらを勘案すると、増税延期はほぼ確実と筆者は判断する。

    各メディア・マスコミの世論調査でも来年4月の増税に反対する声が極めて大きくなっている。また単に増税延期に賛同するだけでなく、消費増税そのものに反対する者がかなり増えている。筆者は、最近の各マスコミの世論調査は比較的正しく人々の声を伝えていると思う。


    ところが3党合意で消費税増税を決めた当時、大手マスコミは「国民の大多数が消費増税に賛成」と奇妙な調査結果を次々と公表していた。たしかに8%増税後の経済不振を見て、増税反対に変った人も多少いると思われる。しかし当時から増税に賛成する者は少なかったと筆者は推察する。

    おそらく日本の各大手マスコミが調査でかなりの操作を行っていたと筆者は考える。例えば「将来社会保障費が増えるが、これを消費増税で賄うことに賛成ですか」といった誘導的な質問がなされた可能性がある。残念ながら筆者自身がこの種の世論調査に答えたことがないので真相は分らない。是非とも週刊文春あたりに真相をスクープしてもらいたいものである。


    もし増税延期となれば多方面に少なからず影響がある。実際、政府内でも延期の幅が1〜3年する場合の影響の検討を始めたという。また筆者は、1〜3年の延期で止まらず「凍結」という事態も有り得ると見ている。

    1年半前、安倍総理は消費増税を延期し衆議院を解散した。これを単なる時間稼ぎと見る向きもあった。しかし延期したことで、8%への消費増税による日本経済へのダメージを国民も広く認識することとなった。また消費増税の影響は軽微と言っていた嘘つき経済学者・エコノミストの言うことは誰も信用しなくなった。


    つまり周囲の反対を押切って増税延期を決めた安倍総理の判断は正しかったのである(延期しなかったら昨年10月から既に消費税は増税されていた)。ここで再び増税延期となれば、さらに時間的な余裕が生まれる。そうなればこれまで正しく当たり前のことと思われていたことが、いかに間違っているかもっと明らかになる。そしてこのような認識が広がれば日本の経済政策の方針も正しい方向に向かう可能性が出て来ると言うものである。

    ここで筆者が悪質と考える間違った常識(虚言・妄言、あるいはデマと言って良い)を列記する。「日本の財政は最悪(完全な嘘)」「2020年のプライマリーバランス達成は必須(これをやれば日本経済は壊滅)」「日本の消費税の負担はまだまだ小さい(日本は既に消費税の重税国家)」「税と社会保障の一体改革は理想的(特に悪質な嘘)」など切りがない。またこれらの虚言・妄言が組み合わさって、日本の国民や政治家を翻弄してきた。


    どれもこれまで本誌でさんざん取上げてきたことである。そして最後の「税と社会保障の一体改革」に関しここに来て多少雰囲気が変ってきた。消費増税延期に消極的であった岡田民進党代表が突然消費増税延期を言い始めた。しかし3党合意による「税と社会保障の一体改革」を強力に押進めてきたのは、岡田代表も幹部であった民主党政権であったはずだ。おそらく今でも消費増税延期に反対する者は民進党内にかなりいると思われる。

    さらに驚くことに岡田代表は「再増税は19年まで延期し、必要な社会保障費は赤字国債で賄う」と党首討論で発言した。「必要な社会保障費は赤字国債で賄う」とはまさに筆者達が言ってきたことである。いくら参議院選を控えたといえ、これは大きな方針転換を意味するではないか。とにかく「税と社会保障の一体改革」というまやかしの政策は既に形骸化し死に体になっているのである。


  • 緊縮財政への転換の実態

    また岡田代表は「増税を実施できる経済情勢を作れなかったことは、アベノミクスが失敗したことを示す」とし、安倍総理に退陣を迫っている。たしかにアベノミクスがうまく行っていないことは事実と筆者も認識している。しかし筆者は、アベノミクスが間違っているとか、有効ではないとは考えない。繰返すが安倍総理就任後の少なくとも1年間(13年度)の経済政策は成功であった。つまりこれを本来のアベノミクスと呼ぶのなら、アベノミクス自体は有効と筆者は考える。

    しかし問題は14年度以降の財政政策である。16/2/22(第880号)「緊縮財政からの脱却」で述べたように、明らかに14年4月から緊縮財政に転換したのである。本誌ではこの様子を、毎年の補正予算額と消費税増税額の推移だけで説明してきた。今週はこれらに当初予算(本予算)や他の税収を加え、財政全体の推移からどの程度の緊縮財政を敷いて来たか次の表を使い改めて説明する。

    14年度までは歳出(本予算+補正予算)と税収は決算ベースであり、15年度は歳出が予算ベースで税収が予測である。
    国の歳出と税収の推移(単位:兆円)
    年 度歳  出(A)税  収(B)差引((A)−(B))
    12年度97.143.953.2
    13年度105.747.058.7
    14年度101.354.047.3
    15年度99.456.443.0


    表を見れば一目瞭然、13年度だけが突出して歳出(A)−税収(B)の差引((A)−(B))の数字が大きい。つまり13年度だけが近年にない積極財政が実施されたことが分る。また14年度から税収が増えたのは、もちろん消費増税が実施されたからである。また見逃していけないのが、デフレ脱却を唱える安倍政権が14年度から歳出を減らすといった矛盾した財政政策を採ったことである。


    筆者は、消費税増税を半年後に控えた13年の暮に13/11/25(第775号)「アベノミクスの行方」で、アベノミクスに黄色信号(限りなく赤信号に近い)が灯ったと警告した。これはこの頃消費増税に加え、14年度に向けた補正予算額(つまり13年度補正予算額)を5兆円も減額することが決定されたからである。これで前年度に比べ13兆円(上表の実績では11.4兆円(58.7−47.3=11.4))も財政は緊縮型に転換したのである。

    このように消費増税に加え極端な緊縮財政への転換があっては、アベノミクスが成功するはずがないと筆者は判断した。したがって筆者はこの補正予算を見て、14年度の経済成長は「ゼロないしマイナスの低成長」と言ったのである。14年度の実績は、予想通りマイナス1.0%であった。


    この補正予算額を見て、筆者と同様に景気の急落を予想するエコノミストが他にも何人かいた。しかし極めて少数であった。実際のところ、経済が回復したと言われる13年度でさえも経済成長率は名目でたった1.7%、実質で2.0%と決して高くない。ところがそれまでの日本経済が異常な低成長(特にリーマンショックの08年以降の2年間はマイナス成長)が続いていたので、当時、かなりの人々は日本はアベノミクスでものすごい好景気が来たと錯覚したのである。筆者は病み上がり程度の景気回復と思っていた。

    ところがこの頃「アベノミクス3本の矢の次は4本目の矢の財政再建だ」とはしゃぐ閣僚がいた。これを見て、筆者はひょっとするとアベノミクスは頓挫するのではと感じた。そして14年度からの消費増税と緊縮財政への転換がアベノミクスにトドメを刺した。しかし消費増税は民主党政権が主導した負の遺産であった。


    ところで13年度に向けての補正予算(つまり12年度補正予算)は10兆円を越え近年では突出して大きかった。財源は国債整理基金特別会計の10兆円の残高のうち7兆円取崩し捻出した。つまり財務省は虎の子の埋蔵金の大半を使ったのである。しかしこれは14年4月からの消費増税を安倍政権に確実に実施させるための景気浮揚を狙ったものである。安倍総理も財政再建派の戦略に乗っていることを薄々承知していたと思われる。

    意外と思われるかもしれないが、当時、内閣の支持率は高かったが安倍総理の力は決して強くなかった。13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」で述べたように、安倍政権は様々な考えの持ち主の上に乗っかっていた。例えば「金融政策絶対派」「構造改革派」「財政規律(再建)派」そして「積極財政派」などである。ちなみに最後の「積極財政派」の中にも消費増税に賛成する者がけっこういる。

    そもそも自民党の総裁選では、石破茂氏に地方票で大差をつけられた。やっと議員票でこれを逆転したのである。ようやく安倍総理が求心力を持ったのは、14年暮に衆議院を解散し総選挙で自民党が大勝してからと筆者は思っている。したがってアベノミクスの足を引張った消費増税や緊縮財政への転換といった大きな流れを阻止するだけの力は、当時の安倍総理になかったと筆者は感じている。



来週は、ヘリコプターマネーの話に戻る予定でいたが、変更して今週の話を続ける。筆者は消費税の再増税がさらに延期になると思っていたが、どうも不穏な動きが出てきたようである。その辺りをちょっと確認する必要がある。

石原慎太郎元都知事と亀井静香衆院議員が、米大統領共和党候補のトランプ氏に会いに行くと記者会見を開いた。トランプ氏が今日の日米関係を誤解しているので、それを正すとことが目的という。筆者も大賛成である。亀井さんは「トランプには花札で勝負する」と言っている。ただトランプ候補は忙しいので、両名が面会できるか不明である。もし話ができるのなら、言いたいことを言ってほしいものである。
日本では年を取った政治家が元気で先を見据えた行動をとっている。トランプ氏のような大統領候補が登場するなんて誰も予測していなかった。それにしても改正安保関連法は昨年成立したが、ギリギリのセーフのタイミングであった。




16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」
16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」
16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」
16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」
16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
16/3/14(第883号)「信用を完全に失った財務省」
16/3/7(第882号)「「政界」がおかしい」
16/2/29(第881号)「一向に醸成されない「空気」」
16/2/22(第880号)「緊縮財政からの脱却」
16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」
15/12/21(第873号)「敬虔なクリスチャンの感覚が日本を沈没させる」
15/12/14(第872号)「「名目GDP600兆円」達成のシナリオ」
15/12/7(第871号)「日本の経済学界の惨状」
15/11/30(第870号)「堂々と新規の国債発行を」
15/11/23(第869号)「今度こそは盛上がるかシニョリッジ」
15/11/16(第868号)「小黒教授の文章(論文)への反論」
15/11/9(第867号)「小黒一正教授の文章(論文)」
15/11/2(第866号)「シニョリッジ政策は現在進行中」
15/10/26(第865号)「避けられる物事の根本や本質」
15/10/19(第864号)「安保法案騒動に対する感想」
15/10/12(第863号)「安保法制改正の必要性」
15/10/5(第862号)「フォルクスワーゲンの排ガス不正問題」
15/9/28(第861号)「今回の安保騒動」
15/9/21(第860号)「数年後、中国はIMFの管理下に?」
15/9/7(第859号)「中国の為替戦略の行き詰り」
15/8/31(第858号)「唐突な人民元の切下」
15/8/24(第857号)「改めてメガ・フロートを提案」
15/8/10(第856号)「鰯の頭も信心から」
15/8/3(第855号)「個別的自衛権だけなら国連からは脱退」
15/7/27(第854号)「時代に取残された人々」
15/7/20(第853号)「宮沢俊義という変節漢」
15/7/13(第852号)「「緊縮財政路線」はジリ貧路線」
15/7/6(第851号)「議論のすり替えとデマ」
15/6/29(第850号)「安倍政権に対する提言」
15/6/22(第849号)「憲法は不要」
15/6/15(第848号)「22才のベアテが作った日本国憲法条文」
15/6/8(第847号)「中国は外貨不足?」
15/6/1(第846号)「中国は資金繰り難?」
15/5/25(第845号)「今こそ郵貯と財投をアジアに広めろ」
15/5/18(第844号)「AIIBの資金力は「ゴミ」程度」
15/5/11(第843号)「中国との付合い方」
15/4/27(第842号)「中国はマイナス成長?」
15/4/20(第841号)「ドイツ軍の敗走開始の話」
15/4/13(第840号)「反・脱原発派の陥落は近い?」
15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」
15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」
15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインパクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」


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