経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




16/7/25(901号)
アベノミクス下における注入と漏出

  • 消費増税は経済循環における漏出

    本誌は、このところ「経済循環における注入と漏出」に関わる話をしているが、これは現実の経済を決定づけるほど重要である。ところが世間の人々(一般の人々だけでなく、政治家、官僚、マスコミ人など)は、このことをなかなか理解できない。このためか幼稚な詐欺話によく引っ掛かっている。

    消費税増税以降の日本経済の低迷もこれで説明できる。5%から8%に税率を上げ8兆円の増税が実施された。まず8兆円の増税は経済循環において漏出になる。また消費増税が実施された14年度は、これに加え補正予算が5兆円も減額された。これは注入の減少ということになる。したがって財政は8兆円の消費増税と5兆円の補正予算の減額による合計13兆円のマイナス(乗数効果を考えると最終需要で20兆円以上のマイナス)となり、これがデフレ脱却を目指すアベノミクスを叩き潰したのである。


    消費増税は三党合意の「税と社会保障の一体改革」の中心施策ということになっている。先週号で述べたように、もしこの言葉から受ける印象通り消費増税分(漏出)をそっくり社会保障費(注入)に使っておけば、経済循環における注入と漏出のバランスは取れ増税関する限り問題は生じなかった。しかし14年度から始まった消費税の増税については、秘密の取決めがあったようでほとんどが社会保障費に使われず、8〜9割が財政再建に回された。つまり漏出が注入を圧倒的に上回り、深刻な需要不足を引き起した。

    ところが「税と社会保障の一体改革」という言葉に翻弄され、ほとんどの人々は消費増税が社会保障費に充てられるといった嘘の情報を信じてしまった。この影響があってか消費増税の延期が決められた時には、「それでは将来の社会保障はどうなるのだ」「延期を決めた政治家はあまりにも無責任」というむしろ批判的な声がかなり出ていた(全て人々が増税延期に賛成したわけではない)。しかし財政再建派と財政当局は最初から消費増税分を社会保障費に使う気は全くなく、増税分のほぼ全額を財政再建に充てて来たのである。


    「消費増税は社会保障費を賄うことが目的ではなかったのか」と増税派に迫っても、必ず彼等は「それは今ではなく将来の話」と言い訳して逃げると思われる。しかしこの「将来」という言葉が重要なポイントである。

    現実の経済は「生もの」である。消費増税で漏出が起ったら、同時に同じ規模で財政支出を増やす(注入の増加)か、あるいは同額の他の減税によって漏出を小さくする必要があった。もしこれらを行わなければ経済は縮小均衡に向かうだけである。たとえ将来において社会保障費を増やすとしても、これは今日の注入にはならないのだから何の意味もない。したがって仮に差迫って社会保障費の増額が必要ないのなら、増税分はそっくり他の財政支出に充てる必要があったのである。


    「経済循環における注入と漏出」を考えると、「江戸っ子は宵越しの金を持たない」とか「金は天下の回りもの」といった言葉や表現は、経済理論上、極めて合理的である。また日本の経済は成熟の段階にあり、民間は企業も個人も借金をしてまで投資や消費を行おうとしない(これは日本だけでなく、欧米の先進各国でも同じような傾向にある・・これについて後ほどまた触れる)。したがって日銀の異次元の金融緩和で金利がマイナスになったが、国内投資や消費が思うように増えない。特に日本企業は、投資を行うとしても日本国内ではなく、需要が伸びている海外での投資を増やしている。

    民間がこのような状況の中、日本の政府までもが借金を返し始めたのである。この結果、日本は、漏出過多、過剰貯蓄、したがって深刻な有効需要の不足に陥った。これではデフレ脱却を狙ったアベノミクスどころではなくなったと、自民党の政治家は2年も経ったがようやくこれに気付き、「消費増税の再延期」を決め、さらに「大型補正予算」と騒ぎ始めたのである。


  • 「国の借金は将来世代への負担の先送り」?

    ほとんどの日本国民は増税派にマインドコントロールされてきた。先日の参議員選後、初めて投票を行った未成年者にテレビ局がインタビューしていた。この青年は「消費増税を先送りするなんて、大人は自分達のことしか考えていない」と憤っていた。普通なら、彼は若いのによく物事を考えている「お利巧さん」ということになる。しかし筆者に言わせれば、この未成年者は増税派の完全に誤ったプロパガンダに洗脳されているだけである。世界の過激派の若手テロリストと同じであると筆者は感じた。

    消費増税を行っても、増税分は国の借金の返済に回されるだけである。そもそも「税と社会保障の一体改革」と言っても、確固たる社会保障の将来プランが出来ているわけではない。例えば「100年安心の年金制度」と威張っているが、前提条件の出生率や経済成長率が下がれば年金給付額を減らし年金支給開始年齢を引上げるだけで対応しようというものである。たしかにそれなら100年どころか1,000年でも年金財政だけは破綻しないといった、まことに杜撰なものである(つまり年金に係わる公務員の仕事だけは続く)。

    実際のところ「税と社会保障の一体改革」の本当の狙いは、社会保障費を極力抑え、なるべく財政再建に回す金を増やすことである。またこれを画策している人々は、完全なマクロ経済の素人である。これまで「経済循環における注入と漏出」について説明したが、このようなことをやれば必ず日本経済は縮小均衡に入ってしまう。実際、ここ2年間の日本経済の動きはみごとにこの経済理論を証明してきた。


    ところで上記の未成年者だけででなく、多くの日本国民を洗脳している虚言・妄言と言える代表的なプロパガンダがある。それは「国の借金は将来世代への負担の先送り」と言った類の話である。一見、たしかに誰でもそう思うかもしれない。

    この嘘を率先して使っているのが、御用学者の財政学者・経済学者や御用マスコミ人、そしてマクロ経済に疎い政治家や財界人などである。彼等は国の借金は次の孫子の代に引継がれるのだから、上の世代は膨大に積み上がった今日の借金を出来る限り減らす責務があると毎日のように言っている。たしかにこれはもっともらしく聞こえるが、典型的な詐欺話である。


    まず日本の実質的な国の累積債務は言われているよりずっと小さく、これについては本誌は何回も説明してきた。理由として、国は一方で膨大な金融資産を保有し、また日銀が既に300兆円を超える国債を買入れていることなどが挙げられる。筆者の試算では既に実質的な国の借金は100〜300兆円まで減少しており、また日銀が今のペースで国債を買い続ければ数年後には日本は実質的な無借金国になる。

    たしかに日本人は寿命が延びるなど将来に経済不安を感じ、今日までこれに備え過剰な貯蓄をしてきた。これは経済循環における漏出であり、これに対し国はこの需要不足を補うため、国債を増発し景気対策という注入を行ってきた。これによって見かけの国の債務は膨らんだ。

    そして筆者が指摘したい最も重要なポイントは、次の世代は国の借金を引継ぐだけでなく、同時に国債などの膨大な金融資産を相続することである(特に日本の国債はほとんどを日本人が保有している)。ところが御用学者等の詐欺師は、次世代が国の借金だけを引継ぐような話し方をする。次世代の人々もこの嘘話に簡単に騙されているのである。


    また次の世代は、先の世代が建設した膨大なインフラを苦労することなく相続する。この点の説明も卑怯な財政学者などは意図的に避ける。ただし効果が消えてなくなると思われる赤字国債に問題があるといった批判は残る。

    ただ赤字国債を財源にして社会の安定に繋がる施策が打たれていることも考える必要がある。赤字国債を発行しないが秩序が乱れ人々が不安を持つ社会より、赤字国債による債務は残るが安定し安心できる社会を次の世代は引継いだ方が良いと筆者は考える。同様のことは国防にも言える。今日国費が掛っても、最低限の防衛力が整備されている国を次世代に引渡すべきと考える。ましてや今日話題となっているヘリコプターマネーが実現すれば、赤字国債による債務残高なんて全く問題ではなくなる



最近、ヘリコプターマネーについての記事が急に増えた。来週はこれを取上げる。



16/7/18(第900号)「経済循環における注入と漏出」
16/7/13(第899号)「16年参議員選の結果」
16/7/4(第898号)「奇異な話二題」
16/6/27(第897号)「ヘリコプター・マネーと国民所得」
16/6/20(第896号)「ヘリコプター・マネーと物価上昇」
16/6/13(第895号)「ヘリコプター・マネーと消費増税の比較」
16/6/6(第894号)「消費増税問題の決着」
16/5/30(第893号)「安倍政権の次のハードル」
16/5/23(第892号)「アベノミクス停滞の理由」
16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」
16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」
16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」
16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」
16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
16/3/14(第883号)「信用を完全に失った財務省」
16/3/7(第882号)「「政界」がおかしい」
16/2/29(第881号)「一向に醸成されない「空気」」
16/2/22(第880号)「緊縮財政からの脱却」
16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」
15/12/21(第873号)「敬虔なクリスチャンの感覚が日本を沈没させる」
15/12/14(第872号)「「名目GDP600兆円」達成のシナリオ」
15/12/7(第871号)「日本の経済学界の惨状」
15/11/30(第870号)「堂々と新規の国債発行を」
15/11/23(第869号)「今度こそは盛上がるかシニョリッジ」
15/11/16(第868号)「小黒教授の文章(論文)への反論」
15/11/9(第867号)「小黒一正教授の文章(論文)」
15/11/2(第866号)「シニョリッジ政策は現在進行中」
15/10/26(第865号)「避けられる物事の根本や本質」
15/10/19(第864号)「安保法案騒動に対する感想」
15/10/12(第863号)「安保法制改正の必要性」
15/10/5(第862号)「フォルクスワーゲンの排ガス不正問題」
15/9/28(第861号)「今回の安保騒動」
15/9/21(第860号)「数年後、中国はIMFの管理下に?」
15/9/7(第859号)「中国の為替戦略の行き詰り」
15/8/31(第858号)「唐突な人民元の切下」
15/8/24(第857号)「改めてメガ・フロートを提案」
15/8/10(第856号)「鰯の頭も信心から」
15/8/3(第855号)「個別的自衛権だけなら国連からは脱退」
15/7/27(第854号)「時代に取残された人々」
15/7/20(第853号)「宮沢俊義という変節漢」
15/7/13(第852号)「「緊縮財政路線」はジリ貧路線」
15/7/6(第851号)「議論のすり替えとデマ」
15/6/29(第850号)「安倍政権に対する提言」
15/6/22(第849号)「憲法は不要」
15/6/15(第848号)「22才のベアテが作った日本国憲法条文」
15/6/8(第847号)「中国は外貨不足?」
15/6/1(第846号)「中国は資金繰り難?」
15/5/25(第845号)「今こそ郵貯と財投をアジアに広めろ」
15/5/18(第844号)「AIIBの資金力は「ゴミ」程度」
15/5/11(第843号)「中国との付合い方」
15/4/27(第842号)「中国はマイナス成長?」
15/4/20(第841号)「ドイツ軍の敗走開始の話」
15/4/13(第840号)「反・脱原発派の陥落は近い?」
15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」
15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」
15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインパクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」


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